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Bring a Loupe 宇宙で使用されたオメガ スピードマスター、ホイヤー カレラ、そしてオリンピッククラブ用のC.L.ギナーン 懐中時計について

今週のHODINKEEの“What's Selling Where(どこで何が売られているか)”コラムでは、これらすべてに加えてもうひとつ紹介する。

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Bring A Loupeの時間がやってきた! HODINKEEの記事を読んで、“ロレックス、パテック、カルティエばっかりだな”と心のなかで(もしかしたら、口に出して)思ったことがあるなら、今回はまさにあなたのための内容である。そしてもしヴィンテージのビッグ3がどうしても気になって仕方がない人のために、来週にはきっとそれぞれを取り上げることになるだろう。今週はちょっと、ほかの子たちに遊ばせてあげようじゃないか。

 前回の記事を締めくくるために、結果を報告しておこう。ある聡明なコレクターが1954年製のゼニス Cal.135に対して妥当なオファーを提示し、3999ドル(日本円で約60万円)以下というお手ごろ価格で買い取った。また、ギャレットが製造したと思われるルガンのクロノグラフは1029ドル(日本円で約15万円)で、ボックスと未記入の書類が付いたホイヤー モンツァは3250ドル(日本円で約48万円)で落札された。いずれもeBayの宝石と言えるほど素晴らしいものだった。最後に、数週間前に紹介したロレックス サブマリーナー Ref.6200は、サブダイアル(Subdial)で17万5000ポンド(日本円で約3390万円)でリストされている。

 それではロレックス、パテック、カルティエ以外のピックに入っていこう!

オメガ 宇宙で使用されたスピードマスター プロフェッショナル Ref.145.022、1975年製
A Omega Speedmaster

 NASAの宇宙飛行士エドガー・ミッチェル(Edgar Mitchell)が宇宙で使用したロレックス GMTマスターがRRオークションで話題となっている一方で(詳しくはトニーの記事を参照)、今回のオークションにはほかにも注目すべき時計が出品されている。フランスの宇宙飛行士ジャン=ルー・クレティエン(Jean-Loup Chrétien)氏も時計好きのようで、少なくとも1988年のフランス・ソ連共同のアラガッツ・ミッションではそうだったようだ。アラガッツは興味深いミッションで、すべての詳細は省略するが簡単に言うとクレティエン氏はこのミッションでソ連の宇宙ステーション、ミールに3週間滞在した。これはソ連が友好国ではない国の宇宙飛行士を、宇宙ステーションに迎え入れた初めての例であり、クレティエン氏の滞在は当時ソ連人でもアメリカ人でもない宇宙飛行士による最長の宇宙飛行であった。アラガッツで最もよく知られているのは、1988年12月9日にクレティエン氏が行った5時間57分(!)にもおよぶ宇宙遊泳で、これはソ連人でもアメリカ人でもない宇宙飛行士による初の宇宙遊泳としてよく知られている。

 さて、クレティエン氏が時計好きだったと言ったのは、彼がミッション中ほとんどの写真で両腕に時計をつけているからだ! さらに証拠となるのが、この驚くべきミール船内での写真だ。そう、彼は左手にスピードマスター、右手にイエマ スパシオノート IIIをつけながら、さらに3本のスピードマスターを操っているのだ。この写真を今まで見たことなかったのが信じられない!

 とくにスピードマスターについて言えば、そのシリアルナンバーから製造年が1975年と判明しており、これはアラガッツ・ミッションのはるか前につくられたことになる。この時計自体が真のヴィンテージスピードマスターの雰囲気を醸すのが興味深い。たとえば、もしこの時計がミッションのあった時期、つまり10年後に製造されたものであったなら、夜光のパティーナがここまで進んでいなかっただろう。というのもパティーナが進行する時間が短かっただけでなく、オメガの夜光塗料の配合はスピードマスターのモデルごとに常に変化していたからだ。一般的に、1970年代中頃のモデルは深く焼けた黄色のパティーナであることが多いのだが、1980年代中頃のものは白っぽいままか、緑がかった色に変化する傾向がある。

An Omega Speedmaster

 このスピードマスターはミッションのはるか前に入手された、もしくは少なくとも製造されたものであるが、クレティエン氏が頻繁に着用していた様子は見受けられない。確かに、いくつかの打痕や傷(特にケースバックに)など目立つものがあるが、ケース側面にはオリジナルのサテン仕上げが残っており、裏蓋の縁には赤いワックスシールが少し残っている。このシールは製造時に施されたもので、破れていなければ時計は1度も開封されていないことを示す。ここではシールの大部分が失われているが、それでも赤いワックスの一部が残っているということは、あまり使用感がないことを物語っている。

 このような由来を持つ時計は一般的に比較が難しい。結局のところ、これは数少ない宇宙飛行や宇宙で実際に使用されたオメガ スピードマスターのひとつであり、宇宙時計の代名詞ともいえるモデルを個人が所有できる貴重な機会である。よく知られているように、NASAで使用されたスピードマスターの大多数は米国政府の所有物であり、市場に出回ることは極めてまれだ。もし販売を持ちかけられたら慎重になるべきである。たとえば2015年のクリスティーズで、宇宙飛行士ロナルド・エヴァンス Jr.(Ronald Evans, Jr.)のスピードマスターが24万5000ドル(日本円で約3620万円)で落札された例や、2022年のフィリップスでさらに高額だった2件の落札例(こちらこちら)を挙げることができる。いずれもNASAに納品されたが、宇宙で使用されたわけではない。一方クレティエン氏のスピードマスターはNASA以外の宇宙ミッションで使用されたものであり、まったく異なる存在だ。この時計の行方は、これからの動向を見守る必要があるだろう。

 ジャン=ルー・クレティエン氏のオメガ スピードマスターは、RRオークション、Space auctionにてロット6514として出品。オークションは東部時間の10月24日(木)午後7時に終了する予定だ。事前の見積もり価格は3万ドル(日本円で約440万円)以上で、この記事の公開時点の入札額は1万3915ドル(日本円で約205万円)に達していた。

ホイヤー カレラ Ref.2447N セカンドエグゼキューション、1970年代製
A Heuer Carrera

 文学の世界では、古典が古典と呼ばれるのには理由があるという有名な言葉がある。通常、文学作品が古典と呼ばれるのは、それが過去や現在のどの作品よりも優れている点があるからだ。ジャック・ホイヤーの初代カレラもまた、そのようなクラシックウォッチである。1960年代から1970年代初頭のカレラほど、シンプルで視認性の高いスポーツクロノグラフを見事に実現した時計はない。そしてそれは偶然ではない。ジャック・ホイヤーは視認性に強いこだわりを持っていた。彼はチューリッヒのスイス連邦工科大学で視認性に関する講義を受講したあと、時計のデザインにおいて何よりもダイヤルの読みやすさを最優先したのだ。この考えにより、ダイヤル上に複数の目盛りやレジスターを配置する必要はないという結論に至り、全体的にクリーンなデザインのほうが美しいと気づいた。この発想は今日では当たり前のように思えるかもしれないが、1960年以前のクロノグラフデザインを振り返ると、“スネイル”スケールや複数のアウタートラックが一般的であったため、これは非常に革新的なアイデアだった。

 初代カレラはシルバーダイヤルかブラック(フランス語で“ノワール”)ダイヤルの2種類があり、シルバーダイヤルは2447S、ノワールダイヤルは2447Nとして知られている。本日紹介するのはノワールダイヤルのモデルで、コレクターのあいだでは第2世代モデルとして知られている。第1世代と比較すると、主な違いは針に黒いインサートが追加されている点や、わずかに幅広になったアワーインデックスなど、ダイヤルの細かな調整が見られる。

 このカレラは、eBayで“storagefinds2u”というセラーによって出品されたもので、長年市場に出ることなく放置されていた新鮮な例のようだ。出品者名がそのヒントになっているが、私が注目したのはヴィンテージのシングルパスナイロンストラップだった。販売のために手入れや装飾されたりしていないことは明らかで、出品者は時計をまともに撮影することさえほとんど気にかけていないようだ。過去のBAL(Bring a Loupe)でもお分かりかと思うが、私はeBayの粗い写真にちょっとしたこだわりがある。どうか私を信じて欲しい。私はeBayで数多くの時計を購入・評価してきたので、下手に撮られた写真を見抜くコツは心得ている。最終的には手を加えられていない時計を好むし、こうして掘り出し物を見つけるのだ。

A Heuer Carrera

 写真から確認できるのは、しっかりとしたラインの美しいケース、正しくホイヤーのサインが入ったリューズ、ダイヤル上の夜光プロットがすべて揃っているように見えること、そして見た目にクリーンなバルジューCal.72だ。それだけで十分だ。もしムーブメントにメンテナンスが必要ならそうすればいい。

 オレゴン州クラマスフォールズのeBay出品者が、このホイヤー カレラ Ref.2447Nを10月8日(水)午前4時37分(東部標準時)に終了するオークションに出品した(アラームをセットして!)。この記事が投稿されたとき、入札は7199ドル(日本円で約105万円)に達していた。出品リストはこちらから。

 おまけとして、カレラよりも少しあとのアイテムにはなるが、このヴィンテージタグ・ホイヤーとギュベリンのコラボレーションキャップもぜひチェックして欲しい!

ムルコ バックル カクテルウォッチ ホワイトゴールド製 サファイア付き(?)、1930年代製
A Mulco watch

 今週気になったのは“バックル”風の隠しダイヤルを備えた一品、アール・デコ調のムルコ製カクテルウォッチだ。最近、カルティエやピアジェといったブランドの奇抜なシェイプのヴィンテージウォッチが注目を集めているが、この流行が“あまり知られていない”ブランドにも波及するかどうか、興味がある。同じ時代に多くの興味深い時計をつくっていたブランドは少なくない。このムルコはおそらく1930年代から1940年代につくられたもので、特に女性用腕時計で見られた当時の大きなトレンドを反映している。男性よりも先に女性が腕時計を身につけ始めたのは知られているが、初期のデザインには繊細さが重要視されていたことが見て取れる。今とは違い、当時の腕時計は実用的なものであり、時間を知るときにしか時計が目立たないようなデザインが求められていた。この時代に流行していた時計は、きわめて小さいかムルコのように隠しダイヤルを持っていた。時刻を知るときだけ、それを確認できるように設計されていたのだ。

 この時代にはカルティエパテック フィリップロレックスなど、ほぼすべてのブランドから隠しダイヤルの時計が登場している。カルティエはタンク オビュ サボネットでこのアイデアを男性用時計にも広げており、ジャガー・ルクルト レベルソのとくに小さなサイズに関しては、日常的に使える隠し時計といえるだろうという主張もある。

A Mulco watch

 このムルコは、一見シンプルなブリックリンクブレスレットに見えるようにデザインされており、時計ケースの一端にはピンバックルのディテールが施されている。キーパー(遊環)の下に収納された“ストラップ”の“余分な”部分を持ち上げると、シンプルで無銘のアール・デコ調ダイヤルが現れる。この時代の時計でホワイトゴールド製のものはとても珍しく、それがこの時計をさらに興味深いものにしている。また出品者によると、“時計”の上部には3つの“青い石”が装飾されているとのことだ。私は宝石の専門家ではないため、これを読んでいる誰かがこれをサファイアかどうか識別できるかもしれない。

 ミシガン州ドールのeBay出品者が、この隠しダイヤルのムルコを出品しており、オークションは10月6日(月)午前11時44分(東部時間)に終了した。この記事が掲載された時点では、開始価格の2799.99ドル(日本円で約40万円)に対して入札はまだなかった。

C.L.ギナーン スプリットセコンド クロノグラフ懐中時計 オリンピッククラブ用、1918年年製
A CL Guinand pocket watch

 1860年に設立された、カリフォルニア州サンフランシスコにあるオリンピッククラブは、アメリカで最も古いスポーツクラブである。市内にあるクラブハウスはサンフランシスコのトップアスリートたちのトレーニング拠点として知られていた。クラブにはヘビー級ボクシングチャンピオンのジェームズ・J・コルベット(James J. Corbett)などの著名なメンバーが在籍しており、1909年にはクラブメンバーであるラルフ・ローズ(Ralph Rose)が砲丸投げで51フィート(約15cm)という世界記録を樹立した。今日、このクラブが最も有名なのはゴルフである。1924年にオープンしたウィリー・ワトソン(Willie Watson)設計のレイクコースは、ボビー・ジョーンズ(Bobby Jones)が“西部で最高”と称したコースであり、これまでに5回の全米オープンが開催された。

An olympic club athlete

オリー・スネディガー(Ollie Snedigar)

 このC.L.ギナーンのポケットウォッチのカバーには、オリンピッククラブの“ウィング・オー”ロゴが描かれている。これはゴルフ界でもっとも象徴的なロゴのひとつである。ゴルフ愛好家の私はこのロゴがきっかけで商品をクリックしたが、調べていくうちにますます引き込まれた。この懐中時計のオリンピッククラブに関する部分を見ると、内側のケースバックに“O.F.”、つまりオリー・スネディガーの刻印がある。これは1918年5月1日に“同クラブの総合チャンピオンアスリート”として、この時計を授与されたと考えられる。スネディガーは非常に優れた人物で、そのスポーツ実績には1904年のオリンピック出場や、1914年の“カリフォルニア州総合アスリートチャンピオン”の称号を獲得するなど、かなりの実力者であった。スネディガーは私が調べた限りでは、デカスロン(十種競技)に似た陸上競技に出場していたようだ。

An olympic club pocket watch

 さて、時計そのものについて話そう。まずはすでに触れた手彫りの美しさから始めたい。オリンピッククラブのロゴや刻印はきわめて精巧で、美しさに引かれてこの時計を買いたくなるほどだ。時計の製造元であるC.L.ギナーンは、1800年代後半にスイスのル・ロックルを拠点にクロノグラフの専門家として名を馳せたブランドだ。スネディガーのようなアスリートや、オリンピッククラブのような運動競技団体にとって、C.L.ギナーンはまさに理想的な組み合わせである。1918年の時点で、同ブランドは世界でも最高のスプリットセコンドクロノグラフメーカーのひとつとされていた。これは陸上競技選手にとってはこの上ないよろこびである。

A CL Guinand pocket watch

 オレゴン州ローズバーグのeBay出品者が、このC.L.ギナーンを即決購入(Buy It Now)にて3950ドル(日本円で約60万円)で出品していた。私はこの商品を約1週間チェックしていたが、そのあいだに出品者から2950ドル(日本円で約45万円)という割引オファーを受け取った。これをどう活用するかはお任せする。