1980年代初頭は、大予算のブロックバスター映画製作が盛んな興味深い時代だった。ジョージ・ルーカス率いるインダストリアル・ライト&マジック( Industrial Light & Magic、映画界きっての視覚効果会社)は、スター・ウォーズの新作2本を手掛け、ジャー・ジャー・ビンクスという完全なCGキャラクターを生み出したばかり。まさに手ごたえを感じていた時期だろう。同じことが、ピーター・ジャクソンの『ロード・オブ・ザ・リング』で有名になったWETAにも言える。WETAは、アンディ・サーキスが声と体を担当したゴラム(人によってはスメアゴル)をフルCGで作り上げたのだ。グリーンスクリーンとCGIで実現できないことはないように思えた。映画の魔法は、コンピューターによって再定義されつつあったのだ。
ときが経つにつれて、これらの効果のなかには、ほかのものよりも老朽化が進んでいるものがあると証明された。スティーブン・スピルバーグ監督の『マイノリティ・リポート(Minority Report)』(2002年)もそのひとつだ。フィリップ・K・ディックの原作を映画化したこの作品は、殺人を未然に防ぐことを任務とする犯罪予防局と呼ばれる法執行機関の話だ。コンピューターエフェクトがこれでもかと言うほど盛り込まれていて、今日ではそれがなければかなり説得力のあるストーリーだと感じられたはずだ。
なぜ時計と映画という内容でこの話を取り上げたかというと、この映画は、コンピューターによるエフェクトの能力を時計の文字盤上に移し、その結果、2ブランドのフランケンシュタインのような時計が生まれ、時計好きの映画ファンを何十年も困惑させてきたからだ。そして、その時計は映画の主役であるトム・クルーズの腕にはめられているのだ。MoonSwatchをクレイジーなコラボレーションだと思ったそこのあなた。これを見てほしい。
注目する理由
信じられないかもしれないが『マイノリティ・リポート』は20周年を迎えた。私にとってお祝いに値する。スピルバーグ作品のなかではクラシックというほど古くはないが、やはり時代を感じさせる作品であり、同じくクルーズ作品である『宇宙戦争(War of the Worlds』(2004年)と同様、少し時間が経ってしまった感がある。この映画は私の再鑑賞リストには入っていないことを最初に認めよう。ケーブルテレビで放映されている作品の隣に表示されているのを見ると、「へえ、こんなのやってるんだ」と思うのだ。しかし、20年前に初めてこの映画を見たときには気づかなかった、時計についてのある貴重な発見をした。
この話題が最初に出たのは、社内で映画について話しているときだった(私にとっては珍しいことではないが)。いわゆるフランケンウォッチの写真を見せられて初めて『マイノリティ・リポート』は突如話題に上ったように思う。そこからこの映画の噂話に花が咲いた。さて、問題の時計とは? 説明するのはちょっと難しいのが、やってみよう。
トム・クルーズが演じるのは、そう遠くない未来の犯罪捜査官、ジョン・アンダートン。彼は、一見するとクロノグラフ、二度見するとオメガのクロノグラフ、そして三度見すると宇宙飛行の経歴を持つ非常に特殊なオメガのアナデジ・クロノグラフと思われる大きな腕時計をしている。私が言っているのはX-33のことで、まさにアンダートンの時計がそう見えるのだ。
ダイヤルはフルデジタルで、ILMエフェクトだと思われるが、オメガのロゴはない。その代わり、この時計には "Bvlgari "のブランド名が大きく記されている。混乱した? 当然だろう。しかし、これにはハリウッドのあまりセクシーでない側面に関する理由がある。この映画では巧みなプロダクト・プレースメントが行われ、レクサス、アメリカン・エキスプレス、ノキア、ブルガリなどの企業の広告が物語に組み込まれているのだ。
この時計のことを言えば、プレースメントはアンダートンが着用するキットに及んでいるのだ。オメガは現実にはNASAに時計を供給しており(ムーンウォッチをご存じだろう)、X-33はNASAの多くの宇宙飛行士に選ばれているから興味深い。ワシントンD.C.の犯罪予防局も自分たちのX-33を欲しがった、という説明も簡単にできそうだ。
しかし、スピルバーグとスタッフは、それを別の方向に持っていった。標準的なX-33ではなく、ブランドの垣根を越えたファンタスティックなもの...ブルガリ X-33を登場させたのだ。それは実在しない時計であり、ブルガリの実際のカタログ上に似たものすら見つからない。まさに映画の魔法を腕時計にしたような作品だ。クルーズは、事実上映画の全編にわたってこの時計を身につけている。それも色々な方法で。ある時は制服の上着の下に袖口の隙間から文字盤を読み、またある時は通常の方法で、そして時には手首の裏側に。
この物語は、アンダートンが殺人を計画しているという疑いをかけられ、当局から逃れざるを得なくなった彼の逃亡劇を描いている。クルーズはこの映画でも完全にクルーズであり、実用的なX-33風のケースは彼の逃亡劇に完璧にマッチしている。
見るべきシーン
映画はヒッチコックとジェームズ・ボンドをミックスしたようなコールドオープンから始まり、殺人事件を事前に解決しようという犯罪予防局の全貌を見ることができる。アンダートンと彼のチームはある男の家に近づく。男は、妻が他の男とベッドにいるところを目撃し、妻を殺そうとしていたが、アンダートンによって未然に逮捕される。クルーズが自分の手首に目をやると [00:13:13] ブルガリ X-33 が袖から顔を出し、カウントダウンを表示する。ブルガリのブランドロゴはまだ見えないが、これから明らかになる複雑な時計を予感させることは間違いない。
この映画のターニングポイントは、アンダートンが自分が次の犯罪者予備軍であることを知ったときだ。しかし、彼は自分が罠にはめられたと確信している。捕まるまでまだ時間があることを知った彼は、事務所から逃亡を図る。犯罪予防局本部のロビーを抜けるとき、彼は自分の腕時計に目を落とす[00:42:01]。オメガX-33のケースと、太いデジタル文字で書かれたブルガリの文字がはっきりと確認できる見せ場ショットだ。
『マイノリティ・リポート』(トム・クルーズ主演)は、スティーブン・スピルバーグが監督、ジェリー・モスが小道具を担当。iTunesとAmazonでレンタル可能。