ADVERTISEMENT
極めて正確な時間を維持することを意図した時計の最も重要な機能の1つに、ストップセコンド機能がある。一方、トゥールビヨンの最も重要な目的は、ブレゲが先駆けて考案したように、時計をより正確なものとすることにある。そのため、トゥールビヨンとストップセコンド機能は両方搭載されて当然だと誰でも考えるはずだ…だが、そうではないのだ。
まずは、トゥールビヨンについて話をしよう。トゥールビヨンの基本的な考え方は非常にシンプルで、時計がどのような位置にあるかによってわずかに速く、または遅く動くという時計製造における古くからの課題を解決するものだ。これは、テンプとヒゲゼンマイの位置の違いによって重力の作用が変化することが基盤となっている。例えば、テンプを思い浮かべて欲しい。テンプは、その中心に天芯(非常に薄いスティール製の軸)をもっている。テンプの先端は2つの石の穴の中に入っており、時計を垂直位置で保持すると、テンプの側面が石の縁に引っ張られ、わずかな余分な摩擦を生じさせる。大したことはないが、それでも時計の速度を変化させ、精度に影響を与えるには十分だ。垂直位置と水平位置の両方で同じ速度で動作するように時計を調整することは、時計の調整の基本的な課題の1つだ。もし、垂直方向の速度が常に同じであれば、その解決策は単純だ。水平方向の速度を垂直方向の速度に合わせて調整すれば解決できる。その方法の1つとして、テンプの天芯の先端をわずかに平らにすることで、時計が水平になっているときと垂直になっているときの摩擦を同じくらいにすることができる。しかし、垂直であっても位置が微妙に異なる場合がある。例えば、時計は通常、リューズが上にあるときと下にあるときでは、わずかに異なる速度で動作するのだ。
このように、これがトゥールビヨンである。トゥールビヨンの背後にある考え方は、テンプとヒゲゼンマイが長い間、どの位置にも留まらないようにすることだ。そうすることで、全ての垂直位置の平均速度が成り立ち、それを水平位置に合わせて調整することができる。時計研究家ジョージ・ダニエルズが著書の『Watchmaking(ウォッチメイキング)』の中で述べたように(少し言い換えるが)、経年劣化したオイルが時間の経過と共に時計の速度を変化させるという事実がなければ、時計は完璧なものになるだろう。それがコーアクシャル脱進機の発明の主な動機の1つであったが、それはまた別の話だ。
要点をまとめると:トゥールビヨンは精度の向上に役立つといわれているが(これについては賛否両論あるが)、同時に、基準となる時報に対して簡単に秒針を合わせることができないため、そもそも機構としての目的が達成されていないということになる。私にもはっきりとした理由は分からないが、2008年というごく最近まで、誰もトゥールビヨンにストップセコンドを搭載するという問題に挑戦しようとしていなかったようである。
この年、A.ランゲ&ゾーネは素晴らしい時計を生産したが、残念ながら現在は生産されていない。しかし、この時計は時折オークションに出品されることがある(歴史的に重要な時計であり、特定の趣味の人にとっては驚異的な美しさをもっているため、もし見つけられたら手に入れる価値があるだろう)。カバレット・トゥールビヨンだ。
カバレット・トゥールビヨンは非常に興味深い仕組みを採用していた。この時計はもはや同社コレクションの一部ではないが(オークションには出てくるが)、この機械的な仕組みは、1815 トゥールビヨン、そして最近では1815 ハンドヴェルクスクンスト・エディションにも採用されている。リューズを引き抜くと、ストップレバーがトゥールビヨン以外の時計と同じように所定の位置に移動する。
しかしながら、1815 トゥールビヨンでは、レバーがY字型になっており、中央に軸が位置することで、Y字の片方の先端がトゥールビヨンのキャリッジの回転軸に阻まれても、もう片方の先端が下降してテンプを止めることができるようになっている(それによって、キャリッジだけでなく時計の動きも止めることができるのだ)。
もう1つのストップセコンド付きトゥールビヨンは、非常にユニークな仕組みを使用している(ストップセコンド付きトゥールビヨンは、ほとんどの仕組みがユニークなものだが)。モリッツ・グロスマンによるもので、2014年に工場を訪問した際に、我々が目にしたものはとても印象的だった。グラスヒュッテを拠点とするこの会社は(2008年にCEOのクリスティーヌ・フッターによって設立された)かなり新しい会社だが、その名前はとても古いものだ。モリッツ・グロスマンは、F.A.ランゲ、ユリウス・アスマン、アドルフ・シュナイダーの3人を含む、グラスヒュッテの時計製造業の4人の“創立者”の1人である。
ストップセコンド付きトゥールビヨンを使用したグロスマンの時計といえば、2014年に発売されたベヌー・トゥールビヨンだ。この時計は、スリーミニッツ・フライング トゥールビヨンであるため、トゥールビヨンのキャリッジに直接秒針を付けることはできない(付けることはできるが、180秒ごとに1回転する秒針になってしまう)。ベヌー・トゥールビヨンでは、中心の秒針が、香箱からトゥールビヨンケージまでの主な動力の流れから外れている。トゥールビヨンを停止させる方法はシンプルで、人の髪の毛でできた小さなブラシがストップレバーとテンプの間の接点となり、トゥールビヨンの支柱は、ブラシがケージの一部に接触しても毛が分離してブラシが下降することでテンプに接触するような構造になっている(2014年にもレポートしたように、このブラシの毛は実際にはCEOのクリスティン・ヒュッターのもので、確かに、少なくとも近年の時計製造では、作品に自分自身を注ぎ込むという、異例の文字通りの解釈だ)。
もう1つのストップセコンド付きトゥールビヨンは、グローネフェルト兄弟が製造しているパララックス トゥールビヨン(少し前に私たちが実際に手に取ってみた)だ。これはいくつかの点で技術的に興味深いトゥールビヨンである。どちらもセンターセコンドを備えたフライングトゥールビヨンという点ではベヌーと似ているが、パララックスは3分で1回転するトゥールビヨンではなく、1分で1回転するトゥールビヨンとなっている。この時計は、中央の秒針の先端に近い位置にあるチャプターリングの外側が盛り上がっていることからその名が付いた。その考え方は、秒を読み取る際の誤差をなくすというものである。
このモデルのストップセコンドの仕組みは少し変わっている。ダイヤル上には、リューズが巻き上げモードかセッティングモードかを示すインジケーターがあり、リューズを押し込むことで切り替えが可能だ。セッティングモードに移行すると、秒針が12時の位置に到達するまで、トゥールビヨンケージと秒針の両方が回転を続け、その後秒針とトゥールビヨンが停止する。グローネフェルトのパララックス トゥールビヨンは、1815とグロスマン製トゥールビヨンの両方の特徴を兼ね備えているが、独自の個性も備えている。
おそらく、ストップセコンドをトゥールビヨンに組み込むという問題に対する最も根本的な解決策は、単純にケージを完全に取り除くことだ。モンブラン エグゾトゥールビヨンは、まさにそれを実現している。本機はトゥールビヨンであるが、ケージが必要最小限にされたものだ。テンプの真下にあるプラットフォームには、エスケープホイール、テンプとヒゲゼンマイ、レバーが搭載されている。トゥールビヨンケージがないため、ストップセコンドレバーがケージの柱に当たる心配がない。つまり、標準的なストップセコンドを使用しても問題ないのだ。ストップセコンド機能は、最近では「タイムウォーカー エグゾトゥールビヨン ミニッツクロノグラフ」(上)や「モンブラン ヘリテージ クロノメトリー エグゾトゥールビヨン ミニッツクロノグラフ」にも搭載されている。
モンブラン・エグゾトゥールビヨンラトラパンテの手に取った様子はこちらから見ることができる。(ストップセコンドはないが、見る価値はもちろんある)。モリッツ・グロスマンでは、ベヌー・トゥールビヨンが見ることができる。また、興味のある方は、グローネフェルトのパララックス トゥールビヨンを見て欲しい。最後に、馴染みがないのであれば、A.ランゲ&ゾーネの1815 トゥールビヨンを見てみてはいかがだろうか。