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本稿は2017年4月に執筆された本国版の翻訳です。
2017年の3月下旬、ヴィンテージウォッチ界はeBayで行われたある時計のオークションに注目していた。出品されたのはサブマリーナー。ただしロレックスのサブマリーナーではなく、チューダーのサブマリーナーだ。しかも人気の“ビッグクラウン”サブマリーナーですらなかった。しかしこの時計はそれらと比べてもさらに特別であり、多くの人々にとって(そして私にとっても)ロレックスやチューダーのダイバーズウォッチのなかでも隠れた魅力を持つ、とりわけ興味深い1本だったのだ。
このチューダー Ref.7923は、3月下旬に9万9999ドルで落札された。
チューダーのサブマリーナー Ref.7923が特別な理由は、このファミリーのなかで唯一の手巻き式ダイバーズウォッチだという点にある。さらにこの時計は、まったく手を加えられていないオリジナルの状態で発見されたようだった。この時計はeBayで9万9999ドル(当時の為替レートで約1100万円)で落札されたが、当時我々が報じたようにeBayには詐欺防止のため10万ドル以上の入札者に電話認証を求める保護プログラムがある。そのため、それ以上の高値には達しなかった。結果としてRef.7923はパブリックオークションで過去最高額を記録したヴィンテージチューダーとなったものの、実際にはもっと高額で売れた可能性があった。そして今、その可能性が現実になりそうだ。
オリジナルのリューズに見られる小さなクラウンに注目してほしい。これはセカンダリーマーケットでは入手不可能に近い希少な存在だ。
オリジナルのラジウム夜光インデックスは、しっかりとした厚みを保ち、鮮明に残っている。
サンフランシスコ拠点のヴィンテージウォッチ専門店であるHQ Milton(以前こちらで取り上げた)が、木曜の夜遅くにこのeBayに出品されていたRef.7923と思われる時計の写真をひっそりと投稿した。翌朝にはコレクターコミュニティがこれに気づいて価格に興味を持ち始めるとともに、HQ Miltonが提供した高解像度の美しい画像に見入っていた。eBayの写真でも状態のよさは確認できていたが、ここまで鮮明なディテールを目の当たりにするとその素晴らしさに改めて感嘆する。
この時計のケースに施された面取りは、1950年代後半の製造時の状態をそのまま維持している。
このRef.7923は、実に驚くべき状態を保っている。文字盤上のラジウム夜光塗料は完全に残っており、オリジナルのリューズにある小さなクラウンもそのままだ。さらに、ミニッツマーカーがないベゼルが交換されずに残っているという点も特筆に値する。ケースの状態については、まさに“これこそサブマリーナーだ”と言いたくなるようなコンディションだ。
この時計はロレックスやチューダーが製造したなかでも最も希少なモデルのひとつであり、ヴィンテージウォッチ界で保存状態を競うコンテストがあれば優勝できるほどの品質を誇る。HQ Miltonは風防を交換して文字盤をより鮮明に見せているが、発見時の状態を保つためオリジナルのクリスタルも付属するという。
HQ Miltonはこの極めて希少なサブマリーナーに35万ドルの価格を設定している(記事執筆当時)。
この時計が“サブマリーナー”のなかでも価値の高いものであることは間違いない。先月9万9999ドルで落札された際にはヴィンテージチューダーのパブリックオークション記録を更新したが、今回、信頼ある有名なヴィンテージウォッチ専門店HQ Miltonに渡ったことでその価格はさらに急上昇している。HQ Miltonのウェブサイトには“価格応相談”と記載されているが、実際の希望販売価格は35万ドル(当時の為替レートで約3850万円)だという(記事執筆当時)。これがチューダーのサブマリーナーとして非常に高額であることに異論の余地はない。しかしこれまで見てきたように、最高の逸品に出会ったとき、未来の価格高騰を予見して今日購入しておく価値は十分にある。果たしてほかのコレクターも同意し、HQ Miltonが提示する価格でこの時計を購入するのか? その答えは、間もなく明らかになるだろう(編注:最終的な販売価格は判明していない)。