Hands-On: パテック フィリップ カラトラバ 6119を実機レビュー - Hodinkee Japan (ホディンキー 日本版) trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

Hands-On パテック フィリップ カラトラバ 6119を実機レビュー

新時代の到来を感じさせる新しいカラトラバだ。

ADVERTISEMENT

 2021年のパテック フィリップにおけるビッグニュースと言えば、何だろう。多くの人にとってはやはりノーチラス 5711のディスコンではないだろうか。1月にその事実が確認された際は多くの人が衝撃を受けていたし、その後、最後の5711としてオリーブグリーンダイヤルを備えた新作が登場したことも大きな話題を集めた。
 しかし、筆者にとってのビッグニュースはカラトラバに新作が登場したこと、しかも新型の手巻きムーブメントを搭載をしていたことだった。

 機械式腕時計における主流は圧倒的に自動巻きだ。手巻きムーブメントを搭載する時計はそう多くはない。好事家向けのニッチな存在と言ってもいいだろう。そのため、ムーブメントの新規開発も基本的には自動巻きが中心で、手巻きの新規開発は独立系ブランドやコンプリケーションモデルなどの一部を除くと、ほとんど行われていない。回収の見込みが少ない分野ではなく、回収が確実に見込める分野に資本を投じる。メーカーにとっては至極当然の論理だ。

 コンプリケーションモデルならいざ知らず、パテック フィリップはまったく新規の手巻きムーブメントを載せたモデルを発表した。それが今回ハンズオンする、時刻表示のみのシンプルな新型の手巻きカラトラバである。

 最大の見どころは、やはり新型ムーブメントだろう。その名もCal.30-255。パテック フィリップにおけるムーブメントの名称は「Cal.直径-厚み」というルールでつけられており、このキャリバーは直径30.4mm(報道資料ではケーシング径、総計は31mm)、厚さ2.55mmのムーブメントだ。
 一方、旧型となるCal.215 PSは直径21.5mm(総計は21.9mm)に対して、厚さ2.55mm。厚みは同じだが、新型キャリバーは8.9mmも直径が大きい。そして写真を見ると一目瞭然だが、外観はまったく異なる。なお、両者のムーブメントの違いは4月に公開したintroducing記事でも紹介しているので、そちらと合わせて確認いただきたい。

Cal.215 PS

 Cal.215 PSと比べて、いや、単体で見てもCal.30-255は大きなムーブメントだ。大きなサイズの目的は明らかにツインバレル化にある。テンプや輪列の大きさはCal.215 PSと比較してもそれほど大きく違わない。ブリッジで覆われていて見えないが、Cal.30-255ではそうして捻出されたスペースに大きな香箱が2つ並列に収められているのだ。結果、Cal.30-255のパワーリザーブは65時間と、Cal.215 PS(こちらは44時間)よりも長時間化した。ただし、Cal.30-255におけるツインバレル化はパワーリザーブの伸長が主眼ではないようだ。報道資料には「…たいへん大きな出力を生み出すことでき…」という一文がある。出力(トルク)の大きなムーブメントは、重たい針を持つ時計や負荷の大きな機能を搭載する時計に不可欠。おそらく、このムーブメントをベースとしたさまざまなコンプリケーションムーブメントを作ろうとしているのではないだろうか。

Ref.96(ケース径:30.5mm)

 この大きなキャリバーはスペックの向上以外にも、カラトラバに大きな変化をもたらした。“寄り目”が解消されたという点だ。新作を除くシンプルな手巻きの現行カラトラバといえば、5196だ。5196はCal.215 PSを37mmのケースに載せているが、ムーブメントに対してケースサイズが大きい。そのため、スモールセコンドの位置がダイヤル中央に寄っているのだ。これは以前から愛好家たちのあいだで不満の種になっていたポイントで、違いは過去のモデルを見比べると非常にわかりやすい。5196のスモールセコンドの位置がほかと比べて異なるのがわかるだろう。6119では過去のカラトラバに近いバランスでスモールセコンドが置かれることになった。
 パテック フィリップが愛好家の声に応えるために寄り目の解消を意図していたかは定かでないが、筆者にとって寄り目の解消は非常に喜ばしい変化だった。

 そして、6119がシースルーバックという点も見逃せない点だと思っている。これまでにもシースルーバックはあったが、手巻きのカラトラバにおけるスタンダードはムーブメントを見せないソリッドバックだ。なぜシースルーバックを採用したのだろうか。これはあくまでも筆者の想像だが、新型ムーブメントの存在を強く主張したかったのではないか。Cal.30-255は、明らかに従来の古典的なCal.215 PSとは異なり、ツインバレルによるハイトルク&ロングパワーリザーブ化、コンパクトな脱進機構や輪列など、現代的な設計と外観を備えている。人によって好き嫌いはあるかと思うが、そうした作り手の意図を感じさせるシースルーバックは筆者の好みである。

 続いて外装も詳しく見てみたい。
 新型カラトラバでは18Kローズゴールドの6119Rと18Kホワイトゴールドの6119Gの2つがラインナップされている。

5119(2006年)

 6119の外装における最大の特徴はクルー・ド・パリ(ホブネイルパターン)ベゼルを備えているという点だ。このベゼルを備えていたのが、2006年にデビューした5119(現在は生産終了)。6119はその後継機にあたる。5119にも祖となるモデルがあり、5119はブラック塗装のローマ数字インデックスと6時位置にスモールセコンドを配したダイヤル、そして直線ラグを備えた3919(1985年)のリニューアル版にあたる。5119や3919以外にも過去にクルー・ド・パリベゼルを備えたモデルがいくつか作られたが、手巻きモデルだけでも96D(1934年)、3520D(1972年)、5115(2000年)などがあった。6119は、そうした過去の名作へのオマージュを込めたモデルとなっている。

 ベゼルに注目が集まりがちだが、ケースやダイヤルのデザインこそ、6119の見るべきポイントではないだろうか。6119のケースデザインは直線的なラグを持つ5119や3919とはまったく異なる。デザイン的には1934年に誕生した96Dの影響が極めて大きい。96Dはカラトラバらしいミドルケースとラグが一体になったケースにクルー・ド・パリベゼルをはじめて採用したモデルで、さらに“砲弾型”とも表現されるファセット仕上げのゴールド植字インデックスも96Dに見られたディテールである。

現行カラトラバ に装着されているピンバックルは、故アンリ・スターン氏によってアメリカ市場のためにデザインされたものだという。

 事実、報道資料のなかでは上記のような特徴に言及し、「こうしてパテック フィリップは、カラトラバ・デザインのルーツへの回帰を果たしたと言えよう」と認めている。昨年公開した記事「パテック フィリップ カラトラバ 5196が、傑作とされている理由」でも主張したが、筆者にとってカラトラバとは、96モデルが持つ特徴を受け継いだモデルだけであると考えている。なかでも“カラトラバらしさ”を時計に与えるのが、ミドルケースからラグにかけて流れるように一体となったケースだと思っているが、パテック フィリップ自身もそれこそがカラトラバであると表明しようとしているのではないか? 真相は今後の展開次第だが、6119はそうした期待を抱くのに十分なモデルだ。

 一方、6119は過去を振り返っただけのモデルではない。ゴールドのドフィーヌ型の時・分針は96モデルを彷彿とさせるが、2ファセットから3ファセットへとより立体的になり、ダイヤル外周のシュマン・ド・フェール(レイルウェイ)型のミニッツスケールを設けることで視認性を高めている。また、髪の毛ほどの細い秒針は、4分割されたインダイヤルデザインと繊細なインデックスと相まって非常に読み取りやすい。

 そして、肝心のつけてみた感想だ。
 大きなムーブメントの搭載に伴い、ケースサイズは39mmと大きいが、風防からケースバックまで含めた総厚は8.08mm。5196よりも少し厚みはあるが、バランス的には大きく薄い時計だ。加えて、カラトラバらしい、ドレスウォッチにしては太い21mmのラグ幅と相まって腕に乗せた際の安定感は高く、月並な表現だが、着け心地はとても軽く良好だ。
 装飾的なクルー・ド・パリベゼル、そして光の加減で立体感を強調する針などが表情の変化を生み出し、これまでのカラトラバと比較すると力強い印象を受ける。そのため、ドレスウォッチとしてだけでなく、普段使いの時計として積極的につけたくなる雰囲気がある。これは5196では感じることのなかった感覚だ。

6119R

 6119Rはグレイン仕上げのシルバーダイヤル、6119Gはバーティカルサテン仕上げのチャコールグレーダイヤルに微細なサーキュラーグレイン装飾のインダイヤルを合わせる。前者のダイヤルは公式にはシルバーと言っているがオフホワイトの柔らかいニュアンスがあり、後者のダイヤルも光の加減でグレーのトーンが変わり印象が大きく変化する。それぞれ甲乙つけがたい魅力があるが、筆者は6119Gの方が好みだ。 WGケースのさりげない高級感に加えて、メインとインダイヤルで仕上げが異なり、より秒針の存在感が感じられるのが大きな理由である。

 古典的なカラトラバを好む人たちのあいだでは新しいカラトラバに賛否あるようだが、個人的にはカラトラバの新時代の到来を感じさせるムーブメントとスタイルは極めて魅力的に映った。特にこれまでのカラトラバは正直なところ、ドレスウォッチとしての印象が強く、自分とは縁がない時計に感じられたが、6119はさまざまなシーンでつけられそうな印象があり、新鮮な驚きを与えてくれた。Cal.30-255を搭載したカラトラバは今のところは2つしかないが、デザインバリエーションの拡大が非常に楽しみだ。

パテック フィリップ カラトラバ "クルー・ド・パリ"。6119R-001(18KRGケース)、6119G-001(18KWGケース):ケース径39mm×ケース厚8.08mm(全長46.9mm)。3気圧防水。ケースに合わせたゴールド素材のバックル付きアリゲーターストラップ。手巻き Cal.30-255:27石、直径30.4mm×厚さ2.55mm、2万8800振動/時で駆動、最小65時間パワーリザーブ、ジャイロマックステンプ、スピロマックスヒゲゼンマイを搭載。価格は各339万9000円(税込)。

詳細は、パテック フィリップ公式サイトへ。

ADVERTISEMENT