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How To Wear It ピアジェ ポロ 79のスタイリング

ゴールドは必ずしも派手である必要はない。

スタイルエディターのマライカ・クロフォードが愛用の腕時計をより最高の状態にするための方法を紹介するHow To Wear Itへようこそ。このセクションではスタイリングのコツから現代におけるファッションの考察、歴史的な背景、ときには英国流の皮肉も織り交ぜて、その魅力をお伝えしていこう。

 ハロー、そして久しぶり。How To Wear Itの休止期間は、立ち止まり、再構築し、(少し飽和状態に感じていた)頭のなかに新たなアイデアを吹き込む絶好の機会となった。この時間を活用して、スタイリングにおける失われかけていた情熱やワクワク感を取り戻し、自分自身の視点を超えたものに触れることができた。これは、私が普段から意識的に実践していることでもある。

 ファッションと時計の融合は、伝統的な時計愛好家を遠ざける試みのように見えるかもしれないが、決してそうではない。これは、これらふたつの世界が交わるときの興奮を、興味を持つ人々と共有したいという私なりの方法なのだ。私たちは皆、自分自身のアルゴリズムの支配下にある。世のなかには実にさまざまな人々がいて、それぞれ異なる種類のコンテンツを消費していることを忘れがちなのだ。How To Wear Itの目標は、“正しい”時計やファッションを押し付けることではなく、より広い視点でデザインを探求することにある。それは身につける物と個人的な表現とのつながりに焦点を当て、私たちが体に選び取るオブジェクトを見つめ直す試みだ。

ヴィンテージの復刻モデルの話題はもう終わったと思ったころに、またしても時計業界の止まらないノスタルジーへの執着を持ち出してしまう私がいる。このレトロな衝動があまりにも蔓延していたため、自分の嗜好をリセットする必要を感じ、落ち着いたツールウォッチを目指すようになった。それはまるで70年代(この場合は80年代)のデザインリバイバルという、翌朝の“二日酔い”に効く解毒剤のようなものだ。この根強いトレンドは、どうしても敗北を認める気がないらしい。

 同僚たちと“究極のノームコアウォッチ”について議論するのに忙しい日々を過ごしていた(ちなみに私の結論を知りたいなら、スピードマスターとエクスプローラー1だ)。だが予想どおり、内なる“イエローゴールドに飢えた魅惑のデーモン”が華やかさを求め始めた。どれだけ1016が好きであっても、ステンレススティールは私にとってのラグジュアリーの夢を叶えるものではない。そこで私は再び、喜びとマキシマリズム(過剰さ)の世界へ戻ることにし、審美的な倦怠感に陥っていた時期に見逃していた時計を改めて手に取ることにしたのだ。

ピアジェ ポロの登場
Piaget Polo on wrist

シャツ&パンツ/ジル・サンダー、ベルト/スタイリスト私物。

 昨年リリースしたピアジェ ポロ 79を無視していたわけではない。ただ天邪鬼な性格が顔を出し、その結果ピアジェ ポロの議論に加わらず傍観していたのだ。しかし自ら選んだ孤立した状態では周囲の世界で実際に起きていることに向き合うことはできなかった。そこで時計に対する“節制”の姿勢を捨て去り、思い切ってYGに全力投球することに決めたのだ。さあ、大振りな金無垢モデルの魅力が漂う甘美な雲のなかへ、一緒に浮かび上がろう。

 1980年代の“ランチに集うセレブ女性たち(ladies who lunch)”の洗練されたグラマースタイルを、故ナン・ケンプナー(Nan Kempner)、パット・バックリー(Pat Buckley)、ナンシー・キッシンジャー(Nancy Kissinger)氏といったニューヨークの社交界の名士ほど完璧に体現した人々はいない。彼女たちはクチュールを纏い、ロングシガレットを片手に、きっちりセットされた髪と堂々とした肩幅のコートで、ル・シルク(Le Cirque)のランチを楽しむというパーティサーキットを生き抜く優雅さを持ち合わせていた。とはいえ彼女たちがこの時計を身につけていた可能性は低いだろう。しかしピアジェ ポロには独自の、非常にグラマラスなセレブの系譜があることを踏まえつつ、この空想的なオリジンストーリーに心の安らぎを見出すことをどうか許して欲しい。

 もし、あの超グラマラスな女性たちがこの時計を身につけていたとしたら、それは間違いなく当時のオリジナルであるピアジェ ポロ クォーツモデルだっただろう。そして彼女たちはそれをゆるく身につけていたに違いない(ちなみに、アッパーイーストサイドの女性たちと、彼女たちが巨大なゴールドウォッチを手首にゆるくつけることへの執着についても、ぜひ掘り下げたいところだ)。ここで言いたいのは、新しいピアジェ ポロ 79が、現代の消費者のニーズに合わせてアップデートされたということである。ただ正直なところ、その消費者が具体的に誰なのか、完全にはわかっていない。それでも私は巨大なゴールドウォッチに目がない人間なのだ。

Piaget Polo Vintage ads

ピアジェ ポロのオリジナル広告。1979年、ピアジェのポロ競技会にて、イヴ・ピアジェ(Yves Piaget)と女優ウルスラ・アンドレス(Urssula Andress)氏の姿。Photograph courtesy of Piaget

 ポロが初めて登場したのは1979年のことだ。アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)や初代ボンドガールであるウルスラ・アンドレス氏がこのスタイルの著名な愛用者となった(ポロの起源やセレブとの関係についてはこちらで詳しく読むことができる)。この時計は、大胆かつ幾何学的でありYGを基調としたデザインを通して、70年代のばかばかしいほどの贅沢さを体現していた。新たに登場したピアジェ ポロ 79はオリジナルモデルをアップデートしたもので、ケースサイズは38mm×7.9mmと、まさにYGの塊と言える。ポロのシグネチャーデザインを特徴づけているのは、水平に刻まれた磨き上げられたゴールドのライン(ゴドロン)であり、ピアジェはこの独特なストライプをケース、ブレスレット、ダイヤル全体にわたってしっかりと継承しているのが何よりもうれしい。文字盤からブレスレットへと続くパターンの一体感について、友人でありトレダノ&チャンの共同創設者であり、大胆な70年代デザインをこよなく愛するフィル・トレダノ(Phil Toledano)氏は、これを“コンティニュアスコンセプト(連続的概念)”と呼んでいる。この技法は、時計全体の本質を彫刻的な一体物へと昇華させている。滑らかでありながら完全に一体化したオブジェとして成立しているのだ。時計本体もこのジュエリードリブンなデザインにしっかりと組み込まれ、ループ状のパターンが時計を排除することなくその一部として機能している。ケースはブレスレットとシームレスに溶け合い、全体が調和の取れた統一体をつくり上げている。

 ポロ 79はその重量感が特徴で、約200gの18KYGでつくられている。新しいデザインは従来よりボリューム感があり、そのためにオリジナルのブレスレットウォッチが持っていた流動的な液体に似たフォルムの優雅さが失われている。だが新作のクラフトマンシップは紛れもなく最高級である。サテン仕上げのゴールドとポリッシュ仕上げのゴドロンのコントラストは実に見事な完成度だ。ブレスレットはデプロワイヤントバックルに向かって細くなり、そのバックルは巧妙に隠され、ゴドロンとリンクのパターンを乱すことがない。これこそ美しいジュエリーの一品と言える。

Piaget Polo still life shot

 この時計をもっと小型化すべきかどうかについて長々と議論するつもりはない。70年代の時計ファンを自認する者なら、もちろん小型化を望むだろう。それは当然のことだ。私が唯一望むのは、ピアジェがより小型のクォーツモデルを追加してくれること。しかも、それが1179万2000円(税込)もするものでなければありがたい。私がこの時計を求めるのはその見た目であって、中身の機能ではない。現在、ポロ 79には厚さわずか2.35mmの自動巻きマイクロローターキャリバー、ピアジェの超薄型Cal.1200P1が搭載されている。オートマチックウォッチメイキングにおける超薄型記録への挑戦で、真摯に取り組み、広く称賛されているピアジェの努力には心から拍手を送りたい。ただ私自身、このスタイルのジュエリーに近いウォッチメイキングには、バッテリー駆動のブレスレットウォッチという新しい選択肢と、もう少し気軽なアプローチがあってもよいと思うのだ。もちろん、私ならスリムなクォーツのポロをゆるく身につけるのだろうが。

ルック1
Piaget Polo on model wearing grey outfit

シャツ&パンツ/ジル・サンダー、ベルト/スタイリスト私物。

 誰もが背が高く、魅力的で、完璧に仕立てられたスタイルを夢見るものだ。ジル・サンダーは1970年代以来、男女を問わずこの夢を実現させてきた。このブランドの持つドイツ的なミニマリズムは90年代に開花し、2000年代には元クリエイティブディレクターであり、メンズウェアのパイオニアでもあるラフ・シモンズ(Raf Simons)氏の手によって新たな高みへと到達した。近年、このブランドはルーシー&ルーク・メイヤー(Lucie and Luke Meier)夫妻の手によって再び注目を集めている。ビジネス・オブ・ファッション誌によれば、ふたりは“シャープで緻密なコレクションにクラフト感やフェミニニティを吹き込み、<ブランドを>再び活性化させた”という。

 さて、時計に話を戻そう。このゴールドアクセサリーはその存在感が際立っているため、ほかの服の下に隠したり、身につけ方を工夫しすぎたりして静かに目立たないようにする必要はない。この時計は見た目が自慢であり、これ自体が主役なのだ。だからこそモノクロの装いと合わせるのがよい。大きい金無垢モデルを着用するときは、スタイルをシンプルに保つのが一番だ。少し派手に見えることを恐れる必要はない。この時計はそれ自体が目を引く主役級のアクセサリーであり、どんなシンプルなコーディネートも一変させる力を持つ、たったひとつのアイテムなのだから。

Piaget Polo on model wearing grey outfit

シャツ&パンツ/ジル・サンダー、シューズ&ベルト/スタイリスト私物。

 シンプルさはときとして退屈に陥る危険がある。変化やアクセントがなければ単調さに飽きてしまうものだ。だが洗練された完璧な仕上がりにスタイルを保てば、たとえば色をマッチさせたりウールのレイヤーに輝く時計を合わせたりすることで、“ああ、冬だしなんとなく生きているだけかも”なんて雰囲気は一掃される。むしろ自意識過剰なスタイルへと変わる。それにこの時計のゴールドの輝きがあれば、私のワードローブ全体が再び息を吹き返すだろう。冬のどんよりとした時期でさえ、持っているすべての服が新鮮に感じられるに違いない。

ルック2

スーツ/グッチ、シャツ/チェリーヴィンテージ。

 白いスーツにゴールドウォッチを合わせるなんて、神々の怒りを買うかもしれないが、今どきの男子たちはみんなやっている。重要なのはカジュアルなアプローチを心がけることだ。このモノクロな装いのシーン、どんな場に向かうつもりだろう? もしレッドカーペットイベントやそれと同じくらい華やかなブラックタイのパーティではないなら、ジョルジオ・アルマーニの1992年春夏広告キャンペーンに出てきそうな、夢のような雰囲気を目指してほしい。シルエットは現代的でゆったりとしたものを選び、スポーティなインナーを合わせるのがポイントだ。また白一色の印象を打ち破るために、適度な差し色を取り入れることを忘れずに。絶対にやってはいけないのは、黒いシャツをジャケットの下に着ること、ましてや3ピースのなかに忍ばせることだ。オースティン・バトラー(Austin Butler)氏でもない限り、ただの『サタデー・ナイト・フィーバー』のオマージュにしか見えないだろう。大それたことを言うつもりはないが、このルックは心臓の弱い人向けではない。白いスーツを着る時点でファッションに対して確固たる意見を持っている人だろうから、私のアドバイスなんて必要ないかもしれないが。

 レトロなハリウッドのアイコンたちがゴールドウォッチをつけていた例をいちいち列挙するのは控えつつ、『特捜刑事マイアミ・バイス(原題:Miami Vice)』のドン・ジョンソン(Don Johnson)氏を挙げよう。この使い古された美学を嫌いになりたい気持ちはやまやまなのだが、単にそうすることはできない。これはファッション史のなかでも、愛されるほどにひどい瞬間として不滅の刻印を押されているからだ。いわばファッション神話の一部であり、まるでエルヴィス(Elvis)のように“ひどすぎて完璧”という領域に達している。彼もまた白いスーツの象徴的存在だ。このスタイルはキャンプ(大げさでわざとらしい美学)の極地に達しているが、だからこそ見事に成立しているのだ。

 元クリエイティブディレクター、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)氏(マキシマリズムの王であり、白いスーツの復活を手がけた人物)が去って以来、グッチの輝きは薄れたというのが一般的な見解かもしれない。ただファッション界の噂では、2025年には洗練されたマキシマリズム(サバト・デ・サルノ氏のもとで新たに定義されたグッチの方向性)がトレンドになると言われている。この動きは、ある意味で趣味とは何か、それを誰が持っていて、どのように活用するのかというより広範な議論へと発展していくのだろう。“クワイエットラグジュアリーは終わった”。そういう声も聞かれるが、それは実際には終わっていない。というのもクワイエットラグジュアリーは常に存在していたのだ。しかしその本質的な“静かさ”のせいで、決してメインストリームにはならなかっただけの話だ。

Look 3

 真冬に腕を露出するスタイルを提案するのは、私の見落としだったかもしれない。ここはひとつ、屋内スタイルということにしておこう。

Model wearing Piaget Polo watch sitting in a chair

シャツ/ウェールズ ボナー、パンツ/バーバリー。

 私はこのコラムで、以前にもグレース・ウェールズ・ボナー(Grace Wales Bonner)氏について触れたことがある。彼女はアディダスとのコラボレーションで広く知られているが、ファッション界におけるもっと広範な貢献はしばしば見過ごされがちだ。ウェールズ・ボナー氏は、男性的なフェミニニティやアフリカ文化をディアスポラ(移民文化)の視点で探求し、ロンドンのカリブ系若者たちの視点から70年代のシルエットを再考している。これは私が長いあいだ夢中になっているスタイルのサブカルチャーでもある。彼女の服は、縮んだニットやカラフルなトラックジャケット、ピークドラペル、そしてブーツカットのチェック柄パンツなどをとおして、70年代から80年代のラドブローク・グローブ(Ladbroke Grove)の雰囲気を完璧に捉えている。もしスティーブ・マックイーン(Steve McQueen)の『スモール・アックス(原題:Small Axe)』をまだ見ていないなら参考にして欲しい。ウェールズ・ボナー氏が手がける服は、あらゆる意味で感情を揺さぶる作品だ。ロンドン生まれロンドン育ちの私は、彼女のコレクションを通じてゴールドボーン・ロードを歩きながら、ジャネット・ケイ(Janet Kay)氏の『Silly Games』を聴いている自分を想像できる。1970年代の西ロンドンで青春を過ごした私の母も、これらの服が当時の雰囲気を見事に捉えていることに同意している。

シャツ/ウェールズ ボナー、パンツ/バーバリー、シューズ/セリーヌ、ベルト/スタイリスト私物。

 もしウェールズ・ボナー氏のルーツやインスピレーションの源に興味があるなら、ぜひ写真家ベス・レスター(Beth Lesser)氏の著書、『Dancehall: The Rise of Jamaican Dancehall Culture』を手に取ってみて欲しい。この本には、ゴールドジュエリーや時計がゆるく身につけられている様子を捉えた写真が多数収められており、その美的感覚が際立っている。このスタイルは、ゴールドのスポーツウォッチが控えめに身につけられるべきであることを改めて思い起こさせてくれる。金無垢ウォッチは、カジュアルまたはミニマルな装いと組み合わせることでその輝きがより引き立つのだ。

 とはいえ、それはすべての個性をそぎ落とす必要があるという意味ではない。明るいゴールドのポロ 79は、控えめなストライプ柄やアースカラーの落ち着いたトーンの背景と組み合わせることで、その派手さを和らげている。しかしファッションやスタイルに絶対的なルールなど存在しない。1970年代の華やかなファッションの守護聖人とも言えるダイアナ・ヴリーランド(Diana Vreeland)が、ニューヨーク・タイムズ誌のスタイルセクションでこう書いている(私が読んだなかでも最高の記事のひとつだと思う)。“スタイルは買うことができない。それは個性、興味、教養、そして社会に対する喜びの感覚で成り立っているのだから”。