クロノグラフとダイバーズウォッチには一般的にあまり共通点はないが、確実に共通していると言えるのは経過時間を計測する機能だ。この重要な機能にはそれぞれメリットとデメリットがあり、もちろん、それぞれが異なる方法でこの課題に取り組んでいる。経過時間を計測する際に、我々はまず、この複雑機構をもつのはクロノグラフだけだと思い浮かべることが多いが、これがいくつかの点でダイバーズウォッチの特徴であることももちろん事実だ。今日は、実生活で経過時間を計測する際の日常的な有用性という観点から、両者の長所と短所を見ていこう。
クロノグラフ:正確、しかし複雑
「クロノグラフの用途はほぼ無限大だ」
– ドナルド・デ・カール「COMPLICATED WATCHES AND THEIR REPAIR」第2版経過時間を正確に計測するためには、ダイバーズウォッチの経過時間ベゼルよりもクロノグラフの方が適していることは間違いない。ほとんどのクロノグラフには、センターセコンドと経過時間を表示するサブダイヤルが付いており(初期のポケットクロノグラフの多くはセンターセコンドのみがついていた)、テンプの振動数によってのみ制限される、1秒の何分の1かまで経過時間を測定することができる。
多くの場合、文字盤をすっきりさせるために、クロノグラフには2つだけサブダイヤルが配されることが多い。一つは経過分数を表示し、もう1つは経過秒数を示す。経過時間は通常30分まで表示されるが、それ以外のインターバルも珍しくない。例えば、レガッタでは、15分の積算計なら5分や10分のスタートタイムのトラッキングがより明確行える。45分や60分の積算計も製作されている。
クロノグラフは本質的により高い精度を提供できるので、過去にはさまざまな用途のために作られている。多くの場合(常にではないが)、これらの特殊なクロノグラフは昔から、特定の事象の測定を簡素化するために設計されたベゼルをもっていた。『Complicated Watches And Their Repair』の中で、著者のドナルド・デ・カールはこう書いてる。
「クロノグラフの用途はほぼ無限大だ。さまざまな計算が行われ、文字盤が調整されているので、ユーザー自身が計算をする必要がない。好みの文字盤のクロノグラフを選び、"ボタンを押す"だけで、正確な答えが文字盤に表示されるのだ」
タキメーターベゼルやダイヤルは、測定された距離(通常は測定されたマイルやキロ)の平均速度を測定することができ、最も一般的に見られるベゼルの一つだ。しかし、これはイギリス人が言うように、かなり特異なものだ。私が最後に車を運転したときにマイルやキロメーターを計測したことは覚えていないし、クロノグラフの所有者の99%は使う機会がないと思っている。この非常に特有の、一般的には全く役に立たない機能は、おそらく機械式クロノグラフで最も広く見られるものだ。この機能はある種のノスタルジックな魅力を添え、それで今でも見うけられるのだが、日常生活に少しでも実用的な貢献をするかという点では、ほぼ何もない。しかし、タキメーターベゼルは伝統があり、人々に愛されているため時計メーカーはそれを作り続けているわけだ。
タキメーターは、実用性を考慮して発明された唯一のクロノグラフ・スケールではない。デ・カールは、"電話での会話の長さを計るために "3つの分単位をつ "ミニッツ・レコーディング・クロノグラフ "に言及している。テレメーター・クロノグラフは、ある事象を見た時間とその音を聞いた時間の違いを計ることによって、実際の場所からどのくらい離れているかを伝えることができる。よく引用されるのは、大砲の閃光(または砲弾の落下)を観測した距離と、閃光を見てから雷を聞くまでの秒数に基づく雷雨までの距離の2つの例だ。
また、脈拍を触診して1分間の心拍数を正確に推定できるパルスメーター・クロノグラフや、"1時間あたりに生産された記事や作業の数 "を測定できる生産数カウント・クロノグラフというものもある。また、デ・カールは、アポイントメント/メモ・クロノグラフ、タイド/レガッタ・クロノグラフ、センター分針と時針を備えたクロノグラフ、方向を見極めるクロノグラフなども紹介している。
パルスメータースケール付きクロノグラフ。スタート後、脈拍を30拍感じた後に止めると、クロノグラフの秒針は1分あたりの心拍数を示す。
クロノグラフは正確で汎用性が高く楽しいものだが、いくつかのデメリットがある。1つめは、ダイバーズウォッチに比べて繊細で、気まぐれな機構でさえあるということだ。
ブレゲと同時代のルイ・モネが1816年に完成させた、60分の1秒という短い間隔で計測できる非常にエキゾチックな「サーズカウント」クロノグラフを除けば、初期のクロノグラフは、文字盤にインクを一滴たらして経過時間を表示する、いわゆるインキング・クロノグラフだった。この不十分で厄介な方法は、 "秒針に必要な全ての3つの機能(スタート、ストップ、および帰零)が付いた、実際に使える懐中時計を示した"(ゲルト-R.ラング&ラインハルト-マイズ 『Chronograph Wristwatches』)最初の人として広く知られるアドルフ・ニコルの1862年の特許によって過去のものとなった。 クロノグラフは、その駆動部品の数の多さと繊細さのため、ダイバーズウォッチより高価な選択肢でもある。大量生産とカム制御クロノグラフの発明のために以前より安価になったとはいえ(耐久性も向上した)、比較的高いコストと複雑さは否定できないマイナス面となっている。
ダイバーズウォッチ:正確さは劣るものの、ずっと頑丈
次に、ダイバーズウォッチの話に移ろう。クロノグラフとは異なり、ダイバーズウォッチと名乗るにはISO6425の規格に適合していなければならない。この国際規格には、最低水深100m、暗闇で25cm離れても読める文字盤、4800A/m(1mあたりのアンペア)の耐磁性など、いくつかの要件が含まれている。しかし、私たちの用途に最も合うのは、最低5分間隔のマークを備えた一方向回転するベゼルだ。
ダイバーズウォッチは、クロノグラフよりもはるかに単純なメカニズムであり、実際、逆回転防止ベゼルは、一般的に複雑機構とは決して見なされない。逆回転防止ベゼルが必要とされる理由は、ダイビングで使用しているときに、ベゼルが何かのはずみでズレて実際に潜れる残り時間より多くの時間が残っているように表示しないためだ。多くの場合、ベゼルは、5分毎のマーカーがついているが、最初の15分には1分ごとのマーカーがついている。
ブランパンのフィフティファゾムズ MIL-SPEC。
ダイバーズウォッチには、クロノグラフよりも外部からの色々な刺激への耐性が求められる。一般的に、より堅牢であり、もちろんダイビングスケールベゼルはクロノグラフ機構よりもずっと壊れにくくなっている。
また、ほぼ間違いなく、さらに汎用性が高い。ベゼルを使用することで、1時間までの経過時間を確実に計測することができる(2レジスターのクロノグラフよりも有利だが、12時間レジスターを搭載したクロノグラフにも同様の利点がある)。経過時間の読み取りも、より早くて簡単。ベゼルを基準に分針の位置を見るだけで、経過時間を瞬時に把握することができるのだ。クロノグラフの中には、時間帯によって日に何度かサブレジスターが針で見えなくなってしまうものがある。確実に言えるのは、ダイバーズウォッチの方が総じて本質的な読みやすさを備えているということだ。
もしそうしたいなら、ベゼルを使って簡単に経過時間を計ることもできる。私は長時間のフライトでは、飛行時間を記録するためにダイバーズウォッチを使用している。ベゼルを分針ではなく時針を基準にしてセットするだけで、最大12時間の経過時間を計測することができる。お望みとあれば、ベゼルをGMTからオフセットした時間数だけ前後にセットすることで、ベゼルからセカンドタイムゾーンの時間を読み取ることさえできる(これには少し精神的な努力が必要だが)。
確かにダイバーズウォッチのベゼルはクロノグラフよりも精度が低いのは事実だが、ここで、ではなぜ、いつ、実際にクロノグラフが提供する精度が必要なのかという疑問が出てくる。これには私自身の経験が参考になるかもしれない。経過時間の間隔は、時計に応じて、10〜15秒の精度で読み取ることができる。これは、正確に位置がとれる「カチッ」という音がするベゼルを使うことが前提となり、30秒単位で、1分毎または30秒ごとの開始時に計ると、より分かりやすい。しかし、このとおりにしなくても、日常生活の実用的な経過時間測定(例えば料理、または乾燥機の時間、または会議に出席していた時間を確認するなど)のためなら、ダイバーズウォッチのもたらす結果は十分以上だ。クロノグラフは、そのような状況下では99%、単に複雑すぎ、高価すぎ、過剰でしかない。
最高の働きをするのは?
しかし、時計愛好家にとっては幸いなことに、実用性が全てではない。ダイバーズウォッチの方が多くの面で実用性に優れているのは事実だが、クロノグラフにはダイバーズウォッチにはない特別な魅力がある。経過時間を精密な単位まで計れるという事実は、まさにクロノグラフの面白さを物語っている。
このことを理解するために、私たちがダイバーズウォッチの深度表示(どれだけ深く潜ることができるか)に魅了されていることを思えばいい。テクニカルダイバーや飽和潜水ダイバー以外の誰もが40m(ほとんどの場合、レクリエーション用のスキューバの最大水深)より深くまで潜ることはないが、500mや1000mの防水評価をもつ時計の技術的な達成には、実用的な必要性とは無関係に何か本質的に興味深いものがあることも事実だ。
経過時間を計測することに興味をもつようになると、ダイバーズウォッチでは到達不可能なクロノグラフの独壇場が見えてくる。ダイバーズウォッチにおける経過時間の計測能力と仕組みは、実際の必要性に由来するものだ。クロノグラフでは対応できない、生死に関わる緊急性をもっている。人の命がかかっているときの経過時間測定器がどんなものか知りたければ、ダイバーズウォッチを見るしかない。しかし、正確性に最大の満足感を得たいならば、クロノグラフに勝るものはない。
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