現代の時計の特徴として、秒針がムーブメントの中央に配置されていることは当たり前のように知られている。しかし、これは時計の歴史では比較的最近のことである。センターセコンドを採用したムーブメントが続々と登場したのは、20世紀半ばのこと。現在では、ほとんどのムーブメントがデフォルトでセンターセコンドを持つように設計されている。つまり、現代の時計でスモールセコンドダイヤルを見かけたら、それは機械的なマジックが隠されているのかもしれない。
1940年代以前は、ほとんどの時計がサブダイヤルに秒針を備え、通常6時位置に配置されていた。これは、古典的な時計の輪列のレイアウトによるものだった。秒針を付けたい場合、最も簡単な方法は、輪列に1分間に1回転する歯車を配し、ダイヤル側に軸を伸ばしてプレートへと貫通させ、そこに針を配置する。
ほとんどすべての時計において、問題の歯車は、輪列の4番めの歯車であるため、“4番車”と呼ばれている。回転する主ゼンマイを収めた香箱はその縁に歯車があり、これが第1の歯車である。これが1時間に1回、センターホイール(ムーブメントの中心にある歯車)を回す。センターホイールは第3の歯車を経由し、第4のホイールを駆動する。4番車は1分間に1回転し、その軸の先に針を付けると秒針になる。つまり、時計の輪列を見たときに4番車を見つけることができれば、秒針がどこにあるかがわかるということなのだ。
それでは読者の皆さん、「第4の歯車を探せ」の準備はいいかい? 伝統的なスモールセコンドの輪列のレイアウトを見てみよう:
古典的な輪列レイアウトのETA6497だ。左側の2つの歯車のうち大きい方が香箱で、残りの輪列(または駆動輪列と呼ぶ)はブリッジの下に隠れている。テンプは右端にあり、ヒゲゼンマイと一緒になっている。
ブリッジを外した状態では、歯車の全体像を見ることができる(テンプも外してある)。左から順に、主ゼンマイが収められた香箱、センターホイール(時)、3番車、4番車、クラブトゥース式ガンギ車、そして最後にスイスレバー式脱進機のレバーで構成されている。6497は、懐中時計専用に設計された最後のETAキャリバーであり、懐中時計では、リューズは12時位置(巻き上げ軸の位置)、スモールセコンドは6時位置(4番車の位置)にある(腕時計用に設計されたこのキャリバーには、ステムとリューズが12時ではなく3時に配置されたバージョンがあり、それがETA6498だ)。
そしてダイヤル側。スモールセコンドは4番車の延長線上にある軸上で回っている。分針はセンターホイール(1時間に1回転)の軸上にあり、時針を駆動する輪列と同期している。
余談だが、時計における針の歴史を見てみると、とても興味深いことが判明する。それは、分針と秒針が、精度の向上とほぼ同時に登場していることだ。初期の時計は、一般的に1日も駆動せず、精度も1時間単位でしかなかったので、通常は時針だけであった。しかし、ヒゲゼンマイを追加すると、突然、分針の重要性が高まり、脱進機の改良や温度補正を加えると、次に秒針が重要性を高めるようになった。
クラシックなサブダイヤルは、エレガントで機械的にもシンプルな解決策であり、今日に至るまで、フィリップ・デュフォーやロジャー・スミスなどの最も美しい時計がこの方法を採用している。伝統的なスモールセコンド針の唯一の欠点は、特に小径の時計では視認性が低いということだ。よりよい解決策は、秒針を時針や分針と同じ軸上に配置し、その先端がダイヤルの外周を一周するように長くすること。
これにはいくつかの方法がある。最初に数多くのセンターセコンドを搭載したムーブメントが登場したのは、ゼニス Cal.133やパテックのCal.12'''-120のようなインダイレクト(間接的)センターセコンドムーブメントであった。オメガもかなりの数のインダイレクトセンターセコンドムーブメントを製造していた。これらのムーブメントの仕組みは、伝統的な輪列のレイアウトに、歯車を追加して、ムーブメントの中心に秒針を寄せて駆動するというもの。インダイレクトセンターセコンドの歯車は、輪列上の3番車または4番車で駆動させることができる。
唯一の問題は、秒針のための追加歯車が主ゼンマイの香箱による直接的な動力の流れから外れ、秒針が針飛びする傾向にあることだ。この問題を解決するために、時計師たちは秒針の歯車の歯にごくわずかな圧力をかけるテンションスプリングを追加した。
しかし、ここに2つの新しい問題が生じる。ひとつめの問題は、インダイレクトセコンド用の歯車がメイン輪列の上に乗るため、ムーブメントが明らかに厚くなってしまうことだ。ふたつめの問題は、テンションスプリングが輪列に負荷を与え、正確に調整されていない場合、テンプの振り角の低下を招き精度が狂うという、そもそも正確に秒針を読み取れるはずの工夫が皮肉な結果をもたらすことだ!
そこで編み出されたのがダイレクトセンターセコンドだ。この方式のムーブメントは、現代のほぼすべてのムーブメントに採用されているが、歯車を追加するのではなく、メインの輪列を組み替えることで問題を解決する。4番車がムーブメントの中心に来るように歯車の配置を調整すれば、スモールセコンドと同じように、ピボットをダイヤル面に通すことができる。
上の写真は、ETAのCal.2895-2だ。ご覧のように、駆動輪列が10時の位置から一列に並んでいる。主ゼンマイを収めた香箱がセンターホイール(最も端に近いもの)を動かし、内側に向かって、3番車、4番車があり、4番車はムーブメントのちょうど中央に位置している。これはセンターセコンドムーブメントの典型的な構成であり、Cal.2892の輪列と同じだ(こちらももちろん、センターセコンドのムーブメントでもある)。
さて、余談だが、これは現代の時計ブランドで、すべてのムーブメントがダイレクトセンターセコンドのレイアウトを変えずに、何らかの理由でスモールセコンドのサブダイヤルを設けたい場合にどうするかという問題に答えよう。
それを実装するためには、センターセコンドの針が不要になるような歯車を追加する必要がある。時計ブランドが、有名なヴィンテージモデルの外観やレイアウトを再現するために、このような方法を採ることがある(常にそうとは限らない)。多くの場合、スモールセコンドの表示は、ダイヤル下にモジュールを追加することで対応している。
下の写真は、ETA2895-2のダイヤル側だ。先に述べたように、駆動系はETA2892と同じだが、ムーブメントを裏返すと、ETA2895にはスモールセコンド表示をサポートするために追加の歯車群があることがわかる。
駆動輪列はセンターセコンド用に設計されているが、スモールセコンド用のサブダイヤルのためのモジュールが追加されている。これは、例えばタグ・ホイヤーのCal.6にスモールセコンドが搭載されているのと同じ仕組みだ。
スモールセコンド針を支えるためにギアを追加した最新のセンターセコンドムーブメントは魅力的だ。もちろん、視認性が向上するわけではないし、意味もなく複雑さを増すことはしないという優れたエンジニアリングの基本原則をやや逸脱するものではある。しかし、新しいムーブメントの設計や製造に(多額の)投資をしなくても、ヴィンテージのような外観を再現できるということでもある。
センターセコンドのムーブメントをスモールセコンドのサブダイヤルに対応させる理由は様々だが、もちろん最も一般的な理由のひとつは、デザインにヴィンテージ感を加えることだ。しかし、このようなムーブメントを搭載した現代の時計すべてが、古き良き時代を礼讃しているわけではない。経年変化したような夜光塗料のように、あくまで現代の時計デザイナーが持つ非常に豊富な引き出しからの1つの選択肢に過ぎないのだ(現代のムーブメントでスモールセコンドを実現するために、歯車を追加しなければならないなど現代の時計には皮肉なことが多いような気がする)。
これはムーブメントにおけるフォティーナ(訳注:ダイヤルに経年変化したカラーリングなど意図的にヴィンテージテイストを加える手法)だろうか? もしかするとそうかもしれない。しかし、選択肢があるということは、時計愛好家にとってはスタイルやデザインの選択肢が広がるということであり、喜ばしいことではないだろうか。
ETA2895-2の画像を提供してくれたCrown & Caliberのジョナサン・マクホーター氏に感謝する。OGのテクニカルウォッチライター、ウォルター・オデッツ氏によるセンターセコンドの詳細は、Timezone.comのThe Pursuit Of Center Seconds(センターセコンドの探求)のパート1とパート2をご覧いただきたい。