私が唯一逮捕されたの経験は、明らかに不合理なスピード違反の累積だ。石畳の壁に手錠をかけられ、困惑した警官に私の服装を説明した。その服装とは、しわくちゃのカシミアのタートルネック、ハードカービングのべっ甲眼鏡、ヴィンテージのロレックス デイトジャストだった。彼は私を理解しようとしたが、結局できなかったようだ。自分がカフェレーサーであることは、彼には内緒にしておくことにした。
カフェレーシングとは第2次世界大戦後、世界各地で不満を持つ若者たちが、街乗り用のバイクにレーシングボディを装着し、ハンドルを低くし、エキゾーストパイプをカットしたものだ。騒々しいマシンの上に横向きに寝そべり、カフェを渡り歩くスタイリッシュなキッズたち。ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、パリ、そして最も情熱的だったのは、ファッションが最も重要で、エスプレッソが完璧で、ドゥカティモーターサイクルが文句なしのチャンピオンだったローマ。その地で彼らはレースを繰り広げた。ドゥカティに乗る人々は、ドゥカティスティ、またはドゥカティスタと呼ばれるカフェレーサーのエリート層を形成していた。
1995年にハンター・S・トンプソンが真っ赤なドゥカティ スーパースポーツ900をレビューしたとき、彼はこのようなマシンを評価するには、カフェレーサーの視点からしか実行不可能であることを理解していた。そのため、この夏の初めにブルガリ アルミニウム ドゥカティ 限定モデルが発表されたとき、この時計を見るには、それと同じレンズを通してしかありえないと思った。
トンプソン氏は、「カフェレーシングは、主に好みの問題なんだ。それは、ロースタイル、ハイスピード、純粋なバカバカしさ、そしてカフェライフとその危険な快楽への過度なコミットメントという、独特のミックスであり、原始的なメンタリティ......。僕自身、カフェレーサーである日もある。それは僕が最高に夢中になれるもののひとつなんだ」と語った。
カフェレーサーの考え方を理解することで、ブルガリ アルミニウム ドゥカティ 限定モデルについて多くを知ることができる。それは、パフォーマンスとスタイル、荒々しさとクールさ、情熱と冷静さのバランスをとるという考え方だ。ドゥカティモーターサイクルほど、その微妙なバランスを体現しているものはない。この40mmの自動巻きクロノグラフが、同じように体現しているのは私にとって信じられないことだ。
ブルガリとドゥカティのコラボレーションは、イタリアンデザインという大きなパズルのふたつのピースがようやくかみあったような、しっくりくるものだと感じた。この自然なフィット感は、両ブランド間の相乗効果によるものであり、ブルガリのアルミニウムシリーズと現在のドゥカティモーターサイクルのあいだに共通するマテリアルがもたらす不思議な共通性によるものでもあるのだ。
ドゥカティとブルガリは、第2次世界大戦後、イタリアの工業デザインブームのなかで、カフェレーシングと並んで輝かしい発展を遂げた。1970年代には、“Made In Italy”自体が、卓越したデザインと洗練されたスタイルを示す国際的なブランドとして認知されるようになったのである。
1973年、ドゥカティは、危険なほど速いレーシングバイクをギリギリまでストリート仕様にした傑作、750スーパースポーツを発表。ドゥカティのレーシングバイクをストリート用にアレンジするこの手法は、ドゥカティスタの特別なスタイル、つまりイタリアのステロイドを使ったようなカフェレーシングを定義するようになった。現在、ドゥカティ・パニガーレのレーシングバイクは、カフェレーサーのなかでも最も憧れの存在であり、私も真っ赤なパニガーレV2を所有し乗っていることを誇りに思っている。
ブルガリは1977年に本機の始祖にあたる時計であり、特徴的なブルガリ・ブルガリを発表した。このとき、ブルガリは工業製品のデザインに力を入れ始めた。ブルガリ・ブルガリをデザインしたのは、他ならぬジェラルド・ジェンタその人だ。アルミニウムとラバーを組み合わせた初の腕時計であるブルガリ アルミニウムは、ドゥカティのバイクと同じように、時計学的に見ても不思議な存在だ。どちらも臆することなくイタリアン、スタイリッシュでインダストリアル、そして美学そのものなのだ。
今年初めに発表されたブルガリ アルミニウム ドゥカティ 限定モデルの成功を考えると、イタリアが世界のインダストリアルデザインの中心地となるなかで、ドゥカティとブルガリが並行して進化してきたことの重要性は大げさではないだろう。
現代のドゥカティは、スティール、チタン、アルミニウム、そしてもちろんブラックラバーのコンビネーションで構成されている。これらの素材は、スーパースタイリッシュで軽量、高性能なマシンを形成する。ブルガリ アルミニウムは、この説明をそのまま当てはめることができるのだ。
ハミルトン、スウォッチ、セイコーも長年にわたってアルミニウム製の時計を製造してきたが、このブルガリ クロノグラフのサンドブラスト仕上げのアルミニウムケースは、比較的珍しいものだ。シャープなエッジと継ぎ目のないラグで完璧にカットされたサンドブラスト加工のアルミニウムケースは、予想外にハンサムで、頑丈な仕上げのため傷に強いのが特徴である。このアルミニウムは、ブルガリが1970年代に工業デザインに傾倒していったのと同じように、意図的にインダストリアルな雰囲気を醸し出している。サンドブラスト加工されたアルミニウムは、ドゥカティのモーターサイクルにも使用されており、ドゥカティスタなら誰でもすぐに親しみを感じることができるはずだ。
この時計の軽さには目を見張るものがある。G-SHOCKのような軽さだ。この時計は、カーボン製のAGVヘルメットやハイテクなダイネーゼのグローブ(もちろんすべてMade In Italy)と同じように、本格的なモーターサイクル用品のひとつに感じられる。
ブラックラバーベゼルと巧みにリンクしたラバーストラップは、ブルガリ アルミニウムの既存の特徴だが、ドゥカティのバイクのハンドグリップやピレリタイヤのエンボスラバーのような、これ以上ないほどの相性の良さだ。バイクから降りたとき、ラバーベゼルに触れると、ドゥカティの雰囲気がふつふつと沸き上がってくるのだ。
プッシャー、リューズ、ケースバックには、ブラックPVDコーティングが施されたチタンを採用し、軽量化を図るとともに、ドゥカティに跨っても違和感のないデザインを実現している。しかし、このチタン製クロノグラフプッシャーが作動したときの感触は、時計とバイクの距離を縮めてくれるような気がするのだ。
ギア・シフトレバーは、モーターバイクの内部機構と最も親密で触覚的な相互作用があるものだ。クロノグラフの愛好家とモーターバイクの愛好家は、これらの操作部の触感について非常に似たようなことを話すわけだが、私もそのように考えないわけにはいかない。
ドゥカティのギアボックスは、市販車のなかで最も切れ味のよいものとして知られており、このことが、このバイクの走る喜びを大きく左右している。つま先から感じられるポジティブで正確なクリック感とともに、カチッ、カチッ、カチッとギアを介してより高い速度に達することができる。ブルガリ アルミニウム ドゥカティ限定モデルのクロノグラフの操作も、同様にポジティブで正確なものだ。
Cal.B130は、由緒あるETA 2894-2をアレンジしたもの。このムーブメントは、バルジュー7750から派生した水平クラッチとカム式を使用する2892のような古いETAクロノグラフと混同しないようにしたい。2894-2は、非常に薄い(そしてやや型破りな)コラムホイールと垂直クラッチを採用しており、これらが正確なクリック音とクロノグラフ機能のためのポジティブな噛み合いを生み出しているのだ。
コラムホイール式は、カムが滑らかな長方形の表面でレバーを静かに押したり離したりするのに比べ、様々なレバーを素早く瞬時に動かす二進法のスイッチング・システムだ。垂直クラッチは、バネを使ってクラッチプレートを4番車に瞬時にはめ込み、クロノグラフの秒針を駆動させる(より一般的なのは、やや反応性の低い水平方向のギアだ)。
好みは分かれるところだが、多くのクロノグラフ愛好家は、コラムホイールと垂直クラッチによって、非常に正確でポジティブなプッシャーアクションを生み出すことを特徴として語っている。B130の動作は、まさにそれだ。カチッ、カチッ、カチッと歯車が噛み合うのだ。
この記事を書いている時点では、ETA 2894-2は(旧モデルとは異なり)まだ特許が残っているため、セリタなどの競合他社が生産することはない。2894-2はモジュール式のクロノグラフで、そのストップウォッチモジュールはスイスのデュボア・デプラ社によって製造されている。デュボア・デプラ社のクロノグラフモジュールは、オメガ、パテック フィリップ、タグ・ホイヤー、ブライトリングなど、数え切れないほど多くのメーカーに採用されている。
クロノグラフを作動させた状態で、私のタイムグラファーが6姿勢で計測したところ、このムーブメントは日差+3秒で、COSCの許容誤差の範囲内に収まっていた。ETA社製のムーブメントを搭載しながら、税込59万4000円という価格を実現したCal.B130だが、その中身を理解しなければ、このモデルを否定するのはあまりにも安易だろう。B130は、文字どおり、そして比喩的な意味でも、非常に強力な機械的パワーを備えているのだ。
私は、どの価格帯でも自社製造にこだわりはなく、とにかくこの言葉は誤解を招くと思うことが多い。私のドゥカティのエンジンは、フォルクスワーゲンの技術がふんだんに盛り込まれている。バイクの場合、私は信頼できるワークホースエンジンを好むのだが、この時計にもその論理は当てはまり、バイクに乗ったままでも十分に機能することがわかった。
カフェレーサーである私は、30年以上前から常に腕時計を身につけて走行している。昨年は、モーターサイクルのための時計アルスタ モトスカフ 120(Alsta Motoscaphe 120)をデザインし、左腕につけてアメリカ横断9000マイルを走破した(究極のフィールドテストだ)。だから、モーターサイクル用の時計として何が優れているのか、私にはわかるつもりだ。
まず、バイクに装着する時計は防水仕様である必要がある。土砂降りの雨のなかを走ることは避けられないし、天気のいい日には湖で涼むこともあるだろう。ブルガリとドゥカティの限定モデルは、ねじ込み式リューズやプッシャーなしで、100mの防水性を実現している。
第二に、モーターバイク用の時計は、適度にコンパクトでなければならない。この時計の装着感については、いくら言っても足りないほどだ。快適で、羽のように軽く、そしてまったくかさばらない。
そしてよいモーターバイクウォッチの最後の条件は、手首に擦り傷を作らないものであること。これは比較的重いスティール製のアルスタ モトスカフ 120を安物のラバーストラップと組み合わせて9000マイルを走ったときに、私が苦労して学んだ教訓だ。
この擦れの問題は、時計の重量と大きく関係している。チタン製のセイコー SBDC131“ショーグン”にしなやかなトロピックスタイルのラバーストラップをつけて走ったとき、このことに気がついたのだ。バイクに装着した時計は、常に微弱な振動を受け、硬いラバーストラップは皮膚を刺激してしまう。物理的に時計のヘッドが重いと、より大きな力で揺れるため、時計を軽くし、ゴムをしなやかにすることで、この問題を解決しているのだ。
時計好きなカフェレーサーならではのマニアックな気づきだろう。ブルガリやドゥカティがこんなことを考えるはずはない。それは、ブルガリのアルミニウムシリーズが1998年から存在していることからもわかる。私にとっては、今回のコラボレーションで発見した多くの相乗効果のなかでは最も不気味なものだ。
リンクしたラバーストラップは、まさに天才的だ。柔らかいだけでなく、アルミニウムのヒンジによってバイク乗りが皮膚炎を起こしやすい重要なポイントからの圧力を緩和してくれるのである。私はこの時計をつけてニューヨークのハドソン渓谷を何日も疾走したが、幸いにも擦り傷ひとつなかった。
読者のなかには、ふたつの理由でこの時計に難色を示す人もいるのではないだろうか。文字盤の4時半にある日付表示窓と、スピードメーターのようなアラビア数字がドラマチックに使われている点だ。日付表示窓を擁護するつもりはなく、むしろなければいいと思うのだが、この斜体の数字についてはカフェレーサーとしての説明が必要になるだろう。
ドゥカティのダッシュボードに座ると、このスタイリングの数字が使われていることに納得がいく。スピードメーターではなく、ドゥカティのタキメーターと同じフォントなのだ。さらに、10時、11時、12時位置の3ヵ所にのみ採用されているのも大きな特徴である。
私のドゥカティ パニガーレのレッドラインは1万2000rpmで、タキメーターには “12”と表示される。時計の文字盤上で10、11、12と上昇していく様子は、まさに私のタキメーターに表示されているだけでなく、私たちドゥカティスタがモーターサイクルの至福を体験する高回転域でもある。10から12への加速は、純粋なパワー、スピード、そして美しさの閃光のように感じられ、今ここにいる私たちに衝撃を与えてくれるのだ。
カフェレーサーである私にとって、それは宗教に近いものだ。
サンドブラスト加工されたアルミニウムとエンボス加工されたブラックラバーに包まれ、鮮やかなデュカティ・レッドを背景に最後の聖なる数字を唱える時計を見下ろせば、ディオ・ミオ、シ!(イタリア語で“ああ神様”)。私は喜んで罰金を払おう。
詳細は、ブルガリ公式サイトへ。
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