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さあ、今週もBring A Loupeにようこそ! Watches & Wondersが開催されている関係で、今日の記事をもってヴィンテージの国とはしばしお別れとなる。すなわち、来週のこのコラムは休載だ。eBayかどこかから何かすごいものが飛び出して来たら、その次の週に必ずそのニュースをお伝えしよう。
お伝えすると言えば、喜ばしいことに前回取り上げた5本がどれも新たな手首、あるいはポケットに収まったようだ! コメント欄(本国記事)のbarrykmの表現を借りれば“息を呑むほど美しい”パテック フィリップ Ref.1589Jは売却済みと表示されている。提示価格は2万850ドル(日本円で約310万円)だった。カルティエの“ポケット
ギャンブラー”はChorley's Auctioneersで2200ポンド (日本円で約42万5000円)で落札された。LoupeThisではマラカイト文字盤のヴァシュロン・コンスタンタンが1万1000ドル(日本円で約160万円)で売れた。そしてeBayでは、前にHODINKEEでも販売していたムルコが2500ドル(日本円で約35万円)で即決購入され、モバード エルメト トリプルカレンダーが1563.63ドル(日本円で約23万4000円)で売却された。
それでは今週の時計を見ていこう!
オメガ スピードマスター Ref.145.022-69BA、NASAの宇宙飛行士ガス・グリソムの贈呈品、1969年製
さて、ニール・アームストロングの特別なオメガ スピードマスターが約200万ドル超でオークションに出るというニュースは耳にしたことがあるかもしれないが、ここではNASAの宇宙飛行士に関連する別の時計、ゴールドのスピーディーを紹介しよう。
さて、少し巻き戻して当時の状況を振り返ってみよう。1969年、アポロ11号の宇宙飛行士たちの手首に装着されたオメガ スピードマスターが月に到達したことをご存じの方も多いだろう。NASAがスピードマスターを採用したことで、時計業界の歴史は大きく変わった。そしてその当時から、オメガ自身もそれがいち大事であると認識していた。この出来事を記念して、オメガは当時最新モデルのスピードマスターをゴールド仕様に仕立て、記念モデルとして28本、あるいは34本(これは情報源によって異なる)を製造したのだった。
この“ゴールド・スピーディ”のうち、1号機と2号機はアメリカ合衆国の大統領リチャード・ニクソン(Richard Nixon)および副大統領スピロ・アグニュー(Spiro Agnew)への贈答用として用意されたが、「あまりに高価すぎる」として両名とも受け取りを辞退した。3号機から28号機までの時計は、宇宙飛行を成し遂げたNASAの宇宙飛行士たちに贈られた。そして1969年11月25日、ヒューストンにて開催されたアストロノート アプリシエーション ディナー(宇宙飛行士感謝晩餐会)の席で、それらの時計が手渡された。この晩餐会において、合計26本のオメガがNASAの宇宙飛行士に贈呈されたことは確かな事実として記録されている。
2023年は、これらの時計にとってまさに激動の年であった。HODINKEEでも当時報じたように、26本中7本が数カ月のあいだに立て続けに売却されたのだ。コレクターたちは「どの宇宙飛行士のスピーディがよりプレミアムか」、そしてもっと広く言えば「この時計にどれほどの価値があるのか」をめぐって評価を定めようとしたため、価格はまさに乱高下。このような状況を、金融の専門家曰く“ウィップソー(急騰と急落)”と呼ぶらしい。今回紹介する個体も2023年に売りに出された7本のうちの1本であり、RRオークションにて37万5000ドル(当時のレートで約5250万円)で落札された。
ヴァージル・“ガス”・グリソム(Virgil "Gus" Grissom)は、マーキュリー・セブンと呼ばれるアメリカ初の宇宙飛行士7名のひとりである。彼は1961年のリバティ・ベル7号によって2番目のアメリカ人宇宙飛行士となり、さらに1965年のジェミニ3号によって史上初めて2度宇宙に行った人物となった。しかし悲劇的なことに、1967年1月27日、アポロ1号の打ち上げ前に行われた地上試験中にキャビン内で発生した火災により、同僚のエド・ホワイト(Ed White)、ロジャー・チャフィー(Roger Chaffee)とともに命を落とした。1969年、グリソムの家族がヒューストンで開催された式典にて彼に代わってこの時計を受け取り、その後長年にわたり家族のもとで保管されていたのである。
アームストロングのスピーディについては、まだ結論が出ていない。オークションの終了は4月17日とされている。このグリソムの個体はそれに比べれば歴史的意義はやや劣るかもしれないが、アームストロングの時計が高額で落札されれば、その余波で注目度が高まる可能性もある。
マイアミを拠点とするMenta Watchesのアダム・ゴールデン(Adam Golden)氏が、ガス・グリソムのRef.145.022-69BAを自身のウェブサイトに掲載しており、価格は“応相談”となっている。実際に問い合わせてみたところ、その価格は41万5000ドル(日本円で約6200万円)であった。詳細はこちらから確認できる。
ロレックス GMTマスター Ref.116718LN、18Kイエローゴールド、2007年製
記念モデルのオールゴールド・スポーツウォッチから、もうひとつの記念モデルへ。ヴィンテージ嗜好の自分としては、イエローゴールドのケースに深い“ロレックスグリーン”のダイヤルを備えた、GMTマスター誕生50周年モデルには、昔から特別な思い入れがある。「リッチ、これはヴィンテージじゃないぞ!」と思ってすでにスクロールを始めた人もいるかもしれないが、ちょっと待って欲しい。これは20年モノの時計で、コレクターズアイテムの世界においては、これも厳密には“ヴィンテージなのだ。2005年よりはるか以前のヴィンテージウォッチについての一般的定義はよく知っているので、ご心配なく。ちょっとしたジョークだ。おそらく、2025年のロレックス新作が発表されたばかりというタイミングもあり、現代のロレックスに頭が向いているのかもしれない。もう言い訳はこの辺にしておこう。この時計がここに登場した理由が気に入らない人は、どうぞ次のトピックに進んで欲しい。
ヴィンテージかどうかはさておき、これは本当に素晴らしい時計だ。ロレックスがすべてのスポーツモデルのアニバーサリーを、このスタイルで祝ってくれたらどれほどよかったかと思う。プロフェッショナルユースのツールウォッチからラグジュアリーウォッチへと移行してきた、この半世紀以上のブランドの歩みを考えれば、すべてが理にかなっている。ポリッシュされたヘビーなオールゴールドケースとブレスレットに、あの特徴的なグリーンダイヤルを組み合わせたこのモデルは、まさに“モダンロレックス”の象徴とも言える存在で、敬意を込めて称賛せざるを得ない。ソリッドゴールドのGMTマスターはその外観だけでもインパクトがあるが、これは間違いなく自信を持って身につけたい1本である。
ほかのセラミックベゼルを備えたロレックスや、現代ロレックス全体の価格帯を考慮すれば、このリファレンスは中古市場において非常にリーズナブルな価格設定だと感じられていた。取引価格が常時4万ドル(日本円で約600万円)未満というのは確かに高額ではあるが、ロレックスのラインナップのなかでここまで魅力的な1本をほかに見つけるのは難しいだろう。さらに言えば、アニバーサリーモデルという背景を持っている点も魅力のひとつだ。このストーリーは今後時間を経るほどに、より価値あるものとして語り継がれていくはずである。
サンフランシスコを拠点とするGrey and Patinaのカーティス(Curtis)氏が、このロレックス Ref.116718LNを自身のウェブサイトに掲載しており、販売価格は3万9500ドル(日本円で約590万円)に設定されている。詳細はこちらから確認できる。
ロレックス オイスター パーペチュアル Ref.1002、光沢あるミラーダイヤル、1960年代製
ひとつ前のピックにげんなりした方への、ちょっとした口直しをどうぞ。こちらの1960年代製オイスターパーペチュアルは実はなかなか珍しく、コンディションのよい個体を見つけるのが難しい1本だ。ヴィンテージロレックスコレクターの世界では、平坦な質感を持つ後年のアイコニックなマットダイヤルに魅力を感じる人と、スターン・フレール社が手がけた艶やかな“ギルト”ダイヤルの昔ながらの製造手法に魅了される派とに分かれることが多い。自分は後者であり、それゆえ市場に出回るギルトのロレックスには常に目を光らせている。なお、この種のダイヤルを備えた時計を、経年によってグロス仕上げがマット化してしまう“マッティング”や、不注意なメンテナンスによる傷なしで見つけるのは非常に困難だ。
このRef.1002のようなオイスターパーペチュアルは、ロレックスのギルトダイヤルのなかでももっとも手の届きやすいモデルと言える。デイトジャストになると、相場は5000ドルより1万ドルに近づく傾向があり、さらにスポーツモデルともなれば、状態のいいギルトダイヤルは簡単に2万ドルを超えてくる。その点オイスターパーペチュアルであれば、ギルトダイヤル特有の魅力をしっかり楽しめて、スリムなオイスターケースとクラシックなヴィンテージロレックスの佇まいを兼ね備えていながら、貯金を大きく切り崩さずとも手に入れられるのが魅力だ。
この個体のコンディションはなかなか良好に見える。ダイヤルは太陽光の下でしっかりとツヤを保っており、ケースの状態も健全だ。装着されているのは、少なくとも当時の仕様に合ったリベット式のオイスターブレスレットであり、全体として非常にまとまりのある1本となっている。今回の出品元は、ヴィンテージロレックスの取り扱いについての実績が群を抜く信頼できるセラーである。このスタイルの時計が好みであれば、次に同等の個体と出会えるまでは少し時間がかかるかもしれない。
このギルトダイヤル仕様のロレックス オイスターパーペチュアルは、Veralet Watchesのカール(Carl)氏によってPushers.ioアプリを通じて出品されている。販売価格は5500ドル(日本円で約82万円)に設定されている。詳細はこちらから確認できる。
エテルナ スーパーコンチキ Ref.130FTP-3、1960年代製
あらかじめ断っておくが、今週紹介する残りの時計はすべて艶やかなギルトダイヤルを備えている。文句があるならどうぞ訴えてくれ。1947年、ノルウェー人探検家のトール・ヘイエルダール(Thor Heyerdahl)は、5人の乗組員とともに“コン・ティキ(Kon-Tiki)”と名付けられたバルサ材のいかだに乗り、ペルーからポリネシア諸島へと漂流した。正直なところ、「なぜそんなことを?」という思うだろう。当時唱えられていたひとつの仮説に、ポリネシアは西からではなく東から人が渡ってきたというものがあった。人類が何世紀も前に行っていたであろう方法そのままに、101日間かけてこの方向へと漂流することで、ヘイエルダールとその一行はこの仮説が可能であることを実証したのだ。
ヘイエルダールの旅は当時大きな話題となり、多くのメディアに取り上げられた。第2次世界大戦が終わった直後で、世界が長きにわたる戦乱をくぐり抜けたばかりの時代だった。コン・ティキでの航海は人類が本来持つ“探求心”を世界に思い出させようとする試みでもあり、その物語は当時、多くの人々に希望と感動を与えたのである。
時計ブランドらしい話として、エテルナは「コン・ティキ号の乗組員たちが自社の時計を着用していた」と主張している。しかしこれが事実であるという証拠は確認されていない。ただ確かなこととして知られているのは、エテルナが1958年にコンチキ(Kontiki)の名を冠した防水時計の製造を開始したという点だ。そして1960年には、ブランドのフラッグシップダイバーズウォッチとしてスーパーコンチキ(Super-Kontiki)が登場する。これらスーパーコンチキの品質は非常に高く、独自のダイヤルデザインが特徴的だ。大きなアロー型の夜光インデックスと、“12”、“6”、“9”のアラビア数字がそれぞれのインデックス内に夜光なしでレイアウトされている点がユニークである。
ここに紹介するのは、スーパーコンチキの第3世代にあたるRef.130 FTP-3の良質個体だ。このモデルにおいて注意したいのが“リルーム(夜光の後年補修)”の有無であるが、今回の個体はオリジナルの夜光が保たれているように見える。ヴィンテージダイバーズとしてはあまり知られていないモデルではあるが、同時代のサブマリーナーやシーマスター300と同等の基準で製造されており、その完成度は非常に高い。さらに特筆すべきは、写真の個体にも装着されているオリジナルの“ブリックリンク”ブレスレットだ。これは、かの名門ゲイ・フレール社製である。
フロリダ州ハリウッドのeBay出品者が、このエテルナ スーパーコンチキを出品中である。オークションの終了は4月2日(水)の午前9時(米東部時間、日本では同日午後11時)を予定しており、公開時点では開始価格の5900ドル(日本円で約88万円)にまだ入札は入っていない。詳細はこちらから確認できる。
タイタス カリプソマチック “ミッドサイズ” Ref.7987、1960年代製
タイタス カリプソマチックは、あまり知られていないヴィンテージダイバーズの選択肢のひとつだ。率直に言えば、作りのクオリティはエテルナ スーパーコンテチキには及ばない。もっとも、それ自体が非常に高いハードルではあるのだが。カリプソマチックは複数のサイズ展開があり、かのロレックス “ビッグクラウン” サブマリーナーRef.6538の代替としては最良の1本だといえる。しかも価格は比較にならないほど安価だ。ツヤやかなギルトダイヤル、大ぶりなガードなしのリューズ、そしてベゼルの12時位置に配された大型の三角形マーカーなど、多くのディテールが共通しており、見た目の雰囲気はまさに酷似している。
今回取り上げたRef.7987は、まさに完璧なコンディションに仕上げる価値がある1本としてBayで見つけたもの。記事に載せた理由は、そのダイヤルがとても良好に見えるからだ。ひびの入った風防越しにうっすらと見えるトロピカルエイジングの気配……、写真での見た目はイマイチかもしれないが、リスクを取って買う価値はある。経験豊富なeBayの目利きとして断言するが、少し手をかけてあげればこの時計は化ける。たとえば新しいクリスタルに交換し、ebayで比較的簡単に見つかる別個体からベゼルを調達し、ETAムーブメントに簡単な整備を施せば、見違えるようになるはずだ。
入札に走る前にひとつ知っておいて欲しい。このモデルは“ミッドサイズ”のリファレンスで、直径は32mmでラグトゥラグは41mm。思っているよりも小振りなサイズ感だ。しかしもし小さめの時計をつけこなせるなら、この1本はきっと気に入るはずだ。
現在このカリプソマチックは、カリフォルニア州グレンデールのeBayセラーによって即決価格500ドル(約7万5000円)で出品されている。詳細はこちらからチェックしてみて欲しい。