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Interview 関 法史氏がQuiet Clubの創設メンバーとして、自身の時計製作をスタート

2020年に話題をさらった関 法史氏を覚えているだろうか? 内に秘めていた野心によって、彼は早くも時計づくりをスタートさせていた。

2020年の「ヤング・タレント・コンペティション」。F.P.ジュルヌとアカデミー独立時計師協会(AHCI)によって運営されているこの選考は次代を担う若手時計師の発掘を目的としているが、この年の受賞者であった関 法史氏は日本人初の栄冠を手にしたことで、一躍ときの人となった。それから3年以上が経過したわけだが、彼はまたたく間に自身の時計づくりをスタートさせ、Quiet Club(クワイエットクラブ)というブランドを立ち上げた。

 クワイエットクラブはアメリカに本社を構え、時計製造は関氏が代表を務める日本で行うというスタイルを取っており、CEOであるHK Ueda(上田北斗)氏とチーフデザイナーのJohnny Ting(ジョニー・ティン)氏を含めて3人のメンバーで構成される、業界でも最若手かつ日米の個性を備えたユニークなブランドである。今回は、いち早くその時計のプロトタイプと、クワイエットクラブの面々に話を聞く機会を得たため、その内幕をお伝えしたいと思う。

関 法史氏


持ち主の生活や精神に深く影響を与えるような時計
Yu sekiguchi

クワイエットクラブを立ち上げたきっかけは何ですか?

norifumi seki

このプロジェクトに興味を持った最初の理由は、創業メンバーである上田さんとデザイナーのジョニーさんが持っていた、「魂を感じるものを作りたい」という哲学に強く共感したからです。ちょうど、コロナ禍のあいだに対話を始めたのですが、色々な規制が緩くなってきたタイミングで初めて対面でお話して、そのときにしっかりコンセプトの話をして、それがかなり哲学的な印象を受けたんです。僕にとってはそれがシンパシーを感じるきっかけになりましたね。

YU SEKIGUCHI

上田さんも、当時話したことは印象に残っていますか?

HK Ueda

人でもモノでも自分の居場所を見つけてやるべき役割を最大限に果たすために、切磋琢磨している状態が多分最も充実しているし幸せを感じるよねっていう話で共感したのは覚えてますね。時計についてもそうで、何かの役割を果たすための機能を追求していく先に生まれるフォルムがすごく美しいと僕は感じますし、時計に魂があるとしたらそれがあるべき姿なんだろうとなと思います。

YU SEKIGUCHI

処女作となるモデルはアラーム機能を備えながら、とてもシンプルな意匠が特徴的です。

HK Ueda

時計自体のコンセプトは、自分たちの日常の中で時計の果たす役割ってなんだろうというところから考えました。そこで、僕ら自身が自分磨きをする集中時間を作る道具みたいな時計が欲しいなって思ったんです。アラーム機能を備えていて、かつ従来のアラーム時計には無い美しい音で、集中状態に入ったり出たりする手助けをしてくれる機械式時計。ミニッツリピーターが暗闇の中でも時間を知るための道具として生まれたように、いま一度現代の生活の道具として機能を追求する時計作りをしてみてはどうだろうというアプローチで始めました。

YU SEKIGUCHI

この時計が備えるアラーム機構は関さんが独自に生み出したものだと聞きました。それについて少し教えてください。

NORIFUMI SEKI

時打ち機構自体はすでに存在しているもので、確かにハイエンドな機構ではありますが、ただそれをつくろうというだけのプロジェクトだったらあまりおもしろいと感じなかったかもしれません。この時計には、いわゆるアラーム機構に独自のファンクションを加えることで、ゼロから発明したコンプリケーションを搭載しています。従来の時打ち機構は使い方にも注意が必要で、正しく操作しないと壊れてしまう危険性もあります。それをもっと実用的にシンプルにしたいと考えて、機能のオン・オフとセット状態をひとつのプッシュボタンを押すことで切り替えられるように設計しました。オフ状態から1度プッシュするとセット状態になり任意の時間を合わせます。もう1度押すとオン状態になり、セットした時間になるとアラームが鳴ってオフ状態に戻るというシンプルな仕組みになっています。かなり直感的に使える機構にできたと考えています。

既製品を改造してやるような、何か枠のようなものがあるお話じゃなかったんです

 上記のように語る関氏は、控えめな態度に反して野心を強く持つ人物だ。まさに“クワイエットクラブ”の名のとおり、静かに、淡々と夢の実現に進んでいる。時打ち機構のユーザビリティを高めるというUIコンセプトは、デザイナーであるジョニー氏が主導したもの。既存のもので存在していないユーザーエクスペリエンスを求め、関氏はまったく難色を示すことなくいかに実現するかに時間を費やしたそうだ。

YU SEKIGUCHI

ジョニー氏からコンセプトを聞いたとき、実現できるかどうか不安はなかったのでしょうか?

NORIFUMI SEKI

それはまったくなかったですね。こうしたらできるなっていう、確信というか根拠があって“できると思います”と答えていました。そこにあるホワイトボードに、設計を思いついては書き足して。それこそ、寝て起きては書き出してを繰り返して洗練させていったんです。書いてみて、最初は複雑だったものをシンプルにして。自分のなかで改良を重ねていきました。

動作をシンプルにさせる分、中身はそれに反して複雑になるんです。機械的に多くの並行作業が必要になるというか。その並行作業をどれだけ減らせるかが設計のキーになっていて、やはり複雑なままだとトルクも食ってしまうわけで、いかに効率に動作させるかということを重要視しています。

YU SEKIGUCHI

現在は最初のプロトタイプも出来上がっているわけですが、製作期間としてはどの程度かかったのでしょうか? また、その過程で大きな課題だったことはありますか?

NORIFUMI SEKI

大体1年くらいかかりました。ただ、最初は本当に試行錯誤で、コンセプトを詰めることにより時間をかけていたので、ここ半年くらいでスピーディに進んだ感じです。大きな課題は、ジョニーさんがデザインしたケースが、台形というかすり鉢状にケースバックに向かってすぼまっていく形をしているため、ムーブメントをどう収めていくかの難易度が高かったです。通常、こうした時打ち機構にはワイヤーゴングを使うことが多いのですが、時計のなかのスペースをいかに効率よく使うかということを考えた結果、ダイヤル自体をゴングにするという結論に至りました。ケースが台形になっている関係で内部にデッドスペースが生まれていて、ダイヤルをゴングとしたらその空間に音が反響して良い音質になるんじゃないか、という自分なりの仮説もあったので、それを試す良い機会にもなりました。

YU SEKIGUCHI

文字盤をゴングとした場合、ハンマーは横動作ではなく立体的に動いて時打ちをするということでしょうか? あまり聞いたことがない設計ですね。

NORIFUMMI SEKI

はい、そうです。バーティカルハンマーというか、普通水平動作のところを3次元的に動かしています。実はこの設計にしようと考えたあとで調べたのですが、ブレゲが作ったものでひとつだけ例がありました。その腕時計はワイヤーゴングを使っていたようですが、ハンマーを縦型にストロークさせるという。生産が安定しなかったみたいですけれど、“あ、先にやられちゃってたんだな”と思いました(笑)。

パーツによっては関氏が自ら削り出すものもある。

CNC旋盤も稼働させ、設計に即したパーツを生み出していく。

ダイヤルの表面には象嵌エナメルが施されている。これも関氏自身が1枚ずつ焼いて、調整を繰り返しているという。ダイヤル素材はシルバーで、それ自体とインデックスをCNCで削り出す。その後、掘り込み部分にエナメルの釉薬を砕いて詰め、窯で900℃の温度で焼成。白いダイヤル色は、シルバーをサンドブラストしたのちに、バーナーで600〜800℃くらいの温度で徐々に加熱する事で実現しているそうだ(アラームの音色と美観の両立のため、まだ研究段階)。

YU SEKIGUCHI

日本のみならず現在多くのマイクロブランドが生まれています。時計が出来上がってきて、ここまでかなりスピーディに進めてこられた印象ですが、こうした市況をどんな風に捉えていますか?

NORIFUMI SEKI

実際に盛り上がってきているという感触はありまして、新しい作品を作っている人やブランドが結構いるなと実感しています。しかも新しい設計だったり、かなり良い時計だったりがあるなと。正直、焦る部分もありました、急いで時計を完成させないといけないというか。自分のなかには、Akriviaがあれだけ脚光を浴びて、次は僕、というような気持ちも少しあったので、やっと完成の道筋が見えたので少しホッとしているところです。

YU SEKIGUCHI

上田さんはどのように捉えていますか?

HK Ueda

正直、あまり気にはしていないですね。そういうトレンドがあるから時計づくりを始めたというわけではないし、時計のアイデア自体もそういうところから来ているわけではないので。ただ、タイミングはよかったのかなとは思います。現在どのメーカーも作っていない自分が欲しい時計を作り出した人が増えているというわけなので、僕らが考える時計を欲しい人もいるだろうという仮説が、割と本当だったのかなと。ポジティブには捉えています。

YU SEKIGUCHI

最後に、クワイエットクラブとして、時計を通してどのようなことを表現していきたいか、教えて下さい。

NORIFUMI SEKI

僕らの時計は、ダイヤルにブランド名も入っていないしデザイン自体も控えめだと思います。それは、外に向けての発信ではなくて自分のメンタルに向けて、時計がどう影響していくのかを考えて作っているからです。持ち主にとって特別な意味を持って、彼らの人生にポジティブな影響を与えられる時計。一見すごく静かに見えるけれど内面に強いものを持っているという、このクワイエットクラブのメンバーのような人が必要とするものがどんなものなのか、創作していきます。ただ、まずは、年内に最初の納品を終えられるように頑張ります(笑)[編注:まだオーダー開始前であり、夏頃には公式サイトで受注開始予定とのこと]。

クワイエットクラブのメンバー。右からCEOの上田北斗氏、チーフデザイナーのジョニー・ティン氏、関 法史氏、このプロジェクトのサポート役として参加しているヒコみづ ウォッチコースに在学中の渡辺航生さん。

Photographs by Masaharu Wada