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Auctions クリスティーズのオークションを前にF1界のレジェンド、ミハエル・シューマッハの時計をハンズオン

クリスティーズはシューマッハの時計9点をオークションに出品した。そのうちの2本について、詳しく触れていく。

ときには、時計自体ではなく、その裏にある物語が重要になることがある。ポール・ニューマンの“ポール・ニューマン”デイトナは、そのモデルの最高の例というわけではなかったが、彼の“ポール・ニューマン”だったから高名となったのだ。そして今週行われるクリスティーズ・ジュネーブオークションで出品されるある個体のように、その両方の要素を持つ時計が現れることもある。というのもクリスティーズが販売しているのは、単に伝説的な人物が所有していた時計というだけではない。レジェンド的人物がオーダーし、また別のレジェンド的人物が製作した時計を、そのスポーツにおける史上最高の人物、ミハエル・シューマッハを称えるための贈り物として出品しているのだ。

Michael Schumacher's Watches

 今週末のクリスティーズのオークションは、実際には“ミハエル・シューマッハの所有物を含むレアウォッチ(Rare Watches Including the Property of Michael Schumacher)”と題され、F.P.ジュルヌの“ルテニウムコレクション”の全セット(99セット中92番目のセット)が同オークションに出品される(セット用のボックスも含む)。推定価格は最低でも15万スイスフラン(日本円で約2562万円)から。クロノメーター・レゾナンスやトゥールビヨンモデルに至っては最大50万スイスフラン(日本円で約8541万円)に達する見込みである。またデイトナも2本あり、ひとつは交換されたベゼルと追加の“ポール・ニューマン”ダイヤルを持つ金無垢のRef.6241で、もうひとつはRef.6262の“ポール・ニューマン”である。しかし、これらは量産品だ。ストーリーの観点から見る場合、真のハイライトはオーデマ ピゲとF.P.ジュルヌのふたつのユニークピースである。

AP Michael Schumacher

 ホワイトゴールドのオーデマ ピゲ ロイヤル オーク クロノグラフは2003年製で、推定価格は15万~25万スイスフラン(日本円で約2565万~4280万円)だ。6時位置のインダイヤルにはアイコニックな“跳ね馬”エンブレム、9時位置にある12時間積算計にはフェラーリの赤と黄色のヘルメットがデザインされている。時計は長年(誇らしげに)使われてきたようで着用感があり、ベゼルには傷が見られる(世界チャンピオンでもロイヤル オークの傷は避けられない)。特に3時位置のインダイヤルと裏蓋には、特別なカスタマイズが施されている。

AP Michael Schumacher

 3時位置のインダイヤルの中央には6つの星と数字の“1”があしらわれており、これはシューマッハがオーダーするまでに獲得した6度のF1ワールド・チャンピオンシップに対して敬意を表したものだ。時計の裏側には、シューマッハがチームベネトンで優勝した1994年と1995年、フェラーリで四連覇を達成した2000年と2003年を囲む月桂冠があしらわれている。“Royal Oak”の刻印の下には、当時スクーデリア・フェラーリのレース部門のゼネラルマネージャーであったジャン・トッドから、シューマッハへのクリスマスの贈り物として心温まるメッセージ、“J. Todt pour M. Schumacher, Noel 2003”が刻まれている。

AP Michael Schumacher
AP Michael Schumacher

 翌年、トッドはシューマッハの当時の記録である7度目のワールド・チャンピオンを、今度はF.P.ジュルヌのユニークな作品で祝した。2004年に製造されたプラチナ製のこのユニークなヴァガボンダージュ1は、この時計が実際に市販される2年前(2006年)につくられたもののため、現存するヴァガボンダージュの初期モデルのひとつとなる。さらに推定価格は驚異の100万~200万スイスフラン(日本円で約1億7085万~3億4180万円)と、非常に高額だ。

FPJ Michael Schumacher

 ヴァガボンダージュはF.P.ジュルヌにとって、長い歴史を持つ興味深い時計である。1997年、フランソワ=ポール・ジュルヌは“カルペ・ディエム”と呼ばれるユニークな時計を製作した。それは中央に見えるテンプを中心に、ジャンピングアワーとワンダリングミニッツを備えた自動巻きムーブメントを搭載していた。2003年までに、彼はICMチャリティーオークションのためにローズゴールド、イエローゴールド、WGの3種類の金属で、同じワンダリングアワー表示とセンターテンプを備えた3本のユニークピースを製作し、それをヴァガボンダージュと名付けた。この時計は最終的に3つのシリーズで製造され(最後のシリーズは2017年に発表)、その後生産終了となった。

FPJ Michael Schumacher

 この裏にもジャン・トッドからミハエル・シューマッハへのクリスマスプレゼントとしての刻印がある。文字盤は前モデルよりも明らかに“フェラーリ”らしい特徴を持っている。F.P.ジュルヌ(彼とブランドの両方)はトッドと密接な関係にあり、2022年のクリスティーズにて200万スイスフラン(当時の相場で約2億4555万円)近くで落札されたこのサンティグラフのように、ユニークな作品を製作してきた。同じくフェラーリレッドが、サンティグラフの量産モデルにも施されることになる。

 ここでは、通常の12個のインデックスではなく10個のインデックス、フェラーリのエンブレム、シューマッハのレーシングヘルメットの写真風プリント、彼の7度のワールド・チャンピオンを示す7つのV(ビクトリー)エンブレムなど、フェラーリのデザインが顕著に見られる。このデザインで一番目を引くのは、独特の低解像度なドットマトリックススタイルの文字盤でレトロな雰囲気を醸し出している点だ。どちらの時計も、今週末のセール開始時には、F1コレクターにとって素晴らしい一品となるだろう。

FPJ Michael Schumacher

クリスティーズの“ミハエル・シューマッハの所有物を含むレアウォッチ(Rare Watches Including the Property of Michael Schumacher)”セールは、5月13日午後2時(CET、東部標準時午前8時)から開催される。