Photos by Brandon Menancio and Michael Cedeño
グランドセイコーは、私が最もお気に入り時計ブランドのひとつです。というのは冗談ですが、本当に大好きなんです! 数年前、妻が結婚記念日のプレゼントにこのアイボリーダイヤルの美しい時計を贈ってくれて以来、このブランドに惚れ込んでいます(妻よ、ありがとう! 僕も愛しているよ!)。仕上げへのこだわり、先進的なムーブメント技術、そして自然からインスピレーションを得たユニークなデザインは、常に私を魅了し、インスパイアし続けてくれています。
グランドセイコーの信州 塩尻の工房には、マイクロアーティスト工房と呼ばれる、世界トップクラスの職人たちの小規模なチームが存在し、通常では考えられないほど贅沢な時計を作っていることを知ったとき、私はすぐに興味をそそられました。
この工房から生まれたのがクレドール 叡智IIです。クレドールは日本のドメスティックブランドですが、グランドセイコーを作っている人たちが同じ工房で作っているのです。18Kローズゴールド(RG)の時計は、一見するとシンプルなデザインでエレガントに見えますが、ほんの少し掘り下げてみると、グランドセイコーレベルのディテールに慣れている人でも、すぐに心を奪われるようなディテールの数々に出合えるはずです。
ダイヤルを見てみましょう。シンプルでしょう? でもそれだけではないのです! このダイヤルはノリタケの磁器でできていて、日本でたったひとりの時計職人しか作ることができません。その技術を持ってしても、磁器のダイヤルを作るのは非常に難しく、歩留まりが低いのだそうです。
このアワーマーカーは、青い線をプリントしただけのものかって? それも違います。この鮮明な線は、マイクロアーティスト工房のひとりの職人が手作業で描いたものなのです。僕は絵を描きませんし、手書きもあまり得意ではありませんが、このアワーマーカーを作るためにどれだけ手の震えを止めないといけないか、とても理解できるものではありませんでした。
これだけでもすごいのですが、さらにもうひとつ。12時位置の下にあるクレドールのエンブレムも手描きで、ダイヤル6時位置にあるキャリバーナンバーと生産国を示す小さな文字も、なぜか手描きなのです。まさに想像を絶する匠の技です。
数時間ダイヤルを眺めたあと、時計を裏返すと、完璧な仕上げと高い技術力を誇るCal.7R14が姿を現します。これを眺めていると、日が暮れてしまうでしょうね。
7R14は美しく仕上げられており、マクロレンズ(私はSONYα7Ⅳに装着した同社のFE 90mm F2.8 Macro G OSSを使用しています)でどれだけ拡大しても、欠点は見当たりません。もし動画で何か見えたら、それは風防の上の埃か、私のカメラのセンサーに埃がついたかのどちらかです。
手巻きCal.7R14は、美しさだけでなく、技術的なパンチも効いています。グランドセイコー独自のスプリングドライブ技術を採用し、機械式ムーブメントと電子式ムーブメントの長所を融合させ、スイスの時計メーカーではあり得ない高精度を実現しています。60時間のパワーリザーブを持ち、日差±1秒の精度を持つ、5万ドル以下、いや5億兆ドル以下の機械式ドレスウォッチをひとつでも挙げてみてください。僕は待ちますよ。どうですか? いつまでも待てないよ!? スプリングドライブムーブメントを搭載したクレドールやグランドセイコーのほかにはないのが正解です。
精度がすべてではないことはわかっていますが、それを見落としてしまう人がいるのは、甥っ子のPAW Patrolのデジタルウォッチよりも精度の低い時計になけなしのお金を使っていることに、惨めさを感じたくないからでしょう。あなたの時計は確かに美しい、特徴的だし、そのムーブメントの背後にある数百年の歴史は認めます。しかし機械式時計の精度だけを語るのであれば、スプリングドライブムーブメントはcrème de la crème(訳注:「最高級」を表すフランス語)なのです(僕の言うことがおかしいとおっしゃるのなら、コメント欄で会いしましょう。論破しますよ!)。
競合モデル
RGのパテックフィリップ カラトラバ Ref.5227Rは、クレドールに真っ向から挑むライバルとしてすぐに思い浮かぶモデルです。サイズもほぼ同じ、カラトラバは9.24mmと少し薄めです。また、価格はクレドールが495万円であるのに対し、524万7000円(いずれも税込)となっています。私はどちらの時計の外観も気に入っていますし、どちらのよさも理解できます。それでも、もし私が選ぶとしたら、やはりクレドールですね。マイクロアーティスト工房で製作された時計は、よりパーソナルな体験ができる気がするからです。ちょっと調べれば、誰が磁器のダイヤルを作ったのか、誰がペイントしたのか、誰が時計全体を組み立てたのか、わかるかもしれません。カラトラバは素晴らしい時計ですが、クレドールから得られるものと比較すると、同じ水準のロマンを得ることはできないでしょう。
ここからがおもしろいところです。グランドセイコー Ref.SBGY007、別名“御神渡り”は、叡智IIとの共通点が多いのですが、それを93万5000円(税込)の範囲内で実現しているのです。ほぼ同じケースサイズ(RGではなくステンレス製ですが)、繊細な仕上げが省略されているものの同じ仕様のスプリングドライブムーブメントが得られるのです。ダイヤルも、磁器製でないことや手書きでないことを除けば、極めて高いレベルの仕上げが施されています。SBGY007を酷評しているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。雲の上にあるような高価な時計ですら、叡智IIのディテールや機能に対抗するのは難しいでしょう。SBGY007は、叡智IIがあなたの経済的な手の届かないところにあるのなら、素晴らしい価値を提案する選択肢だと思います。
最終的な考え
少し大げさに聞こえるかもしれませんが、客観的に見て、この価格帯でこれだけの機能を備えた時計はなかなかないと思います。自分のスタイルに合わないから嫌だという人がいても、それはそれでいいと思います。外観の印象は主観的なものですが、この時計を製作するために投入された高い水準のクラフトマンシップを否定することはできません。好き嫌いは別にして、少なくともこの世界最高峰のタイムピースには敬意を払わなければならないと思うのです。
ローラン・フェリエのガレ マイクロローターやフィリップ・デュフォーのシンプリシティと比較して、クレドール叡智IIに興味がおありなら、7年前のIn-Depth記事をおすすめします。
HODINKEE Shopはグランドセイコーの正規販売店です。コレクションはこちらからご覧ください。
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