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Hands-On チューダーがレンジャー Ref.79950でフィールドウォッチ界に復帰

しっかりとしたサイズ感、優れたスペック、そして適正な価格。これぞ、フィールドウォッチの真骨頂!


Photos by James Stacey

7月も半ばを過ぎたばかりだが、2022年はすでにフィールドウォッチの当たり年になりつつある。視認性が高く、機能性重視の軍仕様の腕時計は、すでに100年前から存在していたが、最近は何かと脚光を浴びている。2017年の発売以来、勢いが衰えないハミルトン カーキ フィールド メカニカルをご存じの方、愛用している方、もしかしたらお持ちの方も多いかもしれない。そして、2021年に36mmへ回帰したロレックスのエクスプローラー、それに続く今年のWatches & Wondersでは、チューダーのブラックベイ プロパテック フィリップのカラトラバ Ref.5226G-001の両方がリリースされている。こうしてみると、ストレートでさりげなくも実力を備えたスティール製スポーツウォッチが、今まさに旬を迎えていることがわかる。

tudor ranger

 英国海軍による北グリーンランド遠征探検から70周年を記念して、チューダーはレンジャーを新たに発表した。この新しいレンジャー Ref.79950は、チューダーの新しい領域を切り開くものではないが、シンプルでストレート、そして限りなく頑丈なスティール製スポーツウォッチというジャンルを再構築した。まさに愛好家垂涎の、価格競争力があり、ヴィンテージの美学を備えた、注目のフィールドウォッチだ。

 北グリーンランド探検については、マーク・カウズラリッチ(Mark Kauzlarich)がレンジャーの素晴らしい記事で取り上げているし、僕の友人ジェイソン・ヒートン(Jason Heaton)も、の探検に帯同して帰還した唯一現存する時計についての素敵な記事を書いているので、ここではあえて蒸し返さないことにする。その時計は、少なくとも精神的支柱として、2022年新作のレンジャーにインスピレーションを与えたとだけ言っていこう。

photo from the british north greenland expedition

英国海軍北グリーンランド探検隊は、軍民共同ミッションだった(ジェイソン・ヒートン執筆記事より)。

 僕が“精神的支柱”と表現したのは、この新しいレンジャーが、オリジナルの34mm径のチューダー オイスタープリンス Ref.7808と外観がかけ離れていることにある。Ref.7808は、ホワイトダイヤルにアプライドマーカーとスピアーティップ(槍先)針が付いた、かわいらしい小型のスティール製スポーツウォッチだ。一方、新しいRef.79950 レンジャーは2014年に発売され、2020年に製造中止となった先代モデル、Ref.79910 ヘリテージ レンジャーを忠実に再現している。かつてのオイスタープリンスをもっと直接的に復刻することを望んでいた人もいると思うが、2021年に生産終了したチューダー ノースフラッグも英国海軍の北グリーンランド探検隊をモチーフにしていることを忘れてはいけない。この2本のうち、レンジャー、さらに言えば新型レンジャーは、探検で着用された時計のエスプリを最も忠実に踏襲しているといえるだろう。しかし、僕は純粋に時計としてのRef.79950に多くの関心を寄せているため、そうした逸話に囚われることなく評価することができた。

 Ref.79950 レンジャーは厚さ12mm、ラグからラグまでの縦幅47mm、サテン仕上げのベゼル、20mmのラグ幅、サファイアクリスタル風防、スティール製ケースバックが特徴の39mmサイズのSS製フィールドウォッチだ。そのダイヤルはマットブラックで、非常に読みやすい特大サイズのペイントされたアラビア数字とマーカーに囲まれた最小限のテキスト表記を備えている。デイト表示はなく、夜光付きの3針、そしてねじ込み式リューズにより100mの防水性を確保している。フィールドウォッチ、そしてその伝説的な兄弟モデルであるロレックスのエクスプローラーと同様、このモデルは日常的に何でもできる、ミッドセンチュリーのスポーツウォッチの現代的なモデルといえる。それ以上でも、それ以下でもない。

a ranger 79910 from 2014

2014年モデル。チューダー ヘリテージ レンジャー Ref.77910

 ロレックスのエクスプローラーは1953年、チューダーはロレックスの兄弟ブランドとしてより親しみやすくデザインされたこともあって、オイスター プリンス レンジャーは、その系譜を60年代半ばにさかのぼることができる。当時のモデルこそが、Ref.79910と79950の両方の現代版レンジャーにインスピレーションをダイレクトに与えた。

 2014年のRef.79910は、41mmのSSケース、薄いSSベゼル、突き出たリューズ、ダイヤルのチューダーローズ、そして完全に赤い秒針という、愛すべき変わり種であったが、新しいRef.79950はやや“直球勝負”で、本当にヴィンテージレンジャーをやや大きくしたような外観となっている。Ref.7956や7995の初期モデルからRef.90200の後期モデルまで、チューダーがより現代的なレンジャーを作ろうとした当時の方向性を垣間見ることができる。

tudor ranger 79950

 僕は先代のRef.79910は発売当時から気に入っていたし、チューダーのコレクターのあいだでは根強い人気がある(彼らはあのバラが大好きだ)が、Ref.79950はデザイン面、工作精度、マーケティング面で一歩抜きん出ている。

 デザインは読みやすく、さりげなく、繊細で、実にわかりやすい(本当だ。実際、このRef.90200を参考にご覧いただきたい)。新しいレンジャーは、ケース幅が2mm小さくなっただけでなく、ダイヤルとベゼルのプロポーションが変わり、バランスがよくなり、腕につけたときにダイヤルが間伸びした感じがなくなった。しかし、そのデザインの原動力は明らかで、ペイントされた大きな数字が、よく似たブラックベイ36や41といったラインとはまったく異なるヴィンテージの魅力を表現している。

tudor ranger 79950

 個人的にはブラッグベイ フィフティ-エイトや新しいプロにもっとお金をかけたいと思うが、チューダーのデザイナーが新しいレンジャーで取った方向は間違いではないと思う。僕の目にはすでに完成されたデザインに手を加えたように見える。そして新しいブレスレット、ムーブメント、価格にも触れねばなるまい。

 フルSS製ブレスレットで34万7600円(税込)の価格設定は、オリジナルのレンジャーのコストよりもざっと1万円以上高くなったが、過去8年間の市場全体および特定分野の価格上昇を経たにもかかわらず、Ref.79950 レンジャーはブラックベイ フィフティ-エイトと同じ自動巻きムーブメント、Cal.MT5402を搭載している。このムーブメントはケニッシ社とのパートナーシップによって開発されたもので、70時間のパワーリザーブ、2万8800振動/時のハイビート、手巻き機能付き自動巻き、COSC認定、そして5年保証という安心感を得ることができるのだ。先代のRef.79910がETA 2824ベースのムーブメントを搭載して2950ドル(2014年当時の為替で約31万円)だったことを考えると、Ref.79950は相対的にわずかなコスト増で着実にステップアップしているのだ。

tudor ranger 79950

 新型レンジャーのSS無垢のエンドリンクと、チューダー独自の工具不要のT-Fit微調整機構を備えたSSブレスレットについて話をしよう。言い忘れたが、今回フェイクリベットはない。僕はリベットを気にしたことはなかったが、30本ほどある最近のチューダーに関する自分のストーリーのコメントを読んでみて、読者の皆さんの大多数が(実に)リベット嫌いだと知った。その意味では、新しいブレスレットは安全圏だ。もうリベットで気を病むことはないだろう。

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 外観上、リベットは小さな変化だが、ケースにフィットしたエンドリンクは、Ref.79910のストレートバーのエンドリンクとは一線を画している。T-Fitシステム(多くの人がブラックベイ フィフティ-エイトに流用できること、あるいは正式に専用部品としてリリースされることを望んでいるだろう)を加えことで、多くの人を魅了するパッケージが完成したのだ。僕はブレスレット派ではないが、ファブリック製やラバーとレザーのハイブリッドストラップに3万円強追加すればよいだけなので、考えるまでもないだろう。とはいえ、チューダーよ、なぜ側面にラグ穴を付けなかったのだ?

tudor ranger 79950

 フルコマ状態のブレスレットを装着した時計の総重量は144g(そう、計量器をゼロにして3回測った)、レンジャーは基本的にフィフティ-エイトと同じサイズに感じる。存在感という点では、ダイヤルを前面に出したデザインは腕につけると少し大きく見えるが(特にダイヤルのネガティブスペース)、僕の7インチ(17.8cm)の腕周りには大きすぎる(あるいはただ大きい)とはまったく感じなかった。ケースは厚みが抑えられており、感触もよく、実際に見ると、ベゼルのエッジのヘアラインポリッシュが、非常にマットなその他の仕上げに僅かな輝きを添えている。

 僕は基本的に新しいレンジャーが好きだが、ブラックベイコレクションと同じように、白い夜光塗料を使用したバージョン、白いダイヤル、あるいは34〜36mm範囲内の小径モデル(同じムーブメントが収まるかは不確かだが)など、チューダーがこのデザインを基調に派生モデルをリリースするのを見てみたいと思っている。また、ラグに穴を開けるのも、昔ながらの方法で片側だけ穴を開けるのも希望したい。それこそが僕がまさに求めているものだ。

a rolex explorer II 16570 and the Ranger 79950

ロレックス エクスプローラーII Ref.16570(左)と新作レンジャー Ref.77950(右)。

 新型レンジャーは先代とほぼ同じだが、全体の雰囲気をよりオーソドックスに、オイスタープリンスやエクスプローラーの系譜をより削ぎ落とし、そしてフィールドウォッチをこれまで以上にクラシックにすることに重点を置いていると感じた。チューダーはよくやったと思う。しかし、カジュアルでオーソドックスなものを作ったことで、当ブランドはますます競争の激しいレッドオーシャンへと足を踏み入れてしまった。

tudor ranger 79950
フィールドでの競争

 僕が次に購入する時計としてレンジャーを検討するとしたら、同時にブラックベイ フィフティ-エイトまたはおそらくブラックベイ プロを比較検討すると思うが、それらはそれぞれ7万円と11万円、価格が跳ね上がる。また、僕は愛らしいブラックベイ 36(ブルーダイヤルが好みだ)にも目移りするかもしれないが、レンジャーとまったく同じ価格でありながら、ETAを採用しているという事実は、僕にとって3mmが重要であるかどうか熟考させるだろう。僕は自社製(もしくはそれに類する)ムーブメントの採用を必須と感じていないと公言してきたが、COSCとよりよいスペックで同じ金額というのでは、比較にならないだろう。

 チューダー以外の時計メーカーに目を向けると、価格だけであれば好きなブランドを選ぶことができるが、レンジャーと直接競合するような時計を見つけるのはちょっと難しい。確かに14万円未満の時計に絞れば、ハミルトンの カーキフィールド メカニカルや、セイコーのSBDC147(SPB243)またはSBDC115(SPB155)、あるいはジンの556などが健闘するだろう。しかし、もし本当に欲しい時計がレンジャーなら、僕が今列挙した時計のいずれかが現実的な代替手段を表すとは思わない。

tudor ranger 79950

 同様に、もしあなたが本当に欲しい時計が、現行のエクスプローラー Ref.124270に79万3100円(税込定価)を投じることだとしたら(入手可能性という腹立たしい問題はさておき)、より大きく、より歴史的に重みのあるレンジャーが、痒いところに手が届くようなモデルには思えない。僕は40mm径のオメガ レイルマスターや36mm径のIWC マークXVIIIまたはスピットファイアと比較する議論を目にしたが、今度は5000ドル後半の領域となるため、同価格帯を40%超過する。もちろん、それらはフィールドウォッチ(または十分に近い)だが、それは直接対決とはほど遠く感じられるのだ。

 もし、僕が大事な点を踏み外しているなら、コメントで教えてほしい。しかし、僕たちは±1000ドル以内の価格帯で考慮する必要がないだろうか? そのことを念頭に置くと、僕は数モデルがある程度納得のいく比較になると考えている。

a titanium longines Spirit

 まず、ロンジン スピリット L3.810.1.53.6 40mm チタンケースは 、厚さ12.2mmと40万9200円(税込)の価格を提案するモデルだ。これには専用ブレスレットが付属するが、軽量化のためにラグとラグの縦幅が49mmもあるらしく、ラグ幅は一般的ではない21mmである。スピリット チタンはスウォッチが供給するL888.4を搭載し、72時間のパワーリザーブ、2万5200振動/時の振動数、COSC認定のムーブメントを備えている。ブレスレットを交換するつもりがなければ、この2本はまったく異なる時計なので、選択は簡単なはずだ。NATOストラップ好き(僕のような)にとって、スピリット チタンの確かな価値と格好よさを凌駕するレンジャーを選ぶことは難しくないだろう。

A seiko SJE085

 次に、我々は11.1mmの厚さと44mmのラグからラグの縦幅(Monochromeの僕らの仲間からの情報によると)、36.6mmケースというヴィンテージを彷彿とさせるセイコープロスペックス アルピニスト 復刻デザイン SBEN001を紹介したい。Cal.6L35のパワーリザーブは45時間と短めだが、200mの防水性能を備えている(この点は変わらない)。価格は33万円(税込)(HODINKEEショップでも購入可能)で、デイト表示がないこととCOSCの精度だけを考えると、僕はやはりレンジャーに軍配が上がると思う。とはいえ、セイコーは美しい選択肢であり、間違いなくアンダー 39mmを好む人にとってはより親しみやすいサイズだろう。

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 最後に、もうひとつの選択肢として、オリス ビッグクラウン・ポインターデイト(40mm×11.2mm、こちらもShopで購入可能だ)が思い浮かぶが、これはムーブメントの選択によってふたつの価格帯に分かれる。フィールドウォッチではないものの、ポインターデイトにはヴィンテージウォッチに通じる雰囲気があり、サイズ感も似ていると思う。

an oris pointer date 403

 確かに、レンジャーはオリスのトラディショナルな外観に対して、よりミリタリーな雰囲気を持っているが、僕はこの2本が比較されるのは容易に想像でき、セリタ製のビッグクラウン・ポインターデイトはブレスレット仕様が23万1000円(税込)から展開されている。また、ダイヤルカラーも選ぶことが可能だ。レンジャーとの価格差は、50mの防水性、38時間のパワーリザーブ、2万8800振動/時の振動数、そしてCOSC認定ではないなど、レンジャーから一歩引いたスペックにある。

 もしステップアップがお望みであれば、オリスはブルーダイヤルのポインターデイト Cal.403を自社製造しており、120時間のパワーリザーブと2万8800振動/時のハイビートをムーブメントを38mmのSSケースに収め、12mmの厚さと50mの防水性を実現している。もちろん、すべてのパッケージに10年保証がついているのは言うまでもない。価格は42万9000円(税込)で、オリスがより好みに合うのなら、新しいレンジャーと同じように価格に見合う以上の価値を提供することだろう。

 僕は競合モデルを列挙するのが好きだが、僕の視点にも欠点がある。もし僕がこの競合モデルを考慮する際に、何か明らかな(あるいはニッチな)ものを見逃していたら教えてほしい。

clasp of the ranger
lume of the ranger
tudor ranger 79950

 フィールドウォッチに一時の流行があったとしても、そのコンセプトは膨大な量の多様性と価値を提供し、レンジャーはその価値をさらに高めるだけであるというのが、シンプルな事実だ。僕とは違ってダイバーズウォッチの必要性を感じない、あるいは(僕のように)クロノグラフの用途が限られている場合、フィールドウォッチ(2万円ほどのSNZG セイコーから493万9000円のパテック フィリップ カラトラバまで)は、決して場違いではなく、決して邪魔にならない、簡単に着用できるカジュアルウォッチのソリューションかもしれない(僕はフィールドでパテックを着用できるかどうかはわからないが、価値観は人それぞれだ)。

 僕は2014年のレンジャーが好きだった。このレンジャーはもっと好きだ。よく考慮されたサイジング、洗練されたデザイン、改良されたムーブメント、新しいブレスレット、そして明らかに競争力のある価格設定など、新しいレンジャーはほとんどあらゆる尺度で成功を収めている。

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