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日本と時計をテーマにした史上初めてのテーマオークション“TOKI(刻)”が2024年11月22日(金)に香港のフィリップスで開催される。
世界的に見てもユニークなインディペンデントブランドが花開き始めた日本のマーケット(詳細は記事「加速する国産インディペンデントの新時代」へ)。その中心にいる作り手たちはどのような思いを持ち、時計づくりに向き合っているのだろうか。今回のテーマオークション開催に伴い、彼らの声を聞くことができた。
佐藤杏輔
時計づくりを始めようと思ったきっかけは何ですか?
飛田直哉
私は1990年からスイス時計業界で仕事を始めました。そのなかで、複数のブランドと日本市場向け限定モデルを企画する機会に恵まれ、いくつかの時計を企画・デザインしたのですが完全に自分の思いどおりにはなりませんでした。なぜならそれは私の時計ではなく、そのブランドの時計だからです。この経験から生まれた「自分の理想とする時計を生み出したい」という気持ち、そして時計師の藤田耕介さん、彫金師の加納圭介さんという情熱を共有できる人たちとの出会いが時計づくりを始めようと思ったきっかけです。
佐藤杏輔
時計づくりを始めた当時と現在の時計市場を比べて、大きく変わったところ、変わらないところは何ですか?
飛田直哉
クラシックな時計、ヴィンテージテイストな時計が好きな方々の指向・傾向は、我々が時計づくりを始めた当時とまったく変わっていないように感じています。一方で、我々は最初の時計を2019年、すなわちコロナ禍の前に発表し販売しました。コロナ禍の最中で、SNSの影響力が大きくなったと感じています。我々が時計づくりを始めたばかりの頃は、多くの企業がSNSをセールス・マーケティングのために使い始めたばかりだったように思いますが、現在では、もはやなくてはならないツールのひとつになってきました。その影響もあってか、若い方々も我々のようなニッチな時計に興味を持ち始めてくれているのだと感じています。
佐藤杏輔
日本の時計師として、あるいは日本の時計ブランドとして、時計づくりで大切にしていることは何ですか?
飛田直哉
時計づくりで大切にしていることは、自分たちの好きなものを作るということです。市場が求めているものや、マーケットのトレンドに左右されず、私の好きなものを作りたいと常に考えています。日本ということは、特に意識していませんでした。ただ、不思議なことに海外の時計愛好家からは「あなたがたの時計から和のテイストを感じる」と言われることが多々あります。
佐藤杏輔
海外の時計市場と比べて、日本の市場ならではの特徴や強みは何だと思いますか?
飛田直哉
大きく3つの特徴があると思います。ひとつ目は、オールドスクールな時計のデザインやディテールを突き詰める人が多いということ。ふたつ目は、時計をていねいに扱う方が多いせいか、プレオウンドのマーケットに状態のよい時計が多いこと。そして3つ目は、いまだに自分の時計を売ったことがないという方が結構いらっしゃるため、家の中で保管されている時計が多いということですね。
佐藤杏輔
日本の時計や時計ブランドが、今後世界でさらなるプレゼンスを発揮するには何が大切になると考えていますか?
飛田直哉
ハイエンドなセグメントに進出し、明確なアイデンティティを打ち出すことだと我々は考えています。また、そのアイデンティティを安易に変えないことも大切ではないでしょうか。
TOKI(刻)ウォッチオークション出品作品: TYPE1D-2
今回のオークションにNaoya Hida & Co.が出品するのは、今年発表された、同ブランドとして初めてイエローゴールドケースを採用したTYPE1D-2です。特別なモデルが出品されるというより、特別な機会が提供されるという方が適切かもしれません。この時計にはオークション限定のデザインは施されていませんが、落札者の希望に応じてケースバックにユニークなデザインをカスタマイズで彫金してもらうことができます。そういう意味ではどの時計よりもパーソナルな、特別なものになるのは間違いありません。
そもそもNaoya Hida & Co.のモデルは、すべてハンドエングレービングによるインデックスが施されているのが特徴です。なぜ手彫りのエングレービングにこだわるのでしょうか?
「かつて有名な時計ブランドで働いていた際、パリやスイスで200年前に作られた懐中時計を何度も目にする機会がありました。当時の時計製造技術では一般的なプリントやアプライドの技法がなく、多くは手彫りによるインデックスが施され、そこに薄くエナメルが流し込まれていました。その手仕事の美しさと、何より立体感のある仕上がりに強く魅了されたのです(飛田氏)」
飛田氏は日本向けの限定モデルの製作に携わったことがあり、いくつかのメーカーにハンドエングレービングのインデックスの採用を相談しましたが、どこも対応してくれるところはなかったそうです。
ブランドの立ち上げの際に飛田氏は、彫金師である加納氏に腕時計サイズでこうした意匠を取り入れられないかと相談したそうです。そこで彼が「現代の職人は、昔の職人に比べて双眼顕微鏡などのツールがあるため、当時よりも恵まれた条件で作業でき、実現可能です」と返答したことから、挑戦することになりました。
ケースバックの彫金はもちろん、彫金師である加納氏の手作業によるものです。「落札者の方には、我々と加納さんとでモチーフについて相談しながら決定し、そのエングレービングが施された特別な時計を受け取っていただくことになります」。カスタムでいれることができるデザインはイニシャルや模様など自由で、このような特別なエングレービングを入れた時計は、受けられる数が極めて限られるため、今年はこのケースひとつのみになるのだそうです。この時計はまさに唯一無二の存在であり、特別な価値を持つ一本として手にする機会は極めて貴重なものとなります。
LOT 115: Type 1D-2のエスティメートは、28万〜48万香港ドル(約550万〜940万円)。そのほかの詳細はこちらから。
Photographs by Mark Kauzlarich and Yusuke Mutagami, Hero Image: Keita Takahashi
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