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Inside The Manufacture グラスヒュッテ・オリジナル、新たなダイヤル工房が照らし出すドイツ時計メーカーの過去と未来

グラスヒュッテ・オリジナルは、本社からすぐそばに新たなダイヤル製造工房を構え、ザクセン州の中心でドイツ時計製造における進化を続けている。


この3年間、グラスヒュッテ・オリジナルの人々はある注目すべきプロジェクトに取り組んできた。それは新しいムーブメントやリファレンスの開発ではない(もちろんそれらも同時進行で行われている)。むしろ、それ以上に同社の生産体制と能力に大きな影響を与えるものだ。本社とマニュファクチュールからほど近い、ブランド名の由来でもあるザクセンの小さな村グラスヒュッテに、まったく新しいダイヤル製造工房を建設したのである。ブランドによれば、この生産能力の拡充により、同社の時計の部品やコンポーネントの95%以上がグラスヒュッテの町で製造されることになったという。

 先日、私は世界各国から集まった限られた人数のジャーナリストたちとともにグラスヒュッテを訪れ、同社のマニュファクチュールと新しいダイヤル工房を見学する機会を得た。本社はジャーナリストや顧客、そのほかの来訪者に向けたガイドツアーを実施できるように設計・建設されているが、このダイヤル工房はまったく性質が異なる。今回、私たちは各工程や部署、職人たちの作業にほぼ制限のない形で立ち入ることが許されたが、同社によれば、このような機会は今後頻繁にはないだろうという。

Glashutte Original Manufacture
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時計製造の工程で使われる多くの工具は、社内で設計・製作されている。

Glashutte Original Manufacture
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昔ながらのファイリングシステムは現在も使われている。新しい技術を取り入れ活用しながらも、時として古いやり方が最良であることもあるのだ。

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施設の随所には、旧東ドイツ時代を含むグラスヒュッテ・オリジナルの誇り高き歴史を伝える記録や設備が随所に残されている。

Glashutte Original Manufacture
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今日も使用されている多くの機械には、1951年から1990年までソビエト統治下で活動していたGUB(グラスヒュッテ国営時計会社)の刻印が残されている。

Glashutte Original Manufacture
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ダイヤルからブリッジ、地板に至るまで、それらは原材料から自社で製造されている。

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最も小さなパーツの製造もすべて社内で行われている。

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Pearlage is delicately applied to movements.
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めっきやエナメル加工、剥離、仕上げといった複数の工程を経て、同社を象徴するツートーンのムーブメント装飾が完成する。

Glashutte Original Manufacture
A multi-step process of plating, enameling, stripping, and finishing, results in the signature two toned movement decoration.

グラスヒュッテ・オリジナルには、小さな部品表面の装飾と仕上げだけに専念する専門の職人が11人在籍している。

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フィッシャー(Fischer)氏、グラスヒュッテ・オリジナル一筋で、今年で勤続42周年を迎えるベテラン社員だ。

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スワンネック緩急針の研磨にはひとつあたり最大45分を要する。

Glashutte Original Manufacture
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トゥールビヨンケージの仕上げには1日から2日かかることもある。


新工房の完成とともに登場した、新リミテッドエディション

新たなダイヤル工房の開設と、この町における時計製造180周年を記念し、グラスヒュッテ・オリジナルは非常に細やかなテクスチャーを施した美しい“ガルバニック・ローズ”ダイヤルを備える新作パノルナ・トゥールビヨンを発表した。

PanoLunarTourbillon

 このダイヤルは“Iron ore(鉄鉱石)”とも形容されており、その色味は周囲のエルツ山地一帯で見られる鉄鉱床の赤錆色を想起させる。ケース直径40mmの本作はプラチナ製で、世界限定50本だ。また、ムーンフェイズ、ブランドのシグネチャーであるパノラマデイト、そしてフライングトゥールビヨンを備えている。

PanoLunarTourbillon
PanoLunarTourbillon
PanoLunarTourbillon

 このダイヤル製作に必要な工程数は驚異的で、一部のモデルでは無垢の地板に手作業で銀めっきを施すところから始まる。その後、モデルの仕様に応じてレーザー加工や機械加工(ただしダイヤル職人が厳格に監修・操作する)から、完全な手作業による加飾や仕上げまで、使用される技法は多岐にわたる。たとえば、今回のパノルナ・トゥールビヨンに搭載されるダイヤルは完成までに3〜4カ月を要する。初めてその製造期間を聞いたときは半信半疑だったが、各ディテールの精緻さと、それらがいかにていねいに施されているかを目の当たりにして、その数字に納得せざるを得なくなった。

 なお、グラスヒュッテ・オリジナルが自社でダイヤル製造に乗り出すのはこれが初めてではない。今回完成した最新鋭の工房ができる以前、同社は、ダイヤル製造の拠点をドイツ西部・黒い森地方のシュトゥットガルト近郊、プフォルツハイムに構えていた。この工房は2006年にスウォッチ グループが買収し、2013年の改装以降はグラスヒュッテ・オリジナルの管轄下で稼働してきた。今回の新工房開設に伴い、プフォルツハイム工場の機械とスタッフはグラスヒュッテへ移転され、その建物はドイツ国内におけるスウォッチグループのカスタマーサービスセンターへと用途を変えている。

PanoLunarTourbillon
PanoLunarTourbillon

 この新しいマニュファクチュールにより生産能力は大幅に向上し、試作、ガルバニック加工、レーザーおよび手彫り、ムーンフェイズや表示ディスクの製作、印刷、そして多様な仕上げ加工など、幅広い工程をこなすことが可能になった。これらすべての機能が本社からすぐそばに位置し、創造のプロセスに対するアクセス性と即応性を飛躍的に高めている。


灰燼(かいじん)から蘇った産業

今回新たに手にした新しいダイヤル製造能力はグラスヒュッテ・オリジナルにとって間違いなく誇りとなるものだが、それは同社のみならず、グラスヒュッテという町の時計産業全体の歴史においても重要な節目をなすものだ。この町と産業の歩みは、多くの点で20世紀後半の東ドイツの経験と重なり合う。それは破壊、分断、再生、そして最終的な再統一の物語である。

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グラスヒュッテから車で45分の距離にあるドレスデンの光景は、戦争終結時の広範な破壊を物語っている。多くの建物は、1990年の東西ドイツ統一後まで砂岩の瓦礫の山として残されていた。

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ドレスデン中心部にあるフラウエン教会が再建されたのは、ベルリンの壁崩壊後のことだった。

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  グラスヒュッテにおける本格的な時計製造は1845年、フェルディナント・アドルフ・ランゲ(Ferdinand Adolph Lange)、モリッツ・グロスマン(Moritz Grossmann)、ユリウス・アスマン(Julius Assmann)、アドルフ・シュナイダー(Adolf Schneider)の4人が、かつて鉱業に大きく依存していたこの町に時計師として身を据え、産業の礎を築いたことに始まる。その後の100年間で時計産業は大いに発展し、独自の時計様式が確立され、ほかの時計産地にも輸出され、さらには模倣されるようになった。(実際、この“グラスヒュッテ様式”の模倣が広まったことで、ドイツの時計師たちは自らの時計に“オリジナル・グラスヒュッテ”と刻むようになった。これが現代においてブランド名の由来となっている。)

 それからほぼ100年後の1945年5月8日、戦争がまさに終結を迎えようとする局面において、グラスヒュッテはソ連軍の空爆により壊滅的な被害を受けた。辛うじて残ったわずかな時計製造の設備も、その後ソ連当局によって接収された。戦後の数年間で、機械や工具の多くは記憶を頼りに再建され、1951年に東ドイツがドイツ民主共和国(GDR)としてソ連の支配下に置かれると、グラスヒュッテ全体がグラスヒュッテ時計企業体(GUB)というひとつの会社として運営されるようになったのだ。

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東ドイツ各地には今も戦争の痕跡が残っており、この建物には“爆弾やブービートラップは除去済み”とロシア語で記された刻印が見られる。

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グラスヒュッテ・オリジナルのCEO、ローランド・フォン・キース(Roland von Keith)氏は、ブランドのみならずスウォッチ グループをも代表する存在だ。

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 この時代から1990年の東西ドイツ統一まで、GUBは質が高く信頼性のある、しかし決して華美ではない時計をソ連圏全域に向けて製造していた。ドイツ統一後、GDR(ドイツ民主共和国)の旧国営企業や産業は民営化され、GUBはグラスヒュッテ・オリジナルへと姿を変えた。今日でもこの時代の痕跡はマニュファクチュールの随所に残っており、当時から働き続ける社員も少なくない。

 グラスヒュッテに拠点を構える各メーカーは、それぞれが自社にゆかりのある人物や時代、出来事などを自らのルーツとして位置づけている。しかし、この地の時計産業の歴史は、今なおグラスヒュッテで活動を続けるすべてのブランドに共通するものである。第2次世界大戦という未曽有の惨禍から立ち直りつつあったドイツは、連合国による戦後秩序のもとで新たな地政学的現実を受け入れることを余儀なくされ(その影響は今も国際政治を形づくっている)、その過程で東西ドイツの人々はそれぞれ再建と自己の再定義を目指した。

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グラスヒュッテ中心部にあるドイツ時計博物館はグラスヒュッテ・オリジナルが運営しており、同社の修復部門も併設されている。

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1920年にグラスヒュッテでアルフレッド・ヘルヴィグ(Alfred Helwig)が開発した、フライングトゥールビヨンの模型。

 献身的で努力を怠らず、そして国家としての誇りという精神に後押しされ、この町の時計産業は再び歩みを進め始めた。今日、グラスヒュッテは世界でも屈指の高級時計の産地となり、その中心にはグラスヒュッテ・オリジナルが位置している。そして今、製品の顔となるダイヤルにおいてこれまで以上に豊かな芸術性とクラフツマンシップを備えた同社は、ドイツ時計製造の壮大な物語に新たな章を書き加えようとしているのだ。

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グラスヒュッテ・オリジナルの本社からほど近い場所に新設された、最新のダイヤル製造工房。

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美しい色彩を生み出すダイヤルの背後には、職人たちの存在がある。

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GDR時代に製造されたヴィンテージのトラバントが駐車場に佇んでいる。これは過去の名残であり、経済的な制約があったにもかかわらず、当時の物づくりがいかに堅牢であったかを思い起こさせる存在だ。

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パノインバース Ref.1-66-12-01-03-62 におけるダイヤルとブリッジの仕上げ工程。

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“シックスティーズ”シリーズでは、インデックスのカッティングは手作業でガイドされているのだ。

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ケースとシリアルナンバーはレーザーで刻印される。

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ダイヤル製作における数多くの仕上げ工程のひとつとして、放射状のサテン仕上げが施される。

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時間をかけ、細部までていねいに製作されるムーンフェイズディスク。

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