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Bring a Loupe 市場に新たに登場したロレックス “キング・サブ”、カルティエのパースウォッチ、そしてネオヴィンテージのヴァシュロンなど

今週のHODINKEEの“What's Selling Where(どこで何が売られているか)”コラムでは、そのすべてを紹介しよう。

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Bring A Loupeへようこそ。先週は“希少”というテーマに絞り、強い意見も交えたが、今回は少し散らかったセレクションだ。ときにはこういうこともある。

 前回のBALを振り返って、ふたつのオークション結果を紹介しよう。ひとつ目はクラーズに出品されたカルティエ ロンドン デカゴンだが、こちらは4万ドル(日本円で約570万円)で落札された。サービスダイヤルにもかかわらず意外にも高額な結果となった。ふたつ目はeBayに登場したギュベリンのホワイトゴールド製ドレスウォッチで、これは2425ドル(日本円で約35万円)に到達した。なおボーゲル製ケースを持つユニバーサル・ジュネーブは、出品者が紛失または破損などを理由に販売を取り下げたが、個人間で取引を成立させた可能性が高い。

 では、ピックアップを見ていこう。

ロレックス サブマリーナー Ref.6200 “エクスプローラーダイヤル”、1954年製
A Rolex Submariner

 今週最初に紹介するのは大物だ。Ref.6200のサブマリーナーは“キング・サブ”の愛称で知られており、それには十分な理由がある。8mmという初の“ビッグクラウン”を備え、やや大きめで厚みのあるケースにより、初めて200mの防水性を実現したサブマリーナーである。重要な点を少しあと回しにしよう。ケースとリューズのディテールだが、この“キング・サブ”という愛称は主にダイヤルに由来している。エクスプローラーダイヤルのサブマリーナーは誰もが魅了されるものだ。

 このRef.6200は約300本製造されたと考えられている。さらに掘り下げると、6200には大きなロゴと小さなロゴの2種類のダイヤルが存在し、市場では大きなロゴが多く、小さなロゴは“SUBMARINER”の表記がないものがほとんどだ。今回のように6時位置に“SUBMARINER”が入った小さなロゴはきわめて希少である。最後にこのダイヤル付きの“キング・サブ”が公に販売されたのは2007年(!)のクリスティーズで、エスティメートの倍以上である17万6200スイスフラン(当時の相場で約1730万円)で落札された。

original owner submariner

この“キング・サブ”のオリジナルオーナー。

A Rolex Submariner

 販売元であるサブダイアル(Subdial)の人々が、この時計をいち早く教えてくれた。つまりBring A Loupe読者の先行アクセスというわけだ。このモデルは希少なダイヤルバリエーションという以上に特別な存在である。市場に初めて登場したのは、故イギリス海軍士官の遺族から譲り受けたもので、ダイヤルと針はすべてオリジナルだ。ダイヤルと針の夜光もオリジナルですべて一致している。ベゼルとブレスレットはロレックスのサービス交換品だが、ケースはしっかりとしているように見える。

 このロレックス サブマリーナー Ref.6200は、ロンドンのサブダイアルで販売中だ。価格は応相談となっており、詳細を知りたい場合はsupport@subdial.comに問い合わせを。

カルティエ シャッターパースウォッチ、1930年代製
A Cartier purse watch

 時計探しの神々は不思議な働きをすることがある。希少なジェムセットのパテック ノーチラスが政府の差し押さえ資産オークションで出たり、カリフォルニアの小さなオークションハウスでカルティエ ロンドンの時計が見つかったりする。ボナムスという名は時計オークション界で知られているが、まさか1930年代のカルティエ パースウォッチがオンラインセールに紛れ込んでいるとは思わなかった。それでもこうして見つかったわけだ。

 これらシャッター、または“エクリプス”とも呼ばれるパースウォッチは、市場に出ることが少ない。オブジェとしてはかなり楽しい。遊び心に富んでいて、以前紹介したカルティエサイン付きのモバード エルメトと同様に、バッグに入れて持ち運ぶことを想定している。バッグのなかでほかの持ち物とぶつかったとしても、時計の文字盤と風防はバネ式のシャッターで保護されている。時間を確認したいときはバッグから取り出し、両端のボタンを中央に押し込むとシャッターが魔法のように開き、クラシックなカルティエのダイヤルが現れる。そしてまたバッグに戻して出かけられる。

A Cartier purse watch

 ヴィンテージカルティエへの高まる需要、特にユニークな時計に対する市場の関心を考えると、このパースウォッチはオンラインセールでも十分に注目を集めるだろう。ただ全体的に見ると、こうしたユニークなパースウォッチは、ヴィンテージカルティエを手に入れる最良の方法のひとつだ。特にこの時計は1930年代に手作りされたものなのだ。

 カルティエ シャッターパースウォッチは、ボナムスのWeekly Watches New Yorkセールのロット2071として出品されており、オークションは9月25日(水)の正午(アメリカ東部標準時)に終了する予定だ。公開時点での入札額は420ドル(日本円で約6万円)で、推定価格は1000ドルから2000ドル(日本円で約14万5000~29万円)となっている。

ヴァシュロン・コンスタンタン ヒストリーク Ref.48100/000R-3 “トゥール・ド・リル”、1990年代製
A Vacheron historiques

 オンラインオークションからもうひとつ、隠れた逸品を紹介しよう。これはクリスティーズ・香港に出品された、非常に魅力的なネオヴィンテージのヴァシュロンである。ヴァシュロンヒストリークのラインナップ、特に1990年代のモデルにはいつも感心させられる。昨年のイベントでヴァシュロンのスタイル&ヘリテージディレクター、クリスチャン・セルモニ(Christian Selmoni)氏とこの時代のブランドの歴史について話をした際、多くのリファレンスがつくられたものの、各モデルの生産量は非常に少なかったことが確認され、私の予感が裏付けられたようだ。

 このネオヴィンテージのヒストリークコレクションは、Ref.48100/000R-3 “トゥール・ド・リル”である。少し説明すると、このモデル名は1219年に建てられた城の、唯一残った部分であるジュネーブの塔に由来している。ヴァシュロンは1842年から1875年までこの塔を工房として使用していた。すごい話だろう? なおこの塔は現在も見学することができる

 さて、この時計は直径31.5mmのローズゴールド製ドレスウォッチで、特徴的なコルヌ・ドゥ・ヴァッシュラグを備えている。ダイヤルはきわめてシンプルでありながら、パワーリザーブインジケーターと日付表示機能が小さなスペースへと巧みに配置されている。これらの機能を示すインダイヤルにはギヨシェ装飾が施されており、ちょっとしたアクセントになっている。

 このネオヴィンテージヴァシュロンは、クリスティーズ香港のWatches Online: Featuring 'The Collectibles' Part 1セールのロット159だ。オークションは9月24日(火)午前4時(アメリカ東部標準時)に終了する予定である。現在の入札額は3万5000香港ドル(日本円で約65万円)で、エスティメートは3万2000香港ドルから6万5000香港ドル(日本円で約59万~120万円)となっている。

アバクロンビー&フィッチ ツインタイム バイ ホイヤー、1950年代製
Abercrombie watch

 先週のコラムに関連して、アバクロンビー ツインタイムは本当に希少な時計だ。この時代のアバクロンビーモデルを注意深く追っているのだが、これまでに確認しているのは2本だけだ(こちらこちら)。だからこそ、最新のジョーンズ&ホーランオークションのカタログを見て、この時計、つまり私が知る3本目の個体をすぐに認識したときの驚きと興奮は想像に難くない。

 潮の動きを追跡するシーファーラークロノグラフと同様、ツインタイムはデイヴィッド・アバクロンビー(David Abercrombie)とホイヤーの共同開発によるものだと考えられる。アバクロンビーという人物は、アウトドア好きなアメリカの顧客に最高の製品を届けることにとても熱心で、スイスに定期的に足を運び、ホイヤーなどのブランドに顧客が求める機能のほか、役立つと思われる機能を時計に搭載するよう依頼していた。ツインタイムのインナー回転ベゼルは、ヴィンテージワールドタイマーと同じような方法で第2時間帯を把握することができる。

 ジョーンズ&ホーランで出品されているこのツインタイムは完璧ではないものの、全体的にいい外観を保っている。実物で見たほかの例と比較すると、ダイヤルのパティーナ(ここで見るほどではないが)は似ているが、こちらのほうがやや強い印象だ。それでもその風合いは非常に魅力的である。希少な時計においては、状態が完璧でなくてもそれが大きな問題とはならない場合がある。

 このA&F ツインタイムは、2024年10月10日(木)午前11時(アメリカ東部標準時)に開催されジョーンズ&ホーランのFeatured Auction w/LIVE CLOSE: Horology, Jewelry, & Coinsセールのロット146として出品。公開時点での事前入札は2000ドル(日本円で約29万円)で、推定価格は3000ドルから6000ドル(日本円で約43万~86万円)となっている。

ベンラス ウルトラディープ Ref.6086、1960年代製
A Benrus

 私はヴィンテージウォッチコレクターのなかでも、shopgoodwill.com(アメリカを中心に展開する非営利団体のリサイクルショップ)をくまなく探す人たちに特別な思い入れを感じる。リサイクルショップ、特にGoodwillからは、ヴィンテージウォッチ収集史上最高の発見が生まれてきた。ルクルトのディープ シー アラームブランパンのフィフティ ファゾムスがその好例だ。こうした話に影響されてか、Goodwillは寄付されたヴィンテージウォッチをオンラインオークションに出品するようになった。今日のGoodwillでの発見は、これほど伝説的ではないものの、それでも予想外の場所で見つかった素晴らしい時計である。

 ベンラス ウルトラディープは、1960年代半ばから後半にかけて製造された、一般大衆向けの純粋なツールダイバーズウォッチである。同時期にベンラスがアメリカ軍にタイプ1ダイバーを供給していた一方で、ウルトラディープは商業用に販売されていた。この時計はエルヴィン・ピケレ(EPSA)社製のスーパーコンプレッサーケースに収められるなど、きわめて技術的に優れている。EPSAケースは当時としては最先端技術であり、多くのブランドが採用していた。ホイヤー、エニカ、そして数週間前のBring A Loupeで取り上げたランコもその例だ。同ケースは時計が深く潜水するほど、防水性が高まる設計になっている。潜水中に外部圧力が増すと、バネ仕掛けの裏蓋が内部のガスケットを押し、より強固な密閉状態をつくりだすという仕組みだ。

A Benrus

 オレゴン州のGoodwillストアが、このベンラス ウルトラディープをオークションに出品しており、終了は9月21日(土)の午後9時3分(アメリカ東部標準時)だ。公開時点での入札額は802ドル(日本円で約11万5000円)となっている。詳細はGoodwillの親しみやすいウェブサイトでご確認を。

ミモ ヘルマン・ホルマンが販売した“クラムシェル”、1930年代製
A Mimo

 eBayで何気なくスクロールしていたときにこの時計と出合った。初期の“防水”ケースと素敵に経年変化したダイヤルが目に留まったが、さらに深く調べていくうちに本当の魅力に気づいた。まず注目すべきはそのコンディションだ。これこそ1930年代の“新古品”の時計が持つべき外観だろう。ヴィンテージウォッチの状態を学ぶにはこのような例を見るのがいいし、可能であれば実物を手に取ることが理想だ。ケースのシャープさとさまざまな仕上げは、ポリッシュはおろか、未使用の時計に求められるものである。この状態の素晴らしさをさらに際立たせているのは、オリジナルの商品タグが付いていることだ。タグにはケース内部のシリアルナンバーが刻印されており、まさにコレクターにとって魅力的なポイントとなっている。

 これだけでも入札する理由としては十分であり、オークションの最後まで見守る価値があるが、まだその時計の製造元やダイヤルの名前には触れていない。まず、時計を製造したのはミモだ。このケース構造は“クラムシェル”と呼ばれる。ムーブメントを保持する裏蓋が上部ケース内で圧力をかけて固定され、ラグの裏側にある4本の斜めに配置されたネジでしっかりと固定されている。いくつかのブランド(タバン、ギャレットなど)は、このスタイルの“防水”ケースを採用した時計を製造しており、ケースはスクエアやラウンドがあった。今日ではミモはあまり知られていないブランドだが、当時の時計業界では非常に重要な存在であった。特にミモメーターは、1930年に初めて3時位置に日付窓を持つ時計として登場し、その革新性で注目された。

 ではダイヤルの名前はなにかというと、ヘルマン・ホルマンは20世紀初頭にドイツのライプツィヒで創業した時計小売店である。ホルマンはさまざまなブランドの壁掛け時計や腕時計を販売しており、多くはダイヤルに小売業者のサインのみが刻まれていた。ホルマンのサインが入った時計は、1945年以降だとほとんど見つからない。この調査を進めるうちに、ホルマンの子孫が情報や家族写真を共有しているドイツの時計フォーラムにたどり着いた。

A mimo

 ともかく、この時計は素晴らしいコンディションで、その背景にはとても興味を引かれるストーリーがある。“新古品”の時計という観点から見ると、これまでの歴史がたくさん詰まっている一品だ。

 ドイツのブランケンブルクにいるeBay出品者が、このヘルマン・ホルマンのサイン入りミモを純粋なオークション形式で出品している。終了は9月19日(水)午後1時49分(アメリカ東部標準時)だ。公開時点での入札額は28.94ドル(日本円で約4200円)となっている。こちらからチェックして欲しい。