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人類が海を征服しようとするとき、SFと現実の境界線が曖昧になるような技術革新がしばしば起こる。深海から危険な海面まで、常に変化し続ける海を探索することは、科学者たちが1世紀近くかけて取り組んできたユニークな挑戦だ。このような考えは時計製造にも及び、ダイバーズウォッチが誕生した1950年代初頭から、ダイバーズウォッチのデザインに多くの革新がもたらされた。ここでは、3つの革新的な技術を取り上げ、時計メーカーがどのようにその技術をデザインに取り込んできたかを紹介する。
液体封入ケース
1962年、ヨハネス・A・カイルストラ(Johannes A. Kylstra)博士は、マウスの肺に酸素を多く含む生理食塩水を満たすことで、水中で一定時間なら呼吸ができることを証明した。マウスは水中に沈んだあとすぐに死んでしまったが、理論的には可能であることが証明されたのだ。この実験の背景には、人間にも液体呼吸ができる可能性があるという大きな考えがあった。肺を液体で満たせば、深海潜水で生じる圧力による危険性を理論的に解決することができる。
追跡実験の結果、血液の3倍の酸素を含む合成液体であるパーフルオロカーボン(炭化水素の水素原子をすべてフッ素原子に置き換えたものの総称)を人間が呼吸できることが実際に証明された。映画『アビス』で、エド・ハリス(Ed Harris)がマリアナ海溝に潜るために液体で満たされたダイビングスーツを着て、水圧の致命的な影響に屈することなく潜水するシーンは、この技術によるものである。
そして、それと同じ技術が、いくつかのダイバーズウォッチにも見られる。ジンのUXは、液体が深海では圧力によってほとんど圧縮されないという事実を利用。ジンはこれをHYDROテクノロジーと呼び、ムーブメント、ダイヤル、針がケース内のオイルの透明な浴槽に収まっている。ケース内の空気をオイルに置き換えることで、1万2000mという驚異的な深度を実現しているだ。もちろん、機械式ムーブメントではオイルの粘性によりテンプに負担がかかるため、この技術はクォーツムーブメントにのみ適用される。ジャック・フォースターは、この技術的な問題点について次のように語ってくれた。「最も速く動くのは秒針で、ジャンプしても6°しか動かない(360°/60秒=6°)。一方、テンプは現代の時計(2万8800振動/時)では1秒間に8回、280〜300°振らなければならず、わずかな摩擦が加わるだけでもテンプの振幅は劇的に低下するため、非常に軽いオイルでも覆うことのはできないのだ」
大気圧ダイビングスーツにも、この技術が生かされている。このような自己完結型のハードスーツでは、オイルを充填した関節アセンブリがよく使われる。オイルは深海でも圧縮されないため、ジョイントの関節が動くようになり、適切な潤滑が保たれる。最も有名な大気圧ダイビングスーツであるJIMスーツについてもっと知りたい方は、ジャスティン・クチュール(Justin Couture)のWatch Spottingの記事をご覧いただきたい。そのなかで、JIMスーツのオペレーターとして訓練を受けたクリフ・ニューウェル(Cliff Newell)から話を聞いている。
内蔵デプスゲージ
ダイビングで水深を知ることは、潜水時間を知ることと同じくらい重要だ。そのため、メーカーがダイバーズウォッチのデザインに水深計を取り入れようとするのは当然のことだろう。機械的に深度を測る複雑な方法はいくつもあるが、極めてシンプルなデザインで目を引くのは毛細管式水深計だ。これは、1960年代から70年代にかけてダイバーズウォッチに採用された機能だが、その後、人気を失った。
水晶に小さな穴を開け、その穴を水晶の外周にある流路に接続。チャネルは水にさらされない端で密閉されている。ダイヤル、チャプターリング、ベゼルに印刷されているのは水深を示すマークだ。一般的に毛細管式水深計の精度が最も高くなるのは水深10m以下と言われているが、このマークは30mまで対応可能だ。
ダイバーがこの時計を身につけて海に入ると、水晶のなかの水路に水が入り込む。水路内の空気はダイバーが深く潜っていくにつれて圧縮される。水路のなかで空気が水と出会うところでは、はっきりとしたラインが形成され、そのラインはダイヤルやチャプターリングに印刷された水深チャートと照らし合わせて読み取られる。
ボイルの法則に基づき、水は10mで水路の半分を、20mで水路の約3分の2を占めることになる。しかし、20mから100mにかけては、このゲージが少し危うくなる。水深が深いと読みづらく、また調整が難しいため、正確な精度が得られない。現代のダイバーズウォッチにこのファンキーな機能が搭載されていないのは、このためだ。
ベゼルロック機構
ダイビングの初期には、ダイバーは物理的な減圧表を頼りにダイビングの計画を立て、ダイビングを追跡し、状況に応じてダイビングを修正した。減圧計算には水中時間、水底時間、水面休息時間などが必要だ。
控えめなダイバーズウォッチのベゼルは、ダイバーにとって必要不可欠な道具だった。当時は、このシンプルな装置の故障が生死に関わることもあったのだ。
そこで、ベゼルが誤って動かないように“ロック”し、先にロック機構が解除されないとベゼルが回らないようにする技術が各社から出始めた。つまりベゼルのロック機構によって、ダイビングの安全性が格段に向上したのだ。
ベゼルロック機構の最もポピュラーな例は、オメガのプロプロフに採用されている。ケース右側にある小さなボタンを押し下げると、ベゼルが自由に回転するようになっている。ボタンが止まっているあいだは内部のロックボルトがベゼルを所定の位置に保つ。この機構はケース右側の突起に収められており、プロプロフの特徴的な形状を作り出しているが、ほかのメーカーはより合理的なシステムを作り出している。
1988年に発表されたスクワーレのタイガーも、同様のベゼルロック機構を6時位置のラグに組み込んでいる。ロックが解除されるとベゼルは左右に自由に回転する。この2例はボタンによるロック機構だが、チューダーはアメリカ海軍のために、12時位置からベゼルをロックする歯のついた“ツメ(クロー)”機構を採用したプロトタイプを開発した。そのプロトタイプは数十年後、現代のチューダー ブラックベイ P01として登場した。