MB&Fが2014年にLM101を発表したとき、我らがベン・クライマーは、このレガシー マシンの特別な表現を、その装着性と(比較的)手ごろな価格の両方で賞賛した。当時としては斬新な40mmのサイジングを採用したこのモデルは瞬く間に、普通に身につけられるMB&Fとなった。
早いもので、今年の5月、アバンギャルドな高級時計の世界にあまり触れることのなかった僕は、MB&Fの優秀なスタッフから、2021年に発売されるレガシー マシン 101の1つではなく、3つすべてを借りないか、というメールを受け取った。僕はGmailのスマートリプライで「もちろん!」をクリックし、宅配便で届く非常に貴重な荷物を心待ちにしていた。
届いた時計は大きな袋に入っていて、自転車のブレーキのリード線に付いているようなスティール製ケーブルで縛られていた。そのケーブルを切り取り、箱をそっと開けてみると、前回の展示会以来、いや、最後にMB&Fと打ち合わせをしたとき以来のドキドキ感を感じた。
現在、多くの素晴らしいインディペンデントブランドが存在しているが、MB&Fはそのなかでも別格の存在だ。M.A.D.ギャラリーに展示されている驚異的な作品はもちろんのこと、彼らの時計には好奇心溢れるセンスが貫かれている。レガシー マシンが、マックス・ブッサーと彼の友人たちがもし100年早く生まれていたら作ったであろうものを追求したものならば、LM101は、時計のタイムマシンであると同時に、想像力と魅力をかきたてる乗り物でもある。
保護ケースから鮮やかなブルースティール製のモデルを取り出し、リューズを2、3回優しく回してみた。テンプが踊り始め、リューズを回すたびにパワーリザーブインジケーターがゆっくりと上昇していく様子に、思わず笑みがこぼれた。
1000ドル以下のダイバーズウォッチがもつディテールにこだわることに多くの時間を費やしている男にとって、これらの3本の作品は全く別の意味でごちそうだった。一番安いものでも6万ドルはする。しかし、僕はほかの時計をつけるのと同じように、これらを試してみた。その結果は以下の通りだ。
まず、スペックをご紹介する。
オリジナルの仕様とほぼ同じで、2021年モデルは、スティール製(明るいブルーのダイヤル)、18Kレッドゴールド製(ディープブルーのダイヤル)、18Kホワイトゴールド製(リッチパープルのダイヤル)の3種類がある。すべて幅40mm、ドーム型クリスタル上部までの厚さ15.5mm、そしてラグtoラグは46.5mmと、同じサイズだ。3つのバージョンともレザーストラップと、それぞれのケースに合わせた金属製のアウターバックル付きスプリング式ダブルバタフライクラスプを備える。
2時位置のサイン入りフローティングダイヤルに時間と分を表示し、6時位置にはパワーリザーブインジケーターがある。レイアウトはシンプルで、そのデザインの多くは、LM101の宙に浮いたテンワと脱進機を明るく見やすくするためにある。動き(そして非常に穏やかなカチカチという音)を提供しているため、この大きな回転するテンワは、美しいムーブメント(MB&F初の自社製キャリバーでもある)の機能的な心臓部ではなく、トゥールビヨンのようなものだと思われても仕方がないだろう。
45時間のパワーリザーブと14mmのフローティングテンプ(MB&Fの友人であるH.モーザー社から提供されたシュトラウマン社製ダブルヒゲゼンマイを搭載)を支えるLM101のムーブメントは、1万8000振動/時で時を刻み、23石の手巻き式で、ダークNAC処理されたブリッジをもち、才能あふれるカリ・ヴティライネン(ヴティライネンの時計でおなじみ)がデザインを担当している。231ものパーツを使用したこのモデルは、ほかのMB&Fの時計と比較すると比較的シンプルであるにもかかわらず、どこらから見ても素晴らしい仕上がりとなっており、LM101はレガシー マシンの哲学と古い世界の時計に対するMB&Fの限りない喜びを表現した素晴らしいモデルとなっている。
2021年モデルは、これまでのLM101とほぼ同じだが、ベゼルの薄型化、パワーリザーブ目盛りの変更、インダイヤルの若干の大型化、ダイヤルにモデル名が刻印されていないことなど、いくつかの顕著な違いがある。
LM101のような時計にストラップをつけるには、ちょっとした練習が必要だ。デフォルトで付属している高品質なレザーストラップは硬く、それぞれにバネ式のバタフライクラスプが取り付けられている。練習には心配がともなったが、すぐにコツをつかむことができた。サイズを調整した後は、3つのバージョンすべてが着用可能となっただけでなく、予想以上に快適であると分かった。
実際、SS製のLM101に取りつけられたブラウンのスエードストラップが数時間で手首になじんだ後は、ほとんどほかの40mmの時計と同じように着用できた。ただし、実際に自分の手首を見るまでは、だが。
サファイアクリスタルの背の高いドーム風防は非常に誇張されており、ほとんど常に反射している。LM101は、従来の腕時計というよりも、時を刻む歯車や回転するホイールのコレクションを展示する豪華なディスプレイケースのように感じられる(というか、そうとしか言いようがない)。同様に、浮遊する2つのホワイトダイヤルは、カラフルでテクスチャーのある地板の上に浮かび上がり、レガシー マシンシリーズの外観と機能を特徴づけるエレガントな効果をもたらしている。
手首に装着すると、SS製のLM101(ストラップ付きで80g)はライトブルーのカラーリングが若々しく感じられ、光量の少ない場所でもその色が暗くなることはほとんどない。ダイヤルに施された放射状のサンレイパターンは、ブルーのカラーリングと美しく調和しており、セミマットのような仕上がりで、過度に反射せず、輝きに欠けることもない。
対照的に、18KレッドゴールドのLM101は、温かみのあるケースカラーとダイヤルのベースカラーである濃く豊かなブルー、そしてゴールドの重厚感(総重量94g)が相まって、よりオールドスクールな雰囲気を醸し出している。ダイヤルのパターンは同じだが、濃いブルーのおかげでより繊細な印象を与えている。剥き出しになった駆動部分にはゴールドのアクセントが効き、ゴールドがムーブメントのダークトーンを引き立てており、3つのバージョンのなかではムーブメントの見ためが一番良いと思う。
最後はワイルドなモデルだ。パンチの効いたパープルのダイヤルを18Kホワイトゴールドで囲んだこのモデルは、ほかの2モデルに比べてジェットセッターのような派手さと遊び心を感じさせる。また、スティールとホワイトゴールドをつけ変えてみると、重量の増加(スティールより20%以上重い102g)がすぐに分かる。
3つのバージョンのうち、僕はディープブルーのダイヤルとレッドゴールドのケースの組み合わせが最も魅力的だと感じたが、MB&Fの通常の生産ではあまり見られない素材であるスティールが最も特別なものだと考えている。生産について言えば、2021年のLM101は特に限定モデルではないが、実際の生産数は3つのバージョンすべてにおいて数十本程度になると思われる。
ご想像のとおり、需要が生産を上回っており、SSモデルに多くの関心が寄せられている。キャンセル待ちを希望する方は、SSモデルで5万3000スイスフラン(約5万7500ドル=約633万円)、レッドゴールドまたはホワイトゴールドモデルで6万4000スイスフラン(約6万9400ドル=約763万円)を用意する必要がある。僕にとっては、価格はほとんど問題ではない。まず時計ファンとして、その次に時計ユーザーとして、MB&Fのようなブランドが存在することだけで満足しているのだ。そして、LM101のような時計には、真の意味で直接的な競争相手がいるとは思えないため、価格の比較検討はできないのだ。
同じような価格帯で購入できる特別で希少な時計には事欠かないが、このLM101のような時計について、1000ドル以下のダイバーズウォッチに求めるような、臨床的な市場分析を適用するのは難しい。この時計はコレクターやマニアのために作られたものだ。この時計は、僕たちのなかにある子供心に語りかけてくる。正直に言うと、その子供はお金のことはよく知らないのだ。
詳細については、MB&Fオンラインを。
All photos, James Stacey.