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本稿は2015年11月に執筆された本国版の翻訳です。また、記事内で紹介されているオークション、およびイベントはすでに終了しています。
時計収集の世界に長くいればいるほど、より初期に作られた時計、特に“近代”以前のモデルに興味を抱くようになる。なぜかというと、例えばロレックス、オメガ、ホイヤーなどが1950年代から60年代にかけてはサブマリーナー、スピードマスター、カレラなどの時計をコレクションとして命名し、明確な区分を設け始めたタイミングであるからだ。しかし、これらの偉大なコレクションが登場する前に作られた時計は、存在のほとんどが知られていないだけでなく、そのピュアなデザインもまた魅力的なのだ。この記事では、フィリップスのジュネーブ・ウォッチ・オークションIIに出品されたロレックス製のコンプリケーションウォッチ全4本を紹介する。しかし、どれもサブマリーナー、GMTマスター、デイトナ、エクスプローラーの範疇には含まれない。だが、これらの時計には真の美しさが宿っている。
ロレックス Ref.3525 オイスター クロノグラフ
Ref.3525は、マーケットでめったにお目にかかれない時計のひとつである。本当にこの時計を理解しようとしない限り、その真価を見極めるのは難しい。Ref.3525はまた、オイスターケースに初めてクロノグラフを搭載したという点でロレックスにとって歴史的に重要な時計でもある。このリファレンスは1939年から1945年までの6年間しか製造されなかったが、フィリップスで見られるこの個体は、ここ数年で登場したイエローゴールドの時計としては間違いなく最高クラスの逸品である。
おそらく新品時から研磨されていないと思われるこの時計は、ケースに深い酸化が見られる。洗浄や何らかの手入れをしてしまっていれば、この雰囲気はとっくの昔に失われていたに違いない。文字盤にプッシャー、リューズ、針、そしてオリジナルのイエローゴールドブレスレットまでもが新品同様で、さらに希少なブラックギルト文字盤が魅力を添えている。そうそう、この時計がジョン・ゴールドバーガー(John Goldberger)氏が執筆したロレックス本で紹介されていることはもう言っただろうか? そう、それほど素晴らしいものなのだ。事前につけられた予想落札価格は明らかにそのクオリティを反映している。フィリップスによれば、このRef.3525は20万スイスフランから40万スイスフラン(当時のレートで約2420万円から約4840万円)で取引されるはずだという。詳細はこちら。
ちなみに、Ref.3525は実際に起こった“大脱走”で担った役割から、しばしば“捕虜(POW)”と称されている。
ロレックス パデローン Ref.8171 ステンレススティール製トリプルカレンダー ムーンフェイズ
ロレックスのフォーラムやマニュファクチュールの歴史に詳しい人たちはよく、トリプルカレンダーのムーンフェイズウォッチを復活させて欲しいと口にしている。ロレックスによるムーンフェイズ製造の歴史はそれほど長くないが、ムーンフェイズを搭載したふたつのリファレンス(ここで紹介するRef.8171と次の項目で紹介するRef.6062)は完璧に近かった。Ref.8171は、その薄型で大きなサイズ感から“パデローン”、あるいは“ビッグフライパン”と呼ばれることもある。まさに世界で最も魅力的な時計のひとつである。
Ref.8171はスティール、ローズゴールド、イエローゴールドの3種類で展開され、総生産数はそれほど多くない。しかもスティール製はごくわずかしか存在せず、ポリッシュ仕上げが施されたり、修復されていない状態のものはほとんどない。このオーバーサイズなトリプルカレンダー ムーンフェイズの個体を熱心なコレクターにとっての“夢の時計”から“あがり時計”へと昇華させているのは、そのコンディションによるところが大きい。鮮やかなブルーのアクセントを添えた完璧なエイジングの文字盤と、シャープで鋭いケースエッジをご覧いただきたい。
Ref.8171の良否を判断する方法のひとつが、裏蓋を見ることだ。裏蓋に刻まれたロレックスの王冠がまだはっきりと見える場合、その時計はあまり研磨されていないと言える。この個体では、王冠は深く刻まれており、この時計の全体的な品質を物語っている。このRef.8171の予想落札価格は35万から70万スイスフラン(当時のレートで約4235万円から約8470万円)で、スティール製ロレックスとしては高額だが、歴史、デザイン、希少性、品質を鑑みると平均的な6桁のデイトナをはるかに超える価値を持つ時計であることは間違いない。そして率直に言って、この時計はどんなデイトナよりもずっとクールだ。詳細はこちら。
ちなみにクリスティーズは2013年12月に、同じようにポリッシュ仕上げが施されていないダイヤモンドマーカー付きのスティール製Ref.8171を114万ドル(当時のレートで約1億1230万円)以上で落札している。
ロレックス ステッリーネ Ref.6062 ピンクゴールド製トリプルカレンダー ムーンフェイズ スターダイヤル
上記のRef.8171の兄弟モデルであるRef.6062は、よりスタイリッシュなオイスターケースにまったく同じムーブメントとデイト表示を備えている。Ref.6062は1950年代初頭のわずか3年間しか製造されなかったが、ロレックスのデザインにおける絶対的な頂点のひとつと考えられている。
この貴重なRef.6062は、ピンクゴールド製であること、そしてこのモデルが“ステッリーネ”と呼ばれる希少なスターダイヤルを備えていることでさらにその価値を高めている。この特別な個体は世界でもっとも完璧なヴィンテージ ロレックスのひとつであり、この個体は2004年以来、世界最高のコレクターによって暗い金庫にひっそりとしまわれてきた。それ以前は、この時計は最初の購入者の家族のもとでめったに使われない状態で保管されていた。
このステッリーネには、ケースとお揃いのピンクゴールドのブレスレットが付属している。このようなクオリティの時計は間違いなく高値で取引される。そう、ご想像のとおりだ。このピンクゴールド製Ref.6062 スターダイヤルの予想落札価格は50万から100万スイスフラン(当時のレートで約6050万円から約1億2100万円)で、スティール製のRef.8171よりもさらに高い。この素晴らしい時計の詳細はこちら。
ちなみに地球上でもっとも魅力的な時計のひとつにSS製のRef.6062がある。2015年12月のHODINKEEコレクターズサミットで講演するジェイソン・シンガー(Jason Singer)氏とのTalking Watchesで、その一例が紹介されている。
ロレックス Ref.2737 レギュレーター ノンオイスター クロノグラフ
Ref.3525のようにデイトナではないオイスター クロノグラフや、Ref.8171やRef.6062のようなトリプルカレンダー ムーンフェイズは、現在のロレックスにとっても十分に実現可能なものと思われる。だが、レギュレーター クロノグラフは今後もお目にかかることはないだろう。実際のところ、たいていの人々は、そもそもロレックスがレギュレーター クロノグラフを製造していなかったと考えているはずだ。しかしロレックスはそれを作り、ここにこうして存在している。Ref.2737は非常に希少な時計で、わずか12本しか作られなかったと思われる。この時計は1938年のもので、ヴィンテージ ロレックスの世界においては本当に特別なものだ。ここに見られるほかの初期ロレックスの時計と比較すると落札予想価格はやや控えめで、7万から10万スイスフラン(当時のレートで約847万円から約1210万円)である。ロレックスのこの見事なレギュレーター クロノグラフの詳細はこちら。
ちなみに、ロレックスが早くからレギュレーターウォッチを発表していたのに対し、パテック フィリップは最近発表されたRef.5235Gまでレギュレーターモデルを発表していなかった。
最終的な感想
私がこのような特別なロレックスのリストを作成したのは、Ref.6062のような時計を私が本当に大好きだからというだけでなく、ほかにどのような時計があるのかを紹介するためでもある。サブマリーナー、デイトナ、デイデイト、そして前世紀後半に作られたほかの時計が注目を浴びているからこそ、オイスターケースのスポーツウォッチよりも遥かに希少で美しいこれら初期の時計について、コレクターが十分な見識を得るためには長い年月を要することが多い。私たちにも責任はあるが、このような話をきっかけとして、より多くの人々に初期のモデルの素晴らしさに目を向けてもらえるのであればそれは大きな収穫だと思う。