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今週もやってきた。Bring A Loupeへようこそ! 時計市場は決して止まることがないし、私もそうだ。高額な市場では大手オークションハウスが、11月に向けたジュネーブカタログをまもなく発表する予定だ。貯金を始めるか、そうでなければこのまま読み進めて、ヴィンテージとそうでない時計のなかから今手に入る最高のものをチェックして欲しい。
先週を振り返ろう。まずオリジナルオーナーの出自を持つトロピカルダイヤルのチューダーが、新しい持ち主のもとへ渡ったことをうれしく思う。オークションの結果については、イナイヘンでロンジンのルーレットポケットウォッチが4200スイスフラン(日本円で約71万円)で落札され、状態のよい1950年代のロレックス OPは2100ドル(日本円で約30万円)で落札された。一方、eBayに出品されていたヴィンテージカレラは“出品内容に誤りがあった”として謎の削除。eBayを介さずに取引があった可能性を感じる!
Geneva Watch Daysの忙しさで見逃してしまった? ご心配なく。今週のピックアップはさらに素晴らしい内容だ。それでは始めよう。
ユニバーサル・ジュネーブ トリコンパックス Ref.22297/3、1950年代製
求めよ、さらば与えられん。つい先週、ヴィンテージ市場に高品質なユニバーサル・ジュネーブが不足していると嘆いたばかりだが、どうやらeBayが応えてくれたようだ。HODINKEEの輝かしいページに掲載された、恐らく最悪の写真セットに隠れているのは、まるで未使用品のようなRef.22297/3 トリコンパックスだ。これまでにも言ってきたが、eBayをスクロールするとき、まさにこういう写真を探している。これらは“手付かずの時計や珍しいプロトタイプ、過渡期の針だとかで値段を釣り上げるような極端なマニアではない売り手である”ことを示している。そしてここで言う“マニア”は、最も優しい意味で使っている。多くの人が私をそう形容するだろうから。
過渡期といえば、トリコンパックスの歴史ではRef.22297がまさにその位置付けだ。トリコンパックスを思い浮かべるとき、私は通常ピート・フラートン(Pete Fullerton)のような初期のRef.22279か、後期の防水性能を備えたツイストラグケースと“リネン”ダイヤルを持つRef.222100/1を想像する。今お分かりのように、今回のリファレンスはこのふたつより一般的な世代の中間に位置している。Ref.22297は防水ケースを備えているがラグはシンプルで、先端が下に向いた伝統的なシェイプが特徴的だ。またこのリファレンスはイタリアのコレクターたちから“スピッリーノ”プッシャーと呼ばれる、小振りのプッシャーで知られている。
写真を見る限りでは、このユニバーサルにはイタリア人コレクターやほかのコレクターたちが手を加えた形跡はなく、自然な経年変化を保っている。ケースはとてもしっかりしており、夜光部分もきれいでいい感じのパティーナが見られる。リファレンスナンバーに付けられた“/3”は、このダイヤルタイプに対応するダイヤルコードと考えられ、すべてが整合している。オークション開始時のバイヤーの価格も妥当だ。信頼できるディーラーから購入する場合、このリファレンスはもう少し高い価格で取引されることが多い。しかし写真を見る限り、この時計のコンディションはそれ以上にいい可能性がある。
カリフォルニア在住のeBay出品者でありアマチュア写真家がこのトリコンパックスをオークションに出している。終了は9月8日(日)の米国東部時間午後4時14分だ(US版掲載時)。この記事の公開時点では、開始価格8998ドル(日本円で約130万円)に対してまだ入札がない。
パルミジャーニ・フルリエ クロノグラフ ローズゴールド Ref.PF006782、2002年製
パルミジャーニ・フルリエの初期の数年間は、私の心に深く刻まれている。これらはまさに21世紀の幕開けにつくられた最高の時計のひとつだ。ここで詳しく話すよりも、昨年3月の記事をぜひチェックして欲しい。もしこのパルミジャーニに見覚えがあるなら君は正しい。というのもチャールズ3世国王が所有し、頻繁に着用していたことで有名だからだ。このチャールズ3世のつながりによって、同ブランドの初期クロノグラフは時計界で一種のカルト的な人気を誇っている。
フィリップスのオンラインセールで、まさに完璧な1本を見つけた。この時計を手に入れれば、英国国王のようになりたいと思ったことがある人にとってはいい1歩になるだろう。もちろん時計を手に入れたあとは乗馬を始めたり、バブアーのジャケットを着たりするのもいいかもしれない。
真面目な話をすると、この世代のパルミジャーニの時計がなぜこれほど素晴らしいのかを言葉で説明するのは本当に難しい。リンク先の記事では“過剰につくり込まれている”と表現したが、それがなかなか適切な説明だと思う。実際に手に取ってみればすぐに理解できるだろう。つくりの精巧さや仕上げのレベルが非常に高く、とくにこの価格帯でそれを実感できるのは驚異的である。
このパルミジャーニ・フルリエは、フィリップスのウォッチオンラインオークション“The Geneva Sessions, Fall 2024”に出品されるロット13だ。見積もり額は6000スイスフランから1万2000スイスフラン(日本円で約101万~200万円)だが、これは“甘い”見積もりだと思う。実際には上限を超える価格で落札されるだろうと予測する。
ハミルトン クロノマチック フォンテーヌブロー プロトタイプ、1969年製
自動車コレクションの世界では、プロトタイプやオートショーで発表されるコンセプトカーが特別な存在だ。これは確かにクルマ界全体のなかではニッチな分野だが、プロトタイプの独特な魅力こそコレクションの最高潮と捉える人もいる。ニューヨークのモートン・ストリート・パートナー(Morton Street Partners)からこのニッチな分野を追いかけて学んだ私にとって、非常に新鮮な体験だった。60年代のフェラーリや空冷ポルシェではなく、1959年のシトロエン スクワールや1984年のロータス エトナのようなクルマを取り上げているモートン・ストリートは奥深い世界なのだ。時計業界にはモートン・ストリートのような存在はないが、もしあれば、このハミルトンの1969年製プロトタイプ、いわば時計界のシトロエン スクワールのような一品の特異性をキュレーションし、際立たせていたことだろう。
これはコンセプトウォッチに限りなく近い存在だ。1969年のバーゼルで発表されたハミルトン クロノマチック フォンテーヌブロー(そう、この時計そのものだ)は、クロノマチック、またはプロジェクト99コンソーシアムによる成果のひとつである。これは4ブランドが4年間かけて世界初の自動巻きクロノグラフムーブメントを目指した開発競争の一環だった。長い物語になるが、これは時計史において間違いなく重要な瞬間であり、この時計はそのなかでも特別な役割を果たしていた。ハミルトンがバーゼルで発表した5つのクロノマチックのうちの1本なのである。
ドイツのシュック ザ オイスター(Shuck The Oyster)のアーサーが、この5本しか存在しないハミルトンのプロトタイプの1本を1万900ユーロ(日本円で約170万円)で提供している。詳細はこちらから。
カルティエ用のモバード エルメト、1930年代製
後半に控えている同僚のタンタン・ワンからの特別なモデル(ちょっとした予告!)の前に、この個体をお届けしよう。この小さなモバード エルメトが今週、私のオークション検索に引っかかり、私はすぐに昨年見た最高のもののひとつで、フィリップスがオークションにかけたカルティエの時計を思い浮かべた。マライカ・クロフォードがこの記事でそのセールを取り上げており、私もジュネーブとニューヨークのプレビューでその時計を見る機会があったが、いずれも本当に驚くべきものだった。それはさておき、このエルメトはより小型ながらも同じ時代のもので、ケースに施されたエナメル加工や漆塗りが似たような雰囲気を感じさせる。カルティエで販売されたエルメトを見つけること自体は可能だが、このようにケース仕上げが完全な状態で残っているものを見つけるのはまったく別の話だ。エナメルや漆の層はとても薄く、この仕上げが剥がれてしまっているエルメトを何本も目にしてきた。
エルメト自体が驚くべき時計だ。ケースを開閉することで独自に巻き上げる仕組みを持ち、モバードはこれを数十年にわたり多く販売してきた。もしかしたら、これだけでひとつの記事になるかもしれない。お楽しみに。
このカルティエ用モバード エルメトは、ノースヨークシャーのレイバーンにあるテナンツオークショニアズ(Tennants Auctioneers)で販売されている。2024年9月14日(土)午前9時30分(英国標準時)から始まるJewellery, Watches & Silverセールにおけるロット2461だ。見積もり額は300ポンドから400ポンド(日本円で約6万~7万円)となっている。
ミドー マルチフォート エクストラ スーパー オートマチック、1950年代製
もし35mm未満のシンプルなラウンド型タイムオンリーウォッチを気にせずつけられるなら、ヴィンテージミドーをチェックして欲しい。このモデルがその完璧な個体だ。ケースはフランソワ・ボーゲル(François Borgel)によるもので、サイズは34mm(FB製のパテック Ref.565よりたった1mm小さいだけ)だ。ダイヤルデザインはエレガントでありながらシンプルで、最終入札価格はおそらく200ドル(日本円で約3万円)程度だろう。ミドーであることは理解しているが、この時代のパテックのカラトラバがどんどん高額になる一方で、こうした時計が数百ドルで手に入るという事実は残念でならない!
ひとつ補足しておくと、FB製ケースを使用したミドーの多くはこれよりも小さいサイズだ。ほかのモデルを探す際はケースサイズを確認し、このマルチフォート エクストラ スーパー オートマチックを探してみて欲しい。これは、ミドー流に言うと“ほかのモデルより少し大き目”という意味だ。
eBayユーザーがこのミドー マルチフォートを、開始価格95ドル(日本円で約1万3000円)で出品している。オークションの終了は2024年9月10日(火)の午後9時(東部標準時)。記事公開時点では、まだ入札がない!
注目の1本! グランドセイコー 9F スポーツコレクション SBGV243
もしグランドセイコーの9Fムーブメントを搭載したクォーツウォッチコレクションというニッチな分野に興味があるなら、“グレイビースト”の愛称で知られるSBGV245がこのカテゴリの王者であることをご存じだろう。オールグレーで統一されたカラーリングはモノクロームデザインの素晴らしい実例であり、今では廃盤となったこのケースこそ私にとってのグランドセイコーの最高傑作のひとつである。サテン仕上げとザラツ研磨仕上げが交互に施されたファセットこそ、田中太郎による“デザインの文法”を現代のグランドセイコーラインナップで最も効果的に表現していると感じる。
同時に発売されたSBGV243のブラックとイエローのカラーリングは、しばしば見過ごされがちだ。“グレイビースト”ほどスマートではないが、ブラックダイヤルに鮮やかなイエローのアクセントがとても魅力的である。私はずっと同モデルの検索アラートをオンにしており、SBGV245と一緒にコレクションに加えたいと思っていた。そしてこの日本からの出品が、今まで見たなかで間違いなく最も低い価格設定であった。写真や出品者の説明によると、ケースはおおむね素晴らしいコンディションで、ファセットもシャープに保たれているようだ。
“注意点”を挙げるとすれば、この出品は時計本体のみで、ボックスや保証書、グランドセイコー純正のデプロイアントバックル付きストラップが付属していないことだろうか。だが私にとっては、それでも十分価値のある取引だ。この時計はすぐに手持ちのストラップに付け替えて、ガンガン使いたいと思っている。詳細はこちらから。