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Auctions モナコ・レジェンド秋のオークションで、3人のエディターが厳選した注目の時計9選

存在しないはずの時計から隠れた名品まで、私たちはカタログを徹底的に掘り下げる。

オークションシーズンが到来し(来ないことなどあるのか?)、すでに香港オークションは開催された。3シーズンぶりに、今秋はモナコに行けそうにない。しかしカタログには、モナコ・レジェンド・グループのチームだからこそ現代のオークションに出品するようなロットがたくさん並んでいる。ヴィンテージピースが多く、隠れた名品も数多くあり、自分自身入札を考えなければならないものもいくつかある。

 話題にすべきものがいくつかある。セルピコのサインが入ったピンクゴールドのRef.2526 エクスプローラーダイヤルは、あるグループ(おほん、ベン・クライマーとか)を興奮させるだろう。それと1950年代製のプラチナ製カルティエ タンクがブレスレット付きで1万5000ユーロから3万ユーロ(日本円で約245万~490万円)というのは、滑稽なほど低いと感じる。ブラックスターのダイヤルを持つオイスター パーペチュアル“ギャラクシー”も、かつてロレックスが製造したというのが信じられないほど素晴らしい時計だ。そしてモナコ・レジェンド・グループが最近、コラード・マッタレッリ(Corrado Mattarelli)氏を時計部門の副会長として迎え入れたことも注目に値する。これにより今後のカタログには、さらに多くのヴィンテージウォッチや、ネオヴィンテージ、現代モデルといった多様なラインナップが期待できるだろう。

 カタログを確認するのを手伝ってもらうため、そしてHODINKEEのヴィンテージ愛好家の幅広い好みを反映させるために、同僚のトニー・トライナとリッチ・フォードンに今回のオークションでお気に入りの3点を選んでもらった。


トニー・トライナの選んだ3点
ロット271: ヴァシュロン 4072 クロノグラフ スティールモデル

 オークションの世界は恐ろしいものだ。そのため、通常はよく知っているモデルか、確かな来歴や信頼できるストーリーが確認できるものだけを見るようにしている。

 ヴァシュロン・コンスタンタンのRef.4072は、私のお気に入りのヴィンテージクロノグラフのひとつだ。基本的には、ヴァシュロンによるパテック 130への回答といったところだが、少しだけ大きくて、あえて言えばより優れた時計だ。サイズが若干小さく、しかもヴァシュロンであるために常に過小評価される運命にあるようだ。

 1938年に発表され、70年代初頭まで生産されたRef.4072は、ヴァシュロンのクロノグラフモデルのなかでも最も長く続いたモデルのひとつだ。コルヌ・ドゥ・ヴァッシュやRef.4178のほうが希少かもしれないが、私はいつでも優れた4072を選ぶ。約30年間のうちヴァシュロンは1178本を生産しており、そのほとんどがイエローゴールドかPGであった。

vacheron constantin ref 4072 in steel

 コンディションのいいヴァシュロン 4072は、それだけで特別な時計だ。1月には、マイアミビーチ・アンティークショーでピンクダイヤルのPGモデルを掲載したが、今年見たヴィンテージウォッチのなかでもいまだに最高のひとつだ。それはその後すぐに8桁の高値で売れたと聞いている。

 しかしSS製のヴァシュロン 4072は別次元だ。モナコ・レジェンドによると、SSは約250本しか作られなかったため、この時計の見積もりが6万~12万ユーロ(日本円で約980万~1960万円)とされているのも納得だ。ケースはシャープで、ツートンダイヤルも良好かつオリジナルの状態である。ダイヤルの端にかけて少し経年変化が見られるが、防水ケースではなかったこれらの時計にとっては珍しいことではない。

 2017年に、この個体がアンティコルムで流札となったが、ダイヤルとケースが同じままであることが確認できる。変わらず残っていて安心だ。

  • 結果6万5000ユーロ(日本円で約1060万円)で落札
ロット167: ブライトリング デュオグラフ

 ヴァシュロン 4072と同様、ブライトリングのデュオグラフも、“ダイヤルの名前を変えたらいったいどれほどの価値になるだろうか”と思わせる時計のひとつだ。ヴィンテージのスプリットセコンド クロノグラフは非常に希少で、“パテック”以外で製造していたブランドはごくわずかだ。ブライトリングは1944年にデュオグラフを発表し、その後シリーズからヴィーナス社製クロノグラフキャリバーを搭載したいくつかのリファレンスが登場した。

 アルファ・ハンズ(Alpha Hands)がデュオグラフの調査を行ったところ、各リファレンスや素材を含めてもブライトリング デュオグラフは数十本しか確認されておらず、その多くはオリジナルのパーツが残っていない。今回のSS製3レジスター Ref.766は1944年に製造された初期のモデルで、デュオグラフの生産が始まった時期にあたる。デザインはヴァシュロン 4072に似ており、スティールケースにゴールドのインデックスが施されたシルバーダイヤル、そしてアウタースケールが描かれている。明らかに同じ時代を象徴するふたつの時計だ。

 これだけの特徴を持ちながら、このデュオグラフの見積もりが“わずか”2万~4万ユーロ(日本円で約325万~653万円)だというのは信じがたい。2020年には同じモデルがフィリップスにて25万香港ドル(当時の相場で約345万円)で販売されたため、この見積もりは妥当だと思う。なおそれ以前の2017年にも、ほぼ同じ価格で販売されていた。価格に対してかなり価値のあるヴィンテージクロノグラフだ。

  • 結果5万8500ユーロ(日本円で約955万円)で落札
ロット19: レーシング仕様のロレックス バブルバック

 先週ロレックスのバブルバックについて書きすぎたので、今回のカタログで最初に検索したのは当然“バブルバック”だった。イタリアのバイヤーはたいていいいものを数本揃えてくる(ときにはあまりよくないものも混ざっているかもしれないが)。

 私はPGのバブルバックに目がないため、このピンクオンピンクのRef.3131が大好きだ。しかしこのオークションで最も興味深いのは、見た目だけでなくそのストーリー性だ。

rolex bubbleback prince brima

 このロレックス Ref.3131は1947年にタイのビラ王子が、ベルギーのグランプリ・デ・フロンティエール(Grand Prix des Frontières)で優勝した際に贈られたものであることが裏蓋の刻印から分かる。60年代や70年代のロレックスやホイヤー、ほかのレーシングクロノグラフももちろん大好きだが、1947年に勝利したドライバーが小さな金無垢のバブルバックを贈られるというその時代ならではの魅力がある。10年後なら、大きなSS製クロノグラフが贈られていたかもしれない。

 しかし1940年代には32mmのPG製バブルバックが“スポーツウォッチ”として選ばれていたため、これがモナコのオークションでお気に入りのロットのひとつだ。

  • 結果1万8200ユーロ(日本円で約295万円)で落札

リッチ・フォードンの選んだ3点
ロット7: ユール・ヤーゲンセン トノー型のファイブミニッツリピーター、1920年代製

 最初に紹介するのは、ここで取り上げるなかでおそらく最も“人気”が低いであろう時計だと予想しているユール・ヤーゲンセンだ。これは真の時計愛好家向けで、きわめてクールかつ非常に希少な時計だ。ユール・ヤーゲンセンへの私の愛は、特にこの時期のモデルに対して強い。きっかけはウルバン・ヤーゲンセンについて調べ始めたことだった。ここではその詳細を割愛するが、ヤーゲンセンに関するあらゆることについて知りたい場合はこちらの記事をご覧いただきたい。

 さて、この特別な時計に関して重要な文脈に話を戻そう。ユール・ヤーゲンセンは1919年にエドワード・ホイヤー社に買収された。そう、あのホイヤーである。いわゆる“グループ”の一員として、ヤーゲンセンの名前は超高級の腕時計や懐中時計をアメリカ市場向けに展開するために使用された。20世紀前半のスイス時計製造業の典型的な手法として、ホイヤーはルクルトやヴィクトラン・ピゲからエボーシュを調達していた。この2社は当時パテック フィリップにもムーブメントを供給していたサプライヤーである。このファイブミニッツリピーターウォッチのムーブメントを確認したわけではないが、この時代にこれほど高度なキャリバーを製造できるメーカーはほとんどいなかった。

 この時計自体について言えば、私はとても美しいと思うが、最初に言ったように万人受けするデザインではない。ただ近年はこうした、小振りで初期の伝統的なスタイルが非常に流行している。ケースサイズは35×41mmで、決して小さすぎるわけではない。大きなブレゲスタイルの数字が目を引き、シンプルながらも完璧に仕上げられたユール・ヤーゲンセンの筆記体ロゴがこの時計を私にとって特別なものにしている。もしダイヤルにカルティエと書かれていたら、見積もりは2倍、落札価格はおそらく3倍になっただろう。これは有名ブランド名に頼らず、初期の腕時計市場がどれほど評価されるかを試す興味深いケースになるだろう。

  • 結果5万8500ユーロ(日本円で約955万円)で落札
ロット83: カルティエ トノー プラチナ、1990年代製

 カルティエといえば、注目を集めるのはロット33の1970年代のホワイトゴールド製クッションモデルだ。このモデルはここ数年で記録を次々と更新している。YGモデルはもともと1万~1万5000ドルであったが、今年6月にボナムズでは7万6600ユーロ(日本円で約1250万円)で落札されるまで急上昇した。この波乱のなか、希少価値の高いWGバージョンはこれまで売りに出されていない。ロット33は見積もりの1万ユーロ~2万ユーロ(日本円で約160~325万円)を大きく上回って、新たな記録を打ち立てることが予想される。

 ただ私が注目しているのは、その50ロット後の時計だ。最近の市場ではヴィンテージのカルティエが注目されているが、トノーはほかのモデルほど注目を集めていない。これは1906年に発表された、カルティエ最初期のウォッチデザインであり、しかも異常に大きなサイズであることを考えると、この市場での評価の低さには驚かされる。とはいえ徐々にコレクターたちが気づき始めているようだ。たとえば、1920年代のプラチナ製トノーが、昨年6月のサザビーズでは2万8800ドル(日本円で約435万円)で落札され、その後新しい所有者にはさらに高額なオファーがあったという噂も聞いた。しかしこの夏は、1980年代や1990年代のトノーがあまり注目されていなかった。5月には、YGモデルがルーペ・ディス(Loupe This)にて7700ドル(日本円で約115万円)で落札されたが、これは非常にお得な買い物だった。

 直近のふたつの結果を見て、このロット83で勝負をかけることにした。先月のフィリップス・ジュネーブ・オンラインで2000年代のCPCP トノー プラチナモデルが2万320スイスフラン(日本円で約355万円)で落札され、見積もりを上回った。そして数週間前のサザビーズ香港では、クォーツムーブメントを搭載したトノー バンブーが33万6000香港ドル(日本円で約650万円)で落札され、大いに注目を集めた。つまりカルティエのコレクターたちはブランドの歴史のなかでも、新しいシェイプや珍しいモデルを探し続けているということだ。トノーは長いあいだ過小評価されてきたが、その歴史は1906年までさかのぼり、1980年代から90年代にかけてはヴィンテージのルックスと現代の高品質な製造技術が見事に融合している。

  • 結果1万8200ユーロ(日本円で約295万円)で落札
ロット161: ロレックス クロノグラフ Ref.3330 スティールモデル、1937年製

 市場分析や、次に何が“注目される”かという予測というより、この1930年代のロレックス クロノグラフ Ref.3330は、ただただ圧倒的に素晴らしい時計だ。1930年代後半から1940年代にかけて製造されたこのオイスターケースではないロレックスのクロノグラフは、美しいだけでなく、2度と出合えないような素晴らしい状態だ。大げさに聞こえたくないので控えているが、実際のところ、1937年製の時計でこれほどの状態のものを見つけるのはとても珍しいことだ。しかも、それが生産本数200本未満のロレックス クロノグラフで、37mmのSSケースにクラヴァンツォラ・ローマのダブルサインが入ったツートーンマルチスケールダイヤルだとしたら? まさに別次元の存在だ。

 ヴィンテージのSS製クロノグラフは今の市場が求めているものではないかもしれないが、こういった時計を探しているコレクターにとってはほとんど問題にならない。全体的なヴィンテージウォッチコミュニティはプレデイトナやロンジン 13ZNのような時計から一時的に目が離れているかもしれないが、本物のコレクターたちは今も変わらず熱心にそれらを追い求めている。しかもかなりの金額を支払って。見積もりが18万〜36万ユーロ(日本円で約2940万~5885万円)と高額なのは事実だが、このレベルの品質を考えるとそれは問題にはならないだろう。このクオリティの時計はほぼ手に入らない。実際、このリファレンスでこれほどの状態のものが市場に出たのは、この個体が2022年に最後に売却されたとき以来のことだ。それより前にさかのぼると、2016年にフィリップスの伝説的なオークションStart-Stop-Resetセールで、SS製の同リファレンスが記録的な価格で落札されたときである。

  • 結果44万2000ユーロ(日本円で約7225万円)で落札

マーク・カウズラリッチの選んだ3点
ロット110: ロレックス デイデイト Ref.6511 スティールモデル

 リストを締めくくるなら、ふたつのカバーロットを選ぶことになるけれど仕方ない。それが自分の特権だし、取り上げる価値がある時計だ。最初に紹介するのは、ほとんど“ミーム”化しているような時計だ...SS製のデイデイトなんて存在しないはず。ロレックスはSS製をつくっていないし、理論的にも存在しない。しかしこの時計は少なくともその例外だ。Ref.6511はデイデイトの初代モデルであり、1955年にロレックスが製造したものだ。シリアルナンバー99272を持つこの時計は、スペインのディーラーに納品され、長年個人コレクターの手元にあった。やがてこの時計が発見され、ジョン・ゴールドバーガー(John Goldberger)氏のコレクションに加わり、そこで長いあいだ保管されていた。美しいトロピカルダイヤルに、エイジングで少し黄ばんだホワイトゴールドのベゼルはまさに究極のロレックス デイデイトといえる時計だろう。エスティメートは75万〜150万ユーロ(日本円で約1億2260万~2億4515万円)。

  • 結果119万6000ユーロ(日本円で約1億9545万円)で落札
ロット296: 恐らくユニークピースのパテック フィリップ Ref.2438/1 ピンクゴールド

 パテック Ref.2497について深く掘り下げた際、ねじ込み式のケースバックを備えた防水バージョンであるRef.2438/1にも言及した。さて、今回そのなかでも特別で、市場に新たに出てきたものがある。PG製の2438/1だ。このリファレンスは56本しか製造されておらず、私の調べだとそのうちPGモデルが市場に出たのは5本だけ。しかもそのすべてにドフィーヌ針とバトン型インデックスが備わっている。この時計は、文字盤に“オーバーサイズ”のアラビア数字とブルースティック針を備えたおそらくユニークピースで、これまで知られていなかったモデルだ。この個体は45年間、ひとつのコレクションに保管されており、豊富な資料が付属している。実物は見ていないが、画像で見る限りコンディションは良好で、パテックコレクターにとってはもちろん、この時代の時計を好みながらも少し違ったものを探している人にとっても素晴らしい時計になるだろう。エスティメートは50万〜100万ユーロ(日本円で約8170万~1億6345万円)だ。

  • 結果122万2000ユーロ(日本円で約1億9970万円)で落札
ロット58: オーデマ ピゲ 25726BA パーペチュアルカレンダー ポケットウォッチ コンバージョン

 さて、私はポケットウォッチに目がないのは周知の事実だが、今回はふたつの理由でとくに目を引いた。まず、ポケットウォッチを工場でコンバートして、ラグを追加して腕時計にするという例はあまり見かけない。なぜか? それは今回のように47mmと大きく、つけにくい時計になってしまうことが多いからだ。もっとも袖口の上から着用するなら別の話だが。

Gianni Agnelli

袖の上から時計をつけるなんて、許されるのはあの人物だけだろう。

 実はずっと探している特定の時計がある。ただその行方を知りたいだけなのだが。何十年も前、フィアットのリーダーでありスプレッツァトゥーラのサルトリア王、ジャンニ・アニェッリ(Gianni Agnelli)が、クルマの窓から身を乗り出して誰かと話している写真があった。その写真に写る彼の腕にはオーバーサイズの永久カレンダー付きコンバージョンポケットウォッチがあった。この時計もそれに似ているが、アニェッリの時計とは少し違っていて(彼のはリューズは短くてボウがない)、残念ながらその失われた時計ではない。だがそれでもこの時計は十分クールだ。1990年代につくられた25726BAシリーズの第1号で、これを腕時計にコンバートしようとするなんてかなりの自信があったに違いない。しかもフルセットで提供されているため、アニェッリの時計ではないにしても非常に興味深い一品だ。エスティメートは7万〜14万ユーロ(日本円で約1140万~2290万円)。

  • 結果10万4000ユーロ(日本円で約1710万円)で落札

モナコ・レジェンド・グループのオークションについては、公式ウェブサイトをご覧ください。