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どうしても思い出せないのですが、私はこれまでにアルピニストを所有したことがあったでしょうか。おそらく、しばらくのあいだは持っていたと思います。少なくとも、しばらく借りていたことは覚えています。しかし(2000年代後半に時計の世界へ足を踏み入れた)私と同世代の時計好きの多くにとってそうであったほど、アルピニストは私にとって特別な存在ではありませんでした。もし所有していたとしても、それは短いあいだ好奇心を満たすための、少し付き合ってみた程度だったのでしょう。その後、私は結局SKXへと戻っていきました(こちらはこれまでに何本も所有してきた時計です)。
それでもアルピニスト、なかでもグリーンダイヤル、コンパスベゼル、ゴールドの数字が特徴的なSARB017は、私が時計を集め、学び始めたころには、これ以上ないほど身近な存在でした。フォーラムのリストショットを投稿するスレッドでは毎日のようにその姿を見かけたし、友人のひとりの手首にも突然アルピニストが現れたときには、その友人もいよいよ本格的に時計にのめり込み始めたのだと感じたものです。
アルピニストが時計界に与えた影響を数値で示すのは難しいです。しかし、ひとつ言えることがあります。現在、時計愛好家が最も多く集めているセイコーのモデルがアルピニストかといえば、そうではないかもしれません。ですがダイバーズウォッチを除いて考えれば、少なくともそれに近い存在なのではないかと思います。そしてセイコーは時計好きになるための登竜門だった時代において、アルピニストは確かに重要な1本だったのです。
そして、やがて姿を消しました。
まあ、これは少し大げさな言い方かもしれません。アルピニストには長い歴史があり、1990年代から2000年代にかけてセイコーが発表した多くのモデルと同じように、最終的には生産終了となりました。そして数年後には、よく似た外観でありながら、少しだけ異なるモデルに置き換えられました。今回取り上げるのは、そのさらに先にあるモデル。ずっと前から存在していてもおかしくないように感じられる時計です。
確かに、それはこれまでもそうだったからというのも少しはあります。セイコー アルピニストは発売から約3年が経ちましたが、大きな制約がありました。私たちが皆待ち望んでいたクラシックなゴールド×グリーンのカラーリングは日本国内限定モデルだったのです。そのため北米市場では入手がきわめて困難でした。しかし、この夏から状況が変わり、セイコー アルピニスト GMT HBC007がついにアメリカで正式に購入できるようになりました。そこで、これ以上ないほどいいタイミングだと思い、しばらくこの時計と向き合ってみることにしました。
一見すると、本作は見慣れた時計に感じられます(単に数年前から存在するモデルだから、という意味ではありません)。SARB017の要素(例えばカテドラル針や回転式のインナーコンパスベゼルなど)をひと通り受け継いでいるからです。しかし、いくつかの要素には少し手が加えられており、より洗練された印象に仕上げられています。例えばゴールドのアラビア数字は健在ですが、偶数の数字をすべてフルで配置するのではなく、3、6、9、12時位置だけに絞っていることが挙げられるでしょう。そのためサイクロップレンズは廃され、日付表示も3時位置から4時30分位置へと移されました。この変更については、異論もあるでしょう。とはいえ私は今回に限っていえば、明らかな改善だと思います。セイコーは日付ディスクの印刷にも手を加えているので、意図的な変更だと感じます。
これらを合わせて考えると、どれも小さな変更に見えるかもしれませんが、実は重要な意味を持っています。というのも、旅や冒険をテーマに掲げる時計にとって、大きな付加価値となるGMT機能を搭載するためのスペースを確保しているからです。そのGMT機能を担うのが、セイコーの6R54ムーブメント。ここ数年、セイコーが幅広いモデルに搭載してきた、コーラーGMT仕様のムーブメントです。決して時計界を揺るがすようなムーブメントではありませんが、24時間固定スケールとの組み合わせで考えれば、先ほども述べたように、歓迎すべき機能追加でしょう。
とはいえ、価格について触れておく価値はあるでしょう。HBC007の価格は1150ドル(約18万2000円)。現在のセイコーの価格帯を考えれば、決して無理のある価格設定ではないと思います。現行の時・日付表示モデルが900ドル(約14万2000円)であることを考えても、そこから大きく進化したこのモデルとしては納得できます。しかし、それでも人によっては価格の上昇が気になるでしょう。きっとこの価格帯のGMTなら、すべて“フライヤーGMT”であるべきだと主張する人も少なくないと思います。さらに、日差-15~+25秒という6R54の公称精度について不満を持つ人もかなりいるはずです。
こうした意見にも、もちろん理解できるところはあります。特にアルピニストを、フライヤーGMTのミヨタ9075を搭載した、手ごろな価格帯のGMTが数多く登場している現状と比べるとなおさらです。私が本当に優れた1本だと思っているトラスカ ベンチャラー GMT(心配しなくても、いずれちゃんと取り上げるつもりです)から、実用性を重視したボールド オデッセイ フリーダイバー、あるいはきわめて人気の高いジャック・メイソン ストラト ライナーまで、9075がここまで広く採用されるようになったのを見るのは興味深いです。しかしひとつ覚えておきたいのは、このムーブメントもフライヤーGMTらしく時針を単独でジャンプさせられる一方、メーカー公称の精度は日差-10~+30秒にとどまるということです。少なくとも精度という点では、6R54から大きく改善されているわけではありません。
新作アルピニストの直径は39.5mmで、クラシックなアルピニストと同じサイズです。とはいえ実際に着けてみると、同じサイズには感じられません。時・日付表示モデルに比べてGMTモデルのほうが厚いだけでなく(この時計は超硬質コーティングを施したステンレススティール製ケースで厚さ13.6mm、ラグ・トゥ・ラグは46.4mmあります)、全体のプロポーションもわずかに見直されており、ダイヤルが少し強調されたような印象になっています。この変更は時計によくなじんでいて、全体として見ると、兄弟モデルよりもアルピニストをずっと現代的な印象に仕上げています。
太陽が顔を出す前と…
太陽が顔を出したあと。
このグリーンダイヤルも実に見事です。色味がとても深いため、光の当たり方によってはほとんどグリーンに見えないほどですが、光を受けると一気に表情が変わります(上の写真を見ても、そのコントラストがわかるでしょう)。そしてこれも言っておきたいのですが、ダイヤルの反射率はきわめて高く、プレス画像でさえ、針の裏側がダイヤルに映り込んでいるのがわかるほどです。ちょっとした視覚的なトリックともいえる見事な仕上がりで、時計全体をほんの少し特別なものに感じさせています。セイコーのルミブライトもかなり大胆に使われていますが、セイコーのほかのモデルと比べれば、いわゆる“夜光モンスター”と呼べるほどではありません。
多くの人にとって驚きではないだろうが、この時計に付属しているストラップはきわめて期待外れです。実機レビューするために時計が届いた瞬間、私はストラップをいくつかのファブリックストラップに交換し、それ以来、元に戻していません。
では結局のところ、この時計をどう捉えればいいのでしょうか。突き詰めてしまえば、これはよく知られ、愛され、長く親しまれてきたセイコーに、GMT機能を加えた時計です。私が高校生で時計を集め始めたころだったら、きっと夢中になっていたでしょう。しかし一度手放してしまった今の私が、近いうちにもう一度手に取ることはおそらくないと思います。だからといって、この時計を無視しているわけではありません。なぜならこの新しいアルピニストは、現代の新しいコレクターにとって、私の世代のコレクターにとってのSARB017のような存在になる可能性を秘めていると根本的に信じているからです。言ってみれば、多くのコレクターを生み出す時計とでもいうべき存在です。別の言い方をすれば、この時計がセイコーの日本国内限定カタログという枠を飛び出したことを、私は心からうれしく思っています。2026年のセイコー アルピニスト HBC007は、今の時代に必要とされるものをきちんと備えているだけでなく、これまでで最高のアルピニストになるかもしれません。
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