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ジーザス・カルデロン氏は時計好きだ。シカゴに住む29歳の彼は、仮想通貨マニアでもあり、モーショングラフィックスデザイナーでもある。近年、彼はこの2つの分野を融合させ、急成長する時計NFT市場を確立し、Generative Watchesの名の下にバーチャルウォッチをデザインし、販売している。
カルデロン氏のGen Watchは、Rødex DaitonaやRødex Bitmarinerなど、皆さんがよくご存じの時計をデジタル技術で模倣したものだ。彼はアルゴリズムの助けを借りて3Dアニメーションをデザインし、完成品(JPGまたはGIF)を自身のストアにアップロードするのだが、愛好家は抽象化された通貨(仮想通貨)で高額な代金を支払う。現在、ハードディスクに保存し、SNSで公開するピクセルで作られた時計はロレックスのサブマリーナーと同じくらいの値段で取引されている。未来へようこそ。
彼がどのようにジェネレイティブウォッチ(生成的な時計)をデザインしているのか、誰がこれを集めているのか、そしていずれ私たちはビデオゲームの世界で手首にバーチャルな時計を身につけることになるのか、もう少し詳しく話を聞いてみよう。
HODINKEE:まずは基本的なところからお聞きします。NFTが何かよくわからない人のために、NFTをどのように説明したらいいですか?
NFTを説明する方法は複数ありますが、特定のプロジェクトが何を行っているかによります。最も一般的なNFTは芸術作品を制作し、それをブロックチェーンに載せるというものです。この場合、基本的にデジタル画像にウォレットで署名することになります。NFTは作った作品への署名に過ぎません。時計で考えると、ケビン・オレアリー(Kevin O’Leary)氏やロレックスやオーデマ ピゲのヘッドデザイナーのひとりにサインをしてもらうようなものです。A.ランゲ&ゾーネでは技術的にサインをしているので、そこで働く人が見れば誰が作ったかわかります。しかし、基本的にNFTはデジタルの署名と同じです。
モーショングラフィックスデザイナーとして活躍されていますね。デジタルで時計を作るようになったきっかけは何ですか?
今年の初め、仮想通貨のTwitterをスクロールしていたら、仮想通貨の大物たちが時計やクルマを投稿しているのを見たんです。そして私は「ちょっと待てよ。私は時計が好きだ。3Dができる。今、その空白を埋める人はいない」と考えました。特に現実の時計を再現した3Dウォッチは、コレクターに喜ばれると思ったんです。
では、ジェネレイティブウォッチとはいったい何なのでしょうか?
アルゴリズムによって生成された時計のコレクションのことです。Google Sheetsで1ヵ月ほどかけて、たくさんの特徴を持ったアルゴリズムを作りました。色、素材、グラフィック、腕などです。腕には人間、エイリアン、ゾンビ、猿、ロボットなど、さまざまなモデルがあります。また素材もセラミック、金属、ガラスとさまざまです。3Dでは私は何でもできる力を持っています。虹色に光る時計もあれば、ゴールド、ブロンズ、スティールなどの金属をブラッシュアップしたり、ポリッシュしたりすることもできます。色も山ほどあります。いろいろな時計を作るために、たくさんのパラメータを微調整しているのです。
あなたがこの時計をつくっているのですか、それともアルバムのアルゴリズムがこの時計をつくっているのですか?
両方ですね。アルゴリズムを作ったのは私ですが、すべてのパラメータをいじって遊んでいます。色彩がすべて調和していることを確認し、すべてがミックスされ、マッチしていることを確認します。ほとんど手作業で作っているといってもいいくらいです。アルゴリズムで作っているので、そういうと直感的でないようですが、ランダムな要素が欲しかったんです。
つまり、一度アルゴリズムを設定すれば、時計の設計結果が完全にランダム化されるわけではないのですね?
ええ、その通りです。アルゴリズムが助けてくれる一方で、私はすべてを美しく保つために途中でいくつかの慎重な判断を下しています。
あなたは時計好きですか?
そうです。
好きな時計は何ですか?
大げさなものではないです。ブローバの機械式クロノグラフを持っています。比較的安価なものですが、妻にプロポーズしたときにつけていたものなので、その感傷的な価値がいちばんのつけている理由です。
ジェネレイティブウォッチは、すべて実在するブランドのスプーフィング(模倣)ですね。NFTのためにコピーするブランドはどのように決めているのですか?
今は、人々が最もよく知る作品を選んでいるだけです。サブマリーナーやデイトナのような時計ですね。またスピードマスターやデイデイトもそうです。なぜなら、このプロジェクトに多くの人が注目すればするほどコミュニティや取引能力、流動性に有利に働くからです。そしてこの先……NFTの世界にいると、メタバースの話がたくさん出てきますが、これは基本的に本物の価値とお金があるビデオゲームの世界のことです。これは目標でもあります。
ちょっと待ってください。つまりジェネレイティブウォッチはメタバースにおいて、物理的な世界で本物の時計が持つようなコレクター向けの価値を持つようになるということですか?
それが目標です。なぜかというと、メタバースでは実際に機能するからです。今は3Dのビデオアニメーションだけですが、刻み方の精度は正しいです。特に私が制作したプロモーションビデオでは1秒間に8振動で、注意深く見れば小さなチクタクという動きがわかると思います。しかしメタバース、つまりインタラクティブなゲーム環境でないと、それを取り出して、たとえば今、10時34分だとわかるようにはなりません。
つまりメタバースに存在すれば、ジェネレイティブウォッチで時間を知ることができるということですね?
ええ、その通りです。
頭が混乱してきました。では、イーサリアム(編集部註:ヴィタリック・ブテリン氏によって開発されたプラットフォームの名称)で支払う場合、ジェネレイティブウォッチはいくらで売れるのでしょうか?
最初のドロップでは、すべて0.1ETHに設定しました。当時、1ETHは約3000ドルでしたから、300ドルですね。Daitonaについては数が少ないのと、現実世界でデイトナと出合うのはかなり難しいので、0.2ETHに設定したんです。実生活で希少価値の高いものを見て、それをコレクションに反映させようといくつか判断しています。68本を0.2ETHで売ったんですが、そのとき1ETHは3500ドルだったんです。だから、1本あたり700ドルくらいかな。
68本のデジタル時計が1本700ドルくらい。それは本物のお金ですよね。
そう、そしてそれはプロジェクトに還元されます。その半分はより速く作るための新しいコンピュータ機器を買うために使いました。今はレンダリングにかかる時間が最大のボトルネックになっています。
レンダリングとはどういう意味か説明してください。
私が使っている3Dソフトには、レンダラーと呼ばれるものがあります。これは基本的に光が素材とどのように相互作用するかを計算するプログラムです。この作品はほぼ透明のガラスですが、コンピュータが時間をかけて、このような状態にしています。すべての光がここにあります。すると光はどのように透過し、材料に反射しているのか? その素材の特性は何か? そして最終的な画像を出力するのです。これらの時計はそれぞれ200フレームで、レンダリングに時間がかかります。1080×1080ピクセルの場合、レンダリング時間は合計で6時間にもなります。レンダリングにかかる時間ごとに私の時間と電気代がかかっているという意味で、そこには実際に目に見える価値があるのです。
最も成功した時計について教えてください。
いちばん高く売れたものを出してみましょう。最初のドロップで、この時計を含む25本の時計を買い占めた人がいました。実はこの人、時計が当たったんです。景品でタダで手に入れたんですよ。そして6.6ETHで売ったのです。つまり、その人は何もないところから約2万ドルを手に入れたわけです。
2万ドルの時計をプレゼントした!? どんな気分ですか?
超ハッピーです。誰かにそういう価値を提供できたことがうれしいです。
この時計はどんな人が買っているのですか?
私のオーディエンスはかなり多様です。だいたい時計が好きな人たちですね。
仮想通貨と時計のベン図が重なるところに存在する人たちということですか?
ええ、その通りです。
それがこのプロジェクトのおもしろいところですね。時計もNFTもコレクションという文化に支えられています。しかし職人の技や美しさ、素材など、時計が価値を持つ理由はあなたがNFTを作るときには物理的な形では存在しません。この2つは別世界にありながら、平行線をたどっていますね。
そうです。だからこそ、希少性を持たせる意味があるのです。私の最初のコレクションでは同じ時計を異なるエディションで作りました。つまり100人がまったく同じものを手にすることができたのです。現実の世界でもそのようなことはありますが、現実には希少性があります。例えば、デイトナを小売で手に入れることはできません。3年待ちとか、そんな感じです。それか中古市場に行かないといけないし、そうなるとマークアップがかなり高くなる。ですから、私の目には色違い、素材違い、ダイヤルやアームの違いといったレアリティの特徴がデジタルに相当すると映ります。
では、現物の時計とNFTの時計はどちらが投資対象として優れているのか、あなたの持論はいかがでしょうか。
私が確認できるコレクターのなかには、現実の時計は嫌いだけどデジタルの時計は手に入るし、かっこよく見えるからという理由で購入した人がいます。また、これを見て「ああ、画像や映像だけなんだ。これにどんな価値があるんだ?」と思う人もいるでしょう。「本物の時計? そんなの団塊の世代のものだ 」という逆の人もいます。私はどちらかというと、どちらも好きです。作るのが好きなんです。自分で作ったものが好きでこんなことを言うのは変ですが、自分が作ったものを見るのが好きなんです。本物の時計も好きで、ダトグラフが究極の1本ですね。
あと数本NFTの時計が売れれば手に入りそうですね。
そうなんですが、その前に家を買わなきゃいけないんです。
リズ・スティンソン(Liz Stinson)氏は、アメリカ・グラフィックアート協会の発行する「Eye on Design」誌の編集長であり、デザインに関する同氏の記事は「Wired」、「Curbed」、「Gizmodo」、「Architectural Digest」、「ウォールストリート・ジャーナル」にも掲載されている。彼女のHODINKEEのアーカイブはこちらを。