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To Be Precise “秒の概念”の略史

秒が何を表し、なぜそうなったのか、そしてその経緯を解説しよう。

秒の概念は時計製造において普遍的な存在である。ダイヤル中央に配置されている場合もあれば、6時位置のインダイヤル(9時位置もあり)に遠慮がちにレイアウトされる場合もあるが、それは秒針が時間の経過を直感的に把握することができるためである。秒針のないドレスウォッチでも、秒は時計の基本的なメカニズムに組み込まれている。テンプは1秒間に数往復振動するように設計されている。1万8000vph(振動/時)のテンプは、1秒間に5回振動していることになり、1秒間に5回正確に振動していれば、進み遅れもない、完璧な精度の時計といえるのだ。

 少し前に(Hey, HODINKEEの時計、ドリンキーバードのコメントで)HODINKEEコミュニティのメンバーであるLug2Lug氏から、「時計や腕時計メーカーは、元々どのようにして秒針の刻みがほかの一定間隔ではなく正確に1秒であることを決めることができたのですか?」と質問が寄せられた。

 この質問は、実際にはふたつの質問を含んでいる。ひとつ目は、時計や腕時計にほかの小さな時間間隔ではなく、どうして秒が使われるようになったのか? ふたつ目は、時計や腕時計メーカーは、どのようにして振動子を正しい振動数、つまり1秒間に決まった回数で振動させることができるのか? ということだ。

 太陽がある地点に戻ってくるまでの時間を1日と定義すると、1日を24で割ってさらに60で割ると1日1440分となる。さらに60で割ると、1日は8万6400秒になる。

 私が調べた限りでは、1日24時間制は古代エジプトやバビロニアの天文学者が日照時間を10時間に分け、さらに黄昏時と夜明けに1時間ずつ当てていたことに由来している。これは、天空における太陽の見かけの動きをもとにしたもので、やがていにしえの天文学者たちは、夜を時間単位で区切るのに使える星の集まりを見つけ出した。

 60で割るのは、古代バビロニア人から伝えられた(バビロニア人は中学生の拷問道具である二次方程式を、農民の畑の面積を計算して税金を徴収するのにも使っていた。我々が食うのにやっとの農民の穀物を収奪することから、工場労働者が15分以上一秒も休まないことを管理するに至るまで進歩したのは、おそらく彼らの好奇心と創意工夫のおかげだろう)。

george daniels grand complication pocket watch

グランドコンプリケーション懐中時計、ジョージ・ダニエルズ(George Daniels)作、フィリップスにて落札、2019年

george daniels grand complication pocket watch

 1日の長さを決めるのに太陽を使うと、太陽の1日の実際の長さは1年のあいだにプラス16分、マイナス14分程度変化する。これが日時計で読み取る時間(真太陽時)と時計で読み取る時間(平均太陽時)の差分、いわゆる均時差である。鉄道を走らせ、ある人が工場で仕事をサボらないようにするには、1年間の平均的な1日の長さである平均太陽時が必要である。平均太陽時の1日の長さは、1秒の長さの基礎となるものでもある。

 “分(minute)”はpartes minutae primae(第1の細かな部分)、“秒(second)”はpartes minutae secundae(第2の細かな部分)というラテン語に由来する。

 さて、この概念は“地球の自転速度が変化しない”という仮定が実際に正しい場合にのみ機能する。しかし時計の精度が向上するにつれて、地球の自転が一定でないことが次第に明らかになり、秒は別の基準で再定義する必要が出てきた。原子時計が発明されてからは、セシウム原子時計の振動数で秒を再定義するようになった。 公式の秒の定義は次のとおりである。「秒とは、セシウム133原子の基底状態のふたつの超微細準位間の遷移に対応する放射の91億9263万1770周期の継続時間と等しい」。これは1957年に測定された平均太陽日の8万6400分の1に正確に一致する。このとき、セシウム原子標準の周波数が天文学的に観測された太陽日の分割単位として規定されたのだった。

cesium atomic clock

国立標準技術研究所物理学研究所の時間周波数部門にあるNIST-F2セシウム原子時計

 さて、では脱進機が1秒間に正しい回数だけ振動していることをどうやって確認するのだろうか? 現在ではインターネットにアクセスすれば、地球の自転よりもはるかに正確な原子時計にアクセスすることができるが、古きよき時代には時計職人や時計師はどのようにして時計や腕時計の時刻を合わせていたのだろうか? さて、その絶対的基準とは(聞いても驚かないだろうが)天文学である。

 17世紀末から18世紀初頭にかけて、高精度の振り子時計を作る場合(当時、極めて正確な振り子時計が全盛期を迎えていた)、正午に太陽が2回連続して通過するか、観測が容易な星が2回連続して通過するかのどちらかを使うことになる(王立天文台では、太陽の通過に合わせて時計を設定する、ダブルアルティチュード法という巧妙な方法を用いていたそうだ)。振り子の周期は長さで決まり、ちょうど0.994mの長さの振り子が1秒間に1回振れることはよく知られていた。秒振り子の正しい長さは、1644年にフランスの哲学者・数学者であるマラン・メルセンヌ(Marin Mersenne, 1588-1648)が初めて発見した。

Tompion precision regulator, British Museum

トマス・トンピオン(Thomas Tompion)が1676年に王立天文台のために完成させた高精度の天文調速機。この時計は13ft(約4m)の振り子を持ち、錘の衝動で前後方向に振れる。

Tompion astronomical regulator British Museum

ムーブメント、トンプソンが制作した精密調速機

 このような時計で課題となるのは、まず時刻合わせとなるわけだが、その時刻は別の時計と照らし合わせて確認し、目的の精度に達するまで長さを微調整してその速度を増減させるという作業を実施するのだ。時計も同様の手順を踏むが、その方法は若干異なる。

 ひとつの方法は、正しい振動数のテストテンプを作り、それを使って製造時計のヒゲゼンマイとテンプの組み合わせの性能をチェックすることだ。ほぼ正しい振動数が得られたら、ヒゲゼンマイの微調節とテンプの縁にあるチラネジの調整によって、振動数と速度を詰めるのだ。

vibrating a balance spring

時計のヒゲゼンマイを基準ヒゲで振動させる、モンブラン ミネルバ、ヴィルレ

 私が知る限り、時計に初めて秒針をつけたのはスイスの数学者であり時計学者であったヨスト・ビュルギ(Jost Bürgi, 1552-1632)で、デビッド・ランデス(David Landes)の著書『時の革命(Revolution In Time)』にも言及されている。ビュルギが生きた時代には、まだ秒針が意味をなすほど精度の高い計時は発達していなかった。ホイヘンスによって設計された最初の振り子時計が完成したのは1657年、時計の精度に不可欠なヒゲゼンマイもほぼ同時期(1660年前後)に開発された。ビュルギの時代に唯一知られていたバージ脱進機は、動力の変化に非常に敏感で、精度悪化の一因となっていた。しかし、ビュルギはその解決策としてルモントワール(定力)機構を考案した(ビュルギは重力式ルモントワールを、最初のマリンクロノメーターの製作者ジョン・ハリソン〈John Harrison)はスプリング式ルモントワールをそれぞれ考案した)。ルモントワールを追加することで、ヒゲゼンマイがなくても日差1分の精度の時計を製作することができた。しかし、構造やデザインの改良、レバー脱進機やデテント脱進機の発明、ヒゲゼンマイの普及により、時計に秒針が実用化されるのは2世紀以上先のことであった。

Time lapse image of the night sky showing the apparent motion of the stars

星の軌道が見える夜空のタイムラプス画像

高精度の時計は、それなりの品質の時計であればどこにでもあるもので、1日に数秒の誤差もないような時計をお持ちの方は、このような精度を実現するためにどれだけの苦労し、何世紀を要したかに思いを巡らすと興味深く、感動すら覚えるだろう。何千年も前に我々が空に見たものを、どうやって手首につけるか。まさに文字どおり考え抜いたのだ。スティール、真鍮、ルビーベアリング、そしてオイルだけで、このような奇跡的な精度を達成することができるのは、人類の歴史上最も素晴らしい成果のひとつであり、機械式時計を賞賛し、大切にする当然の理由なのだ。

 腕時計の秒針の進化については、「スモールセコンドはムーブメント版“フォティーナ”か? センターセコンドとともに理解する」をご覧ください。原子時計と、秒の定義の歴史については、「次世代原子時計、秒を再定義する(英文)」 をご覧ください。そして、もしあなたのモットーが“詳しくあれ、さもなくば帰れ”というのなら、王立天文台が提供する天文軌道から時間を知るための非常に正確な記事をご覧いただきい。