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Bring a Loupe カルティエのコインウォッチ、アクアラングのサインが入ったダイバーズ、そしてブシュロンのアラームクロック

今回はウォッチ、クロックを問わずバリエーション豊かな5モデルが集まった。

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Bring A Loupeへようこそ。年末のホリデーシーズンが始まる前の、最後のBring A Loupeだ。誰か特別な人へのプレゼント、あるいは自分自身へのプレゼントを駆け込み的に必要としていないか? 少しでもお手伝いできれば幸いだ。この連載が週刊であるため、素晴らしい時計が掲載を待たずに売れてしまうこともしばしばだ。たとえば先日見つけた1957年製チューダー サブマリーナー Ref.7922もその一例で、数日前にeBayで25,720.12ドル(日本円で約402万円)で落札された。これは本連載の完璧な候補となるはずだっただけに悔しい。修復においては課題も多いが、チューダー初のサブマリーナーとして素晴らしいベースとなる時計だ。

 先週注目していた時計、箱と書類付きのギュブランダブルネームのパテック ノーチラス Ref.3700/1は新しい持ち主の元に渡った。新オーナーにおめでとうと伝えたい。この時計は本当に素晴らしい選択だ。また、小振りなシーマのクロノメーターも売却済みとなった。オークション界隈では、ブレゲ数字付きのオメガ コンステレーションが820ドル(日本円で約12万8000円)で、チャーミングなユニバーサル・ジュネーブのクロノグラフが1600ドル(日本円で約25万円)で落札された。

 それでは、今週の注目モデルを見てみよう!

カルティエ コインウォッチ 1930年代

 私の尽きることがないヴィンテージ・カルティエへの愛は、もうご存じだろう。この1930年代のコインウォッチがその証明となる。まずはコインについて触れたい。これは1887年製のイギリス5ポンド硬貨で、22ctのイエローゴールド(YG)製となっている。このコインはヴィクトリア女王の即位50周年(ゴールデンジュビリー)を記念して鋳造されたもので、一連のセットのなかでは最大のものだ。コインの片面には当然ながらヴィクトリア女王が描かれており、反対側には馬に乗った聖ジョージがドラゴンを退治する場面が描かれている。この伝説は何世紀にもわたって語り継がれてきたものだ。私のコイン収集はアメリカの小麦ペニー帳(小麦ペニーは1909年から1958年までアメリカで鋳造された1セント硬貨の通称)を埋める程度で止まっているため、この分野の専門家とは言えないが、それでもコインウォッチのなかではこの時計がこれまでに見たなかでもっとも魅力的なもののひとつだと言える。

A Cartier coin watch

 この時計はコインウォッチ全般、特にカルティエのコインウォッチと聞いて想像されるよりもずっと前の時代のものだ。1930年代に製造されたと考えて間違いないこのモデルは、パテック、ロレックス、ヴァシュロン、ピアジェといったブランドがコインウォッチを積極的に製造し始めた1950年代ごろよりも古い。カルティエのそれが比較的早い時期のものであることを示すヒントのひとつは、この時計の開閉機構にある。コインの縁の小さな部分が留め具のように機能する仕組みになっているのだ。後の時代には、開閉ボタンがコインの縁に組み込まれた構造に変更されている。

A cartier coin watch
A cartier coin watch

 このカルティエのコインウォッチから少し後のバージョンが、1939年のクリスマスにフランクリン・D・ルーズベルト(Franklin D. Roosevelt)大統領に贈られた。ルーズベルトのコインは1902年製で、ヴィクトリア女王ではなくエドワード7世が描かれている。彼の時計には外付けのリューズにボタンを組み込んだ、新しいスタイルの開閉機構を備えている。

 販売者であるThe Keystoneのジャスティン・グルーエンバーグ(Justin Gruenberg)氏は、このカルティエのコインウォッチを2万5000ドル(日本円で約390万円)で販売している。詳細はこちらで確認できる。

 さらに追加で、The Keystoneからもうひとつのおすすめ品を挙げておく。1960年代のおそらくジェラルド・ジェンタがデザインしたと思われるオーデマ ピゲ Ref. 5205で、ホワイトゴールド(WG)製、チューラー(Türler)によって販売されたモデルだ。

ホイヤー カレラ “Dato 45” Ref.3147S 1960年代
A heuer Carrera

 1960年代に製造された数多のバリエーションのなかでも、“Dato 45”の第2世代はもっとも注目されるホイヤー カレラのひとつである。クロノグラフを搭載したカレラにおいてデイト窓を最適な位置に配置するというブランドの試行錯誤の結果生まれたこのデザインは、“ウィンク”したような独特のモチーフがコレクターを魅了してきた。率直に言って、このダイヤルレイアウトの個性的なデザインこそがホイヤー愛好家を引きつける理由である。このモデルのブラックダイヤルバリエーションに引かれる人も多いかもしれないが(2021年にHODINKEEのために製作されたリミテッドモデルのタグ・ホイヤー カレラ Datoのベースとなったバリエーション)、私はシルバーダイヤルの控えめな魅力が好きだ。というのも、私はRef.3147Sの初代の誇り高き所有者だからである。

 この時計はフランスのeBay出品者から出品されたもので、状態は非常によく見える。写真のクオリティこそあまり高くないものの、時計自体はまったくいじられていないようだ。ケースは未研磨のようで、ダイヤルにはわずかな経年変化が見られるが、全体的にはクリーンだ。出品者はダイヤルに傷があると記載しているが、写真から判断する限りその傷は間違いなく風防部分にあるものであり、ポリウォッチ(PolyWatch)で簡単に修復可能だ。(ヴィンテージウォッチは)このような状態で発見されることが理想である。

A Heuer Carrera

 ダイヤル上に書かれた“FAB. SUISSE”の文字は希少性を高める要素ではあるが、特別な人気があるわけではない。この表記はケースバックに刻まれた手書きの番号とともに、この時計が当初フランス市場向けに販売されたものであることを示している。

 このホイヤーはフランスのヴァンヌに拠点を置くeBay出品者によって出品されており、オークションの終了は12月22日(日)の午後3時36分(米東部時間、日本では12月23日の午前5時36分)である。記事公開時点で入札額は2510ユーロ(日本円で約41万円)に達している。詳細と写真はこちらで確認できる。

ブランパン フィフティ ファゾムス アクアラングのサイン入り“トロピカル”ダイヤル 1950年代

 最初の“本格的な”ダイバーズウォッチのひとつであるブランパン フィフティ ファゾムスは、1953年にマーケットに登場した。当時のCEO、ジャン=ジャック・フィスター(Jean-Jacques Fiechter)がダイビング中に命を落としかけた経験がその誕生のきっかけになったと言われている。この逸話が事実かどうかは確かではないものの、ブランパンが初めて挑戦したダイバーズウォッチがダイバーズカテゴリー全体において最も伝説的な時計の1本に数えられることに異論はないだろう。それを踏まえたうえで、現在のフィフティ ファゾムスはマーケット内でやや低迷している状態にある。この数年でゆるやかにこの傾向が続いているが、これをどう捉えるかだ。警報を鳴らし“この時計にはもう誰も興味を持たない”と考えるのもひとつの見方だが、冷静に“今こそが買い時だ”と捉えることもできる。

A Blancpain Aqua Lung

 この時計は当初、本格的なプロダイバー向けに作られた真剣なプロフェッショナルウォッチとして発表された。そのため、現在の一般的な流通経路とは異なっていた。販売は、ジャック・クストー(Jacques Cousteau)が発明したレギュレーターをもとに設立されたダイビング機器メーカー兼ディストリビューターであるアクアラングのような専門小売業者を通じて行われていた。そのためここで言う“アクアラング”はモデル名ではなく、ダイヤル上でフィフティファゾムスのモデル名に代わって配置された小売業者の刻印を指している。例えるならアクアラング(Aqua Lung)は、ダイビング界の“Tiffany & Co.”や“Gübelin”のような存在だと考えればよいだろう。

A Blancpain Aqua Lung

 今回紹介するこの時計は堅牢なケースを持ち、ダイヤルには均一で美しい“トロピカル”な経年変化が見られる。ダイヤル上に見られるスポット状の変化は、紫外線への露出や微量の湿気の侵入、またはその両方の影響、あるいはほかの要因が何十年ものあいだ少しずつ作用した結果だ。このような経年変化を味わい深い“パティーナ”と捉えるか“ダイヤルのダメージ”と見るかは人それぞれだが、私がいい“トロピカル”ダイヤルに求めるのは均一なエイジングであり、それこそが魅力的だと感じる。もしあなたがそう思わなくても、それもあなたの自由だ。自分の目に叶うダイヤルを探せばいい。そのことについて私は怒ったりしない、約束する。

A Blancpain Aqua Lung

 この時計の販売者であるLunar Oysterのキリル(Kirill)氏は、2万6000ドル(日本円で約407万円)で出品している。銀行振込を選択すれば、3%の割引が適用されるようだ。詳細はこちらで確認できる。

ミドー “ワールズフェア” 1939年
A Mido

 こちらは非常に珍しいモデルで、私もこれまで見たことがない一品だ。簡単に説明しておくと、ミドーは1920年代から1960年代にかけて現在の時計コレクターが思っている以上に重要な存在だった。長年eBayを見てきた私に言わせれば、当時のミドーの成功ぶりは現在でもその時代の時計が非常に多く出品されていることからもわかる。eBayを開いてみればいつでも、ヴィンテージのミドーが何百本と販売されているのを見ることができる。そのケースの一部はフランソワ・ボーゲル(François Borgel)がてがけているだけでなくムーブメントのほとんどを自社で製造しており、またマルチフォート パワーウィンドシリーズで当時いち早く自動巻き機構を採用していた。

A Mido

 1939年はミドーにとって大事な年となった。この年、ミドーは自動巻き機構、防水性能、耐衝撃性、耐磁性を1本の時計にまとめたマルチフォートを発売した。これが他社に先駆けた試みであったかどうかは議論の余地があり、同年にはグライシン、エテルナ、ワイラーも同様の競合製品を発売していたが、それでもミドーが大きな話題を呼んだことに変わりはない。当時の記録を辿ると、1939年のニューヨーク万博における様子がよくわかる。ミドーはほかのスイスブランドとともにスイス館に出展し、これらの日常使いを想定した実用時計の性能をアピールしていた。展示ではミドーのマルチフォートが磁石に付けられ、金属板の上に落とされ、水に浸されたのち、動作する手に取り付けられていた。その状態で動作し続ける様子を見せ、自動巻き機構の優秀さを誇示していたのだ。

 同じホールの別のエリアでは、パテック フィリップがミニッツリピーター、スプリットセコンドクロノグラフ、永久カレンダー(ムーンフェイズ付き)、恒星時、日の出と日の入りの時刻、星座図といった機能を備えた時計を展示していた。この時の展示がいかに多様なものだったかがわかるだろう。

1939 World's Fair

1939年ニューヨーク万博のトライロンとペリスフィア(万博のシンボル)。Image courtesy of Getty.

 さて、今回紹介する時計は1939年のニューヨーク万博を記念してミドーが製造した記念モデルである。正直なところこの時計自体は特別なものではない。ステンレススティール(SS)製の27mm径角型ケースに手巻きムーブメントを搭載しており、マルチフォートではない。しかしダイヤルは非常に素晴らしい。ダイヤルには、万博の中心的なシンボルであるトライロンとペリスフィアが描かれている。

 このヴィンテージミドーは、テキサス州に拠点を置くFabsuisse Vintage Watchによって出品されており、価格は5465ドル(日本円で約85万5000円)だ。詳細はこちらで確認できる。

ブシュロン トラベルアラームクロック 1940年代

 ミドーとはまったく異なるマーケットに位置していたのが、1920年代から1960年代にかけて最高のジュエリー風デザインのウォッチやクロックを製作していたブシュロンである。今回紹介するのは、イギリスの小規模なオークションハウスで見つけた興味深い個体だ。これは1930年代から1940年代に製造されたもので、スターリングシルバーとYGを使用した手巻きムーブメント搭載のアラームクロックである。ブシュロンは厳密には時計メーカーではないため、ウォッチやクロックの内部機構における専門性を持っていたわけではない。同ブランドはフランスやスイスのサプライヤーからムーブメントを調達していた。過去にレマニア製ムーブメントを搭載したアラームクロックを見たことがあり、この時計もおそらく同様だと推測される。

A Boucheron alarm clock

 ブシュロンが真に力を注いだのは、ムーブメントではなくケースの構造である。その技術は特許を取得したさまざまなケースやクラスプ構造に見られる。これについては昨年書いた記事でいくつか紹介しているので、ぜひチェックしてほしい。そしてここで紹介する一見普通のアラームクロックにも、ブシュロンの才能がいかんなく発揮されている。

A Boucheron alarm clock

 オークションハウスの写真では確認できないが、この時計のケースはブシュロンによって特許“BT 679614”として登録されている。このケースの構造を想像してみてほしい。ケースバックは上部からヒンジで開く仕組みになっており、開けるとスタンドのように機能する。そのうえで時計本体は“ミッドケース”に収まり、3時と9時の位置にあるピボットで回転する。時計を半回転させると6時位置に“リューズ”に相当する小さなタブが現れる。このタブを引き出すことで、ムーブメントを巻いたり、時間を調整したり、アラームの設定や巻き上げができる仕組みとなっている。

 このブシュロンのトラベルアラームクロックは、2025年1月11日に開催されるTennants AuctioneersのJewellery, Watches & Silverセールのロット2134として出品される。詳細はこちらで確認できる(入札を希望する場合はカレンダーでリマインダーを設定することをおすすめする!)。