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Just Because なぜダイヤルの数字が切り取られるのか(そしてなぜそれがなくならないのか)

6の数字はどこへ行った?

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本稿は2020年3月に執筆された本国版の翻訳です。

どんな専門分野にも興味深い特徴がある。人には苦手なものがあり、その点について同じ分野に属さない人には理解しがたいほど激しく怒ることが実際にあるのだ。時計も例外ではない。たとえば日付表示窓やケースよりもひときわ小さいムーブメントなどがその一例である。しかし現在我々が不快と感じるものが、必ずしも以前から問題視されていたわけではない。

 数多くのダイヤルで見られる好例として、インダイヤルによって部分的に切り取られた(カットオフされた)数字が挙げられる。最も一般的なものは、スモールセコンドのインダイヤルがある3針ウォッチで見られる切り取られた数字の6であるが、クロノグラフウォッチでも同様に、数字が切り取られているのを見かけることがある。

 切り取られた数字の使用は、我々が思っているよりもはるかに古くから使われてきた。何世紀にもわたり、時計や時計製造の一部として存在してきたのだ。伝統によって定着したことが必ずしも悪いデザインを正当化するわけではない(もしそれを悪いデザインだと感じるならばだ)が、この手法が広く普及していることは確かである。さらにこのやり方は、ダイヤルデザインの美しさで有名な時計メーカーでも採用されている。美しく創造的なダイヤルレイアウトの高い基準を確立し、これまでほぼ誰も超えることができなかったブレゲも含まれている。

 切り取られた6の数字には、基本的にふたつの理由がある。ひとつ目は時計のムーブメント内の歯車の位置に関連している。この歯車は1分ごとに1回転する。クラシックなレイアウトのムーブメントでは、ゼンマイ香箱からの順序は、香箱、センターホイール(その軸はムーブメントの反対側まで貫通していて、時針と分針を動かすモーションワークを駆動する)、3番車、4番車、ガンギ車、レバー(レバー脱進機を搭載した時計の場合)、そして最後にテンプとなっている。

 上記の図では、ゼンマイ香箱は左側にあり、4番車は右側に位置している。4番車はガンギ車を除いて、目に見えて輪列で回転している唯一の歯車である。この4番車は1分ごとに1回転し、秒針を付けたい場合の最も簡単な方法は、下の軸をダイヤル側に伸ばしてそこに小さな針を付けることだ。これで秒針が完成する。

 もう1度画像を見てみると、これが懐中時計のムーブメントであった場合、巻き上げ用のリューズが12時の位置にあることがわかる。このため、スモールセコンドのインダイヤルは6時に配置される。これはスモールセコンドを持つほぼすべての懐中時計に見られる配置だ。伝統的なレイアウトの腕時計用ムーブメントでは、巻き上げと時刻合わせのリューズを12時ではなく3時位置に配置するために少し異なる配置がされているが、基本的なレイアウトは同じである。

ブレゲのNo.1160は、有名な“マリー・アントワネット”であるNo.160の正確な復刻版である。こちらの場合、よく見るとVIの数字は切り取られているのではなく、むしろ隙間へと収まるように縮小されている。

 これは秒針のインダイヤル位置の説明にはなるが、6時位置の数字が切り取られている理由(または“マリー・アントワネット”のVIが縮小されている理由)を完全には説明したものではない。6時の数字を切り取る必要があるのは、実用的な理由と美的な理由の両方にあると思う。実用的な観点から言えば、秒針のインダイヤルは個々の秒を識別できるように十分な大きさであることが望ましい。もちろん、インダイヤルを小さくして分刻みのトラックに干渉しないようにすることもできるが、そうすると秒針が小さすぎて個々の秒を簡単に識別できなくなり、そうなると秒針という役割ではなく時計が動いていることを示すファンクションインジケーターにすぎなくなる。

 美的な観点から言えば、実際6時位置に数字がある場合にのみ、その数字を切り取る必要がある。例えば、ローマ数字やアラビア数字ではなくバーインデックスを使用している場合、分や時の目盛りに干渉してもそれほど目立たない。しかし、“6”の数字を切り取ることで奥行きがあるような錯覚を生み出すことができる。これは望ましい効果かもしれない。これが個々の好みに合うかどうかは別として、歴史的にはその魅力が広く受け入れられ、多くのメーカーやデザイナーに採用されていた。

1987年、アンドレ・ボルナン(André Bornand)作の天文台トゥールビヨンは、パテック フィリップのフィリップ・スターン(Philippe Stern)のために時計ケースに収められた。ワンミニッツトゥールビヨンは6時位置に配置され、秒針を駆動する。

 クロノグラフのインダイヤルによって時字が切り取られている時計も多く存在する。ダイヤルの位置は異なるが、基本的な理屈は同じだ。針の位置はムーブメントの歯車レイアウトによって決まるため、読みやすさを考慮してインダイヤルをできるだけ大きくしたいのだ。クラシカルな腕時計の美学に合った、直径で読みやすいクロノグラフをつくろうとすると数字が切り取られるのは避けられない。しかし古きよき時代には多くのデザイナーがこの選択に満足していた。

オーデマ ピゲ “ルネット キュビズム”クロノグラフ、ステイブライトステンレススティール製。1928年から1930年にかけて製造された9本のシリーズの一部。

 切り取られた数字やインデックスに対する真の解決策は、秒針をインダイヤルではなくセンターセコンドとして配置することである。センターセコンドが開発される以前、秒針を判別することが重要な人向けに、非常に大きなサブセコンドダイヤルを持つ時計が製造されていた。これらは“ドクターウォッチ”と呼ばれることもあり、その古典的な例が1920年代の初代ロレックス プリンス(Ref.971および1343)である。

初期のロレックス プリンス。Image, courtesy Rolex.

 秒針を、時針と分針と同じ軸に配置するためには、輪列を再配置する必要がある。当初は輪列の上に追加の歯車列を配置していた。これはいわゆる間接的なセンターセコンド表示であり、秒針は輪列の主動力の流れから外れて駆動される(ウォルト・オデッツのセンターセコンドの探求<The Search For Center Seconds>という記事は、さまざまなメーカーがこの問題にどのように取り組んだかが魅力的に語られている。パテックの有名なキャリバー12‴–120は、サプライヤーであるヴィクトラン・ピゲによって製作された間接的なセンターセコンド表示を備えていた。彼はまた、初のダイレクトセンターセコンドキャリバーが1948年のゼニス製Cal.133であったことも指摘している)。ダイレクトセンターセコンドの輪列を設計する技術的な問題が解決されると徐々に普及するようになった。現在、スモールセコンドダイヤルを持つ時計は、実際にはセンターセコンド用に設計されたムーブメントを使用しており、スモールセコンドを追加するために改造する必要がある。例としてETA 2825-2があるが、これは2824を改造したものだ。スモールセコンドのインダイヤルはモジュールを追加することで実装され、ムーブメントの厚さが4.7mmから6.6mmに増加する。

 伝統的な輪列配置を使用して6時位置に小秒針を持つムーブメントは、モジュールを追加している現代的なムーブメントに比べて、現在では少数派となっているようだ。ETAからは、ETA/プゾー 7001や6497ファミリーのムーブメントが例として挙げられる(手巻きの2801はセンターセコンドキャリバー)。高級時計の分野では、“自然な”スモールセコンドムーブメントがいくつか存在しており、そのなかにはパテックのCal.215や、最近ではモンブラン ヘリテイジ スモールセコンド LEのCal.MB 62.00が含まれる。

 したがって、スモールセコンドインダイヤルを持つ自動巻き時計の大多数は、実際には機械的複雑さを追加することでこれを実現している。元々は伝統的な時計ムーブメントの経済的なレイアウトとして生まれた秒針インダイヤルだが、いうなれば機械式時計の“フォティーナ”のような存在となっていると言えるだろう。もちろん、機械式時計そのものが、時計の歴史において不要な贅沢品と見なされることもあるフォティーナの一種であるとも考えられる。この観点からすれば、機械式時計は優れた技術によって長いあいだ取って代わられてきた不必要な贅沢品と言える。切り取られた6の数字について言えば、時計製造の技術史を見ればその起源が理解できるし、何世紀にもわたる時計製造において、その切り取られた数字が現代の時計愛好家に愛され続けてきた理由も分かる。見た目がなんとなく上品に見えるのだ。