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Auctions 春の時計オークションから学んだ7つのこと、そして浮き沈みのある“市場”を読み解く

不完全かつ非常に主観的ではあるが、最初の大きなオークションシーズンが終わったので、いい結果も悪い結果も含めていくつかのリザルトについて話すときが来た。

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昨年も書いたように、最近の大規模なオークションは今日における真の市場を示すのと同時に、マーケティング活動としての側面も持っている。昨年の春と違って今年はジュネーブに行かず、クリスティーズ、サザビーズ、フィリップス、アンティコルのオークションをライブストリームで視聴し、ほかの人たちをとおして間接的に体験していた。遠くから見ると、数字や結果に注目してしまい、実際の時計のことを忘れてしまいがちだ。

 数字が示すとおり、総売上3590万スイスフラン(日本円で約55億1065万円)を売り上げたフィリップスは、5本の時計が100万スイスフラン(約1億5350万円)以上で売れるなど、市場をリードし続けていることがわかる。クリスティーズは依然ウェブサイトがダウンしているにもかかわらず、2280万スイスフラン(日本円で約34億9980万円)まで到達し、サザビーズはオンラインセールでまだ数百万が未決ながら1100万スイスフラン(日本円で約16億8850万円)を売り上げた。

 ただこれらは単なる数字に過ぎず、全体の物語を伝えるものではない。今回は、そこからより詳しく見てみることにする。数字の末尾にあるゼロをすべて無視して、春のジュネーブオークションから学んだ7つのことを紹介しよう。

1.コップはすでに半分空なのか、それとも半分も満ちているのか?

 先日、妻がある投資目論見書(ウォール・ストリート・ジャーナルに気をつけろ!)を評価していたとき、私は冗談で“目論見書が右肩上がりのグラフでいっぱいでないなら、十分に頑張っていない証拠だ”と言った。

 このかわいい小話のポイントは、私がおもしろい(?)冗談を言ったことではなく、ジュネーブオークションの結果についても基本的には同じように感じているということだ。価格は明らかに玉石混交であり、それがいいか悪いかは、結局“コップはすでに半分空なのか、それとも半分も満ちているのか”という視点の問題に過ぎない。金曜日には、延期していたOnly Watchチャリティーオークションが週末の雰囲気を決定づけた。上位(パテック フィリップ、ジュルヌ、ヴティライネン、レジェピのような有名な独立時計師から、オフレ、ペテルマン・ベダ、シルヴァン・ピノーなどの新進気鋭まで)の業績は好調で、大半の結果は平均的なものだったが、一部の悪い結果が全体の感情を押し下げた。

 これは何よりも、この市場がいかに薄く、潜在的に脆弱であるかを物語っている。SJXが指摘したように、過去2回パテックOnly Watchエディションを落札した入札者は、今回の入札に参加しなかった。もし彼がそこにいたら、この(依然として華やかな)1730万ドル(日本円で約23億3896万円)のスティール製ソヌリ&ミニッツリピーターは、あと数百万ドル高くなっていたかもしれない。

2.優れたヴィンテージウォッチは、ほとんどの場合、今でも優れたヴィンテージウォッチである

 これを続ければ続けるほど、私は“市場”の状況について包括的な発言をするのにためらうようになる。収集の分野には多くの小さなコミュニティが存在し、それらはほとんど関連性を感じさせないほどである。

 では、ヴィンテージウォッチから始めよう。一般的に、状態のいい希少なヴィンテージウォッチが好調であった。当たり前のように聞こえるかもしれないが、決してそうではない。

 まず、この週末の最大の成果は、アンティコルムにて330万ドル(日本円で約4億4616万円)で落札されたピンクゴールドのパテック ワールドタイマーだ(上のヒーローイメージを参照)。プレビューでも触れたので詳細は割愛するが、これは私が幸運にも手にすることができたヴィンテージウォッチのなかで、間違いなく3、4本の指に入る最も素晴らしいヴィンテージウォッチのひとつだ。クロワゾネエナメルダイヤルを持つRef.605はこれが3本目で、スペインにある本家から市場に出たばかりの個体である。

patek 1463 eberhard

エベラールのサインが入ったRef.1463は29万3750スイスフラン(日本円で約4510万円)で落札。ケースコンディションもよく、さらに高値がついてもおかしくなかった。

patek 439 platinum

ユニークなプラチナ製レクタンギュラーのパテック439。似たような時計をオーデマ ピゲやヴァシュロンからも見つけることができる。このカルティエサインの入ったAPのように。

 とはいえ、非常に良好なコンディションのパテック 1463 “タスティトンディ”は29万3750スイスフラン(日本円で約4510万円)で売れ、ユニークなプラチナ製レクタンギュラーのパテック 439は5万2500スイスフラン(日本円で約806万円)で売れた。どちらもプレビューで際立っていた時計で、1463はその状態、439はその希少性で注目されていたため、さらに高い評価を得てもおかしくなかった。来週公開のHodinkee Radioのエピソードでお聞きいただけると思うが、ディーラーのエリック・クー(Eric Ku)氏は1463の結果を“少し残念だ”とさえ言っている。

 そのほか、サザビーズでデイトナ “ジョン・プレイヤー・スペシャル”が売れ残ったが、その数時間後のフィリップスでは150万ドル(日本円で約2億280万円)で落札されていた。販売された個体は、はるかにいいコンディションであった。サザビーズは売れ残った品のリストを削除するという奇妙なことをしているので、その違いを見せることができないが、サザビーズのほうのJPSは60万スイスフラン(日本円で約9210万円)という低い見積もりを超える関心を得ることができなかったようだ。

john player special rolex daytona

またまた100万ドル(日本円で約1億3520万円)超えのジョン・プレーヤー・スペシャルがフィリップスから登場した。

 フィリップスのほうのJPSは、少なくとも過去数シーズンで見たなかで3番目にいい個体だ。昨年の春、私たちはサザビーズ・ジュネーブで記録を破った例(223万スイスフラン、当時の相場で約3億4155万円)と彼らのニューヨークセールでのもうひとつの好例(150万ドル、当時の相場で約2億1230万円)を取り上げたので、真剣にJPSを手に入れたいコレクターなら、今春のサザビーズで売られたような状態が劣るものよりも、優れた状態の例のひとつに目をつけたのだろうと想像する。全般的に、ジュネーブで成功するはずだった時計はそのとおりの結果を出した。

 これらのJPSの結果は、より大きなポイントを示している。希少性は重要だが、現代のコレクターにとっては状態の伴わない希少性だけではあまり意味がないということだ。

3.不必要で、余分で、美辞麗句的な形容詞は控えよう
patek 2577

個人的な今シーズンのお気に入りは、パテックの2577である。エナメルダイヤルを備えた数少ないヴィンテージカラトラバのひとつであり、手巻きムーブメントとこの角ばったケースを備えた唯一のモデルだ。フィリップスにて11万4300スイスフラン(日本円で約1755万円)で落札

 ちょっと余談になるが、オークションハウスはいつも形容詞を多用してきた。その理由は理解できる。しかし、少しやりすぎなところもある。週末のオークションで見た、私のお気に入りロットについての説明文をいくつか紹介しよう。

  • このパテック カラトラバ 2577は、“信じられないほど希少”で“驚異的な”時計と表現されている。確かに、私はこの2577をポッドキャストのプレビューで、今シーズンお気に入りのヴィンテージパテックのひとつとして取り上げた。エナメル文字盤を採用した数少ないヴィンテージカラトラバのひとつで、ほかのカラトラバ(2526や3428)とは異なり、2577は手巻きムーブメントを搭載している。しかし、どうして腕時計が驚異的と表現されるのだろうか?
  • ダイヤモンドをセットしたこちらのヴァシュロンは、“言葉では言い表せないほど美しく、非常に収集価値がある”と評されている。この、言葉では言い表せないほどレアな時計は、残念ながら週末のオークションで落札されなかった。私は多くのヴィンテージヴァシュロンを愛しているが、それらが常に過小評価されていると感じているので、この美しい時計がふさわしい持ち主に出合うことを心から願っている。真面目な話、ダイヤモンドがセットされたゲイ・フレアー社のブレスレット、そして同じK1071キャリバー(JLCのエボーシュをベースに、ヴァシュロンが独自の仕上げを加え、ジュネーブシールの基準までチューニングしたもの)を持つ別のリファレンスを所有していた経験から、同クラスのなかで最も印象的なヴィンテージムーブメントのひとつだと言える。しかし、なぜこれが言葉では言い表せないのだろうか?

 マーク・トウェイン(Mark Twain)の名言を思い出した。“『非常に』と書きたくなるたびに『ちくしょう』に置き換えなさい。そうすれば編集者がそれを削除して、文章は本来あるべき姿になるだろう”。オークションハウスも同じことをするときが来た。これらの時計について事実に基づいた説明をし、形容詞は控えるべきだ。

4.オークションの定番となったカルティエ
cartier watches at auction

オクタゴンシェイプのカルティエ ロンドンウォッチ(12万7000スイスフラン、日本円で約1949万円で落札)と、1930年代のタンク ア ギシェ(40万6400スイスフラン、日本円で約6238万円で落札)は、カルティエがオークションで引き続き強いパフォーマンスを見せていることを示す。私は最初の細長いオクタゴンシェイプが大好きで、カルティエ ロンドンの奇抜なデザインを完璧に表現している。この時計は元の所有者から直接出品されたものだ。

 オークションの世界では、伝統的にはパテック、ロレックス、そしてその他のブランドという順番だったが、ここ数年でオークションハウスがより多くの現代的かつインディペンデントな時計を取り扱うようになり、状況は変わってきている。例えば、フィリップスの219ロットのうち124ロットがパテックかロレックス(75本がロレックス、49本がパテック)の時計だった。カルティエは、1970年代まで十分な数の時計を製造していなかったため、今後の主要オークションに出品される量も決して多くはないだろうが、カルティエがオークション市場において確固たる地位を築きつつあることは明らかである。

 フィリップスでは1930年代のタンク ア ギシェが40万6400スイスフラン(日本円で約6238万円)で落札され、ジュネーブで注目を集めた。さらにロンドン サントレを筆頭に、フィリップスには10万ドル(日本円で約1352万円)以上で売れたカルティエが3本もあった。“平凡”なクラッシュがなくても(ベンのために言っているよ!)、カルティエは今シーズンも存在感を示した。カルティエの“熱狂”が始まってから5年近くになるが、これは一過性の流行ではないと自信を持って言える。その他のトレンドについては? 確信が持てない。

5.インディーズの浮き沈み
schumacher watches collection

ミハエル・シューマッハのコレクションが、クリスティーズのセールのハイライトとなり、ユニークな“ヴァガボンダージュ1”は160万ドル(日本円で約2億1632万円)で落札された。

 2020年から2022年にかけてのジュルヌ価格の急上昇は、インディペンデントブランド市場がどれだけ急速に成長したかを最もよく表しているが、それは決して持続可能なものではなく、先週末の結果はそれを明らかにした。ジュルヌの主要ロット(こちらと、こちらと、こちらと、こちら)を見てみると、12~18カ月前の異常な高値からは少し下がっていることがわかるが、劇的に下落したわけではない。とはいえ、シューマッハのジュルヌは好調だった。ユニークなヴァガボンダージュ1は160万ドル(日本円で約2億1632万円)で落札され、同じ買い手がルテニウムモデル全5本を190万ドル(日本円で約2億5688万円)で落札した(注: この記事の公開時点でクリスティーズのサイトがまだダウンしているため、セールのほかの最終結果については報告していない。このサイバー攻撃により、来週行われる大規模なアートオークションにどう影響するのか、注目したい)。

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フィリップスにて、115万5700スイスフラン(日本円で約1億7740万)で落札されたRRCCI。

 ジュルヌがインディペンデント市場のすべてを吸い尽くす存在でなくなった今、ほかのインディーズが輝きを増している。レジェップ・レジェピのメガヒットとなったOnly Watchの結果に続き、RRCIがフィリップスで115万5700スイスフラン(日本円で約1億7740万円)で販売された。ほかの人たちは、CCシリーズがもっと出荷されるにつれて、これがちょっとしたピークまたは停滞期になるはずだと指摘しているが、いまのところ、文字盤に“レジェピ”と書かれたものは地球上で最もホットな存在である。

 クリスチャン・クリングス(Christian Klings)の個体が登場するたびに(この時計師がつくった時計は約35本しかないため、その希少性が高く評価されるからなのだが)、ほとんどの場合いい結果を出す

 そのほか言えることは、ランゲへの関心は依然として不思議であるということだろうか。この週末、フィリップスアンティコルムにて初期のプール・ル・メリット・トゥールビヨン2本が販売されたが、どちらも前回の結果を下回っている。同様に、サザビーズにて5万800スイスフラン(日本円で約780万円)で落札されたオリジナルのダトグラフも、数年前には8桁の価格を見せていた。

 しかし、ランゲにとってすべてが暗い話題ばかりではなかった。

6.“時計学的に画期的な”時計が興奮を引き起こすこともあるが、そうでないこともある
steel lange 1 blue dial

見たことのないものがいい例として、33万200スイスフラン(日本円で約5069万円)で落札されたブルーダイヤルのSS製ランゲ1が挙げられる。

 今シーズンのハイライトのひとつは、“時計学的に画期的な”フィリップスのSS製ランゲ1だった。SS製のランゲ1にブルーダイヤルが採用されたのはこれが初めてで、見た目も非常に美しい。ランゲが元のシルバーダイヤルを、青いダイヤルに交換したことを示すeメールも提供されている。

 興味深いことに、時計の書類にはRef.101.027Xと記載されている。これは通常のSS製ランゲ1に与えられるものではなく、ホワイトゴールドケースにシルバーダイヤルをセットした“シークレットリファレンス”のL1(ランゲ1)である(ランゲが公表しなかったためにシークレットとなった)。この一連の情報はランゲの歴史のなかでも興味深い部分だが、結局のところ、SS製のランゲ1はSS製のランゲ1であり、それは極めて希少な時計を意味する。多くの推定では生産数は約30本とされている。

 青いダイヤルを持つこのSS製ランゲ1は、最終的にフィリップスで33万200スイスフラン(日本円で約5069万円)という好調な結果を見せた。標準的なL1としては、私が見つけた限りでは最高の価格で、市場がこの時計を“受け入れた”ことを示していると言えるだろう。

rolex 6265 gold champagne dial

これまで見たことのないシャンパンダイヤルの6265もオークションに出品されたが、こちらは売れ残った。

 しかし、“時計学的に画期的な”新しい発見が、必ずしも歓迎されるとは限らない。その例として、フィリップスで落札されなかった“ゴールドアルビノ”デイトナ 6265がある。これまで見たこともないようなシャンパンダイヤルを持つデイトナであり、もちろん、それは伝説的なSS製アルビノデイトナを思い起こさせるものだったが、入札の勢いを得ることができず、20万スイスフランから40万スイスフラン(日本円で約3070万~6140万円)の見積もりに対して落札されることはなかった。登壇したオーレル・バックス(Aurel Bacs)氏が、入札者にとって“エキゾチックすぎる”とジョークを飛ばすほどだ。

 ほんの数年前だったら、この時計はかなりの値段で売れていたかもしれない。しかし何らかの理由で、今回は市場がそれを受け入れる準備ができていなかった。

7. ハイプ(熱狂)は完全に終わったわけではないが、危機的状況にあるのは確かだ
patek 5711 nautilus tiffany and co

 全体をとおして一貫していたのは、現代における大量生産された時計の市場が低迷しているということだった。最近だと、特に理由もなくモダンなハルクサブマリーナーが、オークションでほぼ10万ドル(日本円で約1352万円)で売れる時代は、ありがたいことに過去のものとなった。

 しかし、このハイプ時代を最も象徴する時計、ティファニーのノーチラス 5711が再び登場した。今回はオンラインオークショニアのLoupe Thisで出品されたが瞬く間に100万ドル(日本円で約1億3520万円)を超えた(このオークションは金曜日まで続く)。もちろん、最初のものはチャリティーオークションに登場し、650万ドル(当時の相場で約7億3800万円)で落札された。以来通常の結果は下がり続け、300万ドルから200万ドル(日本円で約4億560万~約2億7040万円)、現在ではディーラーによって150万〜160万ドル(日本円で約2億280万~約2億1632万円)の範囲で提供されている。

 よくも悪くも、ほかのどの時計よりも“ハイプ”を表すようになったのはこの時計である。正直なところ、こんなに早く9桁になったのには驚いた。ティファニー 5711のハイプは依然として根強いが、同類のほかのほとんどの時計はまだ横ばいから下降傾向にある。これは時計市場にとって最も健全な現象のひとつだと思う。