親になることは、子供の未来の亡霊になること。
クリストファー・ノーラン監督の2014年のヒットSF映画『インターステラー( Interstellar)』は、劇場公開時にある種の社会現象になった。ノーラン監督は、ハンス・ジマーのスコア(本作が撮影される前に書き上げられたもの)に支えられたエモーショナルな広告を公開し、丸1年にわたって本作を効果的に宣伝していたのだ。
この映画を見たとき、これだけは確かだった。時計が映画全体のプロットを貫き、感情のバックボーンとして重要な役割を果たす。そしてカメラで頻繁に紹介されている。『インターステラー』は、今や時計が多く見られる映画として知られ、“マーフ”(この映画のために特別に作られたハミルトン)はカルト的な人気を誇っている。しかし、本日のWatching Moviesでは、このマーフではなく、マコノヒー演じるクーパーが劇中で主に身につけている、ある通常生産のハミルトンに注目したいと思う。
注目する理由
父の日の週末に、時計中心の映画特集を組もうと考えたとき、正直なところ、『インターステラー』がずっと候補に挙がっていた。この映画は、父性と父親の選択について描かれた力強い映画だ。しかしそれ以上に、単なる計時機器ではない時計の力を余すところなく表現している。時計は記憶の保持者であり、愛する人のための象徴的な代弁者なのだ。この映画では、マシュー・マコノヒー演じるクーパーとその娘マーフとの関係を通じて、その考えがふたつのハミルトンの時計を通して表現されている。
筋書きはいたってシンプルだ。地球は資源、すなわち食糧が不足している。ディストピア的な未来で、NASAはほかの惑星に生命体が存在することを突き止め、それを探す任務にパイロットや宇宙飛行士を派遣する秘密部隊のような存在になっていた。その任務では、二度と帰ってこられない可能性もあった。元パイロットのクーパーは、娘のマーフが発見した自宅の一連の不思議な異変からNASA本部に辿り着く。娘は幽霊に話しかけられたと思い、クーパーは重力のせいだと思うが、その両方のようなものであることが判明する。クーパーはブラックホールから別の銀河系へ向かうミッションのパイロットを依頼される。そこには生存可能な新しい惑星が待っているという。唯一の問題は、彼が何十年も、あるいは二度と家族に会えないかもしれないということであり、少なくともブラックホールからの時間変位(科学的に言えば)のために何十年もかかるかもしれないということである。彼は旅立つ前に、2本ある時計のうち1本を娘のマーフに渡し、もう1本は自分が持っていくようにする。そこから、彼は宇宙を旅し、マーフはNASAの科学者へと成長していく。そして、クーパーとマーフは地球人類の救済を担うことになるのだが、そのために彼らの時計が大きな役割を果たす。
クーパーがマーフに贈った時計は、このHODINKEEでも何度か取り上げているものだ。この映画のために特注されたハミルトンだが、ファンの要望が高く、5年後にハミルトンのカタログに掲載されることになった。パテント仕上げの数字やカテドラル針など、ヴィンテージ感のあるハミルトンのカーキだ。レザーストラップつきのノーデイトモデルである。映画では、地球から人類が住める惑星に向かうため、マーフが必要な重力の方程式を解く。そのとき、この時計が活躍するのだ。
しかし、マーフだけに注目するのは、クーパーの時計を忘れてしまうことになる。確かにセクシーさはなく、ハミルトンのカタログに載っている普通の時計だが、負けず劣らずクールだ。彼がつけているのは、ハミルトンのカーキ アビエーション パイロット デイデイト オートという巨大な時計だ。直径は42mmだが、ベゼルがほとんどないため、かなり大きめに見える。アプライドインデックスによるフリーガー風のデザインで、日付と曜日機能を搭載している。この時計は、ツイントリガーのデプロワイヤントクラスプを備えた快適なスティールブレスレットが付属。優れた視認性により、パイロットウォッチとしての役割を果たしている。
私はこの映画を3回見て、クープの手首から目が離せなくなった。そんなある日、道を歩いていたら、小さな時計店のショーウィンドーに1本の時計が目に入った。自分への誕生日プレゼントとして購入し、5年ほどよく身につけた。HODINKEEに関わった当初、この映画に登場する時計がどのような理由で選択されたか知ることを使命としていた。小道具係やプロダクションデザイナーに話を聞き、ここで報告することができた。これは私にとって初めての映画中心の記事であり、Watching Moviesのコラムを展開するきっかけとなったのだ。
パイロット デイデイト オートは、クーパーが故郷を離れて旅をするときに持っていく時計であり、マーフと同じくらい重要な存在だ。確かにマーフは残され、この時計だけが父の思い出となる。しかしクーパーは宇宙でこの時計を見て故郷を思い出し、子供を思い出し、自分が父親であることを思い出すに違いない。父親を時計と結びつけて思い出す人間として、この映画の根底にある時計の存在はとても共感できるものだ。ノーラン監督とそのチームは、時計が我々の生活のなかで持つ感情的な重要性をうまく表現していると思う。
見るべきシーン
この映画で最も有名な腕時計のシーンだが、クーパーがマーフに自分がどのくらい留守にするか説明する少し前に、彼は腕時計を外し、カーハートのジャケットのポケットからもう1本、腕時計を取り出す。マーフウォッチだ。彼はこの2本を手に持ち、そのときカメラは時計のクローズアップに焦点を合わせる[00:39:24]。
そして娘に、時計を見て彼を思い出すことができること、彼が行くところでは時間がゆっくり流れることを説明する。そして、自分が帰ってきたときに、二人は同じ年になっているかもしれないと言う。この言葉はマーフの感情を揺さぶる。父親がいなくなるのがそんなに長いあいだだとは思わなかったのだ。そして、彼女は腕時計を床に投げ捨て、泣き出す。こうしてクーパーは彼女の元を去っていくが、彼らは再び出会うことになる……時間の力、時計の力によって。
映画の後半、クーパーのミッションが成功し、クルーたちがブラックホールを抜け出したあと、次のステップを検討するためのグループミーティングが行われる。過去のミッションで受信した通信をもとに、どの惑星に着陸するかが話し合われている。グループが話し合っているとき、クーパーが前かがみの姿勢で[01:02:06]、時計を手に持って座っているのが見える。彼はただ座って、リューズを巻いている。子供たちから遠く離れているこの瞬間、彼はこの時計を触りながら故郷に思いを巡らせているのだと思いたい。
『インターステラー』(マシュー・マコノヒー主演)は、クリストファー・ノーランが監督、リッチー・クレーマーが小道具を担当。パラマウント+でストリーミング、iTunesとAmazonでレンタルまたは購入が可能。