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未来技術遺産に登録された、セイコー クオーツ シャリオ Cal.5931とは? 

クォーツウォッチ開発をリードした諏訪精工舎の技術をさらに進化させ、歴史を変えた第二精工舎の語り継ぐべき逸品。

1978年(昭和53年)に発売されたセイコー クオーツ シャリオ Cal.5931が、国立科学博物館が認定する2024年度の重要科学技術史資料(通称、未来技術遺産)に登録された。

 未来技術遺産とは、日本の科学技術の発展に寄与した重要な物品や技術の保存と継承を目的として2008年から始まった制度で、具体的には過去から現代にかけて開発された技術や製品、またその技術に関連する資料が将来の科学技術の研究や社会の発展にとって重要とされるものを指す。

 未来技術遺産として認定されるためには、科学技術の進歩に顕著な貢献をした技術や製品であること、歴史的な意味や文化的な価値を持つものであること、そして現代および未来の技術発展にとって有用な知識や経験を提供するものであること、といった要件を満たしている必要がある。

 選定に際しては、まず有識者による審査が行われ、科学技術史的な意義や保存の必要性を評価。認定されると、国立科学博物館がこれを保管し、公開展示や資料としての利用が行われることがある。未来技術遺産は、単なる“モノ”としてではなく、日本の技術的進化を象徴する遺産であり、未来の社会に役立つ資産としての意義を持つ。こうした資料を通じて、過去の技術革新がどのように現代の生活に影響を与えているかを学び、未来の技術開発に生かすことが期待されている。

 これまでにもセイコーの製品はいくつか登録されており、セイコー クオーツ シャリオ Cal.5931は、以下の製品に続いて同社では7点目の登録となる。これまでの登録製品は以下のとおりだ。

・2018年度:世界初のクォーツ式腕時計「セイコー クオーツ アストロン 35SQ」
・2019年度:世界初の6桁表示デジタルウオッチ「セイコー クオーツLC V.F.A. 06LC」
・2020年度:「スパイラル水晶時計 SPX-961」、「音声報時時計ピラミッドトーク DA571」、「 超超薄型掛時計 HS301」
・2021年度:ぜんまいで駆動し、クォーツで制御する世界初の腕時計「セイコー スプリングドライブ 7R68」


未来技術遺産に選ばれた理由

セイコー クオーツ シャリオ Cal.5931が選定された理由は、ずばりアナログクォーツウォッチの小型・薄型化および電池の長寿命化を支える“適応駆動制御”と呼ばれるシステムを初めて搭載した腕時計であったからだ。

 この適応駆動制御システムとは、針を動かすステップモーターの駆動パルス(信号)を複数種類持ち、モーターの回転ごとに時計の状態を判断して、最小の消費電力となるように切り替えるというもの。分かりやすく言えば、それまでアナログクォーツムーブメントにおける電力消費量の7~8割を占めていた、針を動かすためのステップモーターの電力消費量を従来の約半分に抑えることを可能にした画期的技術だった。その後、この制御システムはアナログクォーツウォッチに欠かすことのできない重要なコア技術のひとつと位置づけられ、現代においても改良を重ねながら用いられている。たとえば現行のGPSソーラーウォッチをはじめとするセイコーのアナログクォーツムーブメントにも、この適応駆動制御システムが組み込まれているほどである。


セイコー クオーツ シャリオとは?

セイコー クオーツ シャリオは、かつて存在したシャリオコレクションに属するバリエーションだ。男性向けの薄型ドレスウォッチとして誕生したコレクションで、当初は手巻きや自動巻きモデルもあり、クォーツモデルはそのひとつだった。セイコー クオーツ シャリオの名が確認できる公式な資料は、1974年の『セイコーウオッチカタログ vol.2(販売店向けの製品カタログ)』から。そして1978年に製作されたとされるトップ写真モデルのカラーバリエーション(Ref.CGX021)は、1980年のカタログでその存在を確認できる。

 だが、実は1971年こそがシャリオコレクションの原点であろう。というのも、1971年の『セイコーセールス 10月号/No.160(セイコーの製品ラインナップや技術情報を消費者や販売代理店に伝えるために発行していた小冊子)』の10月の新製品情報として“セイコー ドレスウオッチ 2220”発売のニュースが報じられている。これは手巻き式の薄型ドレスウォッチだったが、これこそがのちにセイコー シャリオとして分類されるコレクションの一部になったと考えられる。1971年時点ではまだシャリオの名は見られないが、1974年の『セイコーウオッチカタログ vol.2』では、まったく同じモデルが“セイコー ドレスウオッチ シャリオ”として紹介されているのだ。

 その一方、1960年代から1970年代前半にかけて、セイコーでは諏訪精工舎と第二精工舎が競うようにクォーツムーブメントを開発した。最初に販売にこぎつけたのは諏訪精工舎が開発したCal.35系(1969年)。これは世界最初のクォーツ式腕時計として販売されたセイコー クオーツ アストロン(Cal.35SQ)に搭載されたものだった。そして翌1970年には第二精工舎がCal.36系を発売する。しかしどちらも短命に終わり、製造の中心となったのは1971年登場のCal.38系(諏訪精工舎)と1972年登場のCal.39系(第二精工舎)だったが、Cal.39系は発光LEDを搭載するなど特殊であったため、コレクションの中心となったのはCal.38系であった。とはいえ、これらは基本的に精度を追求したもので厚みがあり、当時のトレンドであった薄型ドレスウォッチに向くムーブメントとは決して言えなかった。

 アナログクォーツウォッチの小型・薄型化は時代が求めたものだった。セイコーのデザイン史をまとめた「Seiko Design 140」によれば、1960年代当時の日本ではスーツ姿の会社員が増えたことでスーツに合う薄型時計が売れ筋となり、ゴールドフェザーなどの薄型機械式ドレスウォッチが人気を集めたそうだ(世界的に見ると、1950年代にはすでに薄型時計開発をメーカー各社で進めており、そうしたトレンドが日本でも顕在化し始めていた)。こうした当時の様子を背景に、クォーツウォッチにおいても早くから小型・薄型化が求められた。

 そんななか小型・薄型のクォーツウォッチとして市場に投入されたコレクションこそ、セイコー クオーツ シャリオだった。1974年にセイコー(当時の諏訪精工舎)は最大直径19.4mm、秒針なしの厚さで3.8mmというサイズを実現した小振りな量産クォーツムーブメントとしてCal.41を開発した。そしてセイコーはこのCal.41の派生系であるCal.4130を持ってクォーツのドレスウォッチを商品化し、分厚いクォーツではドレスウォッチは不可能という当時の常識を覆した。Cal.4130は世界最薄のクォーツムーブメント(当時)とされ、女性向けと思われる小振りなモデルに採用されたほか、男性向けのシャリオコレクションにもいち早く投入された。しかし当時の販売店向け製品カタログを見ても、クォーツの薄型ドレスウォッチのラインナップは決して多くはなかった。


第二精工舎が手がけた小型・薄型クォーツムーブメントCal.5931

前述のとおり、小型・薄型のクォーツウォッチ開発で1歩リードしていたのは諏訪精工舎だ。そんな最中に登場したセイコー クオーツ シャリオ Cal.5931(59系)は、待望のムーブメントだったに違いない。開発・製造を担ったのはクォーツウォッチ開発で先を行っていた諏訪精工舎ではなく、当時の第二精工舎だったのだ。

 Cal.59系ムーブメントの登場以降、セイコーのクォーツウォッチコレクションはトレンドも受けて一気に花開くこととなる。その理由は、未来技術遺産の選定理由にあるとおり。小型・薄型化が図られただけでなく電池の長寿命化も叶えることとなり、さまざまなデザイン、サイズ、シーンにふさわしいクォーツウォッチが数多く製造されるようになり、選択肢は大幅に拡充した。

 世界初のクォーツ式腕時計として登録されたセイコー クオーツ アストロン 35SQなどと比べると、その意義はやや分かりにくいかもしれない。だが、クォーツウォッチの普及に大きく貢献することとなったという意味では、Cal.59系ムーブメントは紛れもなく語り継ぐべき重要な技術遺産にふさわしいものと言えるだろう。