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本稿は2017年6月に執筆された本国版の翻訳です。
今回はBring A Loupeの2周年を記念して、このコラムでも滅多にお目にかかれない珍しいヴィンテージウォッチを特集することにした。特大のセクターダイヤルを持つロンジンから始まり、聖杯と呼べるほど珍しいオメガ スピードマスターからカラフルなブライトリングのトップタイムまで、さまざまなクロノグラフも紹介する。それだけにとどまらず、M95キャリバーを搭載した素晴らしいモバードやチューダーの“ミニサブ”もある。
ロンジン セクターダイヤルのCal12.68Z
セクターダイヤルは1930年代に全盛期を迎えたデザインだが、近年ではモダンな腕時計においても再び採用されるようになっている。オメガやロンジンが好んで採用したこのダイヤルは、抜群の視認性と美しい外観を提供してくれるものだ。この時計が2015年のクリスティーズで、予想落札価格の3倍にものぼる1万9000ドル(当時のレートで約230万円)近くで落札されたのもそれが理由だろう。37mmのケースサイズは1930年代の腕時計としては明らかにオーバーサイズであり、この時計の特筆すべき特徴となっている(当時の男性用腕時計は30mmから33mmが標準だった)。
興味深いことに、この時計は多くの軍用時計に見られるようなはんだ付けされたラグが使用されている。ロンジンの記録から、この時計は1938年3月にポーランドにあるロンジンの代理店に納品されたことがわかっている。スナップ式のケースバックから予測されるようにダイヤルにも若干の経年劣化が見られるが、魅力的な秒針とアワーリングはしっかりと保たれている。また、ツートンカラーのセクターダイヤルに配されたブルーの針と赤い秒針のコントラストが、この希少なロンジンの最大の魅力となっている。
ダビドフブラザーズ(Davidoff Brothers)は、セクターダイヤルを備えたこの1930年代製のロンジンを1万7500スイスフラン(当時のレートで約208万円)で提供している(執筆当時)。
オメガ スピードマスター Ref. 376.0822 “聖杯”
オメガ スピードマスターのRef.376.0822は、スピードマスターのコレクターであるチャック・マドックス(Chuck Maddox)の造語である“聖杯”の名で知られている。これは、1987年の発売からわずか2年間しか生産されなかったこのモデルの希少性を物語るものだ。“一般的な”スピードマスターの手巻きキャリバーとは対照的に、このバージョンは自動巻きのレマニア5100を採用しており、分・秒のクロノグラフ針を中央に備えている。曜日と日付表示に加えて12時位置には24時間表示のサブダイヤルも配置しながら、驚異的な視認性を実現している。
この“聖杯”は、ロレックスのプレジデントブレスレットに若干似た、1980年代に採用されていたRef.1450という適切なブレスレットに取り付けられている。ダイヤルにペイントされたインデックスには、この時代の時計によく見られる軽いパティーナが見られる。だが、時・分針はその太さと長さから、おそらく交換部品であろうと推測される。
Casowatchesでは、このオメガ スピードマスターの“聖杯”を1万3500ユーロ(当時のレートで約165万円)で販売している(執筆当時)。
モバード サブシー M95
ヴィンテージのモバード クロノグラフを愛すべき理由はたくさんある。まず、同社のムーブメントであるM90とM95(それぞれ2レジスターと3レジスター)は、自社製かつ独特な機構を備えている。向かって下側のプッシャーでスタートとストップを行い、上のプッシャーでリセットを行うのだ。ケースはフランソワ・ボーゲル(Francois Borgel 、後にTaubert Frèresと改名)が製造していることが多く、このケースメーカーはパテック フィリップの偉大なRef.1463に最高の防水ケースを供給していることでも知られている。そして最後に、“スネークハンド”が視覚的なエッジを効かせるとともに、差別化の明確なポイントとなっている。
このクロノグラフには美しいサテン仕上げのダイヤルが取り付けられていて、トリチウムの輝きによって1960年代のものであることがわかる。トリチウムは針やダイヤル同様にパティーナを示しており、これはこの個体が信頼に値する証拠となる。売り手は、ダイヤルの夜光に若干の欠けがあること、ケースにいくつか打痕があること(特にベゼルと左上のラグ)に言及している。ケースバックには“Sub-Sea”の刻印があり、ボーゲルケースによる独自の防水性を有していることが確認できる(ボーゲルケースの特徴的な刻印は、もちろんケースバックの内側にある)。
メンタウォッチ(MentaWatches)では、このモバード M95を4750ドル(当時のレートで約54万6000円)で販売している(執筆当時)。
チューダー サブマリーナー デイト“ミニサブ” Ref.75090
40年以上にわたってチューダーは独自にサブマリーナーを製造してきたが、ムーブメント(ロレックスは自社製、チューダーはフルリエとETA社製)を除くほとんどの部品を共有していたため、ロレックスの姉妹機とでもいうべき極めて類似したモデルとなっていた。多くのヴィンテージ チューダーのサブマリーナーがケースバック、リューズ、そしてブレスレットなどに複数のロレックスロゴを有しているのはこのためである。しかし、チューダーが提供するサブマリーナーは、サイズもカラーも幅広かった。チューダーの36mm径Ref.75090は、憧れの対象であるチューダー スノーフレークのブルーと同様に、その典型的な例である。
このチューダーのシリアルナンバーは、1992年製であることを示している。ロレックスは1970年代末までにサブマリーナー デイトにサファイアクリスタルを導入していたが、このモデルはまだプレキシガラスを採用している。また、この9315ブレスレットにはチューダーの刻印があるが、ロレックスのものとほぼ同じであり、ダイバーズエクステンションを備えた同様のクラスプが取り付けられている。直径36mmのケースは太めのラグを持ち、ケースバックがこの頑丈なダイバーズの出自を物語っている。
この小さくてキュートなチューダー サブマリーナー Ref.75090は、2000ドル(当時のレートで約23万円)で手に入れることができる(執筆当時)。
問題だらけのブライトリング トップタイム(入札時は要注意 )
ブライトリングのトップタイムは私のお気に入りのクロノグラフのひとつで、特に初期のラウンドタイプ(『007/サンダーボール作戦 原題:Thunderball』でジェームズ・ボンドが着用していたようなもの)が最高だ。しかしこのおぞましい1本は、その正体が“完全なフランケンウォッチ”であることを明らかにし、警告しなければならないものである。サイン入りのリューズやバックル、ダイヤル、ムーブメントはともかく、このケースはトップタイムシリーズで使われたことはない。加えて、ベゼルと“STAINLESS STEEL BACK”(と書いてあるケースバック)に見られる窪みは、このケースがクロームメッキであり、本物のステンレススティールではないことを示している。
ブルーに塗られた針はまったくの別ものだ。この不一致を見分ける手がかりのひとつは、ダイヤルに夜光が塗布されているにもかかわらず、針にはそれが見られないことである。真っ赤なクロノグラフ針と秒針も同様で、ほかのトップタイムには見られないものだ。ケースバックには適切な型番の記載がなく、そこに刻印されたシリアルナンバーも正しくないことから、この不愉快な査定を終了した。
この厄介なブライトリングは、Ebayで2790ユーロ(当時のレートで約34万円)で見つけることができる(執筆当時)。本物のブライトリングであれば強気の価格設定であっただろうが、今回はまったくおかしな話である。