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オリジン・ストーリー
2021年、スイスを拠点にした新たなブランドが、高度なコンプリケーションを専門とするメーカーとして誕生した。それと同時に、ブランド初のリリースとしては記憶にある限り最高クラスの価格帯にも達した。そのブランドこそヴァンガード(Vanguart)であり、時計はブラックホール トゥールビヨン、価格はプラチナまたはゴールドのケースで32万スイスフラン(日本円で約5400万円)である。もし私と同じように、この価格に思わず驚いて目を背けスルーしたなら、それは少しもったいなかったかもしれない。たとえ8桁の価格帯の時計を買う予定がなくても、これはチェックしておく価値がある時計だ。
Photo courtesy Vanguart.
ヴァンガードは、2017年に4人の創業者によってスタートした。つい最近、そのうちのふたりであるCEOのアクセル・ロイエンベルガー(Axel Leuenberger)氏と会長のメフメト・コルチュルク(Mehmet Korutürk)氏に話を聞く機会があり、ブランド誕生の背景や、自分が見逃していたことを知ることができた。
ロイエンベルガー氏はAPRP(オーデマ ピゲ・ルノー・エ・パピ)でジュリオ・パピ(Giulio Papi)氏のもとで経験を積み、技術開発を担当。一方のコルチュルク氏は金融畑出身で、以前はF1チームを所有するプライベート・エクイティ会社(未公開企業への投資を行う会社)に勤めていたという異色の経歴を持つ。さらに、クリエイティブディレクターのティエリー・フィッシャー(Thierry Fisher)氏と、APRPで15年、ジラール・ペルゴで6年のキャリアを持つCTOのジェレミー・フレルショー(Jeremy Frelechox)氏が創業メンバーに加わった。そんなヴァンガードも設立から8年が経ち、今では15名のチームに成長。組み立て、仕上げ、デザインを担うスタッフがそろい、本格的にブランドとしての基盤を築いている。
Photo courtesy Vanguart.
ブラックホール トゥールビヨンは直径43mm、厚さ15mmと存在感のある時計だが、技術的な革新は内部ではなく、むしろ外観にある。このモデルはムーブメントとケースが一体化した設計になっており、フォルムはどこかUFOのような印象だ。特に目を引くのが、時・分・秒を表示する三重の同心円が立体的に配置されている点である。ダイヤルは中央に向かって傾斜し、その中心付近には1分間で1回転するフライングトゥールビヨンが浮かぶようにセットされている。このトゥールビヨンはダイヤルの中心から少しずれた位置にあり、まるで名前の由来であるブラックホールが重力で空間を歪ませているかのような視覚効果を生み出している。
ヴァンガードの第2作目となるオーブはデザインも価格もやや抑えめ…とはいえ、それもあくまでブラックホール トゥールビヨンと比べればの話だ。チタンケースで15万スイスフラン(日本円で約2500万円)、ローズゴールドで18万スイスフラン(日本円で約3000万円)と、依然としてかなりのハイエンドモデルであることに変わりはない。だが価格だけで判断するのはもったいない。この新モデルには、じっくりと味わうべき魅力が詰まっている。
我々がなぜ気に入ったのか
昨年あたりから新ブランド、ヴァンガードの投稿をちらほら見かけるようになったのだが、正直なところ、最初はちょっと疑いの目で見ていた。この価格帯となるとどうしても警戒心が働くものだ。実際、市場には他ブランドのデザインコードを借りたり、見た目の派手さだけで本質が伴わない時計を高額で売るブランドも少なくない。そうした時計を、価値を見極めるのが難しい人々に向けて売り込むケースもある。正直なところ、こうした時計の魅力を説明され続けることに、少し疲れてしまっていた。だからこそヴァンガードをほかのそういったブランドとひと括りにしてしまい、深く掘り下げなかったのは自分のミスだったと、今になって思う。
Watches & Wonders 2024での朝食の席で、元オーデマ ピゲのコンプリケーション部門責任者であるマイケル・フリードマン(Michael Friedman)氏が、ヴァンガードは本物だとベン(・クライマー)と私に言った。その後、小売店Material Goodのウォッチ部門責任者のヨニ・ベン・イェフダ(Yoni Ben-Yehuda)氏が、オーデマ ピゲ、リシャール・ミル、H.モーザー、ビバーと並べてヴァンガードの時計を取り扱い始めた。これをきっかけに“きちんと向き合うべき時計なのかもしれない”と思うようになった。実際にオーブを見てみて、予想以上に素晴らしかったというのが率直な感想だ。
ヴァンガード オーブは細部にこそ真価が宿る時計だ。パッと見た印象ではリシャール・ミルとロイヤル オーク コンセプトを融合させたようにも見えるが、それはそれで納得できる話だ。偉大な時計やブランドからインスピレーションを得ること自体、決して悪いことではない。実際、ロイヤル オーク コンセプトは個人的にもお気に入りの時計であり、手首のサイズ的に無理なくつけこなせる数少ないモデルのひとつだ。そしてこのふたつのモデルの存在を語る上で欠かせないのがAPRPだ。ロイエンベルガー氏やCTOのジェレミー・フレルショー氏が技術を磨いた場所でもあり、彼らのバックグラウンドを考えればヴァンガードのデザインにこれらの影響が見られるのも頷ける。ただヴァンガード オーブは、装着感と仕上げに特にこだわっているのが特徴だ。
オーブを手に取ってまず感じるのは、緩やかにカーブしたケースが手首に驚くほど自然にフィットすることだ。直径41mm、厚さ10.5mmとサイズのバランスも申し分なく、スタイリッシュで未来的なフォルムが快適なつけ心地を実現している。さらにじっくりと細部を見ていくほどに、細やかな工夫が随所に施されていることがわかる。
地板とブリッジにはグレード5チタンが採用され、サンドブラスト仕上げの表面には手作業によるサテン仕上げとハイポリッシュの面取りをあしらっている。このスケルトンムーブメントの仕上がりは見事で、時計内部を覗き込めるほどのオープンワークがありつつも、必要以上に見せすぎない絶妙なバランスが取られている(もし自分の青白い肌が映り込むのが苦手なら、その点も心配無用。まあ、それは自分だけの話かもしれないが)
ヴァンガードのロゴはブリッジにもしっかりと刻まれている。しかし、視線を少し引いてダイヤル全体を眺めると、見返しに浮かぶ2mmのブリリアントカットダイヤモンドが目に入る。このダイヤモンドは単なる装飾ではなく、ムーブメントを囲むペリフェラルローターのカウンターウェイトとして機能している。さらにもう1歩引いて観察すると、リューズにプッシャー機能が組み込まれていることにも気づく。
この仕組みにより、リューズを引くことなく時刻設定、ローターの作動(時計を動かすとダイヤモンドがダイヤル上を回転する)、ローターの固定という3つのポジションを切り替えられるようになっている。このデザインは一部のAP ロイヤル オーク コンセプトモデルに採用されているプッシャーとよく似た構造となっている。
最後に、装着感をさらに高めているのが、簡単に使えるクイックチェンジ式ストラップシステムだ。チタンモデルにはブラックストラップ、RGモデルにはホワイトストラップが付属し、簡単に交換できる仕様になっている。
次に来るもの
今年、ヴァンガードはスタッフを20名規模に拡大し、全チームをひとつの拠点に集約する計画を進めている。さらに自社の時計づくりに取り組むだけでなく、ルノー・エ・パピがかつてそうであったように、ほかのブランドの依頼にも応じ、技術提供を行っている。
15万スイスフラン(日本円で約2500万円)という価格帯には、多くの素晴らしい時計がひしめき合っているが、ヴァンガードのチームや米国の小売店Material Goodによれば、需要が高くて生産量が限られているため、最初の顧客を慎重に選んでいるという。オーブの年間生産本数は最大40本程度に抑えられ、ヴァンガードはあくまでも着実な成長を目指している。
とはいえ、ヴァンガードにまったく話題性がないわけではない。Material Goodのヨニ・ベン・イェフダ氏はアスリートやセレブリティとのつながりに長けているため、近いうちにヴァンガードの時計が著名人の手首に登場することも十分に考えられる。もちろん、その一方で“普通の人々”(少なくとも15万スイスフランを自由に使える人々)のための本数も、しっかり確保されているはずだ。
詳しくはヴァンガードの公式サイトをご覧ください。