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不断のアップデートを続けるウニコと、マニュファクチュールとしてのウブロ

マニュファクチュールブランドとしてのウブロを再発見する特別な場で、ウニコをはじめとする自社ムーブメントの真価を見た。

ウブロというブランドの時計を手に取るとき、僕はその外装に目を向けがちだ。そもそも1980年の創業当時よりゴールドとラバーを掛け合わせた異素材の妙で高い評価を得てきたブランドであり、現代においても独自素材の研究開発や目を疑うほど全面に施されたジェムセットなどで僕らの目を楽しませてくれている。2019年、「ビッグ・バン MP-11」にSAXEMを取り入れてからは同素材による色の開発も積極的に行ってきた(SAXEMについては過去にサラ・ミラーが詳細に解説している)。2024年はオーリンスキーコラボモデルなどで鮮やかなセラミックの表現も見られ、次はどんな提案を行ってくれるのだろうと個人的に早くも来年の新作群に想いを馳せたりもしている。

 しかし忘れてはならないのが、ウブロが2010年よりムーブメントを自社開発・製造してるマニュファクチュールブランドであるということだ。8月14日より東京・日本橋三越本店の本館1F ステージで開催されているポップアップイベント、「The Art of Fusion 〜異なる素材やアイデアの融合〜」はウブロの“マニュファクチュール”としての側面にスポットライトを当てた貴重な場となっている。HODINKEE Japanも開催初日にイベントスペースを訪問し、取材してきた。

 開催場所は日本橋三越本店 本館1階のステージ。ポップアップスペースの正面には2024年の目玉である「ビッグ・バン MP-11 14デイ パワーリザーブ ウォーターブルー サファイア」が大胆に配され、約14日間という驚異的なパワーリザーブを誇るMP-11の姿を象徴的に打ち出している。そこから左右に回り込んだところには発売されたばかりの最新モデルから「ビッグ・バン」、「クラシック・フュージョン」などの定番コレクションまでがずらりと陳列されたショーケースが並ぶ。また、ブースを取り囲むようにしてブランドの“今”を表すハイコンプリケーションがショーケースの台座にセットされており、その素材も色も多岐にわたる顔ぶれからはブランドコンセプトでありイベントのタイトルでもある“The Art of Fusion”を強く感じることができる(なおウブロの担当者いわく、陳列されているモデルはこのポップアップで実際に購入可能なものだという)。

「クラシック・フュージョン」などの定番コレクション。

ウニコ2(Cal.HUB1280)を搭載した、「ビッグ・バン ウニコ」。

 そして今回のイベントにおいて重要な要素となるのが、ムーブメントや独自素材の展示をメインとしたマニュファクチュールとしての側面へのフォーカスだ。会期の前半はウブロの時計師によるデモンストレーションも行われており、ブースの正面に向かって右側には作業台とディスプレイが設置されていた。ディスプレイには初代ウニコとウニコ2の分解・組み立てを行う時計師の手元がアップで表示され、その繊細な作業の工程をすみずみまで眺めることができた。ウブロがこのような形でムーブメントにフォーカスした一般向けのイベントを行うことはこれまであまりなく、取り組みの背景にはブランドのマニュファクチュールとしての奥深さを広く知ってほしいという思いが込められているのだと担当者は語ってくれた。

 ここで少し、ウニコというムーブメントについて紹介をしておきたい。

 バーゼルワールドにおけるビッグ・バンの発表から4年後の2009年、ウブロはジュネーブ湖畔の町ニヨンに本社マニュファクチュールを完成させた。以降この場所が独自のマテリアル開発、そして自社ムーブメント製造の拠点となっていくのだが、ウブロによる初の完全自社開発製造クロノグラフムーブメント「ウニコ」(Cal.HUB1242)が発表されたのは同マニュファクチュールの完成からわずか1年後のことだった(実際の研究開発期間は数年にも及ぶものだったという)。このウニコは約72時間のパワーリーザーブに加えてフライバック機能を備えた高性能なクロノグラフムーブメントであったが、同時にデザイン面での配慮もなされており、クロノグラフ機構を文字盤側に配置することでコラムホイールを鑑賞できるような構造をとっていた。

(左)ウニコ2、(右)初代ウニコ。

 その8年後となる2018年には、そのアップデートバージョンとしてウニコ2(Cal.HUB1280)を発表。初代においてモジュール式であったクロノグラフ機構を一体型としたことで、ムーブメント自体の厚みを8.05mmから6.75mmまでスリム化した。その背景には従来のモデルよりも小振りな42mm径ケースを採用するという目的もあったのだという。またクロノグラフのスタート時の挙動を制御するべく、ウブロは1層目が螺旋、2層目が垂直の櫛目になったユニークな歯車を4番車と秒クロノグラフ車を連結する中間に置いた。ニッケルリンを使用したLIGA製法からなる歯車はそれ自体が弾性を持っており、これによって作動時の針跳びを抑える仕組みになっている。以下に写真を載せるが、この歯車ひとつをとってもクロノグラフ機能や制度へのこだわりがうかがえるのではないだろうか。このほかにもウニコ2では、ヒゲゼンマイの有効長を調整して精度を高めるインデックス・アセンブリ・システムの採用などいくつかの点で初代からの明確なアップデートが行われた。まだ一部のモデルでは初代ウニコも使用されているが、現在ではウブロのマニュファクチュールモデルの大部分がウニコ2を搭載している。

 時計師の手元を撮影している最中、ウニコは高性能であるだけではなくメンテナンス性にも配慮されたムーブメントでもあるとブランドの担当者が教えてくれた。以下の写真は、初代ウニコ、ウニコ2からパージされたムーブメントの一部だ。実はウニコは定期的なメンテナンスが必要な箇所に関して、全体を分解しなくとも分離できる構造となっている。初代ウニコでは脱進機部分がそうであったが、ウニコ2ではベアリング部〜リューズ周りを取り外せるようにしたことで摩耗しやすいパーツの交換を容易にしたのだ。

 なおウニコとしてはウニコ2が最新ではあるものの、各パーツはウブロの技術革新に伴って少しずつアップデートがなされているのだという。現在のものより磨耗しにくく軽量な素材が開発されれば、ガンギ車やアンクルなどのパーツはそれらに置き換えられていく。過去にはカレンダーディスクがよりスムーズに回転するものに変わっていたり、歯車に差される油にも見直しが入ったりしていたようだ。オーバーホールでパーツ交換が発生した際には、該当箇所はそのときの最新のパーツに置き換えられる。ウブロはこの事実を大々的には公表していないが、現状に飽かずによりよいものを探求し、提供し続けるブランドの貪欲な姿勢が垣間見える話だ。

(左)ウニコ2の巻き上げ部、(右)初代ウニコの脱進機部分。

 ポップアップイベントでは引き続き、初代ウニコ、ウニコ2が8月27日(火)の会期終了まで展示されている。ここまでの話を踏まえたうえでウニコ、そしてウニコ搭載モデルを手にとってみると、また違った印象を持つのではないだろうか。

 また、会場には自社開発・製造のハイコンプリケーションムーブメントを搭載したモデルも並ぶ。今回のイベントスペースのなかでも特にウブロのマニュファクチュールとしての凄みを表していたのが、先にも名前が上がった「ビッグ・バン MP-11 14デイ パワーリザーブ ウォーターブルー サファイア」と、「MP-10 トゥールビヨン ウエイトエナジーシステム チタニウム」だ。ともにムーブメントから外装まで自社製造を行っているウブロのMP(マニュファクチュールピース)コレクションに数えられるモデルで、時計製造におけるイノベーションとそこから生まれる純粋な魅力を体現している。MP-11自体は、これまでにもレッドセラミックにサファイアクリスタル、マジックゴールド、SAXEMとその時々において先鋭的な素材で外装を変えながら展開を続けてきた。しかしこのウォーターブルーサファイアは、組成のための化学式を新たに見直し、独自の透明度指数をクリアするべく数年をかけて開発されたものだという。結果として「ビッグ・バン MP-11 14デイ パワーリザーブ ウォーターブルー サファイア」はかつてない透明感ある美しさを纏うに至った。7つの香箱から生まれる脅威の約14日間パワーリザーブを持つムーブメントもさることながら、自社一貫製造を可能にしているブランドでしか実現できない思い切った外装表現もまたウブロの魅力だ。

イベントブース正面に配置された「ビッグ・バン MP-11 14デイ パワーリザーブ ウォーターブルー サファイア」。

水平に並んだ香箱、それに沿うように湾曲したサファイアクリスタルの存在感は圧倒的だ。

 一方の「MP-10 トゥールビヨン ウエイトエナジーシステム チタニウム」は今年初お披露目となる独創的な時刻表示を持つモデルだ。伝統的なダイヤル式の時刻表示を廃し、6時位置の傾斜型トゥールビヨンの外周に秒を、中央上部のふたつのシリンダーで時・分を示すようになっている。またムーブメントは自動“巻き”ながらローターは見当たらず、代わりに左右に設置されたリニアウェイトで動力を得る仕組みを採用した。まるでクルマのエンジンのようにインダストリアルなムーブメントを覆うのは、歪みなく複雑に成形されたサファイアクリスタルであり、ここにもウブロの高い技術力を見ることができる。

「MP-10 トゥールビヨン ウエイトエナジーシステム チタニウム」。寄ってみると、6時位置のトゥールビヨンをはじめとした機構の緻密さに目を奪われる。

 今回のポップアップイベントはある意味、ブランドの原点回帰を示すものだとブランドの担当者は語る。これは2010年のウニコから始まった、マニュファクチュールとしてのウブロを再発見する場なのだ。会期の終わりも迫っているが、超絶技巧を実際に体験できる機会というのはそうそうない。ウブロに対して、ただひたすらに派手でセレブリティがつけているブランド……、という偏ったイメージを持っているなら、それを払しょくして時計ブランドとしての真価に触れるいい機会になるだろう。

「The Art of Fusion 〜異なる素材やアイデアの融合〜」
・会期: 2024年8月14日(水)〜8月27日(火)、10時〜19時30分
・会場: 日本橋三越本店 本館1F ステージ(東京都中央区日本橋室町1-4-1)
・電話: 03-3241-3311(大代表)

詳細はウブロの公式ウェブサイトをご覧ください。

Photos by Keita Takahashi