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オメガといえば、まず最初に思い浮かべるのはスピードマスターだろう。その頃(1940年代)のオメガは、トゥールビヨンが時計愛好家を楽しませるための視覚的なエンターテイメントではなく、より優れた精度を生み出すための実験の最先端にあった時代に、第一世代のトゥールビヨンウォッチを製造していた。オメガの第一世代のトゥールビヨン・ウォッチは、事実上、販売されたりオークションに出品されたりすることはなかったが、2017年にフィリップスで開催されたオークションでは、142万8500スイスフラン(約1.6億円)という息を呑むような金額で落札されている。
1940年代に製造されたトゥールビヨン・ウォッチは、Cal.30 Iを搭載しており、販売用に製造されたのではなく、天文台コンクールに出品するためのものだった。トゥールビヨンとしては珍しい7分半に1度回転するもので、当時としては最先端の精度を追求する最後の手段となっていた。
本作は、デ・ヴィル センタートゥールビヨンの最新バージョンであるだけでなく、マスター クロノメーター認定を受けたオメガ初のトゥールビヨン搭載モデルでもあり、少なくとも1万5000ガウスの磁場に耐えることができる。最新のデ・ヴィル センタートゥールビヨンは、3日間のパワーリザーブとコーアクシャル脱進機を備えている。
1994年、オメガが初めて「デ・ヴィル」シリーズに採用したセンタートゥールビヨンは、スイス最大級かつ最も重要な時計メーカーの一つであるオメガにとって、驚くべき成果であると同時に、目的を示すものでもあった。クォーツ危機から立ち直ったオメガは、ムーブメント製造における社内の専門知識の多くを失っていたものの、オメガはこの分野で再び差別化を図ることを決意していた。1994年に発表された「デ・ヴィル センタートゥールビヨン」は、オメガの時計製造における卓越した技術力を、過去と同様に未来へのテーマとするという決意を示している。
初代デ・ヴィル センタートゥールビヨンは、その名の通り、そして文字盤をご覧いただければお分かりのとおり、トゥールビヨンをムーブメントの中心に配置した時計である。このプロジェクトは1991年に始まり、2007年にPuristsPro.comに掲載された非常に詳細な記事によると、オメガのモリッツ・グリム氏(Moritz Grimm)とアンドレ・ベイナー氏(André Beyner)によってプロジェクト33(P33)と名付けられた(記事の中で言及された興味深いトリビアは、ベイナー氏は1927年の生まれ年に始まった特別なプロジェクトに、奇数の数字を与えたこと。P33は彼の4番目のプロジェクトだ)。1994年のオメガ創立100周年に間に合うように、チームはわずか3年でこの時計を作り上げた。
技術的な最大の課題は、通常、時計の針はムーブメントの中心にある軸に取り付けられるのが一般的だが、中央のトゥールビヨンの位置がこれを不可能にしたのだ。しかし、1つの解決策が見つかった。2枚のサファイアディスクに時分表示を取り付け、ベゼルの下にある歯車でその周辺を駆動させるというもの(カルティエのミステリークロックと似たような解決策である)。
プロジェクトは最終的に、オメガの100周年に間に合うように完成し、中央にトゥールビヨンキャリバー1170を搭載したデ・ヴィルで発表された。この時計は2002年にCOSCクロノメーター認定を受け、再度リリースされた。センタートゥールビヨンの米国特許は1995年(第5,608,694号)に取得され、2015年に失効したが、センタートゥールビヨンは非常に希少な存在であることに変わりはないだろう(オメガとは異なる技術的アプローチを用いた注目すべき一例として、ハルディマン・フライング・センタートゥールビヨン H1がある)。
新作のデ・ヴィル トゥールビヨンはシリアルナンバーが入り、新たなセンタートゥールビヨンムーブメントを採用している。Cal.1170と基本的な構造や技術的な解決策は同じだが、多くの点で新しいムーブメントでもある。これはセンタートゥールビヨン Cal.2640と呼ばれ、3日間パワーリザーブを備えている。
ケースから取り出してムーブメントを文字盤側から見ると、時分を表示する円盤を駆動するためのシステムが見える。実際の駆動ギアは1時と2時の位置にあり、2枚のディスクを固定する留め具が12時、4時、8時の位置にある。これらには2つのディスク用のためにくぼみが2つある。巻き上げとセッティングのためのキーレスワークは、3時位置のスペースの大部分を占めていて、スケルトン化された美しい形のカバープレート(デテントスプリング<板バネ>が内蔵されており、この特定の要素が完成した時計では見えないのは残念だが、これは歴史的に高級時計製造に大きな関心を与えてきたクラフツマンシップの隠れた部分の一つでもあるだろう)。
2つの主ゼンマイ香箱は、ムーブメントの裏側にあるくぼみの中に目立つように配置されており、パワーリザーブのセクターとしても機能する円弧状のブリッジでつながっている(1994年のオリジナルモデルは自動巻きだが、新型は手巻きだ)。石の配置からすると、香箱は直列に並んでいるように見え、右側の香箱が実際に中央のトゥールビヨンを駆動しているように見える(香箱の宝石と歯車の軸は、ムーブメントの上部3分の1を構成するブリッジの下にある)。プレートとブリッジは全てセドナゴールド製で、ムーブメントのデザインと仕上げには、伝統的な高級仕上げ技術と、より現代的な素材とアプローチの両方が反映されている。従来のジュネーブストライプではなく、フロステッドゴールド仕上げを使用していることは、私の目には、英国の懐中時計の伝統を少し想起させる。これは、コーアクシャル脱進機を発明した名匠ジョージ・ダニエルズ氏(George Daniels)への微妙なオマージュとしてオメガが意図したものなのかどうかは分からないが、確かにこのムーブメントに非常に威厳のある外観を与えており、大きな宝石と高度に研磨されたスティールワークとのコントラストを見せている。
このモデルは、オメガ初のマスター クロノメーター認定を受けたセンタートゥールビヨンであり、非常に強い磁場(マスター クロノメーター認定を受ける時計の最低抵抗値は1万5000ガウスである)にさらされても機能し続けるトゥールビヨンを作ることに成功したということだ。トゥールビヨンのキャリッジはブラックの硬化被膜加工が施されたチタン製で、ムーブメント全体には50石が配されている。1分間で1回転するキャリッジは、時計の秒針としても機能する。
これは、ハイエンドウォッチの間では非常に小さな(相対的に言えば)世界ではあるが、かなり大きなニュースといえる。1994年、オメガの100周年記念モデルとして発表されたデ・ヴィル センタートゥールビヨンは、歴史的な瞬間を迎えたのだ。モーリッツ・グリム氏とアンドレ・ベイナー氏が考案したこのモデルは、マスター クロノメーター認定を受け、コーアクシャル脱進機を搭載したことで、最新技術を駆使したモデルとなっている。私は、今年中のどこかの時点で、ぜひ実際に目にすることができることを願う。
オメガ デ・ヴィル トゥールビヨン ナンバードエディション:ケース・43mm、厚さ12.7mm、セドナゴールドとカノープスゴールド、30m防水。ムーブメント・オメガ手巻きキャリバー2640、コーアクシャル脱進機付き1分トゥールビヨン、ブラックセラマイズドチタン製トゥールビヨンキャリッジ、18Kセドナゴールド製プレートとブリッジ。3日間パワーリザーブ表示、マスター クロノメーター認定。限定生産ではなくシリアルナンバー入り生産、価格:1888万円(税抜)。7月発売予定。
さらなる詳細についてはオメガ公式サイトへ。
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