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2012年に誕生し、ブルガリのメンズウォッチにおけるアイコンとなった「オクト」に、次なるステージが開かれたのは2014年のことだ。超薄型の手巻き式3針とトゥールビヨンの2モデルを発表。特に後者は世界最薄記録を樹立したのである。
薄型時計の歴史は古く、それは時計技術の進化の軌跡でもある。ムーブメントは構成する部品レベルから専用設計し、あらゆるクリアランスを詰める精緻な組み立てが求められる。ケーシングもしかり。さらに耐久性はもちろん、精度を維持し、パワーリザーブなどの実用性も欠かせない。それだけ薄型化のハードルは高く、時計づくりにおける卓越した技術が唯一無二の価値となる。
だからこそ、挑戦する価値があるのだろう。以降、ブルガリは超薄型のフィールドを開拓し、わずか6年でついに6度の最薄記録という快挙を達成した。だが、それも「フィニッシモ」と名づけられた、究極を目指すひとつの通過点に過ぎないということだ。
オクト フィニッシモ トゥールビヨン
“薄型”に伴うミニマルなイメージとは裏腹に、それはコンプリケーションに匹敵する、高度なマニュファクチュール技術の結晶に他ならない。改めて、これを強く印象付けたのが「オクト フィニッシモ トゥールビヨン」だ。フライングトゥールビヨンを搭載しながらも、ムーブメント厚をわずか1.95㎜に抑える。そのブレイクスルーのひとつになったのが、ボールベアリングだ。
ベースムーブメントには7つのボールベアリングを備え、トゥールビヨンはケージのピボット回転を可能にするカートリッジ型ベアリングを採用する。さらに香箱の外周にも3つのボールベアリングを配し、その正確な位置を保持すると共に、ゼンマイの長さを2倍に伸ばして、約55時間のパワーリザーブを実現した。ケース厚を5㎜まで削ぎ落とした美しさと精緻なコンプリケーションの融合は、新鮮な感動を与える。だが、それもただ技術を誇示するのではなく、薄型のネックである精度をトゥールビヨンで補うという、極めてロジカルな発想に基づくものだ。
オクト フィニッシモ トゥールビヨン ウォッチ: サンドブラスト加工を施したチタニウム製極薄ケース(直径40mm × 厚さ5mm)。防水性能 50m。自社製手巻きムーブメント BVL 268は、厚さ1.95mm。パワーリザーブ 52時間、振動数は2万1600振動/時。価格: 1156万円(税抜)
オクト フィニッシモ ミニッツリピーター
ミニッツリピーターは、コンプリケーションの最高峰とたたえられる。その理由は、機械で制御する正確な時打ちの技術に加え、澄み切った音色を均一に奏でるための音響も不可欠だからである。ブルガリは、すでにこの分野で世界有数の技術を擁しているが、その新たな挑戦となったのが「オクト フィニッシモ ミニッツリピーター」だ。ミニッツリピーターの基本原理は、ハンマーでゴングを叩いたチャイムをケース内で反響させることにある。
そのため、豊かな音量を生み出すには十分なケース内部の容積が必要となる。それは薄型とは相反するものといってもいいだろう。これを解決するため、本作ではケースやダイヤルに音の広がりに優れる低密度金属のチタンを採用。音の発生源となるゴングをケースに直接取り付けると共に、ダイヤルのインデックスやスモールセコンドをカットアウトすることで内部の音を増幅し、音響効果を高めたのだ。結果、ムーブメント厚3.12㎜、ケース厚6.85㎜という超薄型にもかかわらず、その美しい音色は聴く者に感動を与える。
オクト フィニッシモ ミニッツリピーター: サンドブラスト加工を施したチタニウム製極薄ケース(直径40mm × 厚さ6.85mm)。防水性能 50m。自社製手巻きムーブメント BVL 362は、厚さ6.9mm。パワーリザーブ 42時間、振動数は2万1600振動/時。価格: 1816万円(税抜)
オクト フィニッシモ オートマティック
すでに手巻き式で超薄型を具現化していたブルガリだが、それに甘んじることはなかった。ゼンマイを巻き上げる手間をなくすと共に、リューズ操作に伴う機械のトラブルを極力防ぐ自動巻き式こそ、超薄型のデイリーウォッチという新たな可能性を開くからだ。そこで採用したのが、マイクロローターだ。一般的なフルローターはムーブメントに積層するため、厚みが増してしまう。そこで比重が高く、巻き上げ効率に優れるマイクロローターを用い、手巻き式の自社キャリバーをベースにこれを埋め込むことで、ムーブメント厚わずか2.23㎜、ケース厚5.15㎜を実現した。いずれの数値も手巻き式と変わることはなく、薄さを損なわない。
さらにもうひとつ特筆すべき点が、コレクション初のブレスレットだ。自動巻きに並び、耐久性の高いブレスレットは日常使いでの実用性に優れる。そこで、ケースとの一体感あるデザインはもちろん、薄さも統一。バックルの折り畳み部分を内側に収納することで、表からは見えない所まで極薄を徹底した。その美学に喝采が贈られたのだ。
オクト フィニッシモ オートマティック: サンドブラスト加工を施したチタニウム製極薄ケース(直径40mm × 厚さ5.15mm)。防水性能 30m。自社製自動巻きムーブメント BVL 138は、厚さ2.23mm。パワーリザーブ 52時間、振動数は2万1600振動/時。価格: 159万円(税抜)
オクト フィニッシモ トゥールビヨン オートマティック
わずか6年という短期間での、6つの世界最薄記録の達成には、技術の拡張性が大きく寄与している。だが、それは簡単なようでいて、常に進化を続ける革新的な開発が求められる。しかも、基本となる技術の完成度がどれだけ高いか、さらには長期的な展望に基づいて設計されたかということも大きく左右する。「オクトフィニッシモ トゥールビヨン オートマティック」は、その証左となるだろう。
時計の付加機能を備える方法には、モジュール構造がある。だが、薄型を前提とするコレクションでは、この手法は取れない。階層化できないのであれば並列化する。こうして手巻き式トゥールビヨンのムーブメントの外周にペリフェラルローターを装備し、さらに巻き上げと時刻合わせのファンクションセレクターを新設することで巻き真を省き、1.95㎜のムーブメント厚を増すことなく、自動巻き化に成功したのである。しかも、ケースは従来から径を変えず、さらに薄さを極めた3.95㎜を実現。存在感を感じさせないような極薄に対し、スケルトンダイヤルは研ぎ澄まされた技術の美しさを誇示するようだ。
オクト フィニッシモ トゥールビヨン オートマティック: サンドブラスト加工を施したチタニウム製極薄ケース(直径40mm × 厚さ3.95mm)。防水性能 30m。自社製自動巻きムーブメント BVL 288は、厚さ1.95mm。パワーリザーブ 52時間、振動数は2万1600振動/時。価格: 1359万円(税抜)
オクト フィニッシモ クロノグラフ GMT オートマティック
任意の時間を計測するクロノグラフ機能は、その作動の負荷に対する耐久性や安定した精度の維持に高い技術が要求される。特に最薄を追求し、繊細な構造からなるコレクションにとっては、大きなハードルといえるだろう。「オクト フィニッシモ クロノグラフ GMT オートマティック」は、このアクティブな機能と精緻な薄さを両立させた。すでに実用化しているペリフェラルローターによる自動巻きに加え、30分積算カウンターとスモールセコンドを備える。
そこにさらなるオリジナリティを際立たせるのが、3時位置に装備した24時間表示のGMTカウンターだ。9時位置のケースサイドに設けたプッシュボタンによる中央の時針を送る簡単な操作で、ローカルとホームタイムの二つの時間帯を表示する。こうした多機能を備えながらも、3.3㎜のムーブメント厚に、ケース厚は6.9㎜に抑えた。クロノグラフとGMTは、現代的な用途に応えるコンテンポラリーな機能であり、それは薄型時計のモダニティを示唆するのである。
オクト フィニッシモ クロノグラフ GMT オートマティック: オートマティック サンドブラスト加工を施したチタニウム製極薄ケース(直径40mm × 厚さ6.90mm)。防水性能 30m。自社製自動巻きムーブメント BVL 318は、厚さ3.30mm。パワーリザーブ 55時間、振動数は2万8800振動/時。価格: 191万円(税抜)
オクト フィニッシモ トゥールビヨン クロノグラフ
前年にクロノグラフとGMTのカップリングで最薄を実現したコレクションだが、最新作「オクト フィニッシモ トゥールビヨン クロノグラフ スケルトン オートマティック」では、クロノグラフとトゥールビヨンを融合させた。いずれの機能もすでに実用化しているものの、その単純な組み合わせに終わらない。クロノグラフは、コラムホイールに水平クラッチを搭載。前回のキャリングアーム式からスイングピニオン式へ変更することで、よりコンパクトなスペースに収める。これもトゥールビヨンとクロノグラフを並列させるための絶妙なレイアウトだ。
さらにクロノグラフは、2時位置にあるプッシュボタンでスタート・ストップ・リセットを操作するワンプッシュ機構になり、4時位置のプッシュボタンは巻き上げと時刻合わせのファンクションセレクターになる。これはすでに「オクト フィニッシモ トゥールビヨン オートマティック」でも採用されており、信頼性も高い。ムーブメント厚は3.5㎜、ケース厚は7.4㎜だ。手巻き式トゥールビヨンから始まった世界最薄への挑戦は、まさにここに極まれり。
オクト フィニッシモ トゥールビヨン クロノグラフ: オートマティック サンドブラスト加工を施したチタニウム製極薄ケース(直径42mm × 厚さ7.4mm)。防水性能 30m。自社製自動巻きムーブメント BVL 388は、厚さ3.5mm。パワーリザーブ 52時間で、振動数は2万1600振動/時。50本限定。価格: 1584万円(税抜)
記録よりも記憶に、といわれることがある。記録は、常に破られる儚いものだからかもしれない。だが、その域に達してこそ見える先があり、そこに進化がある。まさに「オクト フィニッシモ」は、その境地にあるのだろう。だが、決して技術偏重に陥らず、超薄型にもかかわらず、精度やパワーリザーブ、防水性や耐久性など、確かな実用機能を備える。それは腕に着け、長く愛用することで薄型時計の真価は実感できるからだ。それは周囲にひけらかすのではなく、着けている本人が味わえる豊かさであり、真のエレガンスでもある。ブルガリが最薄を追求し続ける理由も、そこにあると思うのだ。
詳細はブルガリ公式サイトへ。
写真: Keita Takahashi