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POINT/COUNTERPOINT 不況から見事に復活した時計デザイン

我々の現在の選択肢は、以前と比べてとてもエキサイティングなものとなっている。

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2008年の金融危機が我々の時計観にどのような影響を与えたのか、そして時計のデザインにどのような影響を与えたのか、まったく異なる意見を持つ2人のHODINKEEライターが考察する。ジャック・フォースターの記事「時計のデザインが不況から立ち直っていない理由」では、不況の影響で保守的でノスタルジーな傾向が生まれ、それが今も続いていると主張している。一方、コール・ペニントンは、デザインの革新性がかつてないほど高まっているという見解を示してた。読者の皆さんには是非両記事をお読みいただき、コメント欄でご意見をお聞かせ願いたい。

2007年から2009年にかけての不況は、時計産業の成長を阻み、デザインの革新を妨げ、消費の中心がアメリカやヨーロッパからアジア、特に大中華圏に移る原因となったことは間違いない。問題は、我々が完全に回復したかどうかということだ。

 見渡してみてほしい。時計業界は活況を呈している。ステンレススティール製のロレックスは、小売店では買えないほどだ。限定モデルが販売されると数分、時には数秒でなくなってしまう。ヴィンテージの価格は天井しらずの急上昇だ。

 いまや時計はメインストリームの仲間入りをした。これまで時計に興味がなかった友人でも、少なくとも今は知りたいと思っているだろう。歌の歌詞にも時計が登場している。時計のクッキーを焼く人も出てきたし、投資対象としても認知されている。HODINKEEのトラフィック統計によると、かつてないほど多くの人が時計を気にかけているか、少なくとも時計についての記事を読んでいると思われるのだ。

 ビジネスの面では不況から立ち直ったことは誰も否定しないだろう。しかし、今日はデザインの話だ。デザインもまた、財政の緊縮による自粛から立ち直っているのだろうか?

 私は立ち直っていると思う。

 現在では、真面目なデザインをモットーとするような高級時計メーカーが、再び冒険するようになった。少し前にヴァシュロン・コンスタンタンは、写真家コリー・リチャーズのエベレスト登頂のためにオーヴァーシーズ デュアルタイムのプロトタイプを発表した。この時計には、通常はツールウォッチに使われるチタンが使用されている。グランドセイコーは、かつては知る人ぞ知る日本のドメスティックブランドだったが、今では手彫りのケースを備えたSBGZ007のように880万円(税込)もの価格で販売されるほどの広がりを見せている。オーデマ ピゲはブラックパンサー・ウォッチを発表。2009年と2010年に発売されたロイヤルオーク オフショアの限定モデルからは、かなりかけ離れたものだった。

 氷河期のようなペースでしか製品をアップデートしないロレックスでさえ、最近ラインナップに大量の色を注入した(「ロレックス オイスター パーペチュアル 36にカラフルな新文字盤登場」)。現代のオイスター パーペチュアルは、かつてのデイデイトのステラダイヤルを踏襲しながらも、先進的な考えのもと作られている。また、5種類のサイズ(28、31、34、36、41mm)展開も先進的だ。そして、挑発的なツートンカラーのエクスプローラー。また、新しいデイトジャスト 36のヤシの木モチーフはどうだろう。ケースサイズの1mmの増減が大問題とされる企業としては、かなり大胆になっている。

 独立系のメーカーはさらにワイルドだ。MB&Fは2007年に設立されたが、まさに不況の始まりだった。しかし、マックス・ブッサー氏と彼の天才的な仲間たちは生き残り、成功を収めた。LM101は、2021年にまばゆいばかりのカラーで再登場したほどだ(「MB&F LM101の新たな3バージョンについて」)。 MB&Fは、"ワイルドな実験 "のツマミをレベル11まで上げている。マックスの作品は、不況の影響で時計メーカーが怠けていると思われることへの解毒剤だ。この分野では最も想像力に富んだ時計のひとつなのである。「レガシー・マシン フライングT」の素晴らしいデザインは、レディスウォッチだからといって小型にしたりピンク色にしたりしないことを証明している(「MB&F レガシー・マシン フライングT、ブランド初の女性のための"マシン"」)。そして、この6桁ドルの時計は毎回完売しているのだ。

 オックス・ウント・ユニオールは、常に時計の文字盤の読み取り方を再解釈している。最新作のカレンダリオ・チェンタンニにおける100年モジュールは、最小限の表示でミニマリズムによる革新性を証明している。同様に、ベルギーの時計メーカーであるレッセンスは、「レッセンス オービタル コンベックス システム」と呼ばれる、文字盤周囲を回転する一連のサテライトダイヤルで時間の経過を描くユニークな方法で話題を呼んだ。

 ビジネス手法も進化している。過去10年間、時計業界は明らかにストリートウェアの業界を参考にしてきた。シュプリームのようなブランドには"ドロップカルチャー "と呼ばれる文化は重要なものだが、時計の世界でも同じような手法が使われている。ソーシャルメディアのおかげで、このビジネスモデルが普及した。ある商品を中心としたコンテンツが作られ、ある日時に限定商品が発売され、すぐに売り切れてしまい、その後二度と作られなくなる。時計の世界では限定品は珍しくないが、時計ブランドが時計を売るためにこの形式を採用するのは新しい現象だ。不況になってからは、それが業界のスタンダードになっている。多くの購入希望者を怒らせてしまうかもしれないが、これは時計業界が時代に合わせて成長し、変化していることを示している。「HODINKEE × タグ・ホイヤー限定モデル スキッパレラ」(上写真左)を覚えているだろうか? あれも新しい現象だ。コミュニティ(これもその一つ)や個人が、筋金入りの愛好家コミュニティと、時に「時計マニア」の世界とはちょっと距離のあるブランドとのあいだのフィルターとして機能しているのだ。
 エリック・ウィンド氏は、最近のローイングブレザーズのセイコー5限定モデルの誕生を後押しした。同氏が関わっていなければ、セイコーはラリーベゼルを見落としていたかもしれない。アリエル・アダムス氏が2019年にバハマに旅行した際に見た海の色にインスパイアされたゾディアックの限定版もあった。限定版の時計を実現するのは、かつてないほど簡単になっている。素晴らしいものもあれば、単に標準生産モデルのもうひとつの選択肢にすぎない場合もある。

 マイクロブランドのミンの台頭は、不況後のこの時代に生まれたイノベーションの高い水準を示している。ミン・ティエン氏は、まったく新しいデザイン言語を生み出しただけでなく、典型的なFOMOに基づく数量限定のマーケティング戦略を覆すような発売方法を試みた。17.09ブルーを注文した顧客は、10分間の枠で、時計の数量を制限されずに注文できたのだ。決められた時間内に注文すれば、確実に時計が手に入るというわけである。クロノトウキョウも同じ手法を採用した。シンプルなアイデアで、必ずしも革新的ではないが、ドロップカルチャーが浸透しているなかでの実験的な試みで、12年前には考えられなかったことだ。ビジネスモデルが進化するに伴い、デザインも確実に進化してきた。もし私が何も知らなければ、ミンの時計が2050年からのものだと言われても信じてしまっただろう。

 クォーツ危機が起こったとき、多くのメーカーが倒産した。しかし、機械式時計の業界全体は生き残った。2008年の経済危機は、適応できなかった産業の衰退を加速させることとなり、2010年に倒産したブロックバスター ビデオがその典型例だろう。その一方で、進化するコマースモデルや野心的なデザインは、時計産業が確実に成長していることを示す確かな指標になっているのだ。