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Hands-On ビバー 新作“オートマティック”と独自のマイクロロータームーブメントで復活

55万ドル(日本円で約7860万円)のカリヨン トゥールビヨンのあと、ブランドは新しい自動巻きモデルで、細心の注意を払いながら着実な発展を目指している。


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Photos by Mark Kauzlarich

昨年、ジャン-クロード・ビバー(Jean-Claude Biver)氏は息子のピエール・ビバー(Pierre Biver)氏とともに、新ブランド“ビバー”から最初のモデルを発表し、時計業界を驚かせた。なお、ブランドローンチ自体はそれほど驚くものではなかった。JCB(時計の世界ではピエール氏からもそう呼ばれている)は、2022年2月にそのニュースを予告していたからだ。しかし伝統的なエタブリサージュスタイル(部品を外部に依頼し、一元的に組み立てと仕上げを行う手法)で製造されたカリヨン トゥールビヨンの基本価格が55万ドル(日本円で約7860万円)であることには、多くの人が衝撃を受けただろう。

Carillon Tourbillon

ジェムセット仕様の2本のビバー カリヨン トゥールビヨン ピースユニーク。それぞれの価格は約130万スイスフラン(日本円で約2億1960万円)である。うち1本はすでに売約済み。

 それから半年足らずのうちに、ブランドは同じカリヨン トゥールビヨンをジェムセット仕様や実験的なフォーマットで製造し始めた。予定されている50本のうち36本がすでに販売され、年間で1980万ドル(日本円で約28億3200万円)の収益を上げたというから、圧倒的な成功を収めたように思える。しかし、その舞台裏では多くの出来事が起こっていた。ビバーはOnly Watchチャリティーオークションのために、針のないジェムセットのアートウォッチを制作し、同オークションの混乱の最中この時計を取り下げた。また、ピエール・ビバー氏はCEO(事実上の役割)からクリエイティブ・ディレクターに役職を変更し、代わりにフィリップスを退職したジェームス・マークス(James Marks)氏がCEOに就任した。JCBは引き続き会長を務め、ピエール氏は取締役として残っている。なぜこのような変更を行ったのか? ブランドを今後さらに堅固な基盤に乗せるためである。そしてその未来はビバーの2作目となる時計、“オートマティック”の登場によってすでに現実のものとなった。

Biver Automatique

 それは美しい時計であり、ブランドの第2作目として多くの改良を施し、考え抜かれたものへと仕上げられた。見れば見るほど、細部へのこだわりが伝わってくる。もっと詳しい感想をお伝えするつもりだが、できる限り多くの写真も掲載するため、それを見て自身で判断して欲しい。誰が何を言おうとも、この時計が成功を収めることは間違いない。

 これらの時計は、バリエーションによって平均9万9500スイスフラン(日本円で約1680万円)となっている。ローズゴールドにマッチしたダイヤル仕様が7万5000スイスフラン(日本円で約1270万円)から、オブシディアンダイヤルにプラチナケースとプラチナブレスレットを備えたモデルが12万1000スイスフラン(日本円で約2040万円)までと幅がある。サイズは39mm径×10mm厚とカリヨン トゥールビヨンに比べて大幅な改良がされている。最近話題となった独立系ブランドのジェブデ・レジェピ ミニット・イネルテが8万スイスフラン(日本円で約1350万円)であるのに対して、これは異なる顧客層をターゲットにしたまったく異なる提案である。高額な価格設定にもかかわらず、86本のうち4本を除くすべてが、すでにクライアントや小売業者に割り当てられている。しかし、“完売”ではないとピエール・ビバー氏はすぐに指摘し、一部の小売店ではまだ購入が可能だと教えてくれた。それでも、彼らのパートナーやサポーターからの強い信頼の表れであることに間違いはない。

Biver Automatique

 私はカリヨン トゥールビヨンのリリースのみならず実機レビューも取り上げた。その初リリースに対しては、批評と誠実さのバランスを取ってお届けしたためか、ビバー氏は私をアトリエに招待してくれ、新しいムーブメントサプライヤーであるデュボア・デプラ社を訪れて時計やその製作工程を直接見てもらいたいと言った。ピエール・ビバー氏は、もし見学が終わった時点でこの時計が取り上げるに値しないと思ったならそれで構わないし、むしろその点を正直に指摘して欲しいと言ってくれた。だが今回に関して言えば、愛すべき点が多くあると感じた。


アトリエとデュボア・デプラ社

 デュボア・デプラ社は、時計業界ではおそらくクロノグラフモジュールで最もよく知られている。ジュウ渓谷に拠点を置くこのメーカーは多くの有名ブランドと協力してきたが、その大半は公にされていない。ロレックス、オメガ、オーデマ ピゲなど、多くのブランドがデュボア・デプラ社に大いに依存している。しかし同社はクロノグラフモジュールだけでなく、統合型のクロノグラフCal.540を含むムーブメントの開発と製造も手がけている。

Dubois Dépraz

デュボア・デプラ社が手がけたムーブメントの一部。

 カリヨン トゥールビヨンには、ル・セルクル・デ・オルロジェ社が設計・改良したムーブメントを搭載している。同様のムーブメント(自動巻きではない)をスピーク・マリンも使用しているほか、アーミン・シュトロームもル・セルクル製のリピーターを採用している。今回、デュボア・デプラ社はビバーとの提携により、独自のマイクロロータームーブメントを開発。デュボア・デプラ社のような企業の内部を見学することは、顧客との機密保持契約があるためきわめて珍しい。その内部は、ほかのハイエンドウォッチメイキングと似ている部分もあるが、何よりも注目すべきはデザイナーたちの創造力だ。彼らは大手ブランドに対して問題解決者として貢献してきた実績があり、その技術力に疑いの余地はない。

Dubois Dépraz

デュボア・デプラ社の製造工程の紹介。

Dubois Dépraz

ムーブメントデザイナーの仕事。

Dubois Dépraz

工房でハイエンドな組み立てや製造を行う時計職人たち。

Dubois Dépraz

ムーブメントを加工している様子。

Dubois Dépraz

ふたつのゴールド製プロトタイプムーブメント。

 JCB-003 movement

 ビバーは上の写真にあるCal.JCB-003の管理権を保持している。他ブランドがこのムーブメントに興味を持った場合、デュボア・デプラ社とともに販売するかどうかを決める必要があるのだ。ケースはエフテオール社が製造しており、同社はランゲ、JLC、ゼニスのケースも手がけている。なお文字盤はLMカドラン社製である。

 部品が完成すると、それらはジュウ渓谷とジュネーブの中間に位置するジヴランにあるビバーのアトリエに届けられる。そこではムーブメント仕上げ職人と組み立て職人の小規模なチームが、ブランドの全モデルの製作に取り組んでいる。この訪問時では主に最後のカリヨン トゥールビヨンが仕上げられており、そのあとに最初のオートマティックモデルの製作を開始する予定だった。

Watchmaker

ジヴランのアトリエでカリヨン トゥールビヨンを製作している。

Watchmaker

ムーブメントのペルラージュ装飾。

Watchmaker

カリヨン トゥールビヨンのブリッジに施されたアングラージュ装飾。

 ビバーで働く時計職人たちは全員、パテック フィリップやヴァシュロン・コンスタンタン、カルティエといったほかブランドの出身だ。彼らは口々に、ビバーでは多様な業務を担当できるため、これまでの職場では使う機会がなかった技術や仕上げを試したり型にはまらない発想ができるようになったと語っていた。企業が大きくなればなるほど各従業員が専門化していくのは当然だが、ここではクリエイティブを発揮できる環境が整っているのだ。

Watchmaker
Watchmaker
Perlage

 一例として、ある従業員が発明した特注の音響ボックスが挙げられる。ビバーはカリヨン トゥールビヨンの音色に、特定の周波数範囲を設定している。リピーターのメンテナンス後、顧客が“音が違う”と不満を述べることが多いのだが、ブランドでは音色のパラメータを設定できるだけでなく、音響を録音し、サービス後も同じ音が出ることを確認している。さてオートマティックそのものに話を戻そう。


ビバー オートマティック
Biver Automatique

 ビバーのオートマティックは、カリヨン トゥールビヨンに比べて控えめながらも際立った美しさを備えている。ブランドがまだ創設まもなく、デザインコードを発展させている段階にあることを考えるとこれは自然な流れだ。ピエール・ビバー氏は今後10年間の時計開発のロードマップを持っていると話してくれたが、コアモデルは頻繁にリリースする予定であり、それに伴ってデザインのフィードバックを反映させることで、デザインも急速に進化していくとしている。また10年後を振り返ったときに、それぞれのデザインが前作をさらに向上させたと感じられることを目指しているとも話していた。1年という短期間ながら、彼らは大きな一歩を踏み出したと私は感じている。

Biver Automatique

 ビバーはデザインスタートから市場投入までが非常に速い。“オートマティック”の開発はわずか2年前に始まったばかりである。これは各モデルに時間をかけることを強調する、多くの独立系ブランドとは対照的だ。しかしビジネスモデルは違う。デザインやアイデアは一元化され、部品は最高のパートナーから選び、時計は自社で組み立てられる。この流れが確実にスピードアップにつながっているのだ。今回紹介する4種類のバリエーションでは合計86本のみが製造されるが、オートマティックは今後さまざまなバリエーションでコアモデルとして長期的に展開される予定だ。また、クライアントや信頼できる友人からのフィードバックをうまく取り入れているようで、オートマティックの将来のバージョンは、オリジナルの魅力を保ちつつもユニークなデザインに仕上がることが期待できる。私がオートマティックの写真を撮っていると、ピエール氏がスケッチを持って部屋に入り、次に登場する時計のデザインについてどちらが好きか、そしてその理由を尋ねてきた。その後すぐに時計職人たちの元に戻り、私の意見がどれほど実現可能かを確認していた。

Biver Automatique

 ブランドの“核”となる特徴にあるのは、質実でややゲルマン的なスタイルであるだけでなく、21世紀的なデザインでもあることだ。コレクションの主力となるふたつのモデルは同系色のケースとダイヤルを特徴としており、RGにはRGダイヤルを、プラチナにはホワイトゴールドダイヤルを組み合わせている。どちらもセミセクターダイヤルのブルズアイ効果を施し、さらにサーキュラーとバーティカルサテン仕上げはすべて手作業で行っている。最初のリリースについて“少し冷たい印象”に感じたと述べたが、その理由をはっきり言い表すのは難しかった。今思えば、ストーンダイヤルが同系色のインデックスとのコントラストに欠けていたのが原因だったのかもしれない。

Biver Automatique

 このムーブメントは、ただの新型エンジンというだけにとどまらない。JCB-003はデュボア・デプラ社と共同で開発されたが、本作のためだけではなく、将来的にカレンダーやクロノグラフといったモジュールコンポーネントを動かす計画があるのだという。その点を踏まえて、ムーブメントのサイズは厚さ4mm、直径30mmとなっている。またゼロリセット機構を備えており(レジェップ・レジェピのクロノメーター コンテンポラン IIにやや似た機構)、精度に重点を置いている。ブランドは自社の時計を公式なテストに提出していないが、アトリエでの試験ではクロノメーター認証の基準を超える性能を発揮している。時計は2万5200振動/時(3.5Hz)で時を刻み、パワーリザーブは約65時間だ。

Biver Automatique movement

 私のなかではムーブメントの仕上げとデザインの選択が特に印象に残った。マイクロローターとブリッジの位置関係により、従来のコート・ド・ジュネーブ装飾はあまり効果的ではなかった。その代わりに、ブランドはムーブメントの一部を大胆にカットして、テンプ、輪列、ゼンマイ香箱を露出させるデザインを採用したのだ。“ギター”型のブリッジもカットされ、手巻き用のコハゼ車(または香箱のタンブール)が見えるようになっている。この仕組みはグランドソヌリのデザインから着想を得たもので、こうしたクリックホイールが自動巻き時計に実装されたのはおそらく初のことだ。さらにプレートの側面と内部のあいだに明確な境界をつくるべくラインをくり抜き、ブリッジの上にはクル・ド・パリ装飾を施している。これらすべてには、ハイエンドな独立系ブランドに期待されるアングラージュとブラックポリッシュ仕上げが施されている。ガンギ車の宝石部分にはショックアブソーバーまで備えており、いい意味で過剰に設計された感がある。

Biver microrotor

 ラグが下向きになっていることで、時計を平らに置いたときに裏蓋ではなくラグの部分が接地するようになっている。またラグからラグまでの長さが47.5mmにもかかわらず、手首に非常になじむ形状となっているのもポイント。リューズも重要なパーツで、デザインというよりは手巻きの感触を重視してムーブメントが設計されている。巻き上げ時のコハゼのクリック感は心地よくて力強く、適度な抵抗が感じられる。シンプリシティほどではないが、私が記憶している限り、自動巻きムーブメントのなかでははるかに優れた感触だ。

Biver Automatique

 また装着感は驚くほど快適である。39mmのケース径でありながら、ラグからラグまでが47.5mmというサイズのため、見た目は実際よりも大きく感じる。その一方で、ラグを大きく下に向けたデザインにより装着時にはとても快適なフィット感を実現した。このデザインはピエール・ビバー氏が愛するパテックのRef.3448から多くのインスピレーションを受けており、特徴的なケースシェイプや角ばったラグにその影響を感じさせる。彼はまた、Ref.2523のフラットなエッジがラグへと下がるデザインにも言及していたが、個人的にはそこまでの共通点は見つけられなかった。ただデザインは私の得意分野ではないため、その見方もあるかもしれない。いずれにせよ私もRef.3448が大好きで、その類似性は明らかだと思う。

Biver Automatique

 これまで主にコアコレクションに注目してきたが、ジャン-クロード・ビバー氏が常に求めていたのは、ストーンダイヤルを使用したモデルを数本製作することだった。これらは“アトリエコレクション”の一部を成している。下記に見られるのは、RG製ケースに収められたブルーピーターサイトダイヤル(8万9000スイスフラン、日本円で約1500万円とスタンダードモデルより1万4000スイスフラン高い)と、プラチナケースに収められたサンドグレーオブシディアンダイヤル(9万2000スイスフラン、日本円で約1560万円で、コアモデルが7万8000スイスフラン、日本円で約1320万円である)だ。コアコレクションでもアトリエコレクションでも、個人的に最も好みだったのはRGモデルだ。ケースの温かみと、とくにストーンダイヤルの場合そのコントラストが非常に魅力的だった。

Biver Automatique Stone Dials
Biver Automatique

 なおブランドのブレスレットも若干リデザインされている。新しいブレスレット(RGまたはプラチナ仕様)は、ラグのシェイプを反映した角度のあるリンクを引き続き採用しているが、ストレートなエンドリンク(ラグ間19mm)によりヴィンテージな雰囲気を醸すようになった。これらのブレスレットは全モデルに対応するアップグレードオプションであり、価格もかなり高額だ。RGで1万9000スイスフラン(日本円で約320万円)、プラチナで2万9000スイスフラン(日本円で約490万円)となっている。装着感もよく仕上げも素晴らしいが、個人的にはストラップをつけたときの全体のまとまりのほうが好みだった。ストラップ仕様にすることで、時計はよりヴィンテージの要素が際立ち、モダンな印象を与えるのではなくクラシックな魅力を強調しているように感じられる。

Biver Automatique
Biver Automatique

 10mm厚のケースの奥行きの大部分は、高さのある立体的なインデックスを針が越えるために必要なものだが、それでも全体として非常にスリムに仕上がっている。私はRGモデルの温かみとコントラストが印象的で好きだ。とくにミニッツトラックとRGのインデックスを備えたピーターサイトダイヤルが気に入った。RGダイヤルでは、18KRGの時刻表示インデックスと針に施されたアンスラサイト仕上げがコントラストを生み出している。針は手作業でサテン仕上げされ、内側に4つの内角を持つ面取りを採用。またミニッツトラックもとても精巧で、レーザーカットと植字が施されている。プラチナモデルではWGに使用された合金の影響で、より温かみのある色合いになっている。

Biver Automatique
Biver Automatique
Biver Automatique
Biver Automatique
Biver Automatique

 ヴィンテージからインスピレーションを多分に受けながらも、ビバー オートマティックは独立時計製造の潮流に(自信を持って)逆行しているように感じられる。MB&Fやグルーベル・フォルセイのような極端にアヴァンギャルドなデザインや、レジェップ・レジェピ、テオ・オフレのようなきわめて伝統的なスタイルは多くのコレクターに支持され、彼らにとって安心感のある選択肢となっているが、この21世紀的な視点で再解釈された20世紀中期のパテックをほうふつとさせるデザインは、市場の隙間を埋める存在になっている。

Biver Automatique

 何よりもムーブメントに施されたクル・ド・パリ装飾は伝統から逸脱しており、私がそのよさを理解するまでに少し時間がかかった。普段はあまり好まない装飾で、パテックのRef.6119Gでもそう感じていたのだが、初めて目にしてから2週間が経つあいだにその魅力を感じられるようになった。ギヨシェ模様はマイクロローターのセンター軸から放射状に広がっている。軸に近い部分は細かく、ブリッジの縁、とくにリューズの真下にある部分ではより大胆なデザインである。

Biver Automatique

 ムーブメントの仕上げを見て何かを思い出せる気がしたが、なかなかはっきりと分からず、まさに思い出しそうな感覚が続いていた。ある人はそれを“インダストリアル”と呼んだが、それは少し違う印象だった。そしてふと気づいた。ブリッジのエッジの強いラインやセンターパターンには、未来的でありながら古代的な要素があり、映画『エイリアン』のデザインを手がけたスイス人アーティスト、H・R・ギーガー(H.R. Giger)を思い起こさせた。これは決して否定しているわけではない。ムーブメントの機械的な性質を強調しつつ、曲線的で自然なラインを取り入れた強力なデザイン言語だ。もしこれが“バイオメカニカル(生物的要素と機械的要素を融合させたもの)”ではないなら、ほかに何がそうであるのか分からない。

Biver Automatique

 新しい時計を理解するには時間がかかるもので、私はすぐに大きなリアクションを示さずディテールをじっくりと確認するようにしている。オートマティックには無数のディテールがあり、最初は戸惑ったのだが次第にその魅力を感じるようになった。ピエール・ビバー氏はブランドのもっとも純粋な理由、つまり“なぜ”これらの時計を製作したのかについて正直に話してくれた。それは、単に一族がこれをつくりたかったということに尽きる。彼らは“失われた芸術を復活させる”といった大げさな目標を掲げているわけではない。多くのブランドがよく行う感情的なストーリーテリングではないが、ビバー氏が率直な姿勢を貫き、無理にマーケティング的な言葉を使わなかったことに敬意を抱いている。

 もちろんそれだけではない。JCBがレガシーを確立しようとする強い意志もその一端である。彼はまたかつてブランパンを売却したことに対して大きな後悔を抱えており、今回がゼロから何かを築き上げる最後のチャンスだと考えているようだ。ピエール氏も父親が業界で築いてきた歴史のおかげで、サプライヤーや小売業者、コレクターとの関係値がほかの人よりもスムーズであることは十分に理解していると語っていた。それでも、彼らがつくり上げた時計には十分な価値があると確信した。インターネットが今度こそ寛容になることを期待している。どれだけ話題性を持っているかに関係なく、いい時計は、いい時計だ。この時計も多くの顧客にとって理想的な選択肢となるだろう。

Biver Automatique

 このような時計をつくることは決して簡単ではなく、ピエール氏とそのチームは与えられた余地(自由に使える時間やリソースや他者からのサポート)をフルに活用して、さらに高みを目指そうとしているようだ。また36人もの人々が、ファーストモデルに55万ドル(日本円で約7860万円)以上“投じた”のは、単に個人的または職業的な“義務感”で購入したとも考えにくい。ビバー家は、ジャン-クロード氏が出演したTalking Watchesで紹介されたほとんどの時計を売却してブランドの資金に充て、それが無駄にならないよう全力を尽くしている。ある独立時計師は、商業的な成功こそが偉大な平衡装置(最終的な決定要因)だと言っていた。ビバー氏が時計の発売前にこれだけの売上と確約を得ているなら、今後さらにブランドを成長させ、発展させる時間があるだろう。このリリースが大きな成功であり、前進の一歩であることは間違いない。彼らが私に見せてくれたプレビューを考えると、次に何が来るのかとても楽しみだ。

ビバー オートマティック。39mm径、10mm厚の18KRGまたはプラチナケース、80m防水。スタンダードダイヤルは無垢の18KWGまたはRG、アトリエコレクションのダイヤルはサンド仕上げのオブシディアンまたはピーターサイト。針は18KWGまたはRG、サテン仕上げと手作業による面取り、18KWGまたはRGのアプライドインデックス(アンスラサイト仕上げ)。マイクロロータームーブメントの自社製Cal.JCB-003搭載、2万5200振動/時(3.5Hz)、36石、パワーリザーブは約65時間。レザーストラップにプラチナまたはRGのピンバックル、もしくは5列のビバーブレスレット(プラチナまたはRG)。合計86本の限定生産(各素材ごとに25本、アトリエコレクションは各素材ごとに18本)。価格は7万5000スイスフラン(日本円で約1270万円)から12万1000スイスフラン(日本円で約2040万円)