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HODINKEE Japanでは2026年4月27日(月)から5月3日(日)まで、German Watch Week 2026としてドイツの時計ブランドや市場に焦点を当てた特集を公開している。このウィークのために用意した新規取材記事やマガジン限定で公開していた記事、編集部員による動画企画まで、サイト上で毎日配信していく予定だ。すでに公開されたコンテンツについてはこちらから確認して欲しい。
時計について語られるとき、どうしても話題の中心に置かれやすいのはスイスだ。しかしドイツの時計づくりには、それとは異なる確かな系譜と美意識がある。スイス時計が、ブレゲ針やギヨシェ彫りに象徴されるような伝統装飾や洗練されたエレガンス、さらにはクロノメーター規格を含む制度的な精度文化を発展させてきた一方で、ドイツ時計はより質実剛健で、機能に根差した造形によってその存在を示してきた。視認性を重視したダイヤルを持ち、道具として信頼できる堅牢な設計に基づく。さらに装飾が施される場合も、華美さを競うためではなく、機構や構造の美しさを際立たせるためにある。そこには軍用時計や計器類の発想、さらにはバウハウス的な“形態は機能に従う”という思想が色濃く息づいている。
ザクセン州グラスヒュッテの街並み。
また、ドイツ時計を語るうえで外せないのが、その生産地の個性だ。高級機械式時計の聖地として知られるザクセン州のグラスヒュッテでは、4分の3プレートやスワンネック緩急針、グラスヒュッテストライプといった独自の意匠と技術が育まれ、地名そのものが品質の証として機能してきた。一方、南西部の黒い森一帯は、古くからクロックや時計産業で栄え、質実で日常に根ざしたドイツ的ものづくりを支えてきた土地でもある。つまりドイツ時計の魅力とは、単に“スイス以外の選択肢”ということではない。実用性を尊び、地域の産業文化を背負いながら、独自の価値観で時計を磨いてきたもうひとつの本流なのである。今回の動画企画ではそんなドイツ時計の奥行きを示すべく、30万円台、50万円台、100万円台という3つの価格帯からHODINKEE Japanのエディターが1本ずつピックアップした。それぞれの嗜好も反映しながら、それぞれの視点でドイツ時計の魅力を綴っていこう。
【30万円台】ユンハンス マックス・ビル オートマティック
30万円台で手に入るドイツ時計として、私がこれを選んだ理由ははっきりしている。ドイツらしいまじめな作りが、そのまま時計の見た目と使い勝手に出ているからだ。視認性が高く、派手すぎず、毎日着けやすい。しかも見た目のよさだけで終わらない背景まできちんとある。
ユンハンスは1861年、ドイツ南西部の黒い森(シュヴァルツヴァルト)にあるシュランベルクで創業し、2026年で165周年になる老舗である。黒い森はカッコウ時計で知られるように、時計やクロックづくりが根づいた地域だ。ほかの腕時計ブランドで言えば、ホルンベルク創業のストーヴァや、ギューテンバッハに工房を持つハンハルトなどもこの地域の名前として挙がる。そのなかでもユンハンスは、1903年には世界最大の時計メーカーにまで成長した、黒い森を代表するブランドのひとつである。
私がユンハンスを良いと思うのは、黒い森の時計づくりの良さが、今もちゃんと時計の使いやすさに出ているから。もともと部品製造から始まったブランドで(1866年には自社製時計の生産を開始)、知名度が先行するというより、時計が好きな人ほど“ちゃんといいブランドだよね”となるタイプのブランドだと思う。グラスヒュッテ勢とはまた違う、黒い森の実直なものづくりを感じられるのもユンハンスの魅力だ。
マックス・ビル。
そのユンハンスの代表作としてまず挙がるのが、マックス・ビルコレクションだ。マックス・ビルは1908年生まれのスイス人。デザイナーであり、建築家であり、アーティストでもあった。若い頃にはドイツのバウハウスで学び、装飾を足すのではなく使いやすさから形を考える姿勢を身につけた人物である。さらに1950年代にはウルム造形大学の初代学長も務めるなど、教育者としての顔も持っていた。
このコレクションは最初から腕時計として生まれたわけではなく、始まりは1956年のキッチンタイマーである。しかもこのキッチンタイマーは、マックス・ビルが学長を務めていたウルム造形大学で、学生たちと一緒につくったものだった。その後1961年に腕時計となり2026年で65周年を迎える。私がこの流れでいちばん引かれるのは、当時から今までデザインの印象がほとんど変わっていないことだ。5分ごとに入った長いバーインデックスや、1分単位で読める目盛りなど、基本の形が最初からしっかりできていたからこそ、無理に変えなくても今の時計としてちゃんと通用しているのだと思う。70年近く前のデザインなのに、今見ても古く見えないのはかなりすごい。
実際、この時計にも見やすさへの気配りが感じられる。3針時計、つまり時・分・秒針だけのシンプルな構成だが、分針は目盛りまできちんと届く長さがあり、時間をぱっと読み取りやすい。5分ごとに入った細長いバーインデックスもそれに寄与していると思う。さらに特徴的なのが、中央から外側に向かってゆるくふくらんだボンベダイヤルと、そのカーブに合わせて先端を少し曲げた針である。見た目がきれいというだけではなく、針先と目盛りの距離を近づけて、時間を読み取りやすくするための工夫でもある。ぱっと見はシンプルだがよく見ると細かいところまでかなり考えられているのだ。
3針モデルは32.7mm、34mm、38mmで展開されていて、今回選んだのはいちばん人気の38mmモデル。大きすぎず小さすぎず取り入れやすいサイズだと思う。しかもマックス・ビルは今回チョイスした自動巻きだけでなく、手巻き、クォーツ、電波ソーラーまで揃っている。デザインを気に入った人が、自分の生活に合う仕様を選べるのはかなり親切的だ。
そしてこの時計の真骨頂は、服装やシーンをあまり選ばないところだ。シャツにもニットにも、Tシャツにも合わせやすい。時計だけが浮いて見えにくいので、普段あまり時計を着けない人でも取り入れやすいと思う。私は時計を選ぶとき、スペックや歴史はもちろん大事だが、それと同じくらい毎日ちゃんと使いたくなるかも重要だと考えている。朝、深く考えずに手に取れるかどうか。マックス・ビル オートマティックはその点で見るとかなり良い。日本でこのコレクションの人気が高いのも素直に納得できる。
30万円台のドイツ時計には、それこそほかの価格帯で選ばれたジンのような無骨なものもあれば、スペックの強さを前に出したものもある。そのなかで私がマックス・ビル オートマティックを選んだのは、デザイン、背景、自動巻きという使いやすさのバランスがとてもいいからだ。黒い森の老舗であるユンハンスの歴史があり、マックス・ビルという人物の考え方があり、しかも実際に見やすくて使いやすい。ドイツ時計らしいまじめさを気負わず普段の生活に取り入れられる1本として、30万円台でかなりおすすめしやすいモデルである。
35万5500円(税込)
詳細はブランド公式サイトへ
【50万円台】ジン 103.B.AUTO
ドイツ時計において50万円台という価格帯は、かなり悩ましいものがある。この価格帯まで予算を伸ばすと、ドイツの軍用時計や計器時計の文脈を、単なる雰囲気ではなく“血統”として感じられる1本に手が届くからだ。ハンハルトやヴェンぺなどはまさにその筆頭に上がるブランドであるが、そのなかで僕はジン 103.B.AUTOを選んだ。2026年4月20日の価格見直しで税抜き58万円となってしまったが、これがその出自やデザインにおいて語りどころが多い時計なのである。
ジンは1961年にパイロットで飛行教官でもあったヘルムート・ジンによって設立されたブランドだ。創業時から目指していたのは華美な装飾品ではなく、プロが現場で本当に使える計測機器としての時計だったという。この姿勢はいまも、ブランド全体に色濃く残っている。実際、ジンの時計には“高級時計らしさ”をわかりやすく演出するための過剰な味つけがほとんどない。だがそのかわりに、視認性、堅牢性、整備性といった、道具として大事な要素にしっかりコストが振り分けられている。マーケティングよりも時計そのものの品質を重視するブランドの性格を、プロダクトから強く感じるのだ。
1960年代の103.A。
103シリーズは1960年代末ごろから続く、ジン初期を代表するクロノグラフであり、この103.B.AUTOもその系譜を受け継ぐモデルである。出発点となった103.Aは、ピケレ製の防水ケースにバルジューCal.72を搭載し、タイプ20/21系の軍用パイロットクロノグラフに連なる構成を備えていた。ちなみに当時のジンは、部品を外部サプライヤーから調達し、組み立ても外部に委ねる体制を取っていたため、調達状況によって細かな仕様が変わることもあったという。
その後、103はその時々の技術を取り込みながら少しずつ姿を変えていく。1970年代には高振動のバルジューCal.726を採用し、インデックスの意匠にも変化が見られるようになった。さらに1980年代にCal.7750/7760系へ移行すると、レイアウトは現在につながる縦3つ目クロノグラフへと改められ、103はようやく現行モデルに近い輪郭を備えるようになる。1990年代から2000年代にかけては、ケース設計の見直しによる防水性能の向上や、ブレスレットの固定方式をピン式からヘキサゴンスクリューへ変更するなど、実用性に関わる更新も積み重ねられた。さらに1990年代後半には、ジン独自のArドライテクノロジーを搭載した派生モデルも登場している。
こうして103の歩みを追っていくと、ジンが美観のために時計を変えてきたのではなく、あくまで道具としての性能と信頼性を高めるために進化を重ねてきたことがよくわかる。103はその姿勢を最もよく物語るモデルのひとつであり、現行の103.B.AUTOにも、そうした理詰めの更新の積み重ねが確かに息づいているのである。非常に“ドイツ的”であり、僕はジンのそういうところに強く惹かれる。
一方で、103.B.AUTOのデザインは航空時計の歴史を踏まえたものとなっている。ブラックの両方向回転ベゼル、強化アクリルのボックス風防、くっきりとしたアラビア数字、そしてコックピット計器を思わせる凝縮されたダイヤル。いずれも単なるデザイン上の演出ではなく、視認性や実用性を追求した結果としてアビエーションの世界で重宝されてきたものだ。とりわけブラックベゼルは、1960年代にドイツ空軍向けに採用されたモデル155を思わせ、103系がもつパイロットクロノグラフとしての出自を端的に示している。また現代の時計市場では、風防といえば耐傷性に優れるサファイアクリスタルが主流となっている。しかしこのモデルに使用されている強化アクリル風防は、現場で傷が入っても交換ではなく研磨で素早く回復できることが求められ、その有用性ゆえに採用されたとされる。もちろんサファイアのような硬さはないが、少し使い込んで小傷が入っても、磨いて付き合っていけるところにこの時計らしい“実用感”がある。しかもボックス型の風防がもたらす柔らかな歪みは、文字盤を眺める楽しさにもつながっていて、どこか懐かしい味わいを生んでいる。103.B.AUTOは無骨一辺倒では終わらない。軍用・計器時計の文脈を持ちながら、古典的なクロノグラフとしての品もちゃんと残している。
38.5mm径でさらに凝縮感のある356.FLIEGERもおすすめしたい。こちらは、1940年代ごろの軍用クロノグラフを思わせるデザインとなっている。
50万円台のドイツ時計が面白いのは、単に有力なブランドが揃っているからではない。このジンのように、それぞれがドイツ時計の伝統を異なる角度から今日へ接続しているからだ。たとえばハンハルトには、クロノグラフの実用機として育まれてきた航空時計の系譜があるし、ヴェンぺには、ドイツの精密計時やクロノメーター文化を背景としたまた別種の端正さがある。そのなかでジン 103.B.AUTOは、軍用時計と計器時計の文脈をもっとも生々しく残しながら、現行機としての完成度もきちんと備えた1本だと言えるだろう。
こうして見ていくと、50万円台という価格のなかにこれほど個性的で、しかも歴史の深い時計が並ぶこと自体が、ドイツブランドの層の厚さを物語っている。スイス時計とは異なる価値観で育まれてきた豊かな選択肢に、改めて注目して欲しいのである。
63万8000円(税込)
詳細はブランド公式サイトへ
【100万円台】グラスヒュッテ・オリジナル シックスティーズ Ref.1-39-52-06-02-04
100万円を超える価格帯となると、個性が際立ったブランドが選択肢に挙がってくる。ドイツ高級時計の筆頭格であるA.ランゲ&ゾーネをはじめ、少量生産の独立系として日本での評価も高いモリッツ・グロスマンなどがあるものの、これらを手にするには数百万円から1000万円超の予算が必要だ。そんななか、価格帯もちょうどよく、かつドイツの高級時計としての特徴を存分に備える魅力的な存在なのがグラスヒュッテ・オリジナルである。
上を見ればパーペチュアルカレンダーやトゥールビヨンなどの高額モデルがいくつもラインナップされているが、エントリーラインとして100万円台で購入可能なモデルもいくつか存在している。なかでもおすすめは、ヴィンテージコレクションにラインナップされているシックスティーズのシンプルな3針時計だ。
シックスティーズは2007年に登場したコレクションで、ブルーダイヤル仕様は2013年にラインに加わった。本作はシリーズの核となるレトロな造形美に、より現代的で洒脱な雰囲気を与えた発展形と言える1本だ。
最大の魅力にして、注目すべきなのがダイヤルである。ドーム型のガルバニックブルーダイヤルには繊細なサンレイ仕上げが与えられており、光の加減で濃紺にも鮮やかなブルーにも見え方が変わり、きわめて豊かな表情を持つ。さらにダイヤルそのものもドーム状であるため、平板な面では出せない柔らかな陰影が生まれ、1960年代のヴィンテージウォッチに見られたような有機的なムードを醸し出している。
Inside The Manufacture グラスヒュッテ・オリジナル、新たなダイヤル工房が照らし出すドイツ時計メーカーの過去と未来
グラスヒュッテ・オリジナルの新たなダイヤル工房については、トロイ・バーモア(Troy Barmore)による現地取材記事で詳しく紹介している。記事はこちらから。
質感などダイヤル自体のよさはもちろんのこと、ブランドがそれに対していかに心血を注いでいるかを知れば、より一層魅力的に感じられるだろう。グラスヒュッテ・オリジナルにとってダイヤルとは時計の顔であり、“ウォッチメイキングにおける最大の挑戦はひと目で完璧だとわかる時計をつくること”だと言う。そこで同ブランドが選んだのは、ダイヤルの自社製造。グラスヒュッテ・オリジナルは、手作業でダイヤルを製造する数少ないウォッチメーカーのひとつだ。
ダイヤル製造の工程は、ブランク材(プレス加工用の材料)の製造に始まり、ドリル加工後にカム(運動方向を変える機械)が取り付けられる。次いで針やインデックスなどのための穴と凹みをフライス加工により成形。洗浄されたダイヤルは、電気分解によって金属素材を均一にカラーリングするガルバニック処理が施され、その後のラッカー仕上げでは、表面に手作業でコーティングをスプレーして乾燥させる。最後はプリント加工。パッドプリントを用いて文字を転写し、ドット状のスーパールミノバ®の塗布、インデックスや数字などの植字などを施せば、ダイヤル製造工程の大半は完了となる。
一連の工程は、ほかのダイヤルメーカーとそう変わらない。だが、各工程の加工精度を高め、例えば、ガルバニック処理後のラッカー仕上げの厚みを抑えるなど、高級時計にふさわしい手間ひまをかけることでクオリティを高めている。これまでは2012年に買収したT・H・ミュラー社をベースとする工房をフォルツハイムに持っていたが、2025年6月に新たなダイヤル工房をグラスヒュッテの地にオープン。高度な専門技術を結集させることで、ダイヤルの品質を高め、保証する体制を強化した。
ダイヤルはもちろんのこと、ケースやムーブメントなど、そのパッケージングのバランスのよさもこの時計の魅力だ。
ケースは39mmのポリッシュ仕上げのSS製で、厚さは9.4mm。大き過ぎず小さ過ぎずのほどよいサイズで、風防を除いたフラットなプロポーションも相まって手首にもすっと収まり、日常使いしやすい。このケースに収められるのは、自社製自動巻きのCal.39-52。2万8800振動/時、パワーリザーブが約40時間とやや短めである点は少し気になるが、グラスヒュッテ4分の3プレートや、スワンネック緩急装置、面取りされたエッジ、ポリッシュ仕上げのスティールパーツなど、グラスヒュッテを名乗るにふさわしいディテールを持つ。華美に走らず、機能美と仕上げの質で見せる、質実剛健なドイツの高級時計の魅力を余すことなく堪能できる1本だと思う。
実はグラスヒュッテ・オリジナルでは、もうひとつのおすすめがある。それがこのセネタ・オートマティック(Ref.1-39-59-01-02-04)で、価格は97万9000円(税込)。なぜ、これが一番のおすすめではないのか? 動画のなかでその理由を紹介しているので、ぜひともチェックいただきたい。
101万2000円(税込)
詳細はグラスヒュッテ・オリジナル公式サイトへ
Photographs by YusukeMutagami, Yuki Matsumoto, Kyosuke Sato
Video by Michiko Takio, Yosuke Sato, Nobuchika Furuya, Video Direction by Marin Kanii, Video Edit by Ayaka Takagi, Video Produce by Yuki Sato
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