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グルーベル・フォルセイが発表したハンドメイド2は、270パーツのうち96%が完全に手づくりされた時計である。ケース、ムーブメント、プレート、ブリッジは原材料から切り出し、すべて手作業で仕上げられ、下の写真のような時計ができるまで繰り返し改良される。ベン(・クライマー)がプレスリリースをチームに転送したときに言ったように、これは“真のウォッチメイキングのファンにとって大きな出来事”である。ここで言う真のウォッチメイキングとは、CNCやそのほかの機械がウォッチメイキングの芸術をさまざまな工業的工程に変えてしまう前、ずっと昔に用いられていたであろう方法で行われるものを意味する。このような挑戦のため、この時計は年に2~3本しかつくることができない。
ここで、マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)氏とそのご友人たちにとって大事な日であることを茶化してみよう。それは、最近ザッカーバーグ氏がこの時計の前身である2019年発表の90万ドル(日本円で約1億4000万円)のハンドメイド1を着用しているところを目撃されたからでもあるし、62万スイスフラン(日本円で約1億700万円)という価格で、彼並みの予算をかける“本物志向の時計愛好家”がほんのひと握りしかいないからでもある。しかしこの時計の顧客は少なくとも8人はいる。発表されたばかりにもかかわらず、グルーベル・フォルセイによればすでに2027年の大半まで割り当て済みであるという。
グルーベル・フォルセイ ハンドメイド2は美しい。信じられないほど素晴らしい。グルーベル・フォルセイで手づくりされていない部品は、サファイアクリスタル、パッキン、バネ棒、ゼンマイ、そして石の、計5種類だけだ。
サテン仕上げ、ブラックポリッシュ、ストレートグレイン、ポリッシュされた側面、面取りといった5つの職人技は圧巻だ。それに加えてゴールドシャトンにセットされた、オリーブ型の石がアクセントを添える、ポリッシュ仕上げの面取りも見事である。しかしこうした仕上げには、レジェップ・レジェピ、フィリップ・デュフォー、ロジャー・スミスといったブランドで慣れてしまっている(恐ろしいことに、みんなそれを当然のように期待している)。だからこそ、なぜこの時計がロジャー・スミスの2倍以上、レジェップ・レジェピの4倍以上もするのか、多くの人には理解できないだろう。私自身、これがハンドメイドであることを自分に言い聞かせなければならなかった。そこにCNCマシンはなく、治具、のこぎり、針金、研磨剤、その他の手工具があるだけなのだ。
スミス氏のような人がCNCを使うのは悪いことではない。彼が過去に言っていたように、それは精度のためであって、必ずしも大量生産のためではない。ブリッジを大まかに成形する作業を減らし、最終的な完成に近づける。時計をつくろうと思い立ったところで、何十種類ものネジをつくるために12工程を超える作業をしたい人などほとんどいない。歯車やテンプは通常、切削やプレス加工で製造されるが、ここでは違う。しかし数十万ドルを節約するか、CNCマシンが関与していないものを選ぶかは個人的な判断となる。
ハンドメイド1を参考にすると、この時計製作にかかる時間の4分の3は部品の製造に費やされ、残りが仕上げに費やされる。簡単に聞こえるかもしれないが、ハンドメイド1の完成には8000時間以上かかる。ハンドメイド2の製作時間はもう少し短い可能性はあるが大差ないだろう。結局、ひとりの時計師が最初から最後まで組み立てるのだから。
技術的な仕様がないことにお気づきかもしれないが、その理由のひとつはグルーベル・フォルセイがプレスリリースで精度やサイズ(40.9mmで、のちに厚さは12.8mmだと聞いた)、コストよりも時計の芸術性に焦点を当てることにしたためである。また、トゥールビヨンはすでにハンドメイド1で実現しているため、今回のリリースではそこは追求しないことにしたという。代わりに約72時間のパワーリザーブを備えた4針のとし、手作業で成形された円錐形ジュエルパワーリザーブという革新的な機構を採用した。
この円錐形ジュエルは実に素晴らしく、フュゼ・チェーン機構を思わせるパワーリザーブ表示の独創的なアプローチである。グルーベル・フォルセイはほかの多くの技術的な詳細と同様、このシステムの仕組みについて多くの情報を提供していないが、どのように機能するのかちょっと推測してみようと思う。
円錐形のジュエルは単なる斜面ではなく、段階的に溝とテーパーが付けられているように見える。駆動系のどこかで歯車が宝石を回転させ、その回転を(レコード盤を読むスタイラスのように)上下に動く宝石の付いたアームが”読み取り”、パワーリザーブ表示に反映させるのである。ただし、どうして“スタイラス”が垂直に動くのか、その一方でそれに取り付けられたアームが水平にしか動かないのか、私にはよくわからない(もっと目のいい人がいたら考察を教えてもらいたい)。香箱が巻き上げられるときは、このシステムは逆方向に動く。
時計の裏蓋はハンドメイド1よりも少し簡素化されており、ブラックポリッシュ仕上げのアームや地板の裏側の(引っかいたような)グラッテ模様は省かれている。その代わりに、複雑なカットが施された美しくシンプルな半円形の窓からちょうど駆動系の歯車がいくつか見え、製造年とブランド名を示す2枚のプレートが配されている。地板の残りの部分は時計の前面と同様、手作業でグレイン仕上げが施されたジャーマンシルバーである。
ケースとリューズは手作業で製造されており、18Kホワイトゴールドの塊から削り出されている。厚さは12.8mmと特別薄いわけではないが着用に難はなく、つけ心地はとてもよい。市場で最もエレガントで独創的なケースというわけではないが、グルーベル・フォルセイによれば手作業で製造するにはこのようなシンプルなケースが限界なのだという。そこが気になる顧客もいるかもしれない。
ある友人(この件を公表する許可は得ている)は、ナノ・フドロワイアントEWTに関するフィードバックと同様、ハンドメイド2がグルーベル・フォルセイの真髄を表しているとは思えないと私に言った。さらに加えるなら、この手のオープンダイヤル的雰囲気を用いているデザインは、テオ・オフレをはじめとする独立系時計メーカーでも見られる。ほかのグルーベルのデザイン言語のほうが、市場のほかの製品との差別化において優れていると言えるだろう。
もうひとつ建設的な批評があるとすれば、パワーリザーブインジケーターのフォントとスモールセコンドの目盛りの太さが、全体のエレガンスとやや調和を欠いているように感じられることだ。グラン・フー エナメルもまた、洗練された芸術性をもたらす素晴らしいものだが、私には少し洗練さが欠けるように感じられた。
昨年ジュネーブで見たプロトタイプは、コレクターが期待し、好むジャーマンシルバー特有の経年変化をすでに見せ始めていた。ブランドから提供された画像では文字盤ははっきりと銀色だが、私が撮影した画像ではほのかに黄色く見える。新品が温かい色合いになるのにそう時間はかからないであろうことがうかがえる。
このような時計について、ほかになにか言葉にすることがあるだろうか。グルーベル・フォルセイの工房に足を運び、組み立てるために彼らがどのような作業をしているのか見てみたいと思わせるような時計だ。ハンドメイド1は実際に見ることはできなかったので、もしハンドメイド2がそれに触れる最も近い機会だとしたらそれだけでも十分ありがたいと思う。
グルーベル・フォルセイがこの時計を顧客に見せはじめてからしばらく経つ。年に2~3本しかつくれないため、すでに注文が殺到している。先述したように、すでに2025年と2026年の生産分は売り切れているが、62万スイスフラン(日本円で約1億700万円)の資金を使いたくてウズウズしているようであれば、2027年の割り当て分の入手に挑戦することは可能だ。この価格帯で探しているなら、2年待つ価値は十分にある時計と言えそうだ。
グルーベル・フォルセイ ハンドメイド2。直径40.9mm、厚さ12.8mmの18Kホワイトゴールドケース、30m防水。ハンドフロスト仕上げのジャーマンシルバー文字盤にグラン・フー・エナメルのインダイヤル、ハンドカット&ハンドブルー仕上げの青焼き針(時・分・秒表示、パワーリザーブ)。全工程においてひとりの時計師が伝統的な技法を用いた完全ハンドメイドのムーブメント(ジュエルを除く)。パワーリザーブ約72時間。年に2~3本のみ製造。価格は62万スイスフラン(日本円で約1億700万円)