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Letters To The Editor なぜロレックスは世界三大時計ブランドに入らないのか?

だって、そうなったら「ビッグ4」になってしまうから。冗談です。続けて読んで欲しい。

※本記事は2017年7月に執筆された本国版の翻訳です 。 

 時計の世界では、何度となく浮上しながらも、常に論争を巻き起こし得る話題がいくつかある。日付表示もそうした話題のひとつだし、限定モデルの話題も然りだ。そしてもちろん、ロレックスについては、ほとんどどんなことでも話題になる。普段なら礼儀正しい愛好家の間で痛烈なやりとりが交わされることも、珍しいことではない。そして、そうした話題がもうひとつある。オーデマ ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタン、パテック フィリップという3つのスイス時計メーカーが「ビッグ3」と呼ばれることに関する疑問である(この3社については、「世界三大ブランド(Holy Trinity)」と呼んでも結構。そう呼んでいる人もいるのだから)。

rolex batman gmt master

 「世界三大ブランド」という文脈において、湧き上がる疑問は一つや二つではないかもしれない。最近では、この時点でA.ランゲ&ゾーネを加えた「ビッグ4」が存在しても良いのではないか、と問う人も出てきている。(過剰な親心からではないが、自分は「ビッグ3」や「世界三大ブランド」という言葉が最初に使われたのはどこだったか誰からも聞かれたことがないので、これについては幸いだと言っていいかもしれない。タイムゾーン? そんなもの実際に知っている人なんているのだろうか? 私は知らない)

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 ともかく、最近フェイスブックを通して読者の方から「なぜロレックスはこのエリート集団に入っていないのか」という質問をいただいた。質問は(軽く編集しているが)、以下のようなものだった。

 「私はしがない時計愛好家で、時計についての知識の方が実際の腕時計のコレクションをはるかに凌いでいます。私の当面の目標は、オーデマ ピゲのロイヤル オークを手に入れることです。ですが最近、私はロレックスについてちょっと深く調べており、見つけられる限りの全てのものを読みあさって、大変多くのことを学びました。ロレックスの工場見学に関するあなたの記事にも、とても興味をもちました。簡潔に質問を申し上げますと、ロレックスがAP、パテック、ヴァシュロンから成る「世界三大ブランド」と同等の敬意を払われていないのは、なぜなのでしょうか? 私はサブマリーナーとヨットマスターの美しさを愛していますが、素晴らしい時計は欲しいにしても、あまり評価の高くないものは所有したくありません。自分にとってはこれが人生初の大きな買い物になるからです。何かご意見やご指導をいただければ幸いです。ありがとう」

Henry Graves Patek "Supercomplication."

パテック フィリップのヘンリー・グレーブス "スーパーコンプリケーション"。

 ビッグ3/世界三大ブランドがなぜそう呼ばれるかというと、歴史的な理由があるのは確かだ。ただ、その理由を理解するには、少し長い目で見る必要がある。世界三大時計ブランドにはいくつか共通点があるが、中でも、2つの点が際立っていると言える。

 まず、他のほとんどの現代ブランドに比べ、ビッグ3はどれも歴史が長く、しかも創業以来ずっと創業を続けてきたという点(例えば、私が尊敬してやまないランゲは、第二次世界大戦後にグラスヒュッテの時計職人が集産化された後消滅し、独立したブランドとして復活できたのは、ドイツが統一してからようやくのことだった)。

Vacheron Constantin ref. 57260

ヴァシュロン・コンスタンタンのRef.57260。史上最も複雑な時計である。

 第二に、この3社はどれも、基本的に高級品以外は作ったことがない。これが厳密に正しいかどうかはブランドによって多少異なるが、概してビッグ3の時計はどれも、伝統的な仕上げ技法のあらゆるレパートリーを用いて高度に手仕上げされたムーブメントを搭載している。そしてこれが、伝統的に高級時計の付加価値の90%を占めてきたのである。部品からケース、文字盤、針に至るまで、素材には最高品質の素材しか使っていないし、三大ブランドには当然のことながら超高級時計を製造できる技術能力もある(ただし、ビッグ3の全てがムーブメントや複雑機構を必ずしも全部自社で製造していたわけではない。現代になって「自社製」へのこだわりが強調されるようになったが、歴史的に見ると、自社で全てを作ることは、品質の重要な基準でも、愛好家の懸念材料でもなかった)。

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 ロレックス以外の例として、ジャガー・ルクルトの例を見てみよう。「グランドメゾン」と呼ばれることもあるブランドである。同社の歴史は非常に長いのだが、その歴史の大部分が、完成品の時計を作るというより、ムーブメントを供給する会社だった。「単なる」ムーブメント供給メーカーと言いたくなるかもしれないが、ジャガー・ルクルトはもちろん、スイス時計史上最も複雑かつ超薄型のムーブメントを作ったメーカーでもあるのだ。ビッグ3の全社がこの会社のキャリバーを使用していたし、他の多くの高級時計メーカーも同様だった(カルティエもその一例)。だが、ジャガー・ルクルトの歴史を通して、本質的に完成品の時計を作るマニュファクチュールというよりは、サプライヤーとしての側面が強かったことがこのブランドがいわゆる「世界三大ブランド」のレベルに達しているとされなかった理由ではないかと考えられる。

Rolex'Bao Dai' ref. 6062

ロレックス 'バオダイ 'Ref. 6062:シンプルなカレンダー文字盤にムーンフェイズが搭載された500万ドルのモデル。

 ここで、ロレックスの話に移ろう。ロレックスが高級時計マニュファクチュールだったことはこれまで一度もないし、そうなろうとしたこともない。ハンス・ウィルスドルフによって設立されて以来、ロレックスは基本的に、非常に高い品質基準において堅牢で信頼性の高い時計を作ることを生業としてきたものの、高級品の仕上げ基準に達するほどの仕上げを施すようなことはしていない。また、ロレックスは、珍品のラトラパンテ・クロノグラフを除いては、高度な複雑機構を製造したことも販売したこともない。その代わりにロレックスは、時刻とカレンダーを表示するという腕時計の基本的な機能の確実性と精度を少しずつ向上させることに、力を注いできたのである。

Rolex Daytona

 ただ、だからといってロレックスがブランドとして尊敬されていないということではない。実際、ムーブメントの信頼性や製造品質、素材の基本的な品質、確実性と機能の実質的な向上という点で、ロレックスは時計製造業界で最も尊敬されているブランドのひとつであり、この会社の時計は、時計づくりを根底から理解している多くの人々から愛用されている。

 クラシックで美しい外観を備え、用途が広く、細部へのこだわりと一貫した品質で作られていることは、本当に賞賛に値するといえる。また、歴史的には正当性があるものの、まじめな分類というよりは愛好家の気軽な経験則に過ぎないグループに属していないというだけで、ロレックス購入を躊躇する理由とはならない。(実際、毎年何十万人という人がそうしているのだから。つまり、ロレックスを買っているわけだ)。「世界三大ブランド」は、「自社製」といった言葉と同じように、一見すると意味がありそうなキャッチフレーズだが、実際には、学べば学ぶほど意味も主張もほとんどない言葉なのだ。それに、例によって、現実の方がずっと面白いのである。