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Hands-On 高高度偵察機U-2の手首で最初に目撃された新型フライトクオリファイドウォッチ、オメガ スピードマスター “パイロット”

フライトマスターではないものの、民間人と軍用パイロットのためにフライトテストを経た新たなモデルが登場した。


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多くのブランドにとって早すぎるリークは最も避けたい事態だ。しかしオメガはリークを一種の芸術に昇華させている。2023年に最も読まれた記事のうち2本は、ダニエル・クレイグ(Daniel Craig)氏がニューヨークで未発表の白文字盤スピードマスターを着用している場面と、パリオリンピックで未発表の黒文字盤シーマスターを着用している場面に関するものだった。これらは間違いなくブランドによる意図的な露出であった(念のために言っておくが、オメガから記事執筆を促されたわけではない)。しかしこの戦略には限界がある。オメガの新作、スピードマスター パイロットはまったく別の形でリークされた。今回は意図的なものではなかっただろうが、非常に興味深い内容だった。

Speedmaster Pilot on a leather jacket

 今回のリークも腕時計の着用写真が発端だった。ただしこれまでのようなセレブのプロダクトプレイスメントとは異なり、ほとんどの人の目に触れることのない、まさに“レーダーを潜り抜けた”ようなリークである。より正確に言えば、6万7976フィート(約2万726m)という高度で“レーダーを大きく超えて飛行していった”リークであった。この時計はアメリカ空軍のU-2こと“ドラゴンレディ”と呼ばれる偵察機のパイロットの手首で目撃された。この偵察機は航空工学史上最も伝説的で型破りな機体のひとつだ。1955年に初飛行を果たしたこの機体は現在も運用されており、アメリカ空軍、NASA、CIA、さらには一時期中華民国の指揮下でも操縦されてきた。パイロットはあまりの高高度のため加圧されたフライトスーツを着用する必要がある。そしてどうやらこのフライトスーツには、仮で取り付けられたBUNDストラップをベルクロで固定し、時計を装着できる仕組みがあったようだ。この時計が一般公開されるのは今日が初めてである。

U-2 Spy Plane

U-2 “ドラゴンレディ”にパイロットと共に搭乗した、軍用のスピードマスター パイロットの写真。Photo from Flathat on OmegaForums.

 数カ月前に我々の友人であるWatches of Espionageとの会話で話題に上るまで、この“リーク”に私は気づいていなかった。彼が「フライトマスターの新型に関する情報が出回っている」と教えてくれたのだ。その後、熱心なスピードマスター愛好家であるロバート=ヤン・ブロア(Robert-Jan Broer)氏が、9月にフラテッロでこのリークについての記事を掲載した。彼も読者からの質問を大量に受けたそうで、私がWatches of Espionageとの会話中にたどり着いたものと同じオメガフォーラムの投稿を紹介していた。スレッドには興味深い詳細情報が多数含まれており、これについてはのちほどまた説明するが、そこではこの時計がもともとアメリカ軍のウイングバッジ授与者(正式認定を受けたパイロット)、RIO(レーダー迎撃士官)および航法士向けに販売されていたものだと説明されていた。

Speedmaster Pilot and a Flightmaster on a folio

明るい窓際に置いても、ルミノバの光がわずかに見えるのが印象的である。

 詳細についてものちほど詳しく説明する。だが主な変更点は写真にもあるとおり、9時位置のインダイヤル(このスピードマスターではスモールセコンド)内、パイロット向けモデルでは単色だった人工水平器風のデザインが、一般向けモデルではコックピットで見られるような青と黒の配色に変更されている。スピードマスター プロフェッショナルが宇宙飛行との関係性によって独自の魅力を放つように、このモデルもまた特別なストーリーを持つ。オメガのパッケージを開けて初めてこの時計を目にし、腕につける瞬間には何ともいえない特別感があった。この時計は北朝鮮の上空や、航空工学史上最も驚異的な機体のひとつに搭載されて飛行している可能性がある、まさにそんなモデルなのである。

Speedmaster Pilot on the wrist

スピードマスター “パイロット” とはどのような時計なのか?

まず第一に、これは“フライトマスター”ではない。リークの後に何度かフライトマスターの名前が挙がったが、この時計をフライトマスターの新作として期待しているのであれば、少し認識を改める必要があるかもしれない。パッと見では多くの視覚的な共通点があり、オメガから送られてきた箱を開けた瞬間には私も新しいフライトマスターを手にしていると興奮した。しかし、すぐにそうではないことに気づいた。

Speedmaster Pilot and a Flightmaster on a leather jacket

 コール・ペニントンが2022年に執筆した素晴らしい記事では、現代においてフライトマスターがどのような姿になるのかを想像していた。しかしオメガはすでに、コールが言うところの“現代においてフライトマスターの理念を引き継いだモデル”としてZ-33を発表している。オメガから新しい時計を見るよう依頼された際、彼らは非常に明確にそれがスピードマスターであるものの、スピードマスター プロフェッショナルの新作というわけではないとだけ伝えてきた。そして後から送られてきたプレスリリースによると、これは“スピードマスター パイロット”という時計であり、文字盤に書かれているとおりフライトクオリファイド(適航性承認)もあるという。

Speedmaster pilot ad

Photo from OmegaForums.

 オメガフォーラムで共有されていた情報のひとつに、このプログラムの一環としてパイロットたちに送られたパンフレットのスクリーンショットがあった。そのなかには基本的なアメリカ海軍航空士官向けモデルのケースバック(おそらくF-18の画像も含まれている)もあることが確認できる。このケースバックの縁には“チャールズ・リーベンス(Charles Laevens)”氏の名前が刻まれているが、実際には彼はオメガのアメリカ国内リテール、オペレーション、トレーニング部門の責任者だという点がおもしろい。

Speedmaster Pilot Brochure

Photo from OmegaForums.

 また、リークされたパンフレットから民間モデルの発表前にスペック情報も得ることができた。それらはすべて今回発表されたものとも一致している。この時計は全面ブラッシュ仕上げのステンレススティール(SS)製で、直径40.85mmに厚さ14.54mm、ラグ・トゥ・ラグが49.6mmの2カウンター仕様スピードマスターだ。軍用モデルではNATOストラップで提供されていたが、今回私が手にしたモデルはケースと同じ全面ブラッシュ仕上げのブレスレットを装備しており、バックルにはマイクロアジャスト機能も備えている。防水性能は(スピードマスター プロフェッショナルの50mから)100mに向上。加えてクリスタルにはヘサライトではなくボックス型のサファイアクリスタルが使用されている。なおケースバックに刻まれた名前について気になる人もいるだろうが、このパトリック・“バーバンク”・コネラン(Patrick "Burbank" Connellan)中佐は、実在する優秀なパイロットである。彼の経歴によるとU-2、F-16、E-11、RQ-170、MQ-9、T-38、T-34といった航空機で合計2900時間以上の飛行経験を持ち、そのなかには1000時間の戦闘飛行時間と300時間の戦闘支援飛行時間も含まれるとのことだ。彼がこの時計を手に入れたことを願いたい。

Omega Speedmaster Pilot

 たとえこの時計のバックストーリーや、(後述する)フライトマスターからのインスピレーションを知らなくても、すぐに航空関連のデザインを持つ時計であることに気づくはずだ。9時位置のインダイヤルは、航空分野とのつながりを強く想起させる意匠になっている。文字盤はグレイン仕上げのマットブラックで、ブラッシュ仕上げのSSケースや視認性の高い各所のカラーと相まって、反射を抑えながらコックピット内での判読性を高めている。さらに初期のスピードマスター プロフェッショナルを彷彿とさせる要素も含まれている。たとえば、“ドット・オーバー90”や“ダイアゴナル・トゥ70”といったディテールだ(後者については知らなかったが、そういう要素があるらしい)。

Omega Speedmaster Pilot

 ほかの写真でも確認できるが3時位置のインダイヤルは実際には60分&12時間積算計になっており、クロノグラフがゼロの位置にあるときはオレンジの60分針がオフホワイトの12時間針を覆うような形になっている。また、このカウンター周囲のオレンジの目盛りは、パイロットが即座に計算を行う際に使用する燃焼速度インジケーターとしての役割も果たしている。ケースのラグは直線的な形状で、これはオメガが昨今積極的に進めている過去のデザイン要素への回帰を示しているようで、個人的には非常にクールだと感じている。

Omega Speedmaster Pilot from the side
Omega Speedmaster Pilot lugs from the side

 これは手巻きのスピードマスター プロフェッショナルではない。また、クロノスコープ風のケースやムーブメントを持っているわけでもない。このケースには自動巻きのコーアクシャル マスター クロノメータームーブメントであるCal.9900が収められている。このムーブメントは60時間のパワーリザーブを備えており、そのため新作スピードマスター パイロットはスピードマスター プロフェッショナルよりも明らかに厚みを増している。具体的な数値としては14.85mmで、スピードマスター プロフェッショナルの13mm強と比べて厚い。装着した際にはその厚みを明確に感じるが、オートマチックムーブメントの採用によるトレードオフをどう評価するかは個人の好みだろう。

Omega Speedmaster Pilot laying on its side for thickness

 ブラッシュ仕上げのブレスレットがケースは完璧にマッチしており、各所に施されたポリッシュ仕上げの控えめさも気に入っている。そうした部分(ポリッシュ部)は結局傷がつき、輝きを失ってしまうのが常だからだ。このブレスレットにはクロノスコープの2カウンターウォッチに見られるようなマイクロアジャスト機能付きのクラスプが備わっているが、ブレスレット自体はまったく異なるものだ。全体的にシンプルに仕上げられており、クラスプの裏側にもリブ加工が施されていない。

Omega Speedmaster Pilot back of bracelet
Omega Speedmaster Pilot detail

オメガの地球儀ロゴが刻印されている。

Omega Speedmaster Pilot clasp micro adjust
Omega Speedmaster Pilot

 これは最近見たオメガのなかで最もルミノバの使用量が多いモデルのひとつであり、それが非常にクールな効果を生んでいる。短時間の光を浴びただけでも、暗闇で時計がはっきりと発光する。時針と分針の大部分にはスーパールミノバが使用され、インデックス(および12時位置のふたつのドット)は、大きく立体的なブロック状に形成されている。この作業を担当した業者については推測がつくが(この分野で挙がる名前は限られている)、確証はない。ただルミノバが十分に蓄光されていれば、コックピットでの視認性は驚異的になるだろう。

Omega Speedmaster Pilot

愛すべきフライトマスターと直接比較
Omega Speedmaster Pilot

本作についてオメガがフライトマスターからインスピレーションを得たことは疑いようがなく、私もその要素を確認して時計のいくつかのポイントを強調しながら比較を行うために、フライトマスターを入手する必要があった。幸運なことにパトリック・パリッシュ(Patrick Parrish)氏の協力で、初代フライトマスター Ref.145.013の素晴らしい個体を手に入れることができた。このモデルには民間モデル向けにオレンジの針が装備されている。

Omega Flightmaster

 これは道具としてのクロノグラフと過剰な設計が黄金時代を迎えていた時代を象徴するものだ。オメガはGMTマスターをパイロットウォッチとして売り込もうとしていたロレックスに挑みつつ、“単なる回転式ベゼル以上”の時計を目指していた。個人的にスピードマスター マークIIにも見られる、わずかに丸みを帯びたサンバーストポリッシュ仕上げのケースが私は大好きだ。Ref.145.013のケースは後継モデルよりもスリムで、Cal.910を搭載していたが、それでも7本の針、3つのリューズ、ふたつのプッシャーを備えた存在感のあるデザインとなっている。同時にこの時代らしい大胆なカラーパレットも、対照的にモノトーンなスピードマスターを“ムーンウォッチ”たらしめる要素となっており魅力的である。

 この時計にはフライトマスターの特徴的なカラー(緑を除くほぼすべて)が盛り込まれている。Ref.145.013には3時位置と6時位置に30分と12時間の積算計を備えたクロノグラフに加え、9時位置には24時間表示のインダイヤルが見られる。しかしこの24時間表示はパイロットにとってはあまり実用的ではなく、時計が正常に動作していることを確認できるスモールセコンド(秒針表示)のほうが重要視された。その結果として次世代のフライトマスターでは24時間表示が廃止され、9時位置にスモールセコンドが追加されることになった。

Omega Flightmaster

 フライトマスターには、クロノグラフと積算計用に大きな三角形の針が採用されていた。基本的にこれらの針はオレンジ色だったが、プロのパイロット向けに供給されたモデルにはコックピット内での視認性を向上させるために黄色のカドミウムコーティングが施された針が使われていた。また独立して設定可能な大きな青い12時間針があり、これは飛行機(あるいはロケット)のような形状で、第2時間帯を表示できるようになっていた。この時計は明確な目的のために設計されたものであり、1960年代後半から1970年代ならではの“(いい意味での)デザインの混沌”を感じさせる。

 新型スピードマスター パイロットにも、フライトマスターを彷彿とさせるオレンジの要素が残されている。ただしクロノグラフ針全体がオレンジ色だったフライトマスターとは異なり、新型では飛行機の形を模したオレンジの先端が採用されている。これはフライトマスターのデュアルタイム針を参照しているだけでなく、スピードマスター マークシリーズやX-33にも見られるデザインだ。クロノグラフ積算計には、フライトマスターと同じオレンジ色の針が使用されている。またイエローの要素も、“プロフェッショナル”モデルのフライトマスターに見られたカドミウムイエローの針を意識しているようだ。一方で、スピードマスター パイロットにはフライトマスターや一部のスピードマスター レーシングモデルに見られるようなチェッカーフラッグスタイルのミニッツトラックは採用されていないが、コントラストの強い目盛りが配置されている。そして最も控えめな引用としては、フライトマスターに見られた長いルミノバのラインを模した発光の仕方だろう。

Omega Speedmaster Pilot

 新型スピードマスター パイロットの厚みに関しては懸念があるかもしれないが、比較的薄型のフライトマスターですら厚さは15mmであり、同モデルを愛する人たちはこのことをまったく気にしてしない。しかしその理由の一部は、この時計が持つほかのユニークな特徴にあるのかもしれない。たとえばプッシャーや10時位置のリューズに、機能を示すカラーコーディングが施されている点などがそれに当たる。

Omega Flightmaster
Omega Flightmaster
Omega Flightmaster

 新型スピードマスター パイロットのケースバックには、100mの防水性能を保証するためのデザインとしてシーホースが描かれている。一方でフライトマスターのケースバックにはDC-8 スーパー61が刻まれていた。しかし、話はそれだけで終わらない。このスピードマスター パイロットの軍用バージョンを実際に手にする機会があれば、ぜひケースバックをチェックしてほしい。オメガはアメリカ軍の各部隊に合わせてさまざまなデザインのケースバックを作成しており、先ほど紹介したU-2仕様のケースバックもその一例である。

Omega Flightmaster
Omega Flightmaster

 これらのデザイン上のこだわりを考慮しても、結局のところ、フライトマスターとスピードマスター パイロットは“リンゴとオレンジ”ぐらい異なるものだ。片やオリジナルの60m防水性能を保証できないヴィンテージウォッチで手巻きムーブメントと魅力的な味わいを持つが、現代のスピードマスター パイロットの仕上げの水準には及ばない。もう一方は、自動巻きムーブメントを備えたトラベラーズウォッチとしてのアプローチを持ち、独自性のある新しい物語を生み出している。

 新作に“本格的なフライトマスターを求めていた”人の気持ちは理解できる。私も同じ気持ちであり、オメガがこの時代錯誤的なデザインへのオマージュをどのように実現するかを見てみたいと思っていた。発売前にこの時計を明かすことはできなかったが、率直な感想を得るためにプロヴァナンス(バックストーリー)を重視する熱心なスピードマスターコレクターの友人に話を聞いた。別の時計について話しているさかな、さりげなく“軍用パイロット向けスピードマスター”の話を振ると、彼はそれを目にしたことがあり、パイロットから1本買おうと必死だったという。しかし彼はこうも言った。「そのうちオメガが(新作フライトマスターを)出してくれるかもしれない。それまでのあいだはこれで十分だと思うよ」。同じように感じる人は少なくないだろう。

Omega Flightmaster

オメガ スピードマスター パイロット。直径40.85mm×厚さ14.54mmのブラッシュ仕上げSS製ケース、100m防水。ブラックマット仕上げの文字盤、グリーンに発光する夜光針、時・分・秒表示、クロノグラフ(ミニッツカウンターおよび12時間積算計付き)、日付表示、単独調整可能な時針。コーアクシャル マスター クロノメーター認定オメガ製自動巻きCal.9900、2万8800振動/時、パワーリザーブ60時間。ブラッシュ仕上げケースにSS製ブレスレットまたはNATOストラップ。価格:146万3000円(税込)。

詳細はオメガのウェブサイトをご覧ください。