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Auctions シルベスター・スタローンのグランドマスター・チャイムが540万ドルで落札。そしてヴィンテージパテック フィリップのコンディション評価についてニューヨークからお届けしよう

あまりにも個人的過ぎる3本のパテック 1463 クロノグラフを間近に見ながら、コンディションについて語る。

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シルべスター・スタローン(Sylvester Stallone)氏のパテック フィリップ グランドマスター・チャイムが、先週開催のサザビーズにて540万ドル(日本円で約8億4990万円)で落札された。これは小売価格を数百万ドル上回りつつも健全な値段である。

 少なくとも何人かの人々が、スタローンがこの時計を手に入れてからわずか3年で売却したことに対して不快感を示したが、そのうちのひとりがパテックCEOのティエリー・スターン(Thierry Stern)氏であった。

 「もちろん、私たちはそうしたことは好きではないですが、そういうことは起こり得ます」と、彼はスタローン氏の6300GについてWatchProに語った。「私はすべての人をコントロールすることはできません。長年このモデルを待ち望んでいた顧客にとって、それが売りに出されるのを見るのはフェアではないでしょう」

sylvester stallone patek 6300g

スタローン氏のグランドマスター・チャイムはサザビーズNYで540万ドル(日本円で約8億4990万円)で落札された。

 確かにスターン氏や潜在的な顧客にとって、パテックが毎年わずかしか製造しないグランドマスター・チャイムのひとつがすぐに売られるのを見るのはとても苛立たしいことだろう。手にしてから2年以上経って時計を売却することは、スタローン氏に“F(フリッパー、転売屋)”の烙印を永遠に押すことになるのだろうか? パテックの目から見れば確かにそう映るのであろう。そのインタビューでスターン氏は、基本的にスタローン氏は2度と新しいパテックを購入できないことを示唆している。

 しかしスタローン氏が何か悪いことをしたわけではない。彼は数百万ドルを支払って時計を購入し、それをどうするかは彼の自由である。当然ながら、行動には結果が伴うことは幼稚園児でも理解できることである。

 要するに、スタローン氏の出自があまり影響しなかったとしてもサザビーズの大物時計にとっては十分な結果であったことは間違いない。

ニューヨークオークションのヘッドライン
geoff hess sam hines

サザビーズは、サム・ハインズ(Sam Hines、左)氏がオークションハウスに再加入したと同時にジェフ・ヘス(Geoff Hess、右)氏の昇進も発表した。

お決まりのグランドマスターに関する話題が終わったところで、ニューヨークオークション全体の結果について話そう。はっきり言って結果は微妙だった。

 フィリップスの売上は2340万ドル(日本円で約36億8070万円)でトップとなり、サザビーズはライブとオンラインの合計で2100万ドル(日本円で約33億285万円)、クリスティーズは1320万ドル(日本円で約20億7610万円)で、オンライン販売でさらに数百万ドルが加わる見込みである。もっとも重要なことに、クリスティーズは今月ハッキングされなかった。これは正しい方向への1歩だ。参考までに、フィリップスの市場トップの総売上は昨年6月の2640万ドル(当時の相場で約40億300万円)であるため今回の結果は減少している。それでも、時計にしてはきわめて大金であることに変わりはない。

 人事面では、サザビーズはサム・ハインズ氏が時計部門の会長として再加入したほか、ジェフ・ヘス氏がアメリカ地域担当から時計部門のグローバルヘッドに昇進したことを発表した。この発表は、ヘス氏がフィリップスでスペシャリストとして活躍していたあとにサザビーズに参加してから約1年後に行われた。数カ月前からこの動きは予想されていた。ハインズ氏は数年前にサザビーズを離れてオンラインオークショニアのLoupe This(ループ・ディス)に移籍したが、そのあいだもサザビーズのコンサルタントを続け、いくつかの話題作を委託していた。

3本の異なるパテック 1463とコンディションに関する注釈
patek 1463 chronograph

(左から)アンティコルム(32万8500ドル、日本円で約5175万円)クリスティーズ(16万3800ドル)フィリップス(10万7950ドル、日本円で約2580万円)で過去1カ月のあいだに落札された3つのイエローゴールド製パテック 1463を詳しく見てみよう。

 数字や結果について話し続けることもできるが退屈に感じることが多いので、今回は少し違ったことを試みたいと思う。先月のジュネーブで、私は市場に出た最高のパテック フィリップ 1463を見た(アンティコルム・ジュネーブのロット134だ)。アンティコルムのマネージングディレクターであるジュリアン・シェーラー(Julien Schaerer)氏は、おそらく今まで見たなかで最高のものだと語っていた。そのあとすぐにポッドキャストに出演したディーラーのエリック・クー(Eric Ku)氏とジャスティン・グルーエンバーグ(Justin Gruenberg)氏もそれに同意し、32万8500ドル(日本円で約5175万円)の総額は少し期待外れだと言っていた。とはいえYGの1463にしては依然としてかなりの金額である。この時計を落札したイタリア人ディーラーは、その購入に非常に満足していたと聞いている。

 先週、ニューヨークでさらに2本のゴールド製1463が出品されたが、そのどちらもあの素晴らしい1463の半分以下の価格で落札された。今回のオークションの振り返りでは、この3本の1463を詳しく見て、それぞれが約10万ドル、16万ドル、そして30万ドル以上で落札された理由を理解しようと試みたい。

patek 1463 chronograph vintage

複数の人が、今まで見たなかで最高と言ったパテックの1463 クロノグラフ。

 ヴィンテージウォッチに詳しい方なら、すべてはコンディションに尽きるということはご存じだろう。それでは、資金力のある1463コレクターの心の中に入り込み、これら3本の個体を詳しく見てみよう。この希少なレベルにおいてコンディションとは本当は何を意味するのか、そしてそれがどのようにしてパテックの価格を2倍にするのかを見てみよう。

 まず、1463とは何かを簡単におさらいしよう。1463とは、すなわちこれまでに作られたヴィンテージ パテックのなかでも最もセクシーなモデルのひとつだ。防水ケースを備えた唯一のヴィンテージ パテック クロノグラフであり、その頑丈なケースと約35mmのプロポーション、タスティ・トンディ(Tasti Tondi)と刻まれたプッシャー、そしてその希少性により、コレクションにおける究極の1本とされている。イエローゴールドの製造数は約400本と推定されているが、そのうち市場に出ているのは200本にも満たない。

パテック 1463:文字盤

patek philippe vintage dial

エナメルサインが入ったヴィンテージ パテック フィリップの文字盤。

 はっきりと言うと、アンティコルムに出品された1463にはエベラール・ミラノのサインも入っている。それはそれでクールだが、この時計の魅力の大部分はやはりその完璧なコンディションにある。

 まずは文字盤から始めよう。これが正真正銘のパテックの文字盤であると確認したら、次に考えるべきはそのコンディションと、どの程度(そしてどれだけ慎重に)クリーニングされたかということだ。

 ほぼすべてのヴィンテージ パテックの文字盤は、少なくともある程度はクリーニングされている。そしてこれはまったく問題なく許容範囲内だ。パテックは文字盤をクリーニングして長期間使用できるように作っていた。現代の文字盤とは異なり、これらの文字盤のディテール、つまりパテックのサインや外周のトラックは浮き彫りされ、その後、硬質のエナメルで埋められている。これは手作業でとても時間のかかる工程だが、このため文字盤が研磨されクリーニングされたとしても、サインと外周のトラックは硬質エナメル(象嵌エナメル)で埋められているため、長持ちするのだ。

 これらの時計が修理のためにパテックに送られると、文字盤の状態に応じて慎重にクリーニングされる。このクリーニングの度合いは、文字盤の軽い洗浄や研磨から、文字盤がほぼ完全に復元され再度エナメル仕上げされるものまでさまざまだ。また、このクリーニングプロセスの過程でインデックスが取り除かれることもしばしばある。これについて詳しく知りたい方は、エリック・ウィンド氏の素晴らしいHSNY講義をチェックして欲しい

 文字盤は長持ちするように作られているが、クリーニングを重ねるごとに摩耗の痕跡が残る。エナメルが失われ、文字盤に垂直の筋が現れるのだ。インデックスが固定される文字盤の穴は摩耗して大きくなり、インデックスの下まで見えてしまうことさえある。インデックスを再び取り付けるとずれてしまうのだ。場合によっては、インダイヤルやカレンダーの開口部の縁の線は柔らかくなる。

 これらすべてを写真で確認することは難しいが、特にオークションハウスのカタログ画像で使用される場合は間違いなくレタッチされている。すべては主観的なものであり、文字盤によって異なることに注意して欲しい。なぜなら文字盤の製造とクリーニングは主に手作業で行われているからだ。このように私たちに不利な状況であっても、何が見えるか見てみよう。

 こうした時計を評価する際には、まず、その“理想的な”コンディションのオリジナルを見て、どのように見えるべきかを理解すると役立つ。多くの人が最高だと言っているアンティコルムのパテック 1463から見てみよう。

patek 1463 gold dial

 まずサインと外周のエナメルが完全に均一であり、どこにも欠損がないことに注目して欲しい。“PATEK PHILIPPE”のエナメルサインは浮き彫りになっているが文字盤に近い位置にある。文字盤のクリーニングが頻繁な場合、文字盤の素材が研磨されると、このサインはピッチャーマウンドのようにより浮き立って見えることがあるが、 (この時計では)サインが残っている。インダイヤルのラインもシャープでクリアだ。

patek 96 dial

“ブローンA(Blown A)”、Patek, Philippe & Coのコンマ、そしてGeneve"の“E”の上にあるアクセントが失われていることを説明するのに適した“ロングシグネチャー”のパテック 96。

vintage patek dial enamel

縦の筋が見られ、またサインに不均一なエナメルが見られることから一部のエナメルが塗り直されたと思われるヴィンテージパテック 439の文字盤。それでも、これは特別で希少な角形のプラチナ製パテックだ。

 文字盤がクリーニングされた場合、通常最初に失われるのはGeneveの“E”の上の小さなアクセントと、“A”の上部を結ぶクロスバーだ。後者はブロウンA(Blown A、つまり吹き飛ばされたA)と呼ばれる。1948年以前のロングシグネチャー、Patek, Philippe & Coと署名された時代のものでは、カンマもしばしば失われる。この1463ではこれらがすべてそのまま残っており、文字盤がクリーニングされていないことのさらなる証拠となる。

patek 1463

アンティコルムに出品された手付かずの1463。

 この1463の画像をベースに、ニューヨークで売られたほかのふたつの1463を見てみよう。まずはフィリップスの個体から。

vintage gold patek 1463 chronograph

 この1463は10万7950ドル(日本円で約1705万円)で落札されたが、一見すると基本的に同じ時計だ。これらの時計の抜粋情報によれば、製造年もわずか1年違いであることを示している。しかしパテック フィリップのサインにズームインしてみると、いくつかの違いに気づくだろう。このサインには、Geneveの最初の“E”の上のアクセントが失われており、これはクリーニングの最初の兆候だ。またサインのエナメルがいくつかの箇所で不均一であることにも気づくだろう。特に“E”のところで顕著なエナメルの部分的欠損が見られる。また外周の数字のトラックにもエナメルの退色が見られる。すべての要素がまだ残っているが、上記のアンティコルムの例と比較してみて欲しい。

patek 1463 dial

アップで見てみよう。

 次にインデックスと針を見てみよう。まず、魅力的に感じられる温かみのあるパティーナが見られることに気づくだろうが、これには取り扱いによる傷も見られる。そして一部のインデックスの下には、インデックスが取り付けられている部分に穴が開いているように見える。

 また特に時針にはいくつかの傷があることに気づくだろう。さらに分針は時針よりも黒ずんでいるように見える。インデックスにパティーナが見られるため、これがオリジナルかどうかは分からない。

 最後に、インダイヤルは前の個体よりもわずかに線が柔らかく時間の経過とともに研磨されたことを示している。

patek 1463 gold

クリスティーズ・ニューヨークに出品された1463。

 クリスティーズで16万3800ドル(日本円で約2585万円)で落札されたゴールドの1463を見てみよう。前の個体と同様に、サインと外周のトラックには少し色あせたエナメルが見られる。これらの画像では、ほかのものよりも研磨を示す薄い縦の筋が分かりやすいように思われるが、写真ではこれが分かりにくいことがよくある(私のほうでもLightroomで画像を調整して、シャープさとコントラストを上げて見やすくした)。また、自分でもおかしくなったのかと思い文字盤に横線をいくつか引き始めたが、よく見ると一部のインデックスが少しズレて左右非対称になっており、クリーニングの際に取り外され再び取り付けられたことを示している。

 おもしろいことに、Everywatchがいくつかの数字を計算してくれた。過去1年間のイエローゴールドの1463の平均売却価格は16万3000ドル(日本円で約2570万円)であり、これによりクリスティーズのこの個体がほぼ“平均的な”1463であることの証拠となった。

パテック 1463:ケース

 文字盤の話はかなり深く掘り下げたため、ケースの話は手短にするが、いくつかのポイントを指摘しよう。文字盤と同様に、これらのパテックのケースは、傷を取り除くために修理に出された際に研磨される。しかし現在において、大物コレクターたちは元のシャープで完全なラインが残っているケースを好む傾向にある。

 アンティコルムに出品された1463は非常に印象的だった。なぜならこれらのすべてを備えていたからだ。

patek 1463

特にベゼル、ラグ、ラグ穴のシャープなラインに注目して欲しい。

 アンティコルムのシェーラー氏が最初に私に指摘したのはベゼルだった。ベゼルの平坦さ、そして側面からミドルケース、文字盤に向かって下がる左右の鋭いラインを見て欲しい。ほかのほとんどの1463では、このラインはもっとソフトだ。ほかの個体で、ベゼルがどれほど丸みを帯びているかを見て欲しい。

patek philippe 1463 gold bezel

アンティコルムの個体(左)の平らなベゼルとその鋭いエッジを、フィリップスの個体(右および下)のより丸みを帯びた形と比較してみて欲しい。これがケース研磨の兆候だ。

patek 1463 gold case

 ラグのエッジと厚みを見ることも重要だ。

patek 1463 case

アンティコルムとクリスティーズの個体(それぞれ左と右)を比較して、ラグの厚みとそのエッジの鋭さを見て欲しい。最初の個体はラグが厚く、エッジがより鋭くなっているのが分かる。

 ゴールドウォッチを見る際、人々はホールマークから始めることが多い。これらのホールマークを見ることは重要だが、それだけでは分からないことがある。これらの3つの時計を例に挙げてみよう。それぞれの時計にホールマークが刻印されているが、全体的なコンディションは大きく異なる。まず、すべての時計の背面ラグに刻まれたホールマークが見えるが、どれも比較的鮮明だ。

patek 1463 chronograph

各1463の背面ラグに刻まれたホールマークはまだ残っているが、研磨の度合いには差がある。それぞれアンティコルム(左)、フィリップス(上)、クリスティーズ(下)の個体だ。

 これらの1463には、リューズとクロノグラフのプッシャーのあいだにあるミドルケースにもうひとつのホールマークがある。しかしほかの場所に研磨の跡が見られる時計でも、これらのホールマークは研磨ホイールで触られることはほとんどない。ケースの研磨作業をしている人は、リューズやプッシャーを外してすべて隅々まで手を入れようとはしないのだ。仕事がケースの仕上げだけの場合、どうしてわざわざムーブメントに影響する要素に手を出すというのだろうか?

 これらのホールマークを見ることは素晴らしいことだが、コンディションを評価する際にはケース全体を見ることが重要だ。

patek 1463 chronograph

1463はさまざまな程度の磨きが見られるが、リューズと下部プッシャーのあいだのホールマークは研磨後も残る。ここに研磨ホイールが細かい部分まで届く可能性は低いからだ。それぞれアンティコルム(左)、クリスティーズ(右)だ。

コンディションに関する結論

パテックであれ、ロレックスであれ、カルティエであれ、そして私のようにeBayに潜む人間が手にいれるようなモバードやミドーであれ、さまざまなブランドの時計を見ていると、ヴィンテージウォッチの購入においてコンディションの評価が最も重要な考慮事項となっている。時計が“レア”かどうかよりも、そのコンディションがどのようなものかが重要なのだ。

 はっきり言っておくが、クリーニングや研磨された時計が突然望ましくなくなるわけではない。これらはどれも6桁もの値がするパテックだ! ただし理解することは重要だ。主観的な好みがどこから入り込み始めるかも分かる。たとえば、私はフィリップスの1463のインデックスの温かみのあるパティーナが好きだ。あなたは私と意見が異なるかもしれないが、それは問題ではない。

 本稿では、オークションに出品された時計のコンディションの評価について簡単に紹介した。もしこの記事を楽しんでいただけたのなら、ヴィンテージウォッチのコンディション評価についてもっと掘り下げたシリーズをお届けできるかもしれない。