我々が知っていること
時計師レミ・マイヤ(Rémi Maillat)氏によって創設されたクレヨン(Krayon)が、新たなモデルを発表する。その方法は彼らにとって唯一のやり方であり、新しいムーブメント、新たな複雑機構、そして私たちと時計が時間とどのように関わるかについての新しい視点をもたらすものだ。この新作エニィデイ(Anyday)は、クレヨンがメカニカル・プランナーと呼ぶタイムピースであり、ひと目でその日の予定や週間・月間の流れを把握できる設計となっている。そのコンセプトはとてもロマンチックでありながら、機械的には驚くほど複雑な構造を持ち、実際の操作においては極めて直感的だ。そして今回、正式な情報解禁に先駆けて、この時計を実際に手に取り、その魅力をお伝えできる機会を得た。
最も実用的で創造的、かつ楽しめる複雑機構を手がけるブランドを挙げるとすれば、クレヨンは間違いなくその筆頭に挙がるだろう。斬新なアイデアと卓越した美しさを兼ね備えた時計を生み出しており、エニィウェアのように、世界中のどの場所でも日の出と日の入り(あるいは昼夜の長さ)を表示できるモデルや、その前身である“エブリウェア”のように、日付、緯度、経度、UTCをユーザーが調整できるモデルなどその発想は驚異的だ。これらの時計は、ほとんどの人が考えたことのない問題を見事に解決し、しかもエレガントな方法で実現している。すべての時計には明確な目的が込められている。たとえばエニィウェアは、フリーダイバーであるレミ・マイヤ氏が最適なタイミングで水に入るためのツールとして設計された。文字盤からムーブメントに至るまでの仕上げは見事であり、それも当然のことだ。なにしろ価格は8桁台におよび、エニィウェアは13万4000スイスフラン(日本円で約2250万円)から、エブリウェアに至っては60万スイスフラン(日本円で約1億100万円)を超えるのだから。
クレヨン エニィウェアとクレヨン エニィデイ
クレヨン エニィデイの基本スペックは、そのムーブメントの複雑さを考慮すると比較的コンパクトにまとめられている。手巻きで完全にリューズ操作のみで制御されるムーブメントには、378個の部品が詰め込まれており、サイズは35.4mm×5mm。これが39mm×9.5mm厚の18Kホワイトゴールド製ケースに収められており、そのサイズはクレヨン エニィウェアと同じだ。装着感は非常によく、主張しすぎないデザインになっている。これは1カ月の予定をさりげなくサポートするロマンチックなツールとして設計された時計だからこそ重要なポイントだ。しかし、そもそもメカニカル・プランナーとは何なのだろうか?
クレヨンは、エニィデイが人生の流れを追跡する時計だと説明している。マーケティング的な表現はあまり好まないが、この時計の複雑機構を的確に表していることは確かだ。日付と曜日の表示はこうした時計にとって基本的な機能といえる。だがたとえば、27日にミーティングを設定したいが、それが何曜日なのか? といった疑問が生じたとき、エニィデイならすぐに答えを示してくれる。27日が火曜日なのか、それとも水曜日なのか、そんな情報を直感的に把握できるのだ。このカレンダー表示は今まで見てきたなかでも最も実用的でわかりやすいもののひとつだ。
文字盤の外周には、その月の最大31日すべて(さらに、前月・翌月を示す4つのドット)が配置されており、平日と週末の区別がひと目で分かるようになっている。平日はブルー、週末はより淡いブルーで表示される仕様だ。この時計は、2月(28日または29日)や30日までの月に対応するため、年に5回の調整が必要となる。現在の日付は三日月形のフレームで強調され、カム機構を利用したシステムにより、24時間かけて動力を蓄積し、日付がちょうど真夜中にジャンプする。さらに、31日まである月の終わりには瞬時に次の月へと切り替わる。このカレンダーは35のポジションで構成され、現在の月をすべて表示するとともに、次の4日間を先取りして確認できるのだ。
クレヨンがエニィウェアを発表した際、その最大の成果のひとつは、比較的簡単に調整できる仕様だった。この時計のコンセプトは、本質的には“均時差(Equation of Time)”の複雑機構に基づいている。しかし一般的な均時差機構は、場所ごとに異なるカムセットが必要であり、それらを交換するためには大がかりなメンテナンスが求められる。一方でエニィウェアは、熟練した時計師がカムの動作を調整する1本のネジを回すだけで設定を変更できるという、画期的な仕組みを採用している。
このムーブメントは、信頼性と耐久性を重視して設計されているが、仕上げに関しては極限まで磨き抜かれている。すべての面取りやブラックポリッシュは、業界屈指のフィニッシャーにも匹敵するレベルで施されているといえるし、信じられないほど思慮深い。たとえば受け板やブリッジに施されたストライプは、クレヨンの工房があるヌーシャテルの年間を通じた昼の長さを示すサイン波を表現している。また地板の形状はリューズ部分から始まり、ヌーシャテルの海岸線の輪郭をなぞるようにデザインされている。
カムと連動するレバーの先端には石がセットされている(写真中央のホイールに取り付けられているのが確認できる)。通常、この部分には潤滑のためにオイルが使用されるが、時間の経過とともに劣化する可能性がある。そのためクレヨンのチームは、より耐久性の高い設計としてこの石を採用することで、摩擦を軽減し、長期的な信頼性を確保している。
近年、時計業界ではリューズセットによる操作性が注目されており、エニィデイもその流れに沿った設計となっている。リューズを押し込んだ状態(ポジション1)では手巻き機能が作動する。リューズを一段引いたポジション2では、時計回りに回すと日付を素早く進めることができ、反時計回りに回すと日付はそのままにして曜日だけを進めることができる。そしてリューズを完全に引き出すことで時刻調整が可能だ。クレヨンによれば、これらの機能は安全性と耐久性を考慮した設計となっており、誤操作によるダメージの心配はないという。さらにユーザーからのフィードバックを受け、実際の使用感に基づいた改良をムーブメントに施しているそうだ。
文字盤はクレヨンのシグネチャーカラーともいえるブルーのグラデーションで統一され、中央にはブランドを象徴する“Y”パターンの精緻なギヨシェ装飾が施されている。機能表示のスムーズな動作と瞬時の切り替えを実現するべく、サファイア、アルミニウム、オープンワーク加工が施されたチタンの3枚の軽量ディスクが採用されている。さらに曜日と日付を表示するふたつのディスクには、スイス人アーティストによる手描きのミニアチュールペインティングがあしらわれるなど、細部までこだわり抜かれた仕上がりとなっている。唯一の課題を挙げるとすれば、トーン・オン・トーンの色使いにより、瞬時の視認性がやや低くなっている点だ。もう少しコントラストを強調してより鮮やかなカラーリングを取り入れれば、視認性が向上し、実用性がさらに高まるかもしれない。
唯一少し混乱したのは、4つのドットの存在だ。これらのドットは1日から31日までの日付の前後に配置されており、1日の前の日付が平日か週末か、また月が切り替わった後の最初の日付が平日か週末かを示している。つまりこの時計は、過去と未来の両方を表示しているわけだ。だがこれを、単純に時計回りに読み進めて4つのドットを飛ばしてしまうと、一見すると意味がとおらなくなる。たとえば31日が日曜日なのに、1日が金曜日になっているように見える。しかし実際には、31日のあとにディスクが自動的に適切に動くように設計されている。4つのドットは月が変わったあとの2日間に何が起こるのか、また月が始まる前の数日間に何があったのかを示すための参照ポイントとして機能しているのだ。
クレヨン エニィウェアとクレヨン エニィデイ
ここまで熱く語ることは滅多にないが、クレヨンはもっと称賛され、注目を集めるべきブランドだと思う。実際に手に取ってみると、そのこだわりの深さが伝わってくる。創業者のレミ・マイヤ氏は控えめな人物で、カリ・ヴティライネン(Kari Voutilainen)氏のように自身の作品を褒められると少し照れたような笑顔を見せる時計師のひとりだ。そのディテールへのこだわりは圧倒的であり、ストーリー性も非常に感情に訴えかけるものがある。クレヨンはこれまで年間45本以上の時計を製作したことがなく、今回の新キャリバー導入に伴い、新たな時計師の育成を進めながらさらに生産数を絞る予定だ。この価格帯の時計を検討する顧客なら、きっとクレヨンの魅力にいち早く気づき、すでにその世界に引かれているのではないだろうか。
基本情報
ブランド: クレヨン(Krayon)
モデル名: エニィデイ(Anyday)
直径: 39mm
厚さ: 9.5mm
ケース素材: 18Kホワイトゴールド
文字盤: クレヨン独自のYパターンを施したブルーギヨシェ
インデックス: アプライド
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: ダークブルーのカーフスキンストラップ、18KWG製ピンバックル
ムーブメント情報
キャリバー: C032
機能: 時・分表示、文字盤外周に日付表示、曜日を色分けで表示(平日と週末を識別)、翌月の最初の週を6時位置の4つの小さなドットで表示
直径: 35.4mm
厚さ: 5mm
パワーリザーブ: 約72時間
巻き上げ方式: 手巻き(秒停止機能付き)
振動数: 2万1600振動/時(3Hz)
石数: 46
追加情報: 378個の部品で構成
価格 & 発売時期
価格: 8万8000スイスフラン(日本円で約1500万円)
発売時期: すぐに
限定: なし(通常生産モデル)
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