この年末年始の「Point-Counterpoint」は、あるひとつの問いを軸に展開される。今年はモダンウォッチへの関心がヴィンテージウォッチへの関心を上回った年なのだろうか? 小売店での品薄、中古市場での価格高騰、そして最も人気のある新作時計の多くがこれまでになく高いハンマープライスであることから、私はYesの立場を取っている。一方、ジャック・フォースターは反対の立場をとっている。両方の記事をお読みいただき、あなたのご意見をコメント欄で聞かせて欲しい。
そもそも私が時計に興味を持ったのは、古きよきものが持つ魅力が大きい。昔の時計に触れることは、時計作りやコレクションを理解する上で必要なことだと思う。自分がどこから来たのかを知らなければ、自分がどこに向かっているのか、あるいは向かおうとしているのかを本当に理解することはできないということだ。
そんなわけで、今年に関してはどう感じていいのかよくわからない。私が時計に関心を持ち始めた15年間で、現代的なものへの関心が、最もヴィンテージを凌駕する年であったと思うからだ。
数値化するのは難しいことだ。我々は皆、腕時計の興味の幅を超えて個人なのだ。好みのタイプやカテゴリーもさまざまだ。しかし、過去20年間で、今日ほど新しさや刺激的な宣伝が時計の話題を牽引した時代があっただろうか?
心から問いかけたい。2021年に最も話題になった時計オークションのロットを考えてみよう。それはフィリップスで650万ドル(約7億3800万円)で落札された1本のティファニー ブルーのノーチラスで、我々はつい先日この時計の存在を知ったばかりだ。フィリップスでの落札に続き、またもや2021年の注目Ref. 5711、今度はオリーブグリーンの文字盤がアンティコルムで落札された。このノーチラスの存在を知ったのは4月だが、41万6000ユーロ(約5400万円)で落札された。そしてそれは、超レアなSS製パテックだけではない。ティファニーブルーノーチラスとまったく同じニューヨークのセールで、2018年のロレックスのハルク(クールなサブマリーナーだが、6桁ドルに近づくとは到底思えないモデル)がもう少しでそこに到達するところだった。5月のフィリップスでは、F.P.ジュルヌ クロノメーター・ブルーが9万4500スイスフラン(約1142万円)で落札されている。これと対照的に、ヴィンテージのリファレンスの価格は、多くの場合、2、3年前の高値からひと段落している。
2021年には、最も魅力的で希少なヴィンテージウォッチ(例えば、先週ニューヨークのサザビーズで落札され、オークションで5番めに高価な時計となったピンクのパテック1518)が依然として姿を現す一方で、モダンウォッチ(実際には現行生産品)が話題を牽引していた。そして、販売店のウィンドウから姿を消し、セカンダリーマーケットの熱狂に火をつけただけでなく、ヴィンテージウォッチの領域であるオークションの演壇そのものに浸透していったのだ。オークションのカタログは、ニーズの高いモダンペプシ、バットマン、デイトナ、ノーチラス5711がなければ、不完全なものだと感じられるようになった。それらは時計購入のプラットフォームとして、人々の需要に応えるものとなった。
供給量の少なさと、人気インターネットサイトでの膨大な情報量により、特定のヴィンテージウォッチのリファレンスへの関心が急速に高まった。あるブランドやリファレンスが高価すぎて購入できなくなると、その穴を埋めるように別のブランドやリファレンスが台頭し、人気を博した。
現在、最も人気のある現行生産品の時計は、定義上、現在も作られているが、需要に追いついていないのが現状だ。その結果、誰も欲しがらないモデルを捨てる場所だと思われていた中古市場が、誰もが欲しがる新しいモデルを買う場所として急浮上している。そして、そのことが中古というカテゴリーを盛り上げているのだ。
今年の時計はこれが大きな話題となった。オークションに出品された大物ヴィンテージではない。新しく登場した時計の中身でもない。現行品の時計に人気が集中しているのだ。