過去10年間で最も注目すべき時計製造のサクセスストーリーの一つは、ブルガリが、高い評価を得ているジュエラーでありながら、その傍らで時計も製造し、世界で最も技術力の高い高級時計メーカーの一つになったことだ。
特にブルガリは、最も困難なジャンルの一つである超薄型時計製造を得意分野として切り開いてきた。通常の時計製造でも、驚くほどの小型化が要求されるが、超薄型時計製造では、その要求が飛躍的に高まる。クリアランスはほとんどなく、信頼性のある正確な時計を作るためには、高度な専門技術と工学的知識が必要とされ、歴史的には超薄型時計製造はそれ自体が複雑なものと考えられてきた。
プラチナ製のオクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダー。
ブルガリは、2014年にオクト フィニッシモ トゥールビヨンを発表して以来、超薄型時計の記録を塗り替え、打ち立ててきたが、このたび新たな記録更新者を発表した。オクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダーは、全体の厚さがわずか5.8mmで、ムーブメントのCal.BVL 305の厚さもわずか2.75mmだ(パーペチュアルカレンダーとは、30日の月の終わりに自動的に修正されるカレンダーウォッチのことで、うるう年でも2月の終わりに自動的に修正される)。このモデルは、オクト フィニッシモでは恒例となっているチタン製ケースに加えて、プラチナ製ケースも用意されている。
チタンケースにTIブレスレットを合わせたオクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダー。
オーデマ ピゲ ロイヤルオーク パーペチュアルカレンダー ウルトラシンは、以前の記録保持者であるオーデマ ピゲが開発した世界最薄のパーペチュアルカレンダーであり、依然として注目すべき一つだ。この2つの時計には、いくつかの大きな技術的な違いがある。最も重要な点は、オーデマ ピゲがフルローターの自動巻きシステムを採用しているのに対し、ブルガリはマイクロローターシステムを採用していることである(全てのオクト フィニッシモ オートマティックウォッチに採用されている)。これにより、ローターと自動巻き輪列を駆動輪列と同じレベルに抑制することができる。オーデマ ピゲに搭載されているCal.5133には、ムーンフェイズ表示も搭載されている)。ブルガリの方が2.75mmと薄いが、オーデマ ピゲのCal.5133は1960年代に開発されたCal.2120を大幅に改良したもので、厚さは2.95mmとこちらも非常に薄い。さて、どのように解釈されるべきだろうか? オクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダーは、市場で絶対的に最も薄いパーペチュアルカレンダーであり、マイクロロータームーブメントを搭載したパーペチュアルカレンダーとしても最薄である。オーデマ ピゲは、最も薄いフルローターのパーペチュアルカレンダーであることは今でも自慢できる。
オクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダーのプラチナバージョン。
オクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダーのもうひとつの興味深い特徴は、レトログラード式の日付表示を採用していることだ。ブルガリ時計部門のクリエイティブディレクター、ファブリツィオ・ブオナマッサ・スティリアーニ氏は、HODINKEEの取材に対し、「当初は大きな日付表示を採用する予定でしたが、開発過程でムーブメントが厚くなってしまうため、採用を断念しました」と語っている。彼は、デザイン的には良い方向に進んだと感じており、プレスリリースの画像を見る限り、私もそう思う。レトログラード式の日付表示はオクトフィニッシモのケースと全体的によく合っている。
TI製オクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダーの裏側。
パーペチュアルカレンダーと同様に、この時計の複雑さの多くはダイヤルの下に隠されている。これはパーペチュアルカレンダーだけでなく、リピーターウォッチにとっても伝統的なキャドラチュール(ダイヤル下の機構)の位置だ。キャリバーBVL 305は、オクト フィニッシモ オートマティックに搭載されている時刻表示のみバージョンと比べて、少なくともケースバック越しに大きな違いはない(オクト フィニッシモ オートマティックはキャリバーBVL 138を使用している)。
オクト フィニッシモ オートマティックに搭載されている時刻表示のみのCal.BVL 138。
とはいえ、ケースバック越しで見ても、やはり顕著な違いはある。例えば、シャーロック・ホームズのような観察力がなくても、自動巻きローターに“perpetual calendar”と書かれていることに気づくだろう(非常にセンスの良い仕上がりだ。ちなみにオクト フィニッシモ オートマティックにはPt製ローターが採用されている)。 テンプ、テンプ受け、香箱車の配置、そしてブリッジの全体的なレイアウトもほぼ同じだ。
Cal.BVL 305、パーペチュアルカレンダーのバックビュー(時計師が言うところの天板)。
しかし、ダイヤルの下での話は別だ。
ムーブメントのダイヤル側の第一印象は、パーペチュアルカレンダーやレトログラード日付表示の機能を支える技術的な要素が多い一方で、非常に伝統的なムーブメントの仕上げが施されていることだ。プレートにはペルラージュ(スポッティングまたはスティップリングとも呼ばれる)が施され、スチールワークの多くは面取りとストレートグレイン仕上げが施されおり、実際、ムーブメントの天板側よりもダイヤル下の方が、よりクラシックな時計作りを感じさせる。視認性が大幅に低下するとはいえ、いずれはこの時計のスケルトンダイヤルバージョンが登場してもおかしくない。
通常はダイヤルの下に隠されている永久カレンダーのためのキャドラチュール。
組み立てられた時計のダイヤルと比較するだけで、各針の軸を簡単に見つけることができる。中央には時分針の軸がある。そのすぐ上には、レトログラード式の日付表示用の針がある。この2つの間を6時の方向に直線で結ぶと、うるう年用の針(小さい)が見えてくる。時針と分針の軸の下、およそ4時と8時の左右には、右に月表示用の軸、左には曜日表示用の軸がある。曜日針の軸のすぐ下には、7枚の歯をもつ歯車があり、1日に1回、この歯車が割り出し曜日表示が進む。右側の3時位置には、巻き上げと設定のための巻き真カバー(リューズの位置)があり、その上下には、日付(2時位置)、月(4時位置)、8時位置には曜日の修正コレクターがある。
スペースは非常に効率的に使用されおり、パーペチュアルカレンダーは全てプレートと同じ平面上に配置され、プレートの窪みにはめ込まれている。また、ムーブメントの反対側にある自動巻きローター、自動巻き輪列、駆動輪列、そしてテンプもほぼ同じ平面上に配置されている。
ブルガリがこれまでオクトフィニッシモにプラチナを使用してこなかった理由のひとつは、デザインがかなりモダンなものであるため、チタンやカーボンファイバーの方がよくマッチしており、オクトフィニッシモの自動巻きモデルにポリッシュ仕上げのステンスティールケースが採用されたのは、ごく最近のことだ。オクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダーのPtケースは、ゴールドやSSよりも加工が難しいという事実のおかげで、さらに注目を集めている。 オクトフィニッシモのケースの複雑なファセットをプラチナで製作することは、それ自体がちょっとした技術的大作なのである。
オクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダーのPtケース加工。
ブルガリが、またやってくれた。技術的に優れ、美的にも先進的な時計で、またしても世界記録を更新したのだ。私が考えるブルガリの戦略における唯一のリスクは、技術的な時計製造におけるブルガリの能力、特に超薄型時計の製造におけるブルガリの能力が、あまりにも頻繁に、そして一貫して行われているために、人々が少しずつ当たり前のことと考え始めていることだ。2014年からこれまで、以下のモデルが登場している;
2014年のオクト フィニッシモ トゥールビヨン、手巻きCal.BVL 268(1.95mm厚)
2016年のオクト フィニッシモ ミニッツリピーター、Cal.BVL 362(3.12mm厚)
2017年のオクト フィニッシモ オートマティック、Cal.BVL 138(2.33mm厚)
2018年のオクト フィニッシモ トゥールビヨン オートマティック、Cal.BVL 288(3.95mm厚)
2019年のオクト フィニッシモ クロノグラフ GMT オートマティック、Cal.BVL 318(3.3mm厚)
2020年のオクト フィニッシモ トゥールビヨン クロノグラフ オートマティック、Cal.BVL 388(3.5mm厚)
7年間で7度の世界記録。
...そしてもちろん、今日発表された新作は、ブルガリが7年間で7回めとなる超薄型時計の世界記録を達成した。他の業界がこのカテゴリーをブルガリに譲り渡したわけではないが、そのように見え始めているのは確かだ。この偉業は、明らかに計画的で、極めて慎重に考えられたものであることからも、注目に値する。このようなラインナップは、単なる勢いや熱狂的な即興で手に入るかもしれないが、それでは賭けにならない。
先ほど、ブルガリにおいてこのようなことが当たり前になってしまうリスクがあると言ったが、これは彼らにとっては良い問題だと言えよう。人々がそれを期待し始めるほど頻繁に優れた成果を上げることは、何の問題もない。この出来事がどれほど早く起こったかを振り返ってみる価値はあると思う。確かに7年は一夜にして成らずだが、オクトフィニッシモ コレクションがまだ10年も経っていないのに、何十年も前のデザインと同じようにアイコニックな存在になっているのは驚くべきことだと思う。
ブルガリが次にどこへ行こうとしているのかはわからないが(パーペチュアルカレンダーは、ある意味で天文複雑時計ではあるが、今のところ天文複雑時計はあまり手がけていない)、もしも記録を更新せずに数年が過ぎてしまったとしても、今の時点では誰も責められないだろう。それまでの間、私はこの困惑するほどリッチな時計をじっくりと堪能したいと思う。
オクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダー チタン、Ref. 103200: ケースはサンドブラスト仕上げのTI、40mm×5.8mm、セラミックインサート付きサンドブラスト仕上げのTI製リューズ、サンドブラスト仕上げのTI製ダイヤル。防水性能:30m。
オクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダー プラチナ、Ref. 103463: サテン仕上げ/ポリッシュ仕上げのPt製ケース、40mm×5.8mm、18KWG製リューズ、シースルーバック。ブルーラッカー仕上げのダイヤル。防水性能:30m。
ムーブメント: 両モデルとも、自動巻きの自社製キャリバーBVL 305、厚さ2.75mm、時、分、レトログラード式の日付、曜日、月、レトログラード式のうるう年表示。60時間パワーリザーブ。
価格: TIケース、TIブレスレット仕様は683万1000円、プラチナケース、ブルーのアリゲーターストラップとマッチするプラチナ製ピンバックル仕様は1025万2000円。共に税込。
詳細はブルガリ公式サイトへ。