カルティエ 「マス ミステリユーズ」は、Watches & Wonders Genevaのなかでも、日常使いが最も想像しにくい時計だったかもしれないが、おそらく今回の展示会で最も興味深い複雑機構だったかもしれない(他ブランドでこの作品に比肩するのは、ヴァン クリーフ&アーペルのレディ アーペル ユール フローラルくらいだ)。この「マス ミステリユーズ」は、一見しても目を疑う時計だが、見れば見るほど摩訶不思議な時計に思えてくるのだ。自動巻きということは、もちろん巻き上げローター(または振動子)があるわけだが、マス ミステリユーズのトリックは、ローターそのものがムーブメントでもあることだ。
“ローターそのものがムーブメントでもある”という表現が、マニア目線から見てもまったく理解できないという事実は、この時計が実際にいかに驚くべきものであるかを示す一端である。カルティエの画像は、まるでフォトショップのレンダリング画像のように、ムーブメント/ローターが機械的に切り離されているように見える。頭の中は疑問で一杯になる。巻き上げ機構はどうなっているのか? リューズはどのように機能するのだろうか? 針の向きを正しく保ったまま、ローターが回転し、ゼンマイを巻き上げることができるのはどうしてだろう?
もちろん、これらの疑問には技術的な答えがある。しかし、実際に時計を手に取ってみて興味深いのは、その仕組みが理解できても、写真で見たときの困惑した感覚を払拭することはできず、むしろその効果が増幅されることだ。
その理由のひとつは、画像は静止画であり、実際に手に取って動作する時計を見て初めて、合成サファイアの板の間を往復するムーブメントを実際に見ることができるからだ。2008年にスタートし、2018年までにかなり巻き返したカルティエの高級時計コレクションのほかの時計を見たことがない人は、ミステリアス トゥールビヨンの数多くのバリエーションを含むカルティエが製作したいくつかのミステリーウォッチを知らないだろう。シリル・ヴィニュロン(Cyrille Vigneron)氏のもと、カルティエはデザイン言語をかなり引き締め、会社全体もその恩恵を受けているが、知的エンターテインメントとして捉えると(実際の商業的成果はともかく)、「アストロミステリアス」のような時計は非常に敷居が高かったのである。
ミステリークロックやミステリーウォッチを時計学のエンターテイメントとして楽しむには、所有者がその仕組みを実際に知らないことが前提になる。マジックショー(ミステリークロックの発明者であるジャン・ウジェーヌ・ロベール=ウーダンは、近代ステージマジックの創始者であることを忘れてはならない)を見に行く場合、その楽しみを奪う最も早い方法は、一緒に楽しむのではなく、種明かししようとすることである。1912年、カルティエがパリのブティックでミステリークロックを売り出したとき、それは実に摩訶不思議なものだった。ミステリークロック「モデルA」は、本体のほぼ全体が透明で、実際のムーブメントは台座に隠されていたのだ。カルティエのブティックのスタッフも、できるだけ長く多くの人に知られないように、この時計の仕組みを意図的に知らされていなかったという。
ミステリークロックの楽しみは、知的かつ動的であることだ。時間の経過とともに針の位置が変化するのを楽しむのがミステリークロックの醍醐味である。そして、「マス ミステリユーズ」を実際に見たときに感じる驚きの感覚は、そのためである。ローターの動きは、従来のミステリークロックやウォッチの針の回転よりもかなり速く、またアストロトゥールビヨン(1分間に1回転するキャリッジを持つミステリートゥールビヨン)のキャリッジの回転速度も速く、そのややランダムな振動とあいまって、カルティエがこれまでに製作したミステリーウォッチのなかで最も魅力的なモデルであると言えるだろう。
シースルー/セミ・シースルー(半透明)な時計は、腕につけたときに少し違和感を覚えることが多い(特に毛深い手首を持つ人)。スケルトンウォッチは時計のデザインにもよるが、腕につけたときよりも外したときの方がより魅力的に見えることが多いものだ。その点、「マス ミステリユーズ」は、腕につけた状態でもすばらしい。視覚的にはM.A.D.1レッドのローターと同じような興奮をもたらすが、ムーブメントがその他の部分から切り離され、宙に浮いているように見えるという特典も付いてくる。直径43.5mm×厚さ12.64mmと大振りで、ここ数年、カルティエはクラシックなカルティエを象徴するデザインとサイズに回帰しているが、このモデルは決して主流とは言えない。しかし、このサイズこそ、この時計劇場に必要な舞台であり、実際にこの時計を目にすることで、写真や動画もいいが、ライブパフォーマンスに勝るものはないことが証明されるだろう。
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