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Photos by Mark Kauzlarich
カーレースにまつわる時計をデザインするというのは、実に興味深い挑戦だ。もっともわかりやすく象徴的な例がロレックス デイトナであり、この時計は時代とともに進化を続けながらも、常に作られたその時々の空気を纏ってきた。しかし、66年から100年近く前のクルマが走る、2023年に開催されるレースにふさわしい時計をデザインするとなるとどうだろう。現代的なテクノロジーとクラシックなデザインが奇妙に重なり合うなかで、あなたならどんな時計を作るだろうか? 何を思いついたかはわからないが、ショパールの新しい40.5mm径のミッレ ミリア クラシック クロノグラフは間違いなくその条件を満たすモデルだと思う。
数週間前、私は2本の新しいミッレ ミリア クラシック クロノグラフを身につけてレースに参加する機会に恵まれた。Dispatchの撮影中や1日14時間以上にわたるオープンロードレースの走行中は、Hands-Onの撮影には適していなかった。しかしレースが開幕する前夜に、この時計を撮影するための貴重な時間を確保することに成功したのだ。
私はレース中、100万ドルもするクラシックカーが時代を超えた風景のなかを走り抜けるハイウェイの傍らに、現代的なクルマやマクドナルドが共存するという、過去と現在の奇妙な二項対立に魅了されていた。現代の世界や自身の内面と矛盾することなく、その橋渡しをするような時計を作るのは難しい仕事だ。そのためにショパールは、35年にわたるミッレ ミリアのスポンサーシップの一環としてクラシック クロノグラフを製造してきた長い歴史からだけなく、 自動車史からもヒントを得てきた。
1955年型ポルシェ 356 スピードスターの助手席から見たイタリアの伝統的な風景。
実のところ、この歴史に対する敬意はショパールが打ち出した新しい4色の文字盤から1本を選ぶという最大の難題のひとつを引き起こした。ショパールの共同社長であるカール‐フリードリッヒ・ショイフレ(Karl-Frederich Scheufele)氏は大のクルマ好きで、レーシングカーにインスパイアされた4色がピックアップされている。ヴェルデ・キアロ(ライトグリーン)とロッソ・アマレーナ(チェリーレッド)の文字盤は、それぞれサーキュラーサテンブラッシュ仕上げで、ネロ・コルサ(レーシングブラック)はエンジンターン仕上げとなっている。いずれもブランドが独自開発したルーセントスティール™製だ(これについてはのちほど説明しよう)。赤と黒は間違いない選択だ。黒はクロノグラフとしてはより伝統的で、赤はひと目フェラーリを想起させる。しかし、ベゼル、プッシャー、リューズに倫理的な観点で調達した(エシカルソーシング)ゴールドを使用したツートンカラー、そしてブルーの文字盤は特に目を引いた。幸運なことに、私はレース中、赤と青の文字盤、2本のトップチョイスとともに時間を過ごすことができた。
時計の美学というハイレベルな視点から少し離れて、どの文字盤を選んでも楽しくなるようないくつかの素晴らしいディテールを紹介しよう。例えば、プッシャーにはローレット加工が施され、クロノグラフの操作時に滑りにくくなっている。リューズも時刻や日付調整の際に指にフィットするような形状が採用された(そう、ステアリングホイールのモチーフが見事だ)。ボックス型のクリスタル風防の視認性も抜群だ。また、先端の赤いクロノグラフ針は(サテン仕上げの赤い文字盤の上でも)タキメーターを読もうとしたときにコントラストが効いた外周の目盛りと相まって際立って見える。もしあなたが今回のコレクションを本来のレース用途で見ているのであれば、今挙げた点はすべて重要なものだ。
初日から、いつも使っているクロノグラフよりもタフなコンディションに時計を置いてみた。私がもっとも身につけているクロノグラフはヴィンテージのものなので、クロノグラフに水が絡むと少し慎重になる傾向がある。しかしこの時計においてはレースに向かう準備をして雨が小降りになったとき、私は身を乗り出して時計を十分に濡らしてからそのままプッシャーを操作した。だが、ほとんど影響は見られなかった。2日目の終わりには、イタリアの景色を濡らす雨により私もずぶ濡れになっていた。そのためトンネルのなかや陸橋の下などわずかに雨をしのぐことができたときに、インターバルのタイムを計ることに何の抵抗もなくなっていた。雨宿りの最長記録は、約7秒だった。
この時計にはサファイアクリスタルのケースバックが装着されているが、125万4000円から149万6000円(ともに税込)の価格帯では、これは必ずしも当たり前(または不可欠であったり、優れた選択というわけ)ではない。今回ムーブメントの仕上げをじっくり観察したわけではないが、L.U.Cのような満足感は味わえないだろうと思う。しかし、自動巻きムーブメントは2万8800振動/時で動作し、秒針停止機能、12時間と30分の積算計、スモールセコンドのインダイヤル、デイト表示と機能は充実している。そしてさらにCOSC認定を受けている。
そうだ、デイト表示について話さなければならないだろう。この4時30分に配置されたデイト窓は、一部のブランドでしか見られない極めて優れたデザインだと思う。このデイト窓は文字盤の色とマッチしているため、日付が目的でない場合は目に入らないが、必要なときにはいたって実用的なものとなっている。
黒と緑の文字盤は悪くなかったが、チャンスがあったにもかかわらず私はすぐには手に取らなかった。黒文字盤に施されたエンジンターン仕上げはペルラージュのようでもあり、タイヤ痕をつけたようなラバーストラップと相性がよく、クルマのデザインを連想させる。だが、ピスタチオグリーンの文字盤は私の心に響かなかった。モータースポーツを象徴するグリーンがたくさんあるなかで、わかりやすい“ブリティッシュ レーシング グリーン”の選択肢を省くというのはちょっと納得がいかない。しかし文字盤を明るくすることで、全体のラインナップに必要なバリエーションを加えたのだろう。
バラエティに富んでいるといえば、直径40.5mmに厚み12.88mmというサイズも大きな魅力のひとつだ。今年のミッレミリアのドライバーに贈られた44mmのGTS クロノグラフと比較すると、よりリーズナブルで幅広く着用できるプラットフォームを手に入れたことになる。この時計はイタリアをテーマにした高級時計で、収益の一部は今年初めにイタリアで発生した洪水の被災者に寄付された。文字盤の質感は素晴らしく興味を引くものだが、この時計は非常に大きく、分厚く、クラシック クロノグラフをより優れたものとしているディテール(色合わせされたデイト窓など)のいくつかを欠いていた。
クラシック クロノグラフにはミッレ ミリアをテーマとした時計であることを思い出させる小さな工夫が施されている。ダイヤルにはレース中に道を示す象徴的な標識(この標識は、ルート上で私の怪しいナビスキルを何度も救ってくれた)の絵がプリントされており、よく見ると非常に立体的で際立っている。また、どの時計にも針と数字にはスーパールミノバが使用されており、日没後のレースでもその視認性を保ってくれる。
だが、肝心の“クラシックな雰囲気を持つ現代的なクロノグラフを作るにはどうすればいいか?”という問いについては、ショパールのこれらの選択を評価したい。時計のサイズをダウンさせることで、よりクラシックな大きさに近づけたのだ(十分ではないが)。文字盤の仕上げや色、そしてフォントまでもが過去と現在のあいだのスイートスポットを突いている。これがショパールの今後のミッレ ミリアの方向性なのだとしたら、私はすでに次回のレースのドライバーがうらやましく思えてしょうがない。
ショパール ミッレ ミリア クラシック クロノグラフ:直径40.5mm、厚さ12. 88mm。ルーセントスティール™製ケース、50m防水。1960年代のダンロップ製レーシングタイヤにインスパイアされたレザーまたはラバーストラップとルーセントスティール™製バックル。エンジンターン仕上げのネロ・コルサ(レーシングブラック)文字盤、ヴェルデ・キアロ(ライトグリーン)文字盤、ロッソ・アマレーナ(チェリーレッド)文字盤、ルーセントスティール™とエシカルゴールドのバイマテリアルバージョンはサーキュラーサテンブラッシュ仕上げのグリジオ・ブルー(グレーブルー)文字盤。時・分表示、3時位置にスモールセコンド、9時位置に30分積算計、6時位置に12時間積算計、4時位置にデイト表示。黒文字盤が125万4000円、レッド&グリーンが127万6000円、ブルー文字盤とのツートンが149万6000円(すべて税込)。