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Talking Watches シェルマン元代表、磯貝吉秀さん 希少かつ極上のヴィンテージウォッチの数々を披露

日本が誇る屈指のヴィンテージディーラーが持つコレクションには、抜群のコンディションとレアリティが際立つ、時計好き垂涎の魅力的なアイテムがズラリ勢ぞろい。これは世界に誇るラインナップだ!

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時計好きや著名人、コレクターの方々とHODINKEE編集部が時計について語り合う名物動画企画、Talking Watchesに久々の日本オリジナル企画が帰ってきた。今回の相手は、ヴィンテージウォッチ好きなら知らない人はいないだろう、磯貝吉秀氏だ。兄の建文氏が起こしたシェルマンを世界屈指のヴィンテージウォッチディーラーに育て上げた人物であり、フィリップ・デュフォーを日本に紹介し、独立時計師ブームの火付け役としても知られる。言うなれば日本を代表する時計界のレジェンドだ。基本的にビジネスとしてヴィンテージウォッチを扱っていたため、自身ではそれほど時計はコレクションしていないとのことだったが、本企画で紹介してくれたものはどれもがミュージアムにあってもおかしくないほどの素晴らしい逸品ばかりだった。

 もともとはロボットなどを扱う商社マンだった磯貝氏。ふたりの兄が立ち上げたシェルマンに途中から参画するようになるが、動画ではどのようなきっかけでヴィンテージウォッチの世界、時計の世界に足を踏み入れるようになったのか、ヴィンテージウォッチに引かれたきっかけ、そしてその素晴らしさについて情熱的に語ってくれた。さらには独立時計師たちとの出会い、オリジナルウォッチ製作の裏話など、動画ではとても興味深いエピソードを披露している。また本稿では、動画では紹介しきれなかった磯貝氏自慢のコレクションの詳細についてまとめているので、ぜひ最後までチェックして欲しい。


パテック フィリップ Ref.3428 トロピカル(Cal.27-460搭載)

 “パテック フィリップのトロピカル”といえば、多くの時計好きはRef.2526を思い浮かべるかもしれない。Ref.2526は1953年に誕生したパテック フィリップ初の自社製自動巻きCal.12-600ATを搭載したリファレンスのひとつで、エナメルダイヤルを用いて湿気などがもたらす劣化や日差しなどによる経年変化を防ぎ、半永久的にその美しさを保たせようと考案された名品だ。本作はその後継機として作られた、Cal.27-460を搭載するRef.3428のトロピカルである。

 Ref.2526が有名だが、製造数はRef.3428のほうがより少なく希少なモデルと言える。一見するとRef.3428もRef.2526も同じように見えるため、ムーブメントが違うだけのように思われがちだが、その違い(Cal.12-600ATは厚さ5.4mm、対するCal.27-460は厚さ4.6mm)により、Ref.3428はRef.2526よりもケースが薄くなっている。

 磯貝氏のRef.3428は、エナメルダイヤルに傷やクラックなども見当たらず、ケースはエッジを残しつつトロピカル独特の柔らかな曲線美が同居した極上のコンディションを保っている。磯貝氏はこのトロピカルのどんなところに引かれたのか? 動画のなかでその理由が語られている。


パテック フィリップ Ref.1593 アワーグラス

 この時計はパテック フィリップのフレアードケースモデルのひとつ、Ref.1593の18Kローズゴールドモデルだ。カラトラバの代表格をRef.96とするならば、フレアードにおいてはこのRef.1593がそれに当たる。上下に曲線を描いたケースが特徴で、“砂時計”をほうふつとさせるようなケースシェイプを持つことから“アワーグラス”とも呼ばれている。

 アワーグラスのような角の立ったケースを持つモデルは、エッジが立っていたとしても磨かれていて本来のフォルムではなくなっていたり、丸くなってしまっているという場合がほとんど。だが、磯貝氏の個体はラグの部分など本来は面取りがかすかに施されているディテールも残されている。加えて、風防もアールの強い形状のため、ぶつけて欠けていたり、あとからプラスチック製のものに変えられてしまっていることが圧倒的に多いのだが、聞けばこの風防もガラス製のオリジナル。ケースから風防、文字盤や針に至るまでオールオリジナルで素晴らしいコンディションをキープしている。


パテック フィリップ Ref.3445

 磯貝氏がトロピカルと並んでお気に入りのモデルだと話すのが、このRef.3445だ。日付け表示を備えたCal.27-460Mを搭載したモデルで、実用機としての人気が高いパテックとして知られる。

 本作における最初の見どころはダイヤルである。市場に出回っているRef.3445の多くは文字盤外周のミニッツインデックスがドット、いわゆるパールドロップスタイルなのだが、本作は初期型ダイヤルを備えており、ミニッツインデックスが細いバーのプリントになっている。1960〜61年というわずかな期間だけ作られたものが初期型と言われており、“PPクラウン”と呼ばれるトップが“qp”という特殊なデザインのリューズを採用しているのも初期型を示す特徴。

 初の自社製自動巻きであるCal.12-600ATと初期のCal.27-460を搭載するモデルにこのPPクラウンが採用されているのだが、オーバーホールの際に消耗品として交換されてしまうことが多く、PPクラウンは珍しいのだ。また逆にムーブメントは初期の年代であっても、ダイヤルが交換されている場合も少なくないようで、初期のディテールを残している本作はきわめて希少な存在だ。

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ロレックス Ref.4220 オイスター スピードキング 

 こちらはロレックスのRef.4220 オイスター スピードキングである。文字盤や針のデザインバリエーションも豊富なヴィンテージロレックス。そのなかでもスピードキングは比較的数の多いモデルだが、驚くべきはそのコンディションだ。

 磯貝氏のコレクションはどれも素晴らしいコンディションのものばかりではあるが、これはそのなかでもトップクラス。すべてフルオリジナルのミントコンディションで、貴重なオリジナルのSS製エクステンションリベットブレスはもちろん、リューズや風防も製造時のオリジナルのものが残っている。経年の傷などは見られるが、ケースも研磨された様子はなく、文字盤に至っては市場に出回っているものとは比較にならないほど奇跡的な状態をキープ。オリジナルの姿を今に伝える貴重な1本と言って間違いない。


スヴェン・アンデルセン ミニッツリピーター・パーペチュアルカレンダー(ヘンリー・バークス)

 著名な独立時計師のひとり、スヴェン・アンデルセン氏がかつて製作したミニッツリピーター・パーペチュアルカレンダー(正確にはパーペチュアルカレンダー・ムーンフェイズ・ミニッツリピーター)。ムーブメントは最高級のヴィンテージ手巻きミニッツリピーターキャリバーをベースに、自らが開発したレトログラード式デイトインジケーターを採用したパーペチュアルカレンダーモジュールを付加したものを搭載しており、これは彼が製作した作品のなかでは初期のものと言われる。

 磯貝氏が手に入れたのは今から30年以上前で、この時計は当時2万4000ドルから2万6000ドルほどで手にできたという。ちなみに当時はパテック フィリップのRef.96(カラトラバ)が1700ドル、トロピカルが3600ドル、Ref.3450(永久カレンダー)も6000ドルほどで手に入れることができたといい、永久カレンダー クロノグラフのRef.2499でさえ2万ドル前後で入手できたそうだ。そのため非常に高い買い物であったことが印象に残っていると語ってくれた。なお、今回紹介していただいたコレクションのなかで特に磯貝氏お気に入りの1本がこの時計だ。

 注目したい点はふたつ。ひとつはダイヤルにスヴェン・アンデルセン氏、および自身のブランド名であるアンデルセン・ジュネーブのシグネチャーがない代わりに、文字盤6時側の外周に“HENRY BIRKS(ヘンリー・バークス)”の文字があしらわれている点。ヘンリー・バークスとは、カナダのモントリオールに設立された高級ジュエラーだ。

 アンデルセン・ジュネーブ銘でも本作と同様の機能を備えたモデルが製作されるが、それとは異なるディテールをいくつも持っているところがふたつ目のポイント。アンデルセン・ジュネーブ銘のミニッツリピーター・パーペチュアルカレンダーの場合、文字盤3時位置の月表示インダイヤルにうるう年表示が設けられているが本作では見当たらない。さらにミニッツリピーターのスライドレバーも、通常はカレンダー調整ボタンがあるケース9時側のケースバック寄りに設けられているが、本作ではケース3時側に設けられており、リューズも3時位置ではなく1時半位置に設けられている。こうした違いは、使われているベースキャリバーの種類によるもののようだ。


スヴェン・アンデルセン スモーレストカレンダーウォッチ(ユニークピース)

 こちらもスヴェン・アンデルセン氏の作品のひとつで、その名のとおり、1989年に世界最小のカレンダーウォッチとしてギネスブックにも掲載されたもの(当時)として知られている。18Kイエローゴールド製のミドルケースに18Kホワイトゴールドのラグを持つケースは縦24mm、幅10mm、高さ7.5mm。そしてカレンダーモジュールの厚さはわずか1.4mmしかない。快挙を伝えた当時の記事によれば、カレンダー機構は6つの歯車で構成され、3つあるバネのひとつあたりの厚さは0.06mm、さらに地板の厚みは0.4mm、さらに文字盤の厚みは0.3mmで、地板と文字盤のふたつのあいだにあるわずか0.7mmの空間にカレンダー機構を追加するという驚くべき構造を持つことが明かされていた。ムーブメントは小さすぎるがゆえ、巻き上げリューズはケース裏側に取り付けられている。

 このスモーレストカレンダーウォッチに搭載されているのはヨーロピアン・ウォッチ・アンド・クロック・カンパニー(European Watch and Clock Company Inc、通称EWC)製のムーブメントだ。磯貝氏曰く、カルティエからの注文で作られたものの、結局製品としては日の目を見ることなく眠っていたムーブメントをアンデルセン氏が手に入れてよみがえらせたのだという。本作は、彼の工房で展示されていたムーブメントに磯貝氏が惚れ込み譲ってもらったというだけでなく、アンデルセン氏と一緒にケースや文字盤などをデザインしてケーシングしてもらったというユニークピースなのだ。ムーブメントはEWC銘のものとカルティエ銘のものがあったそうだが、EWC銘のものは磯貝氏が、カルティエ銘のものはあるコレクターの手に渡ったそうだ。なおこのとき体験した、ひとつの時計を作っていくという感動と興奮が、のちのシェルマンオリジナルウォッチ製作の原点になったと磯貝氏は話す。

 実はこのスモーレストカレンダーウォッチだが、のちにスヴェン・アンデルセン氏は残された異なるムーブメントを用いていくつか製品化していた。スイス・チューリッヒにあるスイス最古の時計宝飾店、ベイヤー・クロノメトリーを通じて4本が販売されたあと、テオドール・ベイヤー(先代の同店代表)からベイヤー時計博物館の展示用に欲しいというオファーを受けて、アンデルセン氏はバラバラになっていたプロトタイプを組み上げた。テオドール・ベイヤーはそれを受け取る前に亡くなってしまったが、2013年に息子のルネ・ベイヤー氏が同時計博物館への寄贈品として受け取ったと、同店のブログには記されている。


シェルマンオリジナル グランドコンプリケーション クラシック

 これは磯貝氏がかつて代表を務めていた時代に手がけたシェルマンオリジナルのグランドコンプリケーション クラシックのブレスレットモデル。永久カレンダーにムーンフェイズ、ミニッツリピーター、そしてスプリットセコンドクロノグラフという複雑機構をクォーツムーブメントを使用することで実現した。本作が完成した1996年当時、美術工芸品のようなグランドコンプリケーションウォッチをクォーツムーブメントで作り、カレンダーも合わせてすべての機能を心おきなく使おうという実用志向の発想自体が斬新だったそうだ(機械式のグランドコンプリケーションウォッチはカレンダーが合っていないのが当たり前で実用とはほど遠いものだったとのこと)。

ラ・ショー・ド・フォン国際時計博物館。Image courtesy: Musée international d'horlogerie, La Chaux-de-Fonds, Suisse. Photo MIH ©

 世界的にもその試みが高く評価され、発表翌年の1997年にはスイスのラ・ショー・ド・フォンにある国際時計博物館の永久展示品に認定された。ヴィンテージに見せられた磯貝氏がなぜクォーツムーブメントのこのモデルを作ったのか、その理由については動画のなかで語っているのでそちらをご覧いただきたい。今でこそ、日本のショップや小さなインディペンデントブランドが時計を手がけ、世界的に評価されることは珍しくなくなりつつあるが、そうした大手に寄らないユニークな国産ウォッチメイキングの道を切り開いた存在であることは間違いないだろう。


シェルマンオリジナル ワールドタイムミニッツリピーター クロワゾネダイヤル

 こちらもシェルマンオリジナルウォッチのひとつで、2002年に作られたワールドタイムミニッツリピーターのクロワゾネダイヤル。グランドコンプリケーション クラシック以上にディテールにこだわり、クォーツウォッチでありながらダイヤルにはクロワゾネを使用している。クロワゾネダイヤルは時計愛好家からの人気が非常に高いものの、繊細で割れやすく実用に向くものではない。そんなクロワゾネを日常のなかでも楽しみたいという思いから作られたもので、その美しさと割れないということを追求して出来上がった渾身の作品だという。ブルーを基調とした本作のほか、ブラウンベースのノスタルジックダイヤルものちに作られた。なお、こちらもラ・ショー・ド・フォンの国際時計博物館の永久展示品に認定されている。

 なお、動画のなかで取り上げたのは磯貝氏のコレクションのごく一部だ。取材当日は紹介したコレクション以外にもたくさんの素晴らしい時計たちを見ることができた。せっかくなので、紹介しきれなかった時計についても簡単に触れておきたい。いずれも時計好きが羨むような魅力的な時計ばかりだ。

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Video by Kazune Yahikozawa (Paradrift Inc.)、Camera Assistance by Kenji Kainuma (Paradrift Inc. )、Sound Record by Saburo Saito (Paradrift Inc. )、Video Direction & Edit by Marin Kanii、Video Produce by Yuki Sato

クレジット表記のない写真はすべて、Photographs by Kyosuke Sato