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人為的な希少性、ロレックスの入手状況、バリュー系サブブランドなど時計ビジネスの疑問に答える

時計業界のビジネスについて、多くの鋭い質問を寄せてくれたHODINKEEコミュニティの皆さん、本当にありがとう!

世界の時計業界の多くはいまだにパンデミック後の余波に苦しんでいる。2020年から2021年にかけて、時計市場はかつてないほどのブームを迎えた。低金利や余剰資金に加え、リモートワークの普及によって多くの人々が時計について学ぶ時間を持てたことが急成長を後押しした。その結果、価格と需要が急騰し、ブランドやパーツサプライヤーは供給不足を解消するために生産を拡大し、人員を増やす対応を迫られた。しかしその需要の急増はすでに終焉を迎えている。インフレや金利の上昇、さらには地政学的な対立や経済の不透明感が影響し、一部の消費者は慎重な姿勢を取るようになった。長らく、スイス時計最大の輸出市場であった中国は大規模な景気低迷に見舞われ、その影響は時計業界だけでなくラグジュアリーブランド全体に広がっている。一方でスイス時計の最大輸出市場の座は、意外にも堅調な経済と消費者によって支えられた米国が奪取した。ただし米国の時計愛好家は、依然として欧州やアジアの多くの国に比べて一人当たりの時計購入額が低く、市場拡大の余地は大きい。

watches on a table

 時計メーカーやパーツサプライヤーが新たな市場環境に適応するために生産規模や労働時間の削減を進めるなか、スウォッチ・グループ、リシュモン、LVMHといったラグジュアリーコングロマリットに属さない、スイスの大手独立系ブランド(ロレックス、パテック フィリップ、オーデマ ピゲといった名だたるメーカー)は依然として好調を維持している。これらのブランドはパンデミック後の消費者行動の変化からほぼ無縁の存在であり、少なくとも現時点ではその影響を受けていない。

 さて、今週寄せられた素晴らしい質問のいくつかに回答しよう。さらに質問があればぜひ知らせて欲しい。スレッドにはまだ多くの興味深い問いがあったので、近いうちに第2弾として答えていくのもおもしろそうだ。

質問1: 生産と希少性

気になる疑問? もちろんある。ロレックス、オーデマ ピゲ、パテック フィリップといったブランドの人為的な希少性について、直接取り上げた記事を読んでみたい。ロレックスやその正規販売店が密かに在庫を隠しているという話には昔から懐疑的だった。結局のところ時計を“売る”ことで利益を得ているわけだし。しかしこれまで深く調べたことはなく、単に供給が需要に追いついていないだけなのか、それ以上の背景があるのか気になっている。

– "Rehaut"

 生産を管理し、顧客の需要に応えることは、時計ブランドの経営陣にとって最優先事項であり、その仕事の重要な部分を占めている。彼らが狙っているのはまさに絶妙なバランスだ。複数のCEOが、需要よりも毎年1本だけ少なく生産するのが理想だと語っている。ただし、もちろんそんなに完璧に調整できるわけではない。ロレックスのプロフェッショナルモデルや、パテック フィリップの人気モデルに長いウェイティングリストがあるのは、もはや当たり前のこととなっている。供給が需要に追いつかない状況はブランドのイメージや魅力を高めるうえではプラスに働くが、あまりにも“手に入らない”状態が続くと、ブランドのコアな顧客を遠ざけてしまうリスクもある。

a patek nautilus

 トップブランドは希少性を管理する術を備えている。たとえばオーデマ ピゲは年間約5万本の時計を生産しているが、そのなかでもロイヤル オーク ジャンボのような最も人気のあるモデルは、年産1200本以下しかないと経営陣が明かしている。この方針が近いうちに変わる兆しは見られない。もちろん逆のリスクも存在する。2017年と2018年、カルティエやヴァシュロン・コンスタンタンを傘下に持つリシュモンは、過剰在庫を抱えた小売店から約2億5000万ユーロ(当時の相場で約316億6000万円)相当の時計を買い戻す事態に陥った。この件についてはジョー・トンプソンが詳しく報じており、その記事にはリシュモン会長ヨハン・ルパート(Johann Rupert)氏による的を射たコメントが掲載されている。

 「私たちの小売パートナーたちは、大手も中小も、まるでフォアグラ用のガチョウのように無理やり詰め込まれています。つまり、ブランド側が小売店に押し込む量のほうが、実際に売れる量よりも多い状況が続いているのです。それは業界全体にとってよくないことです」と、当時ルパート氏は語っていた。

 まさにこうした状況こそ、すべての時計ブランドが避けたいと考えているものだ。現在の市場低迷のなかで、経営陣はこれまで以上にセル・イン(小売店への販売)とセル・アウト(最終顧客への販売)のバランスを取ることに敏感になっている。多くのブランドが、これらの指標を監視するためにデジタルツールを活用している。そのためスウォッチ グループ、リシュモン、ソーウィンド傘下のブランドが生産を抑制しているのが見て取れる。業界最大手のロレックスですら、スイス時計市場の売上の約3分の1を占めるにもかかわらず、2024年には生産量をわずかに2%削減したと、モルガン・スタンレーとリュクスコンサルト(LuxeConsult)は報じている。販売額は価格上昇や製品構成の影響で約5%増加したもののロレックスが前年よりも少ない時計を生産したのは、2008年から2009年の世界金融危機以来初めてのことだと、リュクスコンサルトの代表オリバー・ミュラー(Oliver Müller)氏はインタビューで語った。

 なお、ロレックスはモルガン・スタンレーによる生産・販売予測についてのコメントを控えている。

質問2: サブマリーナーの入手状況

素晴らしいテーマだ。ただアンディ(・ホフマン)は、またいつかロレックスの店舗にふらっと立ち寄って、サブマリーナーを待たずにその場で買えるようになるのか、そしてそれが“いつ”なのか知っていたりする?

– "Dominics"
a rolex submariner

 ここで多くの人が気にしている、ロレックスの人気モデルの入手状況に関する別の質問につながる。一部のロレックスモデルの待ち時間は短くなりつつあり、モルガン・スタンレーとウォッチチャーツ(WatchCharts)によると一部のリファレンスはセカンダリーマーケットで定価を下回る価格で取引されるようになっている。これは供給が改善していることを示している。しかしそれでもスティール製サブマリーナー、とりわけGMTモデルやデイトナは依然として最も入手困難であり、需要が供給を大きく上回っている状況に変わりはない。手に入れるには、まだまだ待つ覚悟が必要だ。

 とはいえ、供給と需要のバランスは今後さらに改善する可能性がある。ハンス・ウィルスドルフ財団が所有するロレックスは、今年からスイス・フリブール州にある仮設生産拠点での操業を開始する予定で、これにより年間約100万本とされる生産量がさらに増える可能性がある。この仮設拠点は、2029年の稼働開始を予定しているフリブール州ブールの新しい恒久施設の稼働を見越したものだ。ロレックスはこの新施設に約10億スイスフラン(日本円で約1670億円)を投資し、約2000人の雇用を生み出す予定だと発表している。

質問3: 価格とバリュー志向のスピンオフブランド

最近、時計愛好家のあいだでは価格の高騰に対する不満が高まる一方で、有名ブランドが展開する、より遊び心のある低価格帯のモデルが大成功を収めている(スウォッチ×オメガやスウォッチ×ブランパン、MAD 1ウォッチなど)この流れについて、アンディはどう思うか? ほかのブランドもスウォッチグループやMB&Fのやり方を参考にして、似たような展開をするのか? それとも、これは一時的なトレンドで終わると思う?

– "phobiaofwolves"
moonswatches

 間違いなく、そうなると思う。

 スイス時計業界の多くは、生産量を抑えつつ価格を引き上げることで利益率を高めようとしてきた。ただ現在の経済状況や先行きの不透明感から、多くの時計愛好家が、コストパフォーマンスのいい選択肢を求めるようになっている。M.A.D.1やムーンスウォッチの成功を受けて、こうした動きは今後さらに増えていくだろう。実際ロレックスはこのカテゴリーの元祖ともいえる存在であり、チューダーはより手ごろな価格で高品質な時計を提供している。そして今、ジョージ・カーン(Georges Kern)CEO率いるブライトリングは、クロノグラフで知られるリーズナブルなブランド、ギャレットを買収して近いうちに再始動させる見込みだ。

 注目すべきはこうしたサブブランドやスピンオフの成功が、ちょうどエントリーレベルからミドルレンジの時計の需要が落ち込み、ハイエンドモデルよりもはるかに厳しい状況にあるタイミングで起きていることだ。スイス時計協会FH(Federation of the Swiss Watch Industry)によると、2024年のスイス時計輸出額は卸売価格3000スイスフラン(日本円で約50万円)未満の時計で15%以上も減少している。一方、全体の輸出額の減少率は2.8%にとどまっている。

 こうしたサブブランドやスピンオフが成功するのは、うまく展開すれば価格の高い親ブランドの魅力を生かしつつ、より手ごろな価格で提供できるからだ。財布の中身を気にする私たちにとっては、こうした取り組みがもっと増えてくれると嬉しいものだ。

もしアンディに時計業界のビジネスについて質問があれば、ぜひコメントで教えてください。今回質問を寄せてくれた皆さん、本当にありがとうございました!