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Bring a Loupe ニューヨーク3大オークションハウスのプレビュー総まとめ【2024年冬版】

サザビーズ、フィリップス、クリスティーズ、そして1周回って再びサザビーズで開催された2024年12月頭の注目ロットを振り返る。

Bring A Loupeへようこそ! 11月のジュネーブ・オークションの時と同様、このBring A Loupeの増補編では、12月に開催された3大オークションハウスの出品ロットをまとめ、できるだけ多くのブランド、価格帯、トレンドを取り上げていきたい。私がニューヨーク・オークションを気に入っているのはなぜかって、出張要らずだからだ(こちらが出向かずとも、ロットが向こうからやってくる)! プレビュー自体は1日ですべてを見ようと猛ダッシュするのではなく、コツコツと時間をかけて見て回る感じだった。それにマーク・カウズラリッチの写真撮影のバックアップを受けることができたのは運がよかった。

 ロットごとの感想は、取材対象が多いだけに文字数に配慮して簡潔にとどめたいが、すでにいくつかのオークションの目玉についてはほかの記事で深く掘り下げている。フィリップスでは主要ロットのユニークピースのフィリップ・デュフォーのグラン・プチ・ソヌリについてマークが、マライカはTimeForArtオークションの見どころについて、そしてベンがアメリカ在住の重要なコレクター(彼自身も含む!)からのロット群について紹介した。最後にサザビーズでは、ヴィンテージ・ホイヤーのセレクションを深く掘り下げてみた(私にとっては身近な収集分野である)。

今回は3つのオークションハウスから4つのオークションを紹介したい。日程は次のとおりであった:

  • サザビーズ - Important Watches:12月6日(金)午前10時(米東部標準時)
  • フィリップス-ニューヨーク・ウォッチ・オークションXI: 12月7日(土)、8日(日)午前10時(米東部標準時)
  • クリスティーズ - Important Watches:12月9日(月)2 PM(米東部標準時)
  • サザビーズ - GOATコレクション: トム・ブレイディ所有の時計と宝物:12月10日(火)午後7時30分(米東部標準時)

 ジュネーブの怒涛の1161点に比べれば、ニューヨークは557点と楽勝である。スイスでのオークションプレビューをご覧いただく前に、私は読者にコーヒーを1杯用意するようお願いしておいたが、本記事はエスプレッソのダブルショットで乗り切れるかもしれない。では、本題に入ろう。


サザビーズ - Important Watches

 今シーズンは金曜日の朝、Important Watchesと名付けられたサザビーズのメインオークションで幕を開けた。ジェフ・ヘス(Geoff Hess)氏と彼のチームは、ジュネーブで開催されたサザビーズの最近のオークションの “キュレーション”というテーマとは対照的に、252点の幅広いカタログを提供。プレビューでの簡単な雑談のなかで、ヘス氏はサザビーズの組織全体に通達されている総セール数を達成しなければならないことをはっきりと明言した。数億円クラスのロットが少ない分、量でカバーするということであり、入札者にとっては見過ごされてきた時計(これとか、これとか、これとかだ)を手に入れるチャンスがあるということを示していた。

 量は多いが、明確なテーマはストーリー性と来歴にある。15点ごとに必ず何かしらの物語を持つ時計に出合えるだろうと考えていた。ロットNo.13はエジプトのガマル・ナセル(Gamal Nasser)元大統領のロレックス デイデイトで、遺族を通じてマーケットに出たばかりのものだ。直径20mmのプラチナ製パテック フィリップ Ref.1289(ロットNo.33)にも裏話がある。この時計は、優れた科学研究者に贈られた1958年のクヌッセン賞の副賞であった。

 ロットNo.37はカルティエ・ニューヨークで販売された1929年製のタンクだが、もともとはアイゼンハワー(Eisenhower)大統領の下で駐仏大使を務め、ケネディ(Kennedy)、ジョンソン(Johnson)両大統領の財務長官を務めたニューヨークの名家の一員、クラレンス・ダグラス・ディロン(Clarence Douglas Dillon)が所有していた。その出自も素晴らしいが、現在の持ち主であるTikTokerのマイク・ヌーボー(Mike Nouveau)氏も負けてはいない。この時計とストーリーを紐解くヌーヴォー氏の動画はこちらから。

 野球好きとしては、ロットNo.34No.35が目に飛び込んでくる。どちらもかつてジョー・ディマジオ(懐かしい名前だ)が所有していたものだ。カルティエが販売したジャガー・ルクルト(ロットNo.34)は、今回もっとも注目を集めるだろう。トレンドに乗ったルックスで、ケースバックには素晴らしいエングレービングが施され、同じくエングレービングが施された14KゴールドのIDブレスレットが付属している。

 ネームプレートの内側には、彼の社会保障番号によく似た数字が隠されていて興味深い。しかし私はオーデマ ピゲの極薄ホワイトゴールド(WG)製モデル(ロットNo.35)に特に引かれる。この時計は、2006年にディマジオの私物がHunt Auctionに 出品されて1900ドル(日本円でたったの約22万4000円!)で落札されて以来お目にかかっていない。またこの時のオークションでは同様のオーデマ ピゲが1200ドル(当時のレートで約14万円)で、2017年に再び3万1250ドル(当時のレートで約360万円)で落札(クリスティーズだ)された。また、彼の有名なパテック フィリップ Ref.130は8万5000ドル(当時のレートで約976万円)で、最後は同じく2017年に28万1250ドル(当時のレートで約3234万円)で落札された。つまり、ディマジオの数多くの時計には熱心なコレクターが存在し、最初のHunt Auctionでそれらを購入した人は、おそらく非常に得をしたのではないだろうか。

 歴史に興味がないって? そんなあなたでも心引かれるであろう、飛び抜けた時計もたくさんある。あえて言うなら、ずばり“Important”な時計もである。私はロットNo.21のパテック Ref.5208Pを、現代のグランドコンプリケーションモデルにおけるマーケット指標として注目している。そして対極にあるロットNo.43は、イエローゴールド(YG)で完璧なコンディションのRef.1518を魅力的なエスティメート(40万〜60万ドル、日本円で約6300万〜9500万円)をもって提示している。現代の超レアなノーチラスが欲しいと思ったことはないだろうか? ロットNo.77のRef. 5723/112R-001は、ティファニー刻印のある4本のうちの1本とされる希少品である。またジュネーブでのジュルヌの記録的落札結果を受け、プラチナ(Pt)ケースに真鍮製ムーブメントを搭載するレゾナンスのロットNo.88はその影響力の強さを示す時計として注目されるだろう。

 最後にロットNo.225、1865年製(!)のパテック フィリップのバードボックスは内覧会で私の度肝を抜いた品である。1860年から1870年のあいだに、パテックは12個の時計付きバードボックスを製造した。そう、150年前(!)に12個作られたのだ。シルバーのボックスはターコイズブルーとブラックの複雑なエナメルで飾られ、鳥の姿はとてもクールで(こちらでチェック)、天蓋にエナメルで描かれた風景はもちろんモンブランを背景にしたレマン湖である。これは博物館で展示されるレベルの品だ。


フィリップス-ニューヨーク・ウォッチ・オークション:XI

 フィリップスで行われたオークションについては、すでにHODINKEEでも多くの記事が掲載されている。本記事では私のピックアップを紹介するが、フィリップ・デュフォーのグラン・プチ・ソヌリ(ロットNo.12)についてはマークから、TimeForArtチャリティオークション、ロットNo.81から105についてはマライカから、そしてもちろん彼自身が所有するロットNo.30から34についてはベンから、それぞれ詳細な説明がある。

 なんだって? ベン・クライマーコレクション(™)の時計のなかで、どれが私のいち推しか知りたいって? よろしい。ロットNo.32のローラン・フェリエ HODINKEE限定モデルだ。今まで作られたHODINKEE限定モデルのなかで、一番好きだ。しかもシリアルナンバーは01だって? それだけで厄介な来歴を帳消しにするほどの魅力がある。

 私はロットNo.10、ロレックス デイトナ “ル・マン”のオークション市場初登場に注目している。数本(十数本?)が個人間で取引されたあとで、オークション市場がロレックスのここ数年(数十年?)でもっともホットなリリースをどう評価するのかは興味深い。このル・マンとそのあとに続くデュフォーの2ロットによって、会場は早々に最高潮に達するだろうことは容易に想像できた。その余波のなかで密かに注目すべき存在となっているのが、ロットNo.22のダブルリファレンス6536/6538のロレックス サブマリーナーである。夜光針の再塗装はヴィンテージロレックスでは受け入れられつつあり、この時計は例外的に優れたコンディションを有している。とはいえオークションのカタログでは、プロジェクト品はそれほどうまくいかない傾向がある。この時計にも、5万ドル(日本円で約790万円)という魅力的なエスティメートが付けられている。

 ロットNo.24のパテック Ref.530 カラトラバは、現在のエレガントなタイムオンリー(計時専用)のトレンドがどれほど真に迫ったものであるかを教えてくれるだろう。Ref.530は究極のヴィンテージカラトラバである。Ref.570よりも直径が1.5mm大きいだけでなく、希少性も高い。そのため、2004年にパテックから実際にタイムオンリーのRef.530(このリファレンスNo.はクロノグラフ用に採番されている)がつくられたとする書簡が公開されるまで、このモデルが実在することはコレクターにほとんど知られていなかった。いずれにせよ、ブレゲ数字のRef.530は特にオークションで高額取引される。ほかの個体は、2016年に140万スイスフラン(SSケース、ブラックダイヤル。当時のレートで約1億6100万円)、2014年に40万3000ドル(YGケース、ブラックダイヤル。当時のレートで4600万円)で落札されている。今回出品されるのは、YGケースにシャンパンダイヤルという組み合わせだということがアーカイブから確認できる。20万ドルというハイエスティメートを上回る結果になることを期待していたが、実際のところは39万3700ドル(日本円で約6200万円)で落札された。

 フィリップス・ニューヨークからは、揺るぎないヴィンテージ志向が感じられた。ミントコンディションのYG製Ref.6263 デイトナ、ロットNo.27がまさにそれを象徴している。そしてロンドン・カルティエの時計がはやっていると聞いたことがあるだろうか? ロットNo.36は2本しかないロンドン製タンク ディヴァンで、熾烈な入札合戦が始まるかもしれない。もう1本はカルティエ・コレクションに所蔵されており門外不出だろうが、コンディションはあまりよくない。

 2024年に私が見たもっとも見事なヴィンテージ・パテックのなかで、ロットNo.54はおそらくブレゲ数字を備えたユニークピースのRef.1436 スプリットセコンドクロノグラフである。ダイヤル上のパテックの刻印の反対側には“Leading Apprentice Hialeah Park 1941(リーディング・アプレンティス、ハイアリアパーク競馬場、1941年)”とあり、この賞を受賞したウェンダル・イーズ(Wendall Eads)という名の騎手が最初に所有していたと考えられる。1941年、イーズは150勝、110着で2024年の賞金730万ドルを手にする大物だった。この時計は“カスタム”ダイヤルを持つユニークピースとして、希少な時計である(約25本のうちの1本)。この時計は2012年にクリスティーズでゴードン・ベスーン(Gordon Bethune)氏のコレクションの一部として18万2500ドル(当時のレートで約2100万円)で落札された。

 ロットNo.120はこれまで知られていなかった、市場に出たばかりのロレックス Ref.6100に“ラ・カラベル”と名付けられたスターン・フレール(Stern Frères)社製の七宝エナメルダイヤルを組み合わせたものである。これと同じダイヤルのRef.6102が5月に127万スイスフランで落札(日本円で約2億2200万円)されている。このふたつのダイヤルはほぼ同じであり、裏にはマスター・エナメラーであるマルグリット・コッホ(Marguerite Koch)氏の手彫りと同じデザインコードが刻まれている。私は5月にこのRef.6102にひと目ぼれしてその強気な結果に驚いたが、今回はこのRef.6100をオークションシーズンのお気に入りロットに選んだ。

Rolex 6102 dial back

127万スイスフランで販売されたRef.6102のダイヤル裏面。

Rolex 6100 dial back

今回出品されるRef. 6100のダイヤル裏

 次の話題に進む前に、カタログ終盤にある2本の注目モデルを紹介しよう。ロットNo.141はヴァシュロン・コンスタンタンの“シャッター”ウォッチ。そしてロットNo.150はヴァシュロンのRef.4072 クロノグラフである。コンディション的には、今シーズン最高のヴィンテージクロノグラフである。コレクターはヴィンテージ・ヴァシュロンをもっとリスペクトすべきだし、価格が高騰し始める前にこそ比較的早く評価すべきだろう。


クリスティーズ – Important Watches

 月曜日はロックフェラープラザ20番地に場を移そう。クリスティーズはニューヨークを拠点とする時計部門に継続的に投資しており、カタログはシーズンごとにますます充実してきている。ロットNo.20のリシャール・ミル UP-01は、そのエスティメートにより早々に注目を集めるだろう。これは先月アンティコルムが173万スイスフランで販売したのに続き、オークション市場に登場した2番目の個体である。ロットNo.29のエスカは、スターン・フレール社とマルグリット・コッホが製作した“シルク”と名付けられた七宝エナメルダイヤルを備えており、アダム・ヴィクター氏とのTalking Watchesを気に入ってくれた人にはたまらない品となるだろう。

 ロットNo.45のロレックス ミルガウス Ref.6541には美しいパティーナが現れているが、この時計の魅力はそれだけではない。この時計は最近オリジナルオーナーの家族から入手した仲介業者を通じて出品されている。オリジナルオーナーであるロベルト・ピカルド(Roberto Pichardo)は元CIA工作員であり、CIAの2506旅団の一員として悪名高い“ピッグス湾侵攻”に参加した人物である。結果的にキューバの刑務所に20カ月間拘留されることとなった。米国に戻った数年後、彼はこのミルガウスを手に入れた。この時計にはオリジナルの書類、販売時の領収書、ピカルドの家族からの証明書が添付されている。

 カタログの中盤には、ユニークな形状の時計が何本か掲載されている。ロットNo.47は、おそらく唯一無二の存在であるパテック フィリップ Ref.1252 “カメレオン”である。アンティコルムが2023年にこのリファレンスの最後の個体を38万7500スイスフラン(日本円で約5810万円)で販売した時には2本の存在が知られており、もう1本はパテック フィリップミュージアムに所蔵されていた。今では3本が確認されており、PGとYGのツートンカラーにピンクダイヤルの個体はこのモデルだけである。もう1本は言わずと知られたカルティエ クラッシュだ。具体的には1986年のカルティエ・ロンドンのクラッシュ、ロットNo.49である。1986年に製造された3本のクラッシュのうちの1本で、シリアルナンバーはすべて同じ24175。この個体はそのなかで真んなかであることを表す“B”が振られている。

 ロットNo.52は、YG製のヴァシュロン・コンスタンタン Ref.222である。この説明だけでは心躍らないかもしれないが、コンディションを見れば考えが変わるはずだ。私がこれまで手にしたなかでも、1位2位を争うほどのコンディションのよさである。オリジナルの品質表示タグとおそろいの222マネークリップが付いている。だって、そうだろう? コンディションといえば、もしフィリップスでデッドミントのYG製Ref.6263 デイトナを手に入れたとしたら、ロットNo.66がそのペアを務めるのに不足はない。同じようにミントコンディションのこのRef.6265は、Ref.6263のプラスチックベゼル(なんてやぼったい!)では少し物足りないような夜、より派手さを求める場面にぴったりだ。

 スターインデックスを持つロレックスは、いつだって私の目を奪う存在だ。しかしロットNo.67の“ギャラクシー” Ref.6098は特別な来歴を持ち、元の所有者の家族からオークション市場に出されたばかりであるとうことでより希有な存在感を放っている。出品者の叔父であるジュリアス・“ジュリー”・ホルピット(Julius "Julie" Holpit)は、グラマン・エアクラフト・エンジニアリング社から25年間の功労を讃える贈り物としてこのロレックスを受け取った。ホルピットはグラマン社の5番目の古株従業員で、実験製造部門のリーダーを務め、グラマン社の飛行機の初期プロトタイプをつくり、テストし、時にはその場で課題を解決ながら修正していった。この時計も希少で、この文字盤を持つ個体は約10本のみとされている。オークションにおいて成功を収める秘訣をすべて兼ね備えた1本である。

 誰のレーダーにもかからないような(すまない、急には空の話題から抜け出せないでいる)ヴィンテージのパテック カラトラバをお探しだっただろうか? それならばロットNo.71、初期のRef.570のツートンダイヤルとロングサインを収めた1本がおすすめだ。またニッチな初期ランゲがお好みなら、ロットNo.93のプラチナ製1815アップ/ダウンをチェックしよう。これは私が何年も欲しくてたまらなかったリファレンスのひとつだ。


サザビーズ-GOATコレクション:トム・ブレイディ(Tom Brady)氏の時計と宝物

 火曜日の夜、サザビーズで開催されたThe GOAT Collectionオークションのために、再びヨーク・アベニューに足を運んだ。このセールでは、ナショナル・フットボール・リーグでクォーターバックとして活躍したトム・ブレイディ氏が入手した20本の時計が出品されることになっていた。スーパーボウルLI(ペイトリオッツが後半28-3の劣勢から逆転した試合)でブレイディ氏が使用していたリストバンドのような記念品と並んで、ロットNo.5のTB12(トム・ブレイディの愛称)のチューダー ブラックベイ 58 “Friends of Hodinkee”エディションに入札できたのだ。伝説的なHODINKEEのスタンプが押されたチューダーをコレクションに加える、ベストチャンスだった。

 多くのIWCと数本のリシャール・ミルが出品されているなかで、私が特に注目しているのはブレイディ氏のヴィンテージコレクションである。ロットNo.34は、ティファニーで販売された1917年製のパテック フィリップのグランドコンプリケーション懐中時計で、ブレイディ氏はこのために特注の“TBXII”ボックスを作らせている。エスティメートは20万ドルから40万ドル(日本円で約3160万〜7320万円)と強気に見えるかもしれないが、1月のArtcurialではティファニーのものではない個体が21万6480ユーロ(日本円で約3560万円)で落札されている。ロットNo.36は状態のよいロレックス デイトナRef.6241 “ジョン・プレイヤー・スペシャル”で、2023年にジレットスタジアムで行われた特別セレモニーでブレイディ氏が着用し、ペイトリオッツファンとの感動の再会を果たしたことで多少有名になった。私がもっとも気になるのはロットNo.39、パテックのRef.3970である。同ロットの歴史的意義はこのブレイディにまつわる喧騒のなかで埋もれてしまうのだろうかと、その行方を固唾を飲んで見守っていた。

 多くの驚きを引き起こした時計といえば、ロットNo.41のオーデマ ピゲ ロイヤル オーク トゥールビヨンは、トム・ブレイディ氏のために特別に作られたもので、私が覚えているどの時計よりも強烈な印象を残している。Netflixのトム・ブレイディ氏特集で初めて目にしたとき、時計業界の一部は、自分たちが大切にしているものすべての価値観に対する攻撃だと受け止めた。そしてサザビーズがこのオークションのカタログを発表したとき、同じ時計愛好家たちはブレイディ氏がこのように重要な時計をすぐに手放そうとすることに憤慨した。彼らを満足させるのがいかに難しいか! エスティメートは40〜80万ドル(日本円で約6315万〜1億2630万円)。今やこの時計はほとんど悪名高い存在となっており、トム・ブレイディ氏に夢中なファンのなかにはこの時計を所有するために非常識なことも辞さない人々が多数いるだろう(ロットNo.41は72万ドル、日本円で約1億1370万円で落札)。